渋沢栄一(篤太夫)役の吉沢亮

渋沢栄一(篤太夫)役の吉沢亮

【大河ドラマコラム】「青天を衝け」
第十八回「一橋の懐」“軍事から財政
へ”栄一の変化を描いた濃密なドラマ

 「武士とて、金は入り用。…(中略)…(反乱を起こした水戸天狗党の藤田)小四郎様たちは忠義だけを尊び、懐を整えることを怠った。両方なければ駄目なのです。それ故、それがしは一橋の懐具合を整えたいのでございます」
 領地を回り、一橋家に仕える家臣を多数集めてきた渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)は、さらに各地の特産物を利用し、一橋家の財政を強化したいと主君・徳川慶喜(草なぎ剛)に申し出た上で、こう告げる。
 「懐を豊かにし、その土台を頑丈にする。軍事よりはむしろ、そのような御用こそ、己の長所でございます」
 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。6月13日放送の第十八回「一橋の懐」のクライマックスの一幕だ。今後いよいよ栄一が、実業家としての将来につながる商才を本格的に発揮していくことになりそうだ。その転機となるこの回は、ここまで積み上げてきたものに裏付けられた濃密なドラマが繰り広げられ、見応えのあるエピソードとなった。
 まず、前半で描かれたのが、尊王攘夷を掲げて反乱を起こした水戸天狗党の末路だ。これまで、各地で略奪を繰り返すなど規律の乱れが語られてきたが、その結果、兵は飢え、世間の支持も広がらず、討伐に乗り出した慶喜に降伏。最終的に300人以上が斬首された。
 ここで見事だったのは、栄一が「懐を整えることを怠った」と語ったように、その失敗の原因を単なる兵力不足や規律の乱れではなく、財政面の問題にあったと結論付けたことだ。それにより、これが単なる歴史上の事件の描写に終わらず、栄一が一橋家の財政強化に乗り出すきっかけとなり、ドラマ的に大きな意味を持つことになった。
 そして、後半では、慶喜の命を受けた栄一が、一橋家の家臣を集めるため、領地・備中を訪れる。だが当初は、誰一人その呼び掛けに応じない。農民にとっては、自分がかつて自らを苦しめた代官と同じであることに気づいた栄一は、上から目線で説得するのではなく、農民たちに混じって交流を深め、信頼を得ることで目的を達成する。
 この行動も、農民出身の栄一ならではだ。初対面の農民たちとすぐに打ち解ける人懐こさも、かつて藍葉を仕入れによその村まで出かけた姿を想起させた。
 この他、人材が集まらず栄一が愚痴る場面では、一緒にいた伝蔵(萩原護)が「みんなが大変なんだで」と、栄一の母・ゑい(和久井映見)のまねをして見せ、「みんなが幸せなのが一番」というその教えを思い出させた。
 また、村で若者に学問を教える漢学者・阪谷朗廬(山崎一)との会話には“浜田弥兵衛”の名が出てきたが、これも第四回で栄一が尾高惇忠(田辺誠一)やいとこの喜作(成一郎/高良健吾)らと話題にしていた人物だ。
 以上、いずれもこれまでのドラマに裏付けられた描写で、それが幾重にも折り重なることで、“軍事力による一橋家への貢献から財政へ”という栄一の変化に説得力が生まれることとなった。
 そして、クライマックスでは、「今改めて、この壊れかけた日の本を再びまとめ、お守りいただけるのは殿しかおらぬと」と亡き恩人・平岡円四郎(堤真一)そっくりの言葉を慶喜に掛けることになる。
 隅々まで神経の行き届いた構成で、密度が高く、厚みのあるドラマを繰り広げた第十八回。まさにこれまでの集大成とでも言うべき見事な内容だったが、これを機に栄一がどんな活躍を見せるのか。その行方に注目していきたい。(井上健一)

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