L→R 細美武士、TOSHI-LOW

L→R 細美武士、TOSHI-LOW

【the LOW-ATUS インタビュー】
the LOW-ATUSのたった一枚の
アルバムになったとしても十分

“ニコイチ”というのが
醍醐味だと思う

なるほど。このふたりでずっとやってきた感じからすると、「みかん」のような曲も自然と出てきましたかね?

細美
何かね、途中からこのままだと普通にいいアルバムになっちゃうから、 “もういい曲作んの禁止”みたいになったの。じゃあっつって作ったのが「みかん」(笑)。
TOSHI-LOW
頑張って汚したね(笑)。

バランスを取ったんですね。でも、“いい曲がいっぱいできすぎちゃって”というのはよく分かります。今作の収録曲は歌詞もメロディーもコードもいい楽曲が多いですね。聴く人それぞれに好みはあるでしょうが、私は個人的に収録曲の中では「君の声」がもっともすごいと思ってまして。このコードの使い方は楽曲全体で描く物語にすごく奥行きを与えていると思うんですよ。

TOSHI-LOW
コードのことは言われても全然分かんないです。勘だけでやってるから(笑)。

えっ、そうなんですか!? サビ終わりですよ。あそこのアコギの響きが楽曲をものすごく広げている感じがあって涙腺を刺激されましたよ。

TOSHI-LOW
あぁ、あの歌詞のないところ? あれはね、自分で歌えない曲だからそこに広がりを出して。自分では歌いきれないし、細美武士の歌は高いところが出るという設定じゃなければ作れなかったの。低くしちゃうと、あのキラキラしたコード感は出なくなると思うし、合作としての良さはすごく出ているんじゃないかと。

そこも今日、ぜひうかがいたかったところでして、8曲目「丸氷」と9曲目「君の声」は…

細美
うん。メインヴォーカルが作曲者じゃないってことね?

そうです。この辺はそれぞれのバンドのファンにはグッとくるのではないかと。

細美
嬉しいところかもね、うん。

TOSHI-LOWさん、「君の声」は細美さんが歌うからこそ、こういう曲が出てきたわけですね?

TOSHI-LOW
細美武士が歌うからこそと、お互いに作詞者・作曲者として、普段は意外と使っていない言葉とかメロディーがあって、それをやってもらう楽しみみたいなのが俺にはすごくありましたね。だから、途中から“あっ、これは俺じゃねぇな”と思ったら、“細美武士はどう歌うんだろう?”というイメージと、細美武士が歌いそうで歌わなさそうなことをちょっとずつ、意地悪じゃない意味で自分が気恥ずかしい言葉を入れていくというか。俺は初めからその辺があったかな?

新しい組み合わせならではの楽しみがあったということですね。

TOSHI-LOW
うん。自分でも気恥ずかしいことも入れちゃうとか。
細美
やめてよ、そういうこと(笑)。
TOSHI-LOW
あははは。

「君の声」はTOSHI-LOWさんがひとりで歌うにはちょっと照れがあったんですかね?

TOSHI-LOW
“ギターとヴォーカルなんだから、弾き語りでもできるじゃないですか?”って言われれば、それはできるよ。できるんだけど、俺らはふたり設定、“ニコイチ”というのがあって、それが醍醐味だと思うんだよね。

確かに。一方、「丸氷」はTOSHI-LOWさんが歌うことを前提として作られたんですか?

細美
そうそう。ほら、自分の曲が何曲採用になるか分かんないし、TOSHI-LOWが最終的に何曲持って来るかも分からなかったから、作ってる時は“TOSHI-LOWが歌う曲も俺が歌う曲も、どっちも作んなきゃな”って感じで作ってたのよ。だから、「丸氷」はTOSHI-LOWが主メロを歌う曲と思って作ってた。

「丸氷」のサビ、私なんかかすると、如何にも“細美武士メロディー”という印象なんですが、それをTOSHI-LOWさんが歌うところに、まさに醍醐味はありますよね。

細美
うん。確かに、今それを言われるまで、さっき「君の声」の話でTOSHI-LOWが “自分が気恥ずかしい言葉を入れた”っていうのを聞いて“えっ!?”って思ったけど、俺も入れてるなと思った(笑)。《疲れ切ったその足を引きずるように歩いて》なんてことは俺にはないからね。
TOSHI-LOW
うん。「丸氷」には大分入ってると思うよ(笑)。氷を透かして《一人で踊る/君を肴にして》なんて、俺も見たことはないから。

でも、今の件からthe LOW-ATUSの意義のようなものが分かりましたね。このふたりだからこそ、また完全に新しいものが生まれたわけですから。サウンド面で言うと、「空蝉」が興味深くて。アコギ2本でもここまでサウンドの奥行きを出せるのかと思って聴いてましたよ。「空蝉」のアコギのこれはディレイなのかリバーブなのか分かりませんけど、そういったものを使うことによって、随分と音響は変わりますね。

細美
ギターが2本あるからステレオにできるんで、お互いの拍をずらすとすごく立体的に作れるのは当たり前なんだけど、意外とビートも感じるでしょ? 

はい。あと、「空蝉」の間奏では、一瞬“これはシンセかな?”と思うような立体的な音の広がりも感じましたね。

細美
うん。あの曲はTOSHI-LOWが難しいところを弾いてくれた。俺はずっとコードを弾いてるだけ(笑)。

ビートで言えば、7曲目「オーオーオー」。あれはギターのボディーを叩いている音ですかね? 今ほど言われた通り、アコギ2本でも十分にリズミカルさは出せるということですよね。

細美
あの発想は俺にはなかったな。アコースティックではよくやることだけど、the LOW-ATUSではやったことがなくて、まさかレコーディングで出てくるとは思ってなかったんで。「オーオーオー」があるとないとで、このアルバムは全然違ったと思う。

ひと口で“ポップ”と言うのもどうかと思いますけど、「オーオーオー」はメロディーもテンポもポップなところがあるナンバーですので、アルバムの抑揚をつけるに必要な感じではありますね。それで言うと、中盤の「ダンシングクイーン」「みかん」「オーオーオー」は全部そんな感じですけどね。

細美
そうだね。あそこは勢いがあるよね(笑)。

「ダンシングクイーン」は作詞がTOSHI-LOWさん、作曲が細美さんですけど、これはどういう作り方だったんですか?

細美
もともと“10曲録れたらいいね”なんて言ってたんだけど、いざ10曲できて並べてみると何か締まりがなかったんだよな。で、“もう一曲作らない?”ってなって。俺はあんまりストックを残さない派なんだけど、「ダンシングクイーン」の原型は大分前に作ったやつがあって、何曲かあった自分のストックを全部持って行って“聴いてみる?”って言ったら、TOSHI-LOWが “これをやってみたい”と。で、何かで俺のスタジオ入りが遅くなった日があったんだっけ?遅くなったのか、先に帰ったのか忘れたけど(笑)。翌朝、スタジオに入ったら曲ができてた。
TOSHI-LOW
「ダンシングクイーン」の原型はバンドでエレキだったから、ロックというか、オルタナっぽい部分があったんだけど、リフみたいなところをアコギでやることで醍醐味が出るんじゃないかと思って、勝手に編集して作ったの。で、“じゃあ、細美さん、歌ってください”って言ったら“お前が歌えよ”と言われて。
細美
ははは(笑)。
TOSHI-LOW
“でも、英語の歌詞がついてんじゃん?”って返したら“じゃあ、英語禁止!”って言われて、全部書き直したっていう(笑)。だから、俺でもなく、細美武士でもない、違う世界観を作ってみたいと思ったし、これも自分のバンドでは意外とできそうでできない架空の世界というか…現実ばっかり歌っちゃうから、そこじゃないところで物語を歌ってみたいと思ったんだよね。

そうですか。「ダンシングクイーン」においても、このふたりでやることの相乗効果があったわけですよね。いい意味で最近あんまりないタイプの歌詞ですし。

TOSHI-LOW
アメリカの死刑囚が夢を見てて、みんなに囲まれて“本当に俺は最高だ”って思ってたら、それは死刑執行の日だったという歌があるんだよね(※「Green, Green Grass Of Home」。邦題:思い出のグリーングラス)。でも、それは途中で物語を語りで説明しちゃっているのね。“今、俺は○○○にいる。死刑台に上がっていく”みたいな。だけど、この曲はそうじゃなくて、歌で全部やってみたくて。

TOSHI-LOW さんは“現実ばっかり歌っちゃう”とおっしゃられましたが、個人的にも現実を描いたロックが多いとは思っていて。こういうタイプは新鮮には感じますよ。

TOSHI-LOW
俺は救いのない歌って意外にないと思ってて。だって、みんな夢があって、“最後は何とかなるさ”みたいなことを言ってるけど、「ダンシングクイーン」は何ともならないまま終わるという(笑)。しかも、バスッと。

逆に言うと、“夢はいつか叶う”“扉はいつか開く”“君にも翼がある”みたいな歌詞は歌えないってことですか?

TOSHI-LOW
いやいや、そういう側面と、やっぱりこういう側面があって。俺たちの人生においてそういう奴とはまだ出会ったことはないけども、人生にはそれもあるからどっちも正しいとは思うんだよね。もちろん作り話だけど、“人生ってそういう落ちもあるのよね”っていう。

人生のダークサイドという感じですね。そういう意味では、「ダンシングクイーン」は架空の物語ではあるものの、これはこれでリアルなんですね。

TOSHI-LOW
ふたりしてダークサイドを感じないで、“楽しそうなおじさんたちがボランティアとかをやってて、いい人そうですね”だと馬鹿だと思う。本当は影がいっぱいあるわけじゃん。だからこそ、そうじゃないものも歌えるし、影を感じるからこそ何か…別に贖罪でやってるわけじゃないけど、被災地とかへ行ったって、“俺、すげぇやったでしょ?”って感じないし。だから、そういうものを…という。

そうですね。明るさ一辺倒でもなければ、暗さ一辺倒でもない。冒頭でも少し言いましたが、そこに笑いがあって、笑いの後ろに悲しみもある。10曲目「ロウエイタスのテーマ」に《さあ 考えよう/あなたの中に答えがあるなら》とありますから、何かひとつのことを提示しようとか、啓蒙しようとしていないことは分かります。「ロウエイタスのテーマ」はひと口に語れないほどに、さまざまなことが詰まっている気はしますし。

TOSHI-LOW
「ロウエイタスのテーマ」はひと言で言うと、ザ・フォーク・クルセダーズの♪おらは死んじまっただ〜(※「帰ってきたヨッパライ」)みたいなので、最後に壮大に終わっていくようなイメージだけはあってね(笑)。初めは面白く入るんだけど、最後は現実を突きつけられるみたいな。ザ・フォーク・クルセダーズのアルバムを聴いてたら、ああいうふざけたのと、「戦争は知らない」とかすごい真面目な曲が曲毎に入ってて、それを一個にギュッと潰してみたいというイメージがあって。それを今回やってみたと。

OKMusic編集部

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