日本で上演しているのは牧阿佐美バレ
ヱ団だけ、幸せ感満載の『リーズの結
婚』を3キャストで上演~中川郁・元
吉優・菊地研に聞く

牧阿佐美バレヱ団『リーズの結婚~ラ・フィーユ・マル・ガルデ~』(以下「リーズ」)が2021年6月26日(土)・27日(日)、新国立劇場 中劇場で開催される。日本では牧阿佐美バレヱ団のみで上演されているフレデリック・アシュトン振付の、農村を舞台に、村娘リーズと青年コーラスの恋を軸に物語が展開する笑いありドタバタありの幸せな喜劇作品だ。1960年に英国ロイヤル・バレエ団で初演されて以来、バレエ団の人気作品となり、牧阿佐美バレヱ団はこれを1991年に初めて上演。こちらもバレヱ団を代表する人気演目の一つとなっている。
今回は26日の昼・夜、27日昼の3回の公演に3キャストが組まれており、そのうち主演ダンサーの半分が初役。とはいえ阿部裕恵(26日・昼)や水井駿介(27日・昼)はこれまでもバレヱ団公演で主演を務めているダンサー。西山珠里(27日・昼)は今回が初の主演作品となり、また阿部と組む清瀧千晴(26日・昼)はバレヱ団を率いるベテランダンサーの一人である。さらにリーズの母親役であるシモーヌにはバレヱ団の名キャラクターダンサーでもある保坂アントン慶(26日・昼・夜)に加え、やはり数々の主演を務め、バレヱ団を牽引する菊地研(27日・昼)が初めて挑む。
今回は前回公演でもペアを組んだリーズ役の中川郁とコーラス役の元吉優哉(いずれも26日・夜)、そして菊地研の三人に、公演へ向けた意気込みを聞いた。(文中敬称略)

(左から)元吉優哉、中川郁、菊地研

■3回目のリーズは新鮮さを意識して。コーラスは等身大で掴みやすいキャラ
――まずは主演のリーズとコーラス、それぞれの役の取り組みについて教えてください。
中川 私が初めて全幕で主役をやらせていただいたのが、実はこのリーズなので、すごく思い入れがある役です。今回は踊るのが3回目になりますが、キャラクターをより一層深めていこうかなと考えています。
初めて踊った時のコーラス役が菊地さんだったのですが、その時は私自身が何も分からなくて結構パニック状態になっていたりもしました。3回目だからといって楽になったとは全然思わなくて、むしろハードルがすごく高くなりました。振付はわかっていても新鮮さが失われてはいけないので、全てが初めて起きたことのような新鮮さを意識してリハーサルに臨みたいと思っています。「リーズ」は振付や歩き方、この音をここで合わせるといった決まりごとがとても多く、これまでは音に追われていた部分があったので、今回はもう少し丁寧に、踊りが忙しくても、その忙しさを見せないように、しっかり踊っていきたいなと思います。
中川郁、保坂アントン慶。「全力で踊りたい」という中川 (撮影:山廣康夫)
元吉 前回は急遽、1週間くらいで舞台に立たなければならなかったこともあってバタバタしていたのですが、今回はじっくり時間を取ってコーラスというキャラクターに対することができます。考える時間もあるので、前回との違いを見せたいと思っています。コーラスは農村の青年で、自分も千葉の田舎に住んでいたこともあり、その辺りは近いものが感じられます。バックグラウンドからも掴みやすいところがありますね。
菊地 元吉君は前回は僕の代わりに急遽、出演することになったんです。1週間でアシュトンのような細かい作品を覚えるなんて、すごく大変だったと思う。だから今回は2回目とはいえ、初めて踊る感じなんじゃないのかな。
元吉 気持ち的には確かに前回はバタバタだったんですが、でもその経験があったからこそ今回見えている課題もあるので、そこに自分自身でしっかり取り組んで行ければと思います。郁ちゃんは考えていることが顔にも出るので分かりやすいし、こうしてほしい、こうしたいというのも言いやすいので、踊っていて楽しいですね。
またこれは自分の感覚なんですが、この「リーズ」は見ていてすごく楽しいじゃないですか。だから自分も踊っていて楽しくないはずないなと(笑)。そういう作品ってやりがいを感じます。お客さんが絶対見て楽しんでくれているっていうのがわかるので。コーラスって王子様っていうキャラじゃないから、すごく自分的にもやりやすいですし。
元吉優哉。じっくりと役に向き合い、改めてコーラス役を踊る (撮影:山廣康夫)

■シモーヌに自分を寄せていく。さらなる成長のきっかけに
――菊地さんは過去にコーラス役も踊られ、今回はリーズのお母さんであるシモーヌ役を初めて踊ります。そのお気持ちを。
菊地 三谷恭三監督は初めてバレヱ団で「リーズ」を初演した時にシモーヌを踊った方です。その監督からシモーヌ役のお話をいただいたとき、「三谷先生に教えていただけるならぜひ」とお答えしました。リハーサルの初日にリーズ、シモーヌやアランなど、このバレエはそれぞれの歩き方や歩幅などに特徴が出るんだという指導をいただきました。アシュトンのバレエは細かい決まりごとがあり、その決まりごと通りにやることでそのキャラクターが浮き立つようになっている。ですから僕がシモーヌを演じるというよりは、僕自身をどうシモーヌに寄せていこうかと考えてやっています。そのためには振付を理解して、どのようなタイミングで動くことでお客様により上手く伝わるかということを意識しています。
(シモーヌは)本当にやりがいがあって楽しいし、今まで自分がやってきた経験を、いい意味でそこに乗せて出していければいいなと思っています。シモーヌを踊ることを通して人間的な成長を見せていくということにもチャレンジしていきたいです。
コーラスを踊った菊地研。今回はシモーヌに挑む (撮影:鹿摩隆司)

■全力を尽くした先に見えるものが楽しみ
――中川さん、元吉さんは今回「リーズ」を踊るにあたってチャレンジしていきたいことなどはありますか。
中川 私的にはもう今回で3回も踊らせていただけている、というのがびっくりで(笑)。とても大好きな役なので、今回踊らせていただけるんだったらもう、死ぬほど頑張ろうと思いました。
実は「リーズ」は子供の頃に何度も見たビデオのひとつなんです。リーズ役はレスリー・コリアさんだったと思うんですが、彼女のリーズはとてもかわいらしいイメージだったのに、実際に踊ってみるとリーズは結構いつもプンプン怒っている(笑)。お母さんに対しては本当にとんでもない娘だなって思うし、言うこと聞かないし、かなりじゃじゃ馬だし。だけどコーラスと一緒の時は彼しか目に入ってない、その表情がくるくる変わるところがとても魅力的なんだろうなって思います。今回は3回目ということもあり、アランとの関係性を少し深掘りしていければと思っています。アランは「お父さんの言うことを聞いてれば大丈夫」という安心感を持っている、リーズとは真逆のタイプです。リーズのことが本気で好きというよりは、女の子に会うのもドキドキで、純粋でピュアな男の子で傘がお友達。そうしたアランとの関係を考えながら、リーズはじゃじゃ馬で行きたいと思っています。
中川郁、細野生、京當侑一籠、保坂アントン慶。アランとのやり取りにも注目 (撮影:山廣康夫)
元吉 今回に至るまで、コロナ禍のことがあって舞台の数も減り、そのなかで僕はなんでバレエをやっているんだろうって考えることもありました。そうした期間を経て、今回のようにコーラスという役と真っ向からじっくりと向き合う時間がある。だからチャレンジというより、僕としてはやれることをやり、この舞台を踊り切ったあとに僕の気持ちがどういうふうになってるいのか、実はそれが楽しみなんです。その時に世の中が良い方に向かっていればいいし、お客様もどんどん戻ってきてくれればいいなとも思っています。

■緻密に計算され作り上げられた振付・舞台装置だからこそ伝わる世界観
――アシュトンの「リーズ」は決まりごとがとても多いというお話ですが、具体的にはどういったところでしょう。またバレヱ団は古典作品やローラン・プティ、今回のアシュトンなど幅広いレパートリーを持っていますが、この「リーズ」ならではの舞台の特徴はどういったところにあるのでしょうか。
中川 リボンなど小道具が多いんですが、その一つひとつに意味があると教えていただきました。例えば1幕のリーズとコーラスのリボンのパ・ド・ドゥで、コーラスが地面にリボンをつけて動かすところがあるんですが、あれは小川を表していて、パドブレをしながらその小川を越えていく動きを表現する、などです。
先ほど菊地さんが仰っていた歩き方もそうです。お姫様だったら足音がしないように静かに上品に歩きますが、リーズは結構かかとからガンガン歩いている(笑)
菊地 この「リーズ」のセットは劇場がどんなに大きくても小さくても、それぞれの枠組みに収まるようにキッチリ計算されて作られていると聞いています。だからどの劇場で見ても、一つの箱の中でお芝居が行われているようにきれいに収まっている。今回は新国立劇場の中劇場ですが、あれくらいの規模がちょうどいい感じなんじゃないかな。
中川 中劇場は客席も近いし、すごく臨場感も伝わりやすそう。
元吉 客席も扇形のようになっていて見やすいよね。
菊地 気持ちがすごく乗っている時って、自分の身体自体がそのセットの一部のように、すっと入り込めているような感じがするんですよね。セットと自分がフィットしている感じっていうのかな。
中川 舞台に出るときに変に緊張している時と、緊張はしているけれども冷静という時があって、そういう意味では「リーズ」はとても冷静になりやすいんですよね。
菊地 「リーズ」ってそういうところがあるね。やっぱりそれって計算して作られているっていう、作品の特性にあるのかもしれない。振りを一つひとつきちんと表現することで物語が伝わるように作られているバレエだから、こちらもきちんと守らなければいけないし、その通り踊る。所作がきちんとあってそれをきちんと表現することによって滲み出て伝わるものがある。
中川 決まりごとが多くてアドリブも絶対に入らないのに、それでも演じる人によって雰囲気が変わってくるんですよね。初めての方はもちろん、リピーターの方も楽しめると思います。
【動画】牧阿佐美バレヱ団 2021年6月公演「リーズの結婚」P.V.

■言葉が制限される時代に、言葉を使わない芸術「バレエ」の雄弁さを感じて
――最後にこの作品の見どころと、お客様にメッセージを。
中川 最初にニワトリの踊りから始まるところからしていいなぁと思いますし、世界観にも引き込まれます。あとテンポがよくストーリー展開も早いから飽きず、演劇的な部分もすごく多いのでお芝居を見ている感じもあり、ご家族でも楽しめます。本物のポニーも出てきます(笑)。
『リーズの結婚』の名場面、ニワトリたちの踊り。雄鶏を踊る元吉優哉 (撮影:山廣康夫)
菊地 あのポニーも決まりごとに入っているから絶対に使わないといけないんだよね(笑)
元吉 「リーズ」はハッピーエンドの物語なので、見ていて純粋に楽しく、身近な人誰にでも「楽しいから来て」って言える作品です。だから難しく考えずにバレエやお芝居を楽しんでいただきたいです。
菊地 バレエは言葉を使わない芸術です。今はマスクをしなければならない、大声で会話をしてはならないなど、言葉が制限された時代ですが、だからこそ「言葉を発しないバレエ」は却って芸術が発する雄弁な力を体感できるんじゃないかと思いますし、ぜひそれに触れてほしいです。
ダンサー達はリハーサル中もマスクを取ることができませんから、マスクを外して踊る本番の舞台は、そうした制約やフラストレーションから解き放たれる場でもあります。人間の感情や思いを全身で受け取っていただき、温かい気持ちになっていただければいいなと思います。
取材・文=西原朋未

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