時代に風穴を開ける新世代のギターヒ
ーロー・秋山黄色、地元宇都宮で行わ
れたツアーファイナルで明かした決意
。詳細レポート!!

「恩がある人とのつながりを大事にしたい」という想いから、セカンドアルバム『FIZZY POP SYNDROME』のリリースツアーである「一鬼一遊TOUR Lv.2」のファイナルは地元・宇都宮で開催したいと熱望していた秋山黄色。愛知から始まった全11公演のツアーは6月4日、予告通り宇都宮のライブハウス・HEAVEN’ S ROCK Utsunomiya VJ-2にて閉幕した。かねてから地元への愛憎を明かしてきた秋山だが、今この場所でこのライブをやる必然性に満ちた超メモリアルなライブだった。秋山黄色という時代に風穴を開ける新世代のギターヒーローの決意がはっきりと明かされた一夜をレポートする。
アニメ『約束のネバーランド』Season2オープニングテーマ曲「アイデンティティ」、映画『えんとつ町のプペル』挿入歌「夢の礫」、ドラマ『先生を消す方程式。』主題歌「サーチライト」等、タイアップ曲には作品の世界観と自らの心情を丁寧に織り込んでいる秋山。一方で、実体験が赤裸々に描かれた楽曲も数多くある。つまり、宇都宮にはいたるところに楽曲の舞台となった場所があるわけで、宇都宮駅から「宮の橋アンダーセッション」で歌われている宮の橋を通り過ぎ、HEAVEN’ S ROCK Utsunomiya VJ-2へと向かう道のりが、より地元公演の気分を高める。
初のMステ出演等を経て、広く深く求心力を高めている中で貴重なチケットを手に入れたファンを前にして、『FIZZY POP SYNDROME』と同じく「LIE on」からライブが始まる。「サーチライト」「クラッカー・シャドー」と、感情がはみ出すこともいとわず、クライマックスかのようなエネルギーを初っ端から放つ秋山。
「1公演も中止になることなくファイナルを迎えられたのは皆さんのおかげ」と感謝を述べた後、集まったファンの顔をよく見たかったからか、「もっと(照明を)明るくしてー!(笑)。これがもしかしてマックス?」と。「ここは僕がスリーピースの構成で初めてライブをした場所で。皆さんが知らない時から僕結構戦ってて(笑)。僕自身、久々に来たので色々と感慨が深いんです。自分家に呼んでいる感があるのね。複雑な事情がいろんな人のおかげでクリアになってここでファイナルができて。僕はこの時点ですごい楽しいですが、同じくらい楽しませようと思ってますので、よろしくお願いします!」とファーストMC。
3月に観たZepp Tokyo公演から7本のライブを挟み、アレンジが大幅に変わっていることに驚く。秋山から新アレンジがどんどん提案され、バンドメンバーがそれにがっちり乗っかっている。例えば「ホットバニラ・ホットケーキ」はダークさがバキバキに増し、カラフルなコントラストがさらについていた。ライブ中何度も音楽的な引き出しの更新ぶりに興奮させられる。かと思えば、アコギとともに披露された「夢の礫」では歌の奥深さと豊かさが際立ち、シンガーとしての伸びしろもまだまだあることを思い知らされる。
本編終盤、爽快な「猿上がりシティーポップ」のイントロに乗せ、「本当にベリーベリー謝謝(笑)。僕のファンの民度の良さたるや、全アーティストのトップクラスに入り込むような気がしてます」。「来れてないファンの分はまだ楽しめてないように見えるので!」と煽り、「『今日のライブ良かったな』では済まされないの! 今日のライブを観たから俺は絵を描くぞ、音楽をやるぞ、バンドをやるぞ、そういう気持ちになってしまうくらいライブっていうのはエネルギーを受け取ることができるし、僕は投げています」。その後、ここ宇都宮だからこその告白が始まった。
「俺はね、宇都宮が本当に本当に心の底から大嫌いだったの! 僕は就職ができませんでした。音楽しか残ってなかったけど、宇都宮の駅前の宮の橋の下でヘラヘラ笑いながらウイスキーを飲んでギターを弾いてるだけで良かったの。それすら許してくれなかった人が何人もいたんだよ! マジで腹立つけど、同じような境遇にいるかもしれない人たちに一言だけ言います。僕は夢を追って音楽をしたんじゃなくて就職活動なんだよ。お前らももう夢を追うとか言うな! 目標なんだよ、必ず将来なるの! あとは帰って何かやるだけ! 俺はそういう人たちのことを絶っっ対応援しますので。どこにも属せなかったけど、こんな俺ですらHEAVEN’ S ROCKとかHELLO DOLLYとかはライブをさせてくれました。もう俺は地域として宇都宮を嫌いとか言うのはやめます。人間は地域や街じゃない。恩の返し方はインターネットに載ってないけど、今探してる途中です。恩を返すべきひとりひとりと来てくれたあなたたちひとりひとりとの関係、大事なのはこれなんだよ! 俺がもしドームとかやってその気持ちを忘れてるなって思ったら、容赦なく5ちゃんねるで叩いてください! 絶っ対に変わらないから!!! 約束します! 辛い時、悩んだりする時、ライブがない時、検索してくれ! たった漢字四文字、栃木県宇都宮市出身、俺の名前は秋山黄色です!!『猿上がりシティーポップ』を歌います!」。
人生を賭けた決意を叩きつけられたような感動が充満する中で披露された「猿上がりシティーポップ」。生きる上でのしんどさが凝縮され孤独に愛を叫ぶ曲だが、秋山は「『もう一度どこかで 会えたらいいな』って 何より愛したいんだ 居場所くらいは」と歌いながら、人差し指で地面を指す。“目標”を達成し、憎しみと決別した今ここで、この曲が歌いたかったんだなという強烈な必然性に胸が熱くなる。続いては「とうこうのはて」。「今現在の残金の総額と あふるる夢の数が スレてて笑っちまう 今過去と決別したくて 道を舞い戻る 糞の細道まで」と、当時の状況と心情が赤裸々に描かれた曲を歌う。そして「ガッデム」と、聴き手に救いの手を差し伸べる『FIZZY POP SYNDROME』より前の、社会に対する絶対的な違和感が渦巻いた曲たちを怒涛のように演奏する流れは、呪いからの解放にも聴こえた。
圧巻の3曲の後、息を切らしながら「曲行けんわ(笑)。疲れ過ぎ…」と呟く黄色に、「そりゃそうだよ」という気持ちが込められた労りのような拍手が起こる。秋山は水を持ってドラムセットの前に座り、「ここで暮らすわ。ここで暮らすのも悪くない」とうそぶく。
「脈々と受け継がれていくものがあるんです」という言葉を皮切りに、ファーストMCで明かした3年前のこの場所でのライブについて詳しく話し始める。Brian the SunのツアーでHalo at 四畳半とpollyの3マンのオープニングアクトとして出演した当時、震える程緊張している自分に対し、Brian the Sunのボーカル森良太が優しく声をかけてくれたり、ステージ上で褒めてくれたと。「始まりがあれじゃなかったら、俺はもっとうまくいってなかったって断言できる。最高に恵まれてる」。あの時のライブの経験が今にも繋がっているという話を経て、「俺が急に音楽辞めてプロ麻雀士目指しますってなったら、それが誰かにとって致命的な一撃になるかもしれない。人の心に焼き映してしまった責任を俺は取りたい。音楽で人を救ってやろうというコンセプトがセカンドにはあるけど、心の中では無理だと思ってる。考え方では人生は変わらない。もっと良い方法がある。俺が一生音楽をやると約束して、辛い時は見てもらう。そういうチェックポイントみたいになればいいんだろうなって思いました」。温かい拍手が送られる。
「ツアーの11公演目、これ歌うの11回目です。ツアーをやってるうちにそういう意味に変わったなと思う曲を最後にやります。僕の歌を聞いて持って帰ってください」。本編ラストはもちろん「PAINKILLER」。「なあ その痛みを教えてくれ 俺如きが耐えられる訳もないが 見て見ぬ振りしてしまったら 二度と泣けないような気がするから」。聴き手の痛みを炭酸で薄くするためのアルバムのラストを飾るこの曲はツアーを経て、空気を激震させるヘビーでパワフルなアンサンブルに進化し、より有効な薬として響いていた。

アンコールでは「重い話をしたかもしれないですけど、音楽というのは音を楽しむと書くので、最前の人もこんなスーパースターが目の前にいるから緊張するかもしれないけど(笑)、楽しんでください」。ここで披露された「ゴミステーションブルース」について以前自分が行ったインタビューで「地元の栃木は世間が狭くてすぐに話が回って、YouTubeに曲をあげ始めたぐらいから、信じられないくらい周りから迫害されたんです(笑)。『ゴミステーションブルース』の歌詞に書いてあることリアルに言われましたから」と話していた。インタビューでも「今こうやって笑いながら話せてるということは許してるってことだと思う」と言っていたが、一部歌詞を変え、前向きな作品として作られた『FIZZY POP SYNDROME』に収録され、今こうしてツアーで鳴らされている「ゴミステーションブルース」は、とても晴れ晴れしい“音楽”だった。終盤、おどけるように歩く真似をし、ハーモニカを吹く。ギターとベースを交換し、ベースを弾き倒した後、ドラムセットにも近づき、いたずらっ子のような表情で「ドラムやっていいですか?(笑)」と訊き、見事なドラミングを披露。ハミングを交えながら歌い演奏する姿は心から楽しそうだ。そして、この場所だからより生々しく響く「宮の橋アンダーセッション」で、ロックを鳴らす何ものにも代えがたい快感と原理をぶつけ、「やさぐれカイドー」で3ヵ月に亙るツアーは終了した。念願の地元ファイナルで気持ちを新たにした秋山黄色のさらなる飛躍が楽しみで仕方がない。
文=小松香里
撮影=小杉歩

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