ドレスコーズ

ドレスコーズ

【ドレスコーズ インタビュー】
すごい時代に
音楽を作っていると思うと、
ちょっと気が引き締まる

4月7日にピアノインスト曲のみで構成された『バイエル(I.)』がサブスク配信されたあと、事前予告なしに変化を重ねて最終形態となった最新アルバム『バイエル』。リリースに至るまでの手法が斬新であったと同時に、現在の世界の姿を鮮やかにとらえている今作について志磨遼平に語ってもらった。

曲が徐々に完成していく、
成長していく過程を配信

成長するアルバムという構想はどのようにして生まれたのでしょうか?

何年か前に曽我部恵一さんが作品をリリースしたあとにサブスク版のミックスを少し変えたというニュースを見たんです。あと、海外だとカニエ・ウェストさんがアルバム配信後にトラックを足していたりしていて、“あっ、そういうことをやっていいなら、サブスクの中で曲が徐々に完成していく、成長していく過程を配信することもできるわけか”と思ったんです。例えばドラムだけの曲を“新曲”と言い張って配信して、ある日、朝起きたら昨日まではなかったベースが入ってるとか(笑)。さらにしばらくして“おっ、今度はギターが入ったのか”という感じで、何週間か何カ月かかけて曲がどんどん育っていくっていうのはCDだと不可能な体験ですよね。すでに誰かがやってるかもしれないと思いながら、そういうのが可能かどうかをスタッフに調べてもらい、配信会社にも理解してもらって、一年間くらいかけて水面下で準備を進めていました。

4月7日に『バイエル(I.)』が配信されましたが、ピアノインストでしたからファンのみなさんは非常に驚いていましたね。

はい。“成長する”仕組みについては説明しなかったので。未完成の作品をリリースしたわけではなく、すでに完成しているものがさらに進化、成長していくっていうのが僕の理想だったので、あえて説明はしなかったんです。

4月23日には林 正樹さんのピアノが加わり、曲のタイトルが表示されて、歌も入ったものに成長して、その辺りからみなさん、今回の意図になんとなく気づき始めていたのかなと。

そうですね。だんだん音が増えていけば、やろうとしていることを徐々に理解して震えるだろうよ…と思っていました(笑)。

タイトルが決まって歌詞も加わると曲の印象も変わるし、音楽にとって言葉の持っている力は大きいっていうことも感じました。

それは今まで曲を作った人しか知らなかった感覚というか。歌詞がない状態のメロディーっていうのもいいもので、僕は好きなんですね。でも、自分の歌詞、言葉、思考、歌声、歌い方の癖が加わった完成形しか人様に聴かせたことがないわけで。

通常ならば、そうなりますよね。

はい。でも、それこそ作曲当時の録音が残っていない古いクラシックの曲とかは楽譜だけを頼りに、いろんな人がそれぞれの解釈で演奏しますよね。それに近いようなことというか。作者本人のアイデンティティーと、その曲自体が持っているピュアな情報を切り離して楽しむ……そんなふうに見せることができるんじゃないかっていうことも思っていました。“僕が歌う前の曲をそのまま聴いてもらうことができたらなぁ” っていうのは、前から思っていたことでもあるので。

クラシックは同じ曲でも指揮者、オーケストラ、録音年によって印象が異なりますし、もともとはピュアな状態だった曲にさまざまな要素が加わることによって印象が変化していくというのは、実は自然なことなんですよね。

そうですね。今では当たり前ですけど、作曲者が演奏も歌唱も全部自分でやるようになったのはわりと最近のことなんですよ。少し前まではプロの作詞作曲家さんがいて、それを歌手が歌う…今でもアイドルさんの音楽とかはそうなわけで。つまり、シンガーソングライターっていうのは“曲を作る自分”“歌詞を書く自分”“歌う自分” が混在している存在っていうことですよね。そういう意味では、それぞれの自分が相容れないこともよくあるんです。曲を作る自分からしたら“もっとうまく歌ってほしい”っていう時もあるし(笑)、歌詞を書く自分からしたら“このメロディー、歌詞が乗せにくいなぁ”という時もありますから。そういうのを経て曲が出来上がっていくっていうのを、分解してリリースしながら見せるのは面白いですね。

このリリース方法自体もアートだと思います。アートって固定観念を打ち砕いて、新鮮な視点を得る体験ですから。

ありがとうございます。
ドレスコーズ
ドレスコーズ
アルバム『バイエル』

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着