あらき

あらき

【あらき インタビュー】
最強のアルバムだと
自負できるものになった

自分自身に響く
リアルな心情を歌いたい

パワフルな「拡声ノイジー」や「烽火」もカッコ良いですし、中でも最近旬になっている離れた音階を活かしたメカニカルなギターリフやファンク感をフィーチュアした「トーロン」は注目です。

これは今っぽいとも言えますし、曲を書いてくださったかいりきベアさんっぽいとも言えますね。かいりきベアさんは一音ずつ切り貼りしてフレーズやリフを作るんですよ。だから、この曲のリフも実際にギターとかで弾くとかなり難しいだろうなって(笑)。それに、イヤフォンとかヘッドフォンで聴くと、LRで違うフレーズが組み合わされてひとつのリフになっているんですよね。そういうところがパラドックス感を表している印象があるし、いろんなものが絡まり合っている曲でもあるんです。ヴォーカルも行ったり来たりというか、最初は一本だけど次は上のメロディーが重なってきたりして、もう全部が折り重なってるから、これはすごい曲になったなと。なので、いわゆるアルバムの本編最後に置くことにしました。この曲が出来上がった時に、「UNKNOWN PARADOX」で始まって「トーロン」で締めるというイメージ出てきたんです。

「トーロン」の後半の盛り上がりは圧巻です。《そう今からもっと夢見てこうぜ 不完全な未来像へ》と歌っている歌詞も印象的でした。

この曲は“トーロン”というカタカナの題名ですけど、歌詞の中に“討論”という言葉が出てくるんです。今回は一貫したテーマを作家のみなさんに提示したので、全体を通して聴くとSNS界隈のモヤモヤした心情が多いんですよね。この曲にも《構造 壊したってもう遅い》という一節があって、世の中の風潮が出来上がってしまっている中で、自分の存在意義やアイデンティティーといったものをどこに求めればいいんだろうという葛藤が入っていると思います。

SNSが浸透したことで自分らしく生きることが難しい時代になっていますが、この曲を聴いたリスナーが自分らしくあることの大事さを改めて感じるといいですね。そういう意味では、今作はあらきさんが明確なコンセプトを提示したことが奏功して、リアルかつ心に刺さる歌詞が並んでいることも大きな魅力になっているなと。

僕、ファンタジーな歌詞の曲はチョイスしないところがあるんですよ。そういうものは100パーセントの気持ちを込められない気がしてしまって。そうじゃなくて、自分自身に響くリアルな心情を歌いたいという気持ちが根本にある気はします。

ずっと、そうあってほしいです。また、本作には「夢現境界層」や「ロストチャイルド」といった退廃的なEDMテイストを打ち出した楽曲も入っていますね。

荒廃した感じの世界観ですよね。僕はそういうものも大好きなんです。ちょっと鬱っぽいというか、病んでいる感じのものに惹かれる面もあるので、そういう曲も入れました。ただ、「夢現境界層」は異質ですよね。アルバムの構成を考えた時にEDM要素を活かしたものも欲しいと思って、そういう楽曲作りが得意な柊マグネタイトさんにお願いすることにしたんです。でも、最終的なマスタリングの段階でギターの辺りの帯域をグッと上げたんですよ。そうしたら打ち込みを活かした電子音楽だったのにギターロック感も出て、独自のものになったというか。それが良かったと思いますね。あと、僕は「夢現境界層」をどうしてもアルバムの真ん中に置きたかったんです。アルバムの前半はバンド的なヘヴィな感じでいくけど、この曲を挟んで、以降はニュアンスが違う楽曲が出てくるという流れにしたいと思って。そういう意味では、まさに“境界”というイメージの曲ですよね。

歌詞もタイトルに相応しく、思考がフワフワと漂っているような雰囲気になっていますね。

この曲の歌詞は読み解くのが非常に難しいところがあるんですけど、基本的には夢と現の間を行き来している状態ですよね。それは、理想と現実ということにも当てはめられる気がする。そのギャップに悩むというところが、今回のコンセプトに寄り添っているかなとは思います。

なるほど。歌詞を読んで“どういうことを歌っているんだろう?”と思った時に、書かれた作家さんに歌詞の意味をうかがったりはしないのですか?

基本的に訊かないです。自分の中で噛み砕いて、自分なりの解釈で歌うようにしています。だから、歌詞を書き直してもらうこともないし。作家さんは作詞作曲をするマシンではなくて人間なので、楽曲制作をお願いするのであれば彼らの個性やこだわりを大事にしたいんです。例え無意味な歌詞のように感じたとしても、そこには必ず何かしら折り込まれているはずだし。それを読み取るべきだと思っているから、“分かりやすい歌詞に書き直してください”ということは絶対に言わないですね。

さすがです。それは明確なコンセプトを提示したからこそとも言えますね。ノーコンセプトであがって歌詞の意味が分からなければ作家さんに訊くしかないですが、“PARADOX”というワードのもとに読み解くことができますので。

そう! だから、やっぱりコンセプトというのは固めるべきだと思いますね。“PARADOX”というテーマは難しくもあるけど、ハマると書きやすくもあると思うし。いいかたちで作家陣のみなさんとご一緒できたんじゃないかと思います。

確かに“PARADOX”というコンセプトは秀逸です。“宇宙”や“自然”というような漠然としたテーマだと、作家さんのイメージがバラバラになってしまう恐れがありますよね。さらに、和テイストを活かした「闇は白く」やストリングスをあしらった「Ark -strings arrange ver.-」なども聴きどころです。

和テイストも自然発生ではなくて、僕がそういうものを入れたいと思ったんです。僕は和感のあるものがすごく好きなんですよ。『歌ってみた』でユリイ・カノンさんの曲は何曲か歌わせていただいているんですけど、昔から和ロックの曲が多いんですよね。だから、僕の中では“ユリイ・カノンさんと言えば和テイスト”というイメージがあって、最近はいろんな曲を書かれていますけど、絶対にユリイさんに和ロックを書いてもらうという確固たる想いのもとにお願いしました。

「闇は白く」は和テイストといってももろに日本ではなくて、和が香るという仕上がりが印象的です。

そう! 和テイストというと琴や三味線の音を使うことが多いけど、この曲は使っていないんですよ。イントロとかも琴みたいなフレーズをピアノが弾いていて、そういうところがユリイさんらしくて。そこも好きなところだし、この曲があがってきた時は“これです! これっ!”という感じでした(笑)。歌詞に関してはユリイさんは結構難解な歌詞を書かれる方なので、この曲も難しかったです。「夢現境界層」とはまた違う方向の難しさがあるんですよ。ただ、ユリイさんの歌詞は難しい漢字とか、あまり聞いたことがない単語で作られているので、それを調べると結構読み解けるんです。そうやって自分なりに読み取って歌いました。「闇は白く」の歌詞を読んで意味が分からないという人はぜひ使われている言葉を調べて、歌詞の意味を考察してほしいですね。僕自身がそうでしたけど、すごく楽しい時間を過ごせると思います。

ただ受け取るだけではなくて、自ら掘り下げることで楽曲に対する愛情が深まるというのもありますよね。「Ark -strings arrange ver.-」についても話していただけますか。

この曲はジャンルとして定義するのが難しいと思うんですよ。どう思います? これはバラードだと思いますか?

ひと言ではバラードに括れないですね。意外とテンポが速いですし、何より《どうかしてるくらいが丁度いい ふざけてる命なんかない》という文節から始まって、力強いことを歌っていますので。

最初に自分でデモを作った時は全然違う曲調だったんです。普通に4つ打ちのストレートめに進む、アッパー系な曲だったんで。エレクトロポップな感じだったけど、ちょっとUKロックとか邦ロックの要素を足したかたちに変わって、さらに今回はストリングスアレンジになったんです。だから、エモい雰囲気でいながら歌詞も含めて根本のアッパー系なところが残っていて、ちょっと独特な感じになっていますね。でも、それがいいというか。個人的には生命が宿っていて“いいなぁ”と思います。

OKMusic編集部

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