勅使川原三郎、新作ダンス『読書─本
を読む女』を語る

勅使川原三郎による新作ダンス『読書─本を読む女』が、2021年6月24日よりシアターχで上演される。東京・荻窪のKARASアパラタスで創作と公演を重ね、同時に愛知芸術劇場の芸術監督としてもいくつものプロジェクトで采配をふるう中で、寸暇を惜しんで作品づくりにのぞむ勅使川原に、話を聞いた。
「読書」2018年11月、KARASアパラタス公演より

──勅使川原さんはシアターχでは10年近くにわたって定期的に作品を発表されています。昨年は宮沢賢治作品に基づく『銀河鉄道の夜』(9月)、アラン・レネ監督の映画「去年マリエンバートで」に想を得た『去年』(12月)という2作品を上演されましたが、今回のテーマは「読書」。これはどのような構想で創作されるのでしょうか。
本を読む女を佐東(利穂子)さんが表現するわけですが、彼女は様々な文学作品の一節をとつとつと声に出し始め、次第に本の世界へと没入していく。そこに潜む感覚が、ダンスとしてどのようになるかがテーマです。つまり、本の中に入ってしまったその人が、身体がないもの、身体が存在しないものとして踊る、という感覚です。
──本の世界にのめり込んでいく時の感覚、ということですね。
はい、その時の実感を基礎にします。しかし本から離れると、言葉は途切れ、沈黙が訪れる。本を読んでいた時の言語的な響きがなくなるとどうなるかというと、身体は固まり、息苦しくなる。つまり、本の世界に入っている時のほうがより自由で生き生きとします。読書の中では時間はなくなり、身体も透明で見えなくなる。言葉がある物語の中でこそ、自由を得る──。いっぽうで、沈黙の中でも次第に読書していた時の記憶が蘇ってきて、物語の中で体験してきたことが、現実に戻った時に再現され、現実が読書によってより豊かになっていく──。そのように、身体と時間が合致するというか、焦点が合うということを想像してみようと思った。その実感が伝わる舞台を、創りたいのです。
「読書」2018年11月、KARASアパラタス公演より
──ベースにあるのはご自身の読書体験でしょうか。
はい、そのように感じた記憶を辿りました。私よりもっとたくさん読書をする人、あるいは、私ほどには身体を動かさないという人にとって、読書がどんな意味を持ち、どのような感覚になるのか、私にはわかりませんが。これは一人ひとり違うはずなのです。私は、一人ひとり違うものこそを、作品として創りたいと思っている。一人ひとり違うからこそ、共通するという感覚も、強く持つことができると考えるからです。ですが、これは必ずしも、本を読む時だけに起こることではないのでは、と佐東さんと話しました。たとえば、音楽を聴く、ダンスで何かを読み解こうとする時にも、同じような経験をしていると。確かに、今回のテーマは音楽との関わりで考えたほうが共感を得やすいかもしれない。ではなぜ読書なのかというと、舞台ではより物理的なもの、誰が見ても「文字が書かれている本」だとわかる、具体的なものを提示したいのです。同時に、どんな本、どんな物語が踊りとして出てくるのかという面白さもあるはず。
──たとえばどんな物語が語られるのですか。
佐東さん自身が好きな物語を語ってもらいたい。自分を見失うような、文字に酔わされるような作品──。たとえば、バルザックの「セラフィタ」、私も彼女も好きな作品ですが、いっぽうで、たまたま手に取った本があってもいい。それは文庫本かもしれないし、全集かもしれないし、ちょっとした冊子かもしれない。
──いろんな形の読書が登場するわけですね。
私にとって読書が、「この本のこういう内容を読みたい、知りたい」という欲求を満たすこと以上に魅力があるのは、まず、本屋さんに行くことでした。本屋さんで本に囲まれていると目移りするでしょう? 旅するような、道に迷うような経験をする。その、本を買う前の出会いが面白い。今回の作品では、本を読む女がその本にどんなふうに魅力を感じているか、どんな出会いをするかということを感じ取ってもらえたら面白いと思います。
「読書」2018年11月、KARASアパラタス公演より

【プロフィール】勅使川原三郎
ダンサー、振付家、演出家。クラシックバレエを学んだ後、1981年より独自の創作活動を開始。1985 年、宮田佳と共にダンスカンパニーKARASを設立。以降、KARASと共に世界中の主要なフェスティバルや劇場から招聘され毎年公演を行う。独自のダンス メソッドを基礎に美術と音楽の稀有な才能によって創作をつづける。身体と空間を質的に変化させる唯一無二な身体表現は高い評価と支持を得て、80年代以降、フランクフルトバレエ団、NDTやパリ・オペラ座バレエ団(3創作)を始めとしたヨーロッパの主要バレエ団に委嘱振付、エクサンプロヴァンスフェスティヴァル、ヴェニス・フェニーチェ劇場等でのオペラ演出、映像やインスタレーション作品の製作等、芸術表現の新たな可能性を開くアーティストとして創作依頼が多数。2013 年に東京・荻窪に活動拠点として劇場カラス・アパラタス開設、以降、年間を通して「アップデイトダンス」公演で新作を発表している。 2020年から愛知県芸術劇場 初代芸術監督に就任。昨年度は芸術監督就任記念シリーズとして「白痴」「調べ」、新作「ペレアスとメリザンド」を上演。今年は地元愛知のバレエ団から若いダンサーをオーディションしたプロジェクトを手がけ、7月に「風の又三郎」を上演予定。2007 年ベッシー賞、文化庁芸術選奨・文部科学大臣賞、2009 年紫綬褒章、2017 年フランス芸術文化勲章オフィシエ他、国内外の受賞多数。

勅使川原三郎 photo by Hiroshi Noguchi(Flowers)

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