世田谷パブリックシアターの新企画『
ハッチアウトシアター』より、「子ど
ものための短編リーディング戯曲」と
「演出+ワークショップファシリテー
ター」が決定

世田谷パブリックシアター 若手演劇人育成プログラム『Hatch Out Theatre ハッチアウトシアター2021』。応募数43作品より選出された「子どものための短編リーディング戯曲」と応募者50名より選出された「演出+ワークショップファシリテーター」が決定した。従来の公演形態にとらわれない演劇をつくり上げる若手演劇人2名が発表された。
現代演劇と舞踊を中心とし、時代を反映するオリジナリティあふれる舞台作品の創造・発信をする公演事業と、地域社会と演劇のつながりを模索しながら、文化芸術の新たな社会的価値を創出する学芸事業(演劇ワークショップ・レクチャー等)の2つを軸に、「みんなの広場」である劇場として、世田谷パブリックシアターは地域と関わってきました。
2021年度、この2つの土壌をもつ劇場として、「これからの演劇のカタチを考えて“今”やるべきこととは?」という問いに答えるため、新たな若手演劇人育成プログラム『Hatch Out Theatre ハッチアウトシアター』を立ち上げた。
『Hatch Out Theatre ハッチアウトシアター』は、Hatch out(孵化する)という言葉が示す通り、これからの演劇をつくっていく若手演劇人に、演劇を作る側・観る側の境界線を取りはらい、新たな演劇の楽しみ方を観客とともに見つけられる、従来の公演形態にとらわれない演劇との“出会い”を提供するプロジェクトだ。
今回は「子どもに伝えたいこと/子どもと考えたいこと」をテーマに、子どもから大人まで楽しめる“リーディング”と“ワークショップ”が一体化した観客参加型の公演を12月のシアタートラムで上演する予定。そこで、観客とより近い関係性の中で演劇を実践し、演劇を通して地域社会とより密接な関係を築きたいと考えている40歳以下の若手演劇人を対象に、「子どものための短編リーディング戯曲」と「演出+ワークショップファシリテーター」の公募を今年の1月から3月にかけて実施したとのこと。3か月にわたる公募期間で、全国から応募があり、2名が決定した。
「子どものためのリーディング戯曲」は神野誠人作による、『ホーム』、そして「演出+ワークショップファシリテーター」は橋本昭博。他者との出会いを大切にし、映像・演劇の現場で協働制作を行ってきた神野誠人の描く、淡い色彩で描かれたリーディング戯曲『ホーム』を、演劇を通じて地域との繋がりを模索し、活動する注目の演出家橋本昭博が演出し、2021年12月にシアタートラムで上演する。
「子どものためのリーディング戯曲」 選出作品:『ホーム』 作:神野誠人
神野誠人
<プロフィール>
1994年、福岡生まれ。滋賀県、山口県、神奈川県を経て8才で東京に引っ越す。2016年東京造形大学映画専攻卒。ドキュメンタリー映画作家の小川紳介の研究を行なうとともに、2017年、山形市民による映画制作ワークショップ『エンカウンター・シネマ in Yamagata』にて制作支援者として参加。
その他にも、多くの映画制作ワークショップにアシスタントとして参加する。2016年から2019年まで、世田谷パブリックシアターの演劇ワークショップにスタッフとして携わる。他者の物語を傾聴し、他者のまなざしにうつる風景を分有することを志し、協働制作を行ってきた。今後の更なる創作活動が期待されている。
<コメント>
戯曲『ホーム』は、ぎゅうっと縮こまって暗く沈んだ心に、ぽっと灯る一筋の光のような作品になればいいなと思い書きました。この作品が、橋本さんという演出家に出会い、演劇+ワークショップに立ち上がることで、子どもたちにとって他者との出会いの場に繋がったらと思っています。
“他者と出会う”ということは、“自己変容を伴うような衝撃”のことなのかもしれません。それゆえ、ただ漠然と他者と向かい合うだけでは、そのものの“魂”に出会うことはできません。“出会う”ということはとても難しいことです。その難しさも、この小さな物語とワークショップを通して、共に楽しんでいけたらいいなと思っております。今回の試みが、劇場に訪れた人たちの心に語りかけ、この世界を生き抜く上で少しでも支えになるものになれば嬉しいです。それでは、劇場でお会いできることを楽しみにしております。
よろしくお願いします。
「演出+ワークショップファシリテーター」 選出者:橋本昭博
橋本昭博
<プロフィール>
俳優・演出家・Moratorium Pants 主宰。1985年、茨城生まれ。桐朋学園芸術短期大学卒。
2011年に演劇プロデュースユニット Moratorium Pants を旗揚げ。幼少期より、演劇・アートに触れ、12才で初舞台。俳優としての出演作に、2010年『新羅生門』(演出:横内謙介)、2013年『モバイル 2:フラット・シティーズ』(シンガポールの劇団 The Necessary Stage 国際共同制作舞台)、2014年『十二夜』(演出:森新太郎)。2016 年『夏の夜の夢』(演出:扇田拓也)では、出演とともに演出補もつとめた。演出作品に、Moratorium Pants 全作品のほか、2019年、穂の国とよはし芸術劇場の市民と創造する演劇 『リア王∼どん底から笑ってリターン∼』などがある。演劇ワークショップファシリテーターとして、学校や公共劇場で演劇的手法を使ったワークショップを行い、表現教育の現場でも活動をしている。2021年から地元である茨城県小美玉市の文化創造コーディネーターに就任。演劇を通して、地域に根差した文化創造を実践している、いま注目を集める演劇人である。
<コメント>
12歳で演劇に出会い、初舞台を踏みました。モノクロだった景色に色が付いたように世界が変わって「あー、これを職業にしたいなー!」と思ったことをよく覚えています。
まさに、演劇が人生を変えてくれました。
人生を変えるまでではなくても、もっとみんなに気軽に演劇に触れて欲しい、と思っています。
1+1の答えが、2にもマイナスにも無限にも可能性が広がる演劇の世界。あの時12歳だった僕もびっくりするようなワクワクするこの企画に、挑戦する機会を頂けてとても嬉しいです。戯曲を書いてくださった神野さんをはじめ、キャスト、スタッフ、そして、お客様と一緒に、大人が答えを教えるだけではなく、子どもたちと共に考えられる場を創っていきたいです。そして、自分自身、みんなに出会い成長していきたい所存です。選んでいただいた最初の卵として、しっかりと孵化(ハッチアウト)し、また新たな卵に繋げられればと思います。どうぞ、宜しくお願い致します!
審査員による選出者評価
■関根信一  コメント
戯曲の応募作を読み、演出+ワークショップファシリテーターの応募資料を検討し、作家と演出家の出会いということを考えた。自分のことではない、誰かと誰かの出会いを考えるのはとても楽しい作業だった。新しい出会いの場では、どんな化学変化が起こるだろう。マリアージュという言葉がうかんだ。淡い色彩で描かれた印象の神野誠人さんの『ホーム』。対する橋本昭博さんのカラフルな饒舌さは、どんな演出でこの戯曲を立ち上げていってくれるだろう。どうなるかわからないという無謀な冒険ではなく、行き先に光があることが信じられる旅のはじまりをかんじている。静かさと饒舌さがどう出会うか。また、子どもたちにどう届くのか。出会ったことで生まれる新しい世界に期待したい。
■瀬戸山美咲  コメント
神野誠人さんの『ホーム』は動物たちが互いを受け入れる姿を通して、人間がどう生きるかを問いかけてくる戯曲です。明確に語られていない部分も多く、観た子どもたちが自由に想像できるよさがあります。
この「余白」を面白く演出してくれそうな演出家・ファシリテーターとして橋本昭博さんを推しました。彼の演出は立体的で、ファシリテーションには遊び心があります。さまざまな考え方や生き方を認め合う場をつくれる人だと思います。神野さんと橋本さんがつくる『ホーム』が子どもたちと出会ったとき、どんな素敵なことが起きるのか。今からとても楽しみです。
なお、今回選出された、神野誠人と橋本昭博が中心となって、選出された戯曲をリーディング公演に立ち上げ、さらに作品世界をより深く理解するための演劇ワークショップをつくり上げていくとのこと。また、2022年度には、世田谷区内の小中学校や施設での巡回公演の企画も予定されている。世田谷パブリックシアターの新たな挑戦に、注目したい。

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