(C)Immersiverse Limited 2018

(C)Immersiverse Limited 2018

【映画コラム】夫婦や家族についてい
ろいろと考えさせられる『幸せの答え
合わせ』と『ブラックバード 家族が
家族であるうちに』

 今回は、夫婦や家族についていろいろと考えさせられる2本の映画を紹介しよう。まずは、6月4日に公開された『幸せの答え合わせ』から。
 イギリス南部の港町シーフォードで暮らすグレース(アネット・ベニング)とエドワード(ビル・ナイ)は、結婚29年目。ところが、一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)が久しぶりに帰郷したある週末に、突然、エドワードが「家を出て行く」と宣言する。
 『グラディエーター』(00)などで知られる脚本家のウィリアム・ニコルソンが、息子としての実体験を基に脚本を執筆し、自ら監督した。ほぼ、夫婦と息子による会話劇が展開し、ベニング、ナイ、オコナーが三者三様の好演を見せる。
 こうした老年夫婦の危機を描いたものは、妻が別れを切り出すパターンが多いが、この映画は逆。最初は、気が強くて強引な妻と気弱で繊細な夫という図式が見えて、やり込められる夫や、夫婦の間に入って苦悩する息子に同情するのだが、やがて、それは一元的な見方に過ぎないと気付かされ、夫の行動にも身勝手なものを感じるようになる。
 つまり、この映画は、夫婦の問題は、どちらか一方に非があると、簡単に片づけられるものではないことを描いている。そこが厄介だったり、切なかったりするのだ。
 原題の「ホープ・ギャップ」は、劇中に登場する海岸の名称だが、この場合「(互いの)希望の隔たり」という掛け言葉にもなる点が秀逸だ。
 続いて、11日公開の『ブラックバード 家族が家族であるうちに』。
 ある週末、リリー(スーザン・サランドン)は、医師の夫ポール(サム・ニール)と暮らす海辺の邸宅に、娘のジェニファー(ケイト・ウィンスレット)とアンナ(ミア・ワシコウスカ)とその家族、そして学生時代からの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)を集める。
 それは、病気の進行によって安楽死を決意したリリーが、“家族が家族であるうちに”過ごすために用意した最後の時間だった。彼らは、さまざまな思いを胸に最後の晩餐を共にするが、あることをきっかけに、それぞれの秘密が明るみに出ることになる。
 登場人物は8人だけで、ほとんどが邸宅内で繰り広げられる、舞台劇を思わせる映画だが、よくある安楽死の是非を問うドラマは、映画が始まった時にはすでに終わっている点がユニーク。つまりは、実行までの過程を描いているのだ。
 ただ、リリーが自分の尊厳を必要以上に重視し、娘たちを自由な人間に育てたと勘違いしていたり、ドラッグやウッドストックやフリーセックスのことを楽しそうに語る場面を見ていると、いかにもベビーブーマー(日本で言えば団塊の世代)らしい価値観だという気がして、ちょっと反発を覚えた。
 とは言え、この場合は、単なるきれいごとのお涙頂戴的な話としてではなく、そうした嫌らしさをきちんと描いたところを、良しとすべきなのかもしれないとも思った。
 いずれにしても、夫婦や家族について、あるいは人生の最期の迎え方について、いろいろと考えさせられるところはあった。女優たちの演技合戦の横で、夫役のニールと長女の夫役のレイン・ウィルソンがなかなかいい味を出している。(田中雄二)

アーティスト

エンタメOVO

新着