ドレスコーズ

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【ドレスコーズ インタビュー】
すごい時代に
音楽を作っていると思うと、
ちょっと気が引き締まる

アートがやりたいことを
パンデミックは全てやってのけた

楽曲制作自体は昨年の緊急事態宣言が発令された頃だったんですか?

そうです。実はピアノを始めたんですよ。“いつか弾けるようになれたらいいなぁ”って昔から思っていたけど、今さら買って始めるっていうのはなかなか億劫で…。でも、昨年は家にこもってひとりで過ごす時間がたくさんあったから始めてみたんです。それで“次のアルバムは全部ピアノで作ってみよう”って決めて、いろいろ曲を作り溜めていました。歌詞はそのあとですね。コロナ禍以降の自分たちの生活、新しい常識とか…それまでの自分たちの常識やシステムが途端に役に立たなくなったっていうのは、やっぱり自分の中でもすごく新鮮な体験でしたから。

ピアノを使って曲を作ることによって作風が広がったという感覚はありましたか?

それはありましたね。でも、ピアノを弾きながら“このコード進行はきれいだなぁ”って思ったものが、よくよく考えると僕がギターでよくやる手癖と同じだったりして。ギターで作っていると“またこれかーい!”って思って避けたりするんですけど、“ピアノでもそれが出るってことは、僕はこれがずいぶんと好きなのね”ってことで採用にしたり。なんだか作曲を始めたての頃の感覚というか、自分の曲に対しての新鮮な感動みたいなものもありました。

生まれた曲に関しては、昨年から今年にかけての世の中の空気をすごく感じました。「大疫病の年に」の《人のいない街/よごれたゆび》という一節とか、本当にそういう一年でしたし、この感覚は今でも続いていますから。

こんなに自分や他人に対して“汚れている”って思うことってなかったですからね。今までだったら普通に握手をしたり、自分の持ち物を手渡したりしていたのに、“このドアノブ、誰が触ったか分からないしな”とか思ったり、消毒してから何かに触るようになったり。こんなにお互いを汚いものとしてとらえて、敏感にならざるを得ない感覚を自分たちが持ったからには、やっぱり以前の感覚にすぐには戻れないというか…だから、例えば“すごくシンプルなラブソングを作ろう”ってなった時、今までだったら“側にいてほしい”“触れたい”“抱きしめたい”というようなテンプレートがあったと思うんですけど、もうそれはリアリティーを失っているんですよね。広く言えばアートに携わっている人は今、すごく奮い立っているのではないかと僕は思うんですよ。こんなにみんなの意識とか常識みたいなものがひっくり返るっていうのは、100年に一回あるかないかのことだと思うから、アーティストはこういう状況に嫉妬しているかもしれない。“物の見方の角度を変えることによって新しい意味を見出す”とか、古い価値観や概念を崩したり倒したりするっていうような、アートがやりたいことをパンデミックは全てやってのけた…まさに変革っていうことですからね。それに嫉妬しないアーティストはいないかもしれないです。

もちろんこんな状況にならなかったほうが良かったに決まっているわけですが。

それはもちろんですね。でも、“コロナにやられてばかりもいられない”というところも、このアルバムにはあるのかもしれないです。

ソーシャルディスタンスも、世の中に生まれた新しい概念ですからね。

はい。“あなたのことが大事だから側に寄らないで”なんて考えたこともなかったですから。

「はなれている」もソーシャルディスタンスのことが思い浮かぶ曲ですけど、これはコロナ禍前だったら理解されない概念だったと思います。

そうですね。“私があなたを汚すかもしれないから、どうかそこで、そのままでいて”っていうのは、ちょっとロマンチックにも聞こえるっていう。

今みたいな出来事が起こらないと、こういう価値観や概念はなかなか思いつかなかったでしょうね。

昨年、アルベール・カミュの『ペスト』が改めて売れているっていう記事を見たので、僕も読み直してみたんですよ。あれもどこに感染者がいるか分からず、お互いに疑心暗鬼になるさまが描かれていて、行政のせいでなかなか医療が行き届かなかったり、街がロックダウンされたり、何百年前も今もまったく同じなんですよ。つまり、今一番人々に必要とされて、急ぐべきものは当然、医療と政治ですよね。そして、今急ぐべきでないもの、さして必要でないものの筆頭に文化が挙げられて(笑)。“今すぐこの状況をなんとかしてくれ”っていう時に音楽や小説は、すぐに何かを変えられるわけではないんですけど、現状をスケッチすることによって後世に何かを伝えることができるという。それは災害とかに関してもそうで。何年何月何日発生、被害者は何人っていうデータが残ることはあっても、その人たちの感情や暮らしみたいなものは、数字では記録しにくいんですよね。“そういうものを残す役割として文芸や音楽、絵といったアートがあるのかもしれんなぁ”っていうのを『ペスト』とかを読んで思うわけです。そういうものを僕も、今、作ろうとしているところがあります。

「しずかなせんそう」も昨年の春くらいの頃のスケッチですね。

はい。“起こっていることは戦争と同じなのに、どうしてこんなにのどかなんだ”っていう。昨年の最初の緊急事態宣言の頃、僕は毎日お昼に近所の空き地に行って、ひとりでテイクアウトのお弁当を食べてたんです。4月頃で温かくて天気も良くて、会社も休みになっているのか、平日でも子供連れが公園で遊んでいたり。なんだか休暇みたいな気持ちで毎日を過ごしていて、ただ恐ろしいものが過ぎ去ってくれることを待つだけっていう。“なんてのどかで穏やかなんだろう”と思って。

「不要不急」も同じ時代を過ごしている人間として、ものすごくリアリティーがある曲でした。不急であるのは理解できるんですけど、僕も“アートって不要なの?”ってずっと思い続けていますから。

昨年、インタビューを受けた時もそんな話になったんですが、例えば火事があって、みんながバケツリレーでお水を運んでいる時に、僕はその火事をスケッチしていると。“そんなところで絵を描いてる暇があるんだったら手伝えよ!”って思われるようなことをしているけど、その火事の状況だったり、どんなに恐ろしいことかっていうのをうまくスケッチできれば、もしかしたら次の火事を防げるかもしれない。きっとアートっていうのはそういうことをやっているんじゃないかと。

報道カメラマンに対して“写真を撮って暇があるんだったら助けろよ”みたいな批判がよくありますよね。言わんとしている気持ちは分かりますけど、その写真によって事実が世界中に伝わって、たくさんの命を救うことになったりするわけじゃないですか。

うんうん。規制を敷いて外に一切情報を漏らさない国で行なわれてることを、やめさせるきっかけにその写真がなるかもしれないわけですからね。

今回のアルバムは不要不急と言われたりもする中で、アート、アーティストとして思いっきり抵抗できている作品でもあると思います。

そう言っていただけると嬉しいです。

OKMusic編集部

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