"フラメンコの革命児"イスラエル・ガ
ルバン、『春の祭典』で日本人ピアニ
スト2名と共演~来日会見レポート

2020年春以降世界的な感染症拡大を受けて、舞台芸術界では公演中止が相次ぎ、海外招へい公演は皆無に等しい。そうした中、スペインから"フラメンコの革命児"と称されるイスラエル・ガルバン(ダンサー/振付家)が来日し、2021年6月18日(金)~20日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉、6月23日(水)~24日(木)愛知県芸術劇場コンサートホールで『春の祭典』を上演する。公演に先立ち6月15日(火)Dance Base Yokohamaにて記者会見が行われた。
■コロナ禍で、まさに"奇跡の来日"が実現!
ガルバンは5月30日(日)に来日し、14日間の隔離期間を経て、晴れて報道陣の前に姿を表わした。登壇者はガルバンのほか、共演する片山柊(ピアニスト)、増田達斗(ピアニスト)と本公演の統括プロデューサーである唐津絵理(愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデュ―サー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター)。
会見中の様子 (c)Naoshi Hatori
まず唐津が公演実現の経緯を語る。厳しい状況で日々「閉塞感」を感じる中、「これまでの常識を捨てて、ポジティブな発想の転換を行い、ハードルが高いと言われてきた特別措置による海外招へいに取り組むことにしました」と話す。「来日が直前まで確定しない中で数々の挑戦」を行い、アメリカ在住のピアニストの招へいに代えて日本人ピアニストの起用、舞台美術の日本での製作、18日間でのチケット販売(神奈川公演)、隔離期間中のガルバンのバブル方式を徹底してのスタジオ往復などをこなす。「不可能を可能に変えてきた」と自負する。
ガルバンは14日間の待機も含めると約1か月日本に滞在。欧州でのオファーもあったが日本を選んだ。「パンデミックを経験したあと、一足飛びに超えることが必要なのではないかと自分自身で思いました。この機会に大きく飛び越えることが必要なのではないかと。今回は日本の方々に尽力していただいた。それに報いるために大きな一歩を踏み出すべきではないか」と語る。
イスラエル・ガルバン (c)Naoshi Hatori

■ポストコロナの『春の祭典』が誕生
ガルバンの『春の祭典』は2019年11月、スイスのローザンヌで初演された。イーゴリ・ストラヴィンスキーが1913年に作曲した音楽は、不協和音が用いられた難曲として知られる。ガルバン版は、オーケストラではなくピアノ2台版を使って上演する。ガルバンは若い頃、『春の祭典』のオリジナル版を振付した天才舞踊手ヴァーツラフ・ニジンスキーの写真を見て、踊りのスタイルが変わったという。その後、ストラヴィンスキーの音楽を知り、フラメンコと共通するリズムを感じ、ニジンスキーが持っていた自由さを知るようになったと明かす。
イスラエル・ガルバン『春の祭典』 (c)Jean Louis Duzert 写真提供:Dance Base Yokohama
これまでに多くの振付家が手がけた『春の祭典』に挑んだ理由を「別の表現の仕方を、別の方法で表現することができるのではないかと感じました。つまり二元的なダンサーになれるのではないかと考えました。その1つはリズムです。作品のパーカッションの1つとなって、リズムを刻むことと踊るということを表現できるのではないかと思いました。さらに、2台のピアノを使って非常に親密な感じが出ます。また、ストラヴィンスキーの音楽とフラメンコが出会う場面を創ることができるのではないかと考えました」と述べる。
イスラエル・ガルバン『春の祭典』 (c)Jean Philippe 写真提供:Dance Base Yokohama
会見前日に行われたリハーサルの印象をガルバンはこう語る。「ポストコロナの『春の祭典』といえるのではないかと思います。ストラヴィンスキーのこの曲がきっかけとなって、日本人の音楽家の方たちと知り合うことができました。家族になった。そんな気分です。ずっと知り合いだったかのような感じがしますし、実際に演奏を聞いて素晴らしいと思いました」。
イスラエル・ガルバン (c)Naoshi Hatori

■日本人ピアニスト2人も全力投球、新たな国際共同制作へ
本公演は海外招へい公演であると同時に、コロナ禍において図らずも国際共同制作としての色彩を強く帯びることになった。音楽コーディネーターの笠松泰洋の推薦により選ばれた2人の若き日本人ピアニスト2人は、オファーを受けて何を思ったのか?
増田は学生時代、『春の祭典』に傾倒したという。「今回実際に演奏できる。しかもダンサーの方と一緒にできるということで期待感、緊張感が高まっています。5回のステージ全てで、自分も楽しみつつ、全力を尽くしていきたいと思います」と話す。
片山にとっても『春の祭典』は、いつか取り組んでみたい作品だった。「今回期せずしてこういうチャンスをいただき、ましてや世界的なダンサーの方とご一緒できることが凄く光栄です。ガルバンさんが「こういう状況下だからこそ、より大きな一歩を踏みたい」ということをおっしゃっていましたけれど凄く共感します。公演自体が僕にとってもひとつのステップになると感じているので、全力で取り組んでいきたいと思っています」。
増田達斗 (c)Naoshi Hatori
今回の公演では、ピアニストが日本人に代わり音楽構成は変更され、片山による武満徹の『ピアノ・ディスタンス』、増田が自ら作曲した『ピアノのためのバラード』も上演される。2人は『春の祭典』からイメージする曲を提案してほしいとの依頼を受けた。選曲の理由は?
増田は『ピアノのためのバラード』を書いた当時『春の祭典』が頭の中にあった訳ではない。だが、「『春の祭典』の持つ莫大なエネルギーといいますか、野性的な人間の本性がむき出しといいますか、有無を言わせぬ音楽の力に圧倒されるような、その感覚を自分のバラードの中に込めたつもりなんですね。それを思い出し、ぜひ出してみよう」と考えたという。
片山は「僕は演奏のプログラムを組む時に、音楽史的な文脈を凄く考えるので、ストラヴィンスキーにゆかりのある音楽家、作曲家は誰かと考えた時に武満徹という存在が出てきました。僕のレパートリーでもある『ピアノ・ディスタンス』は、武満にとって比較的初期の若い時のエネルギーが出ていたり、実験が要素としてあったりする作品なので、音楽史的な文脈と作品の持つ方向性に共通項を見出して選びました」と説明した。
片山柊 (c)Naoshi Hatori

■「芸術は、生きていくために必要なワクチン」(ガルバン)
質疑応答でガルバンの踊りについて問われたピアニスト2人は、次のように述べる。増田は「イスラエルさんのダンスは打楽器的。ピアノだけでは出せないエネルギー、躍動感、リズムをひしひしと感じた」という。片山は「ダンスという新たな要素、ましてや踊るだけではなく、床をたたいたり、楽器を鳴らしたりということで、さらに迫力が増しています。ガルバンさんのダンスも音楽のような感覚になるというか、違う分野のものが高い次元で合わさっている」と指摘する。
イスラエル・ガルバン (c)Naoshi Hatori
いっぽう、ガルバンはピアニストが変わったことに対する印象をこう話す。「今回の『春の祭典』は他にはない、唯一のものになるだろうと考えています。なぜかといえば、クラシック音楽とフラメンコの出会い、さらにフラメンコと日本の伝統文化を持っているピアニストのピアノがあるわけで、2つの出会いはユニークです」。
左より 増田達斗、イスラエル・ガルバン、片山柊 (c)Naoshi Hatori
"芸術は不要不急"だとする考えに対し、どう応えるのかを問われたガルバンは、「芸術は、生きていくために役立ちます。ワクチンと同じです。芸術というワクチンは必要だと思います」と断言。日本に来る不安はなかったかと聞かれると「芸術をするにはリスクを冒さないといけないと思います」と前置きしつつ、「若い頃から親しんでいる日本ですし、皆さん、冬に風邪をひいたらマスクをしていますし、安全だろうと考えました。日本に来るにあたって、全く怖さはありませんでした。お客さんの前で公演できることは幸せで、さらに遠い日本であれば余計にそうだろうと感じました」と語る。「大きな一歩」を踏み出すモチベーションは何かと問われ、「新しい音楽家の人たちと知りあって演奏する。それはぜひやるべきなんだ、芸術は生き続けているんだと思いました」と胸の内を静かに熱く語った。文字通り"伝説の公演"になる予感がする。
【動画】ダンス・コンサート イスラエル・ガルバン『春の祭典』
取材・文=高橋森彦

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