【あらき インタビュー】
最強のアルバムだと
自負できるものになった
ライヴは音源らしく、
音源はライヴらしく
楽曲の上質さに加えて、『UNKNOWN PARADOX』の全編で聴ける力強さや生々しさにあふれた情熱的なヴォーカルは本当に魅力的です。
ありがとうございます。歌に関しては“ライヴは音源らしく、音源はライヴらしく”というのが自分の根底にあって、それはいつも心がけています。歌は自分ひとりで宅録していて、ヴォーカルディレクションもいないんですよ。
えっ、本当ですか!? ピッチやリズムが合っていればOKという平たい歌ではないので、自分でジャッジするのは難しいような気がします。
難しいですね。こればかりはもう自分の感性を信じるしかないと思っています。ただ、レコーディングスタジオに入って、いろんな人が立ち会っている状態の歌録りも何回か経験したことがあるんですよ。それはそれですごく勉強になるじゃないですか。そこで得たものを最大限に活かしてセルフディレクションに昇華させているというのはありますね。あとは“この歌い回しがカッコ良いはずだ”という絶対的な自信を持って歌うようにしています。
セルフディレクションでこの仕上がりというのは驚きです。それぞれの楽曲に合わせて歌の表情や温度感なども変えていますし。
変えていますね。でも、結構悩みました。「闇は白く」は特に。「UNKNOWN PARADOX」は曲調的に自分が今持てる一番スカッとしていて、パワフルでガッツがある感じで歌おうとすぐに決まったからまったく問題なかったけど、どこに寄せればいいのか悩んだ曲がいくつかありました。そういう時はいろんな歌い方を試すようにしていて、最初の1番のAメロで方向性を決めないといけないわけですよ。だから、1番のAメロだけで50~60テイクくらい歌ったりしました。
50~60テイク!? 本当にストイックですね…
50~60テイクで力尽きてしまって、本チャンの歌録りは次の日に回したりすることもありますけど(笑)。それってレコスタでは絶対にできないじゃないですか。そういう意味でも宅録は自分に合っていると思いますね。そう言えば、テレビの番組か何かで観たんですけど、玉置浩二さんも同じくらいいっぱいテイクを録るみたいなんですよ。ただ、どのテイクも良くて、普通の人が聴いたら何が違うのかまったく分からないっていう。自分もそういうところがあって、きっと普通の人が聴いたら何が違うのか分からないだろうけど、微妙なところが違ったりすると録り直したくなるんです。それで、気がつけば60テイクとかになったりするんですよね。今回も一曲一曲、もう全身全霊で歌いました。自分の中には“歌だけは負けない”という気持ちがあって、そういう意識のもとにクオリティーを上げることに努めています。
歌うことと真摯に向き合っていることが分かります。あらきさんの歌はアツいですが鬱陶しくはないですし、我鳴ったりしていないのに力強さがあって気持ち良く心を引き上げてくれます。
だったら良かった(笑)。そこは結構気をつけたんです。僕は我鳴っている声のほうが好きですけど、伸びやかな声のほうがきれいにマイクに乗るんですよね。だから、癖の部分は要所要所でアクセントみたいな感じで使うようにしたんです。アルバムの後半にいくにつれて、癖が強めな歌い回しが多い気はしますね。「ナリキリ」はかなり癖が多いように歌いました。
「ナリキリ」のちょっと癖のある歌い方も心地良くて病みつき感があります。まさに、『UNKNOWN PARADOX』は良質な楽曲とヴォーカルが詰まった必聴と言える一作になりましたね。
今回はずっとご一緒したかった作家陣の方々のパワーが本当にすごくて! 自分のアルバムですけど、個々の個性がバリバリに出ていて、“この楽曲たちに自分が飲まれないように、負けないようにしないと!”って常に意識しながら制作を進めていきました。全部の曲をしっかり噛み砕いて自分のものにした上で、今の自分のスキルを最大限活かして放出できたと感じています。どの曲も納得のいく仕上がりになったし、最終的に12曲並んだ時に相乗効果が生まれて、さらにパワーを増したんです。最強のアルバムだと自負できるものになりましたね。
同感です。激しさを打ち出したアルバムですが洗練されていますので、ハードな音楽が苦手な人にも響くと思いますし。
それは目指したところではあって。なので、より多くの人に届くといいなと思いますね。よく言われるんですよ。“あらきさんのライヴに行ってみたいけど、ヘッドバンギングとかが怖いし、何かが起こりそうな気がして躊躇ってしまう”と。観に来ていないのに、イメージでそんなふうに語られることがすごく多いんです。そういう方にこそ、このアルバムが届いてほしいという気持ちはありますね。
多くのリスナーを虜にする力を持ったアルバムであることは間違いないです。『UNKNOWN PARADOX』のリリースはもちろん、今後のライヴ展開も楽しみです。
このあとの表立った活動としては『ひきこもりたちでもフェスがしたい!』という自分も参加させていただいているイベントがありまして、それのオンライン配信、映画館配信が8月1日にあります。『ひきこもりたちでもフェスがしたい!』は主催者のまふまふさんが2017年から始めたイベントで、僕も毎年参加させていただいているんですけど、前々回がさいたまスーパーアリーナで、前回が西部ドーム、今回は東京ドームなんです。そうやって、どんどん規模が大きくなってきているという。“個人で立つことがあるのか?”という大舞台に仲間と立たせていただいて、すごく感慨深いライヴになっているので、今年も楽しみですね。無観客ライヴになってしまったのが残念ですけど、年々積み重ねてきた想いがあって、今年もいいステージができると思います。コロナ禍の中で、あえて開催するというのもエモいと思うし。なので、ぜひ観ていただきたいですね。あとは、個人的にもぼちぼち有観客ライヴをやっていきたいというのがあって。ライヴをしたいという欲求がすごく高まっているんです。状況を見つつですけど、今年はツアーなり、何なりがやれるといいなと思っています。
ライヴが再開されたら、あらきさんのライヴに怖いイメージを持たれている方も、ぜひ会場に足を運んでほしいですね。
本当に! 前のほうで観るのが怖かったら、会場の後ろで“プロデューサー立ち”してもらっていても全然構わないので(笑)。ライヴはそれぞれの楽しみ方をしてもらえればいいと思っていて、大人しく観ている人を否定する気は一切ないんですよ。なので、とにかく一度ライヴを体感しに来てほしいですね。会場に来ていただければ、必ず楽しい時間を過ごしてもらえる自信はあります!
取材:村上孝之