テスラは泣かない。が最高傑作『MOO
N』をリリースし活動休止へ 彼らは
今作に何を想い、何を託したのか?

テスラは泣かない。の最新作『MOON』について、村上学(Vo/Gt)は、「あとがき」の中で「『MOON』は私たちの新たなマスターピース(傑作)として完成したと思っている」と評しているが、私はこの意見に大いに賛同する。バンドが抱く理想や思想を今まで以上に自由に表現している今作で、新たな一歩を踏み出したテスラは泣かない。は、間違いなくネクストステージへ到達した。しかし彼らは、そのまま歩みを進めることはせず、今作のリリースを以て活動休止をすることを選び、そして本人たちはそれを“大充電期間”と呼んでいる。彼らはなぜ、今、止まることを選んだのか? その休符として『MOON』をリリースしたことをどう思っているのか? そもそも今作は、どのようにして生まれたのか? ――そうした問いを投げかけると、彼らは真っすぐに受け止めて、真摯に答えてくれた。
――まずは、傑作と呼ぶに相応しい『MOON』をリリースした今の率直な想いを聞かせてください。
村上:曲自体は、活動休止の話が出る前に全部作り終わっていて、決定後に付け加えたのは、「CALL」の2サビと3サビの間の間奏部分の歌詞だけなんです。なので、活休云々関係なしに、今までとは違う物凄い作品が出来ちゃったなぁ、というのが率直な感想です。正直、活休していなかったら、この作品が起爆剤となって違う道が開けたんじゃないか?という、ネガティブな想像もしましたし、今の状況を映画で例えると、エピソード1/エピソード2という感じに、長らく続いてきたひとつの作品が完結したところだと思うんです。だけど今は、その後、皆が忘れた頃に同じキャストで続編が出来て、実はあの時の完結作品は伏線だった……っていう風にしたいと、ポジティブに考えられています。
飯野桃子(Pf/Cho):作品の制作には1年以上の期間をかけていますし、その期間の中で色んなチャレンジをしながら作ることができました。なので、守りだけではなく、攻めの作品になっていると思います。
吉牟田直和(Ba):10年以上活動していると、自分たちのバンドのイメージって少なからずついてくると思うんですよ。その中で、"テスラは泣かない。のイメージを完全に崩すことなく、新しいことをしていく”って、言うのは簡単だけど、現実的にはすごく大変だし、エネルギーが要ることなんです。でも、少なくともこの作品はそこが出来ていると思っていますし、それは前作、前々作から徐々に芽吹いてきた変化の種をきちんと育てられた証だと思っています。テスラは泣かない。というバンドは、新芽が芽吹き、それを伸ばしていけるエネルギーを持った、大きな木のようなバンドであるという証明にもなったと思います。
村上:めちゃくちゃ良いこと言うね。芽吹く、っていい表現だな。
實吉祐一(Dr):次、言いづらいな(笑)。テスラは泣かない。というバンドが、常に新しいテーマを模索しながら続けてきたバンドだからこそ、コロナ禍という状況はありつつも、昔には出来なかったことも出来るようになったと思いますし、そうしたチャレンジ精神が詰め込まれたアルバムになりました。さらに言えば、今の自分たちだけでなく、ここまでのキャリア自体も、この作品には込められてると実感しています。
――今の皆さんのお話にもあったように、テスラは泣かない。の音楽には、オリジナリティの自負とチャレンジ精神が常に両立していたと思います。そうした意識を持った皆さんが、今、一度足を止めようと思ったのは何故なんでしょう?
村上:音楽って、現実とは別の“理想郷”のようなものだと思っているんです。その上で、今まではずっと現実から離れた場所で、理想郷に両足を突っ込んで、理想郷の中で理想郷を作る、という仕事をしてきたんですよ。でも、歳を取るにつれて、片足は現実に突っ込まざるを得ない状況になってきて。この“現実”っていうのは、突然現れたものではなく、単に今まで見ようとしてこなかったものなんですよね。そのことに気付いた時に4人で話し合って、それぞれが音楽家として社会(現実)を生きていく為のバランス感覚を養えるように、一回休んでみようという結論になりました。
――音楽世界と現実社会の両方を生きていく為の準備期間ということであって、ポジティブな選択であるということですね。安心しました。アルバムのジャケットに「今、また始めよう」「新しい身体で生まれ変わる」というような英文が書かれていますが、今のお話を踏まえた上でのメッセージですか?それとも、アルバムのコンセプト的なものですか?
村上:あの部分を訳して頂けて嬉しいです。これは、1回目の緊急事態宣言が解除された2020年5月31日に作った「CHOOSE R」の歌詞で、コンセプトというものではないです。でも、バンドにとって……というよりかは、人生はいつだって山あり谷ありだし、月が満ちたり欠けたりするというのは、誰の人生の中にもずっとあることなんですよね。テスラは泣かない。は、月が満ちている人に向けて曲を書くというよりも、満ち欠けの中で迷っている人に向けて書いていると思っていますし、この歌詞には、そうした僕らのアティチュードが強く表れていると思います。それに、僕らのこれからの伏線の示唆になっているとも思っています。
――では、今作に関しては、コンセプトは特に設けずに作り上げた11曲であると。
村上:そうですね。さっきの吉牟田の喩えを借りるなら、枝は色々な方向に向いていたけれど、自分たちの幹は一本だし、根はずっと張り続けていたんですよね。ここでの幹というのは、ロック/オルタナティブ/ソリッドという音楽的な部分や、弱い人や辛い想いをしている人に寄り添いたいという対象、“永遠”は目に見えなくても存在するものだという価値観のことで、そこは変わっていないと思います。元々僕が、人間は常に死を抱えながらも生きていくものであり、その上で力強く生きていく為にはどうすればいいか?という自問をしながら生きているような人間なので、コンセプトとして、というよりは、物事の普遍的で本質的な部分が色濃く表れていると思います。
飯野:今回は、ひとりで楽器を触る時間が増えたことで、今まで以上にアイデアにこだわることができたんです。そこに、久々に4人でセッションした時の衝動が加わって生まれたのが今作なので、今まで以上に新鮮さを感じてもらえるものになったと思います。
村上:そうだね。前作『CHOOSE A』は、オルタナティブに完全に振り切った、新境地に到達したと言える傑作だと自覚していたんですけど、ミニアルバムという形態ということもあってか、想像通りのリアクションがなかったように感じたんです。なので、今回のフルアルバムでは、もう一回、ぐうの音も出ないほどの名盤を作りたいという強い意識を持って再挑戦しました。だからこそ、今作の1曲目を「CHOOSE R」にしたし、前作から伸びた枝であることを明示できたと思っています。
――その繋がりは、物凄く感じました。『CHOOSE A』と『MOON』を連続で聴くと、「冒険」から「CHOOSE R」に続いていくんですけど、その時に、まさに冒険の始まりを目の当たりにしているような感覚になりました。バンドの物語性を強く感じるというか。
村上:ああ、それはすごく嬉しいですね。僕らは、昔からずっと、時代性を意識せずに曲作りをしてきたんです。それは、歳を取ってから昔の曲をライブで演奏しても恥ずかしくないようにしたいからであって、そういうマインドは今作でもブレていないと思います。というか、そもそも時代性や流行を取り入れるということが下手なだけかもしれませんけど(笑)。
實吉:ついこの前、活動初期の曲をスタジオで合わせたんですけど、その頃から自分たちは全くブレていないなと思ったし、今でも普通にプレイできたことに驚いたんですよ。
吉牟田:7、8年くらい前の曲だよね。
實吉:そうそう。当時はまだ“幹”と呼べるものではなかったにせよ、その頃から核のようなものがあったんでしょうね。
村上:その当時から、4人それぞれが各々の考えを譲ることなく、きちんとディスカッションを経た上で曲作りをしていたからかもしれないですね。4人の色が同色になるというよりは、4人のアイデンティティが確立されたまま、バンドとしてより色調が濃くなっているような感覚がします。
――分かります。でも、そうした幹の部分が絶対的な存在感を放っている上で、『MOON』はやっぱり新しいんですよね。「STOMP」は特に、今までのテスラにはなかったドラムンベース的なフレーズが加わるところが印象的でしたし。
村上:メインリフの部分は5年程前からあったんですけど、当時はそれに対して納得のいく展開をさせるアイデアもスキルもなかったから、お蔵入りになっていたんです。そこで去年、吉牟田がベースとドラムのフレーズを加えて送ってきてくれたことがきっかけで、今回完成させました。
實吉:2番Aメロのドラムンベースに関しては、コロナ禍の中で、個人的に何か新しいことができるようになりたいと思っていた中で、練習していたんです。5年前はスキルもなければ、発想自体もなかったので、あそこは今だからこそ成せた部分だと思います。
――先ほど飯野さんが仰っていた、個人でいる期間が長かったからこそ得たスキルアップとこだわりの表れですね。「CALL」も、先行配信の仕方が「電話をかけて聴いてもらう」という斬新なやり方でしたよね。巻き戻しも早送りもできない聴かせ方が、時代へのカウンターのように思えてガツンときました。
飯野:そうなんですよね! 電話で聴いている時間って、なんかいつもと違うんですよ。
吉牟田:でも、曲にせよアルバムにせよ、頭から最後までちゃんと聴いてもらいたいという意識は、ずっと強く持っていますね。
村上:うんうん。僕らは4人共、結構な天邪鬼だと思うんです。皆がデジタルならアナログやりたくなるし、サブスク全盛期ならアルバムにこだわりたくなっちゃう。そういうパンク精神を持っているし、しかもそれが、歳を取るにつれて円くなるどころか、より尖っていっているという(笑)。
飯野:ええ、そうかなぁ?
村上:いやいや、桃ちゃんはかなり尖ってきてるし、自己主張が出てきたよ!(笑) 周りから“ピアノとギターのリフが良いね!”って言われれば言われるほど「次はピアノじゃなくてオルガンにしよう」って言い出すし(笑)。
――ははは! 「CALL」に関しては、村上さんが執筆した「あとがき」の中で、メンバー内でバズったと書かれていますが、皆さんはこの曲のどういったところに惹かれたのでしょうか?
村上:それは僕も訊きたいです。
實吉:スローグルーヴのカッコいいフレーズを作ろう、と言っていた中で送られてきて、まさにコレだ!と思ったし、オルタナ感がより増したなと思いました。
吉牟田:そうだね、変拍子っていうのも勿論刺さったけど、ビビッときた時の感覚って言葉にするの難しいね……。
飯野:そうだね。最初は変拍子だからっていうのも考えてなかったと思うし、なんか分かんないけどめっちゃ好き!って思ったよね。
村上:その時はリリースするという話もなかった時期だったから、純粋に曲が良いかどうかだけで反応できたのかもね。
飯野:ああ、そうかも!
――そうしたフラットな精神状態って、音楽を聴く上でとても理想的ですよね。先ほど、村上さんは「時代性を意識しないようにしてきた」とお話されていましたが、「new era (feat.森心言)」や「コインランドリー」の歌詞は、今の時代だからこそ書けたもののように感じました。
村上:今、音楽を聴くにあたって、聴く側としては現在の時代背景がBGM的に浮かぶと思うんです。コミュニケーションって同一言語だからこそ成立するものだと思いますし、その点を考えたら、コロナ禍という背景は外せなかったです。そこの調律をした上で、聴き手にどういう想いを届けたかったかというと、世の中や物事が変化する時っていうのは、大抵の場合後悔や失敗が生まれるものだから、ここで諦めずに、このトンネルを抜ける為に頑張ろう、というメッセージなんですよね。
――コロナ禍を共に生きる者として、誰しもが抱えている不安や不満に同調する訳ではなく、あくまで希望を提示する存在でありたかったと。
村上:僕らが実際そうだったんですよね。過去に吉牟田が学業専念でバンドを1年間離れた時も、サポートの方に入ってもらって得たものがありましたし、そういう風に、何かができなくなった時って、何かができるようになる時だと思うんです。今はできないことが次々と起こっているんですけど、現時点では気付いていなくとも、できるようになっていることもあると思います。音楽って、根拠のない“大丈夫”で共有できる力があるし、そういった希望の光を道の先に標していれば、この先も歩き続けられると思うんです。
――「コインランドリー」のメロディーは、テスラは泣かない。の十八番といえるリフレインが、抜群のバランスで絡み合う楽曲だと思いました。
村上:なのに、歌詞は尖ってるっていう(笑)。
一同:ははは!
實吉:聴き心地はいいのにね(笑)。そこでギャップが生まれたよね。
村上:自分が言いたいことを言いたいし、ネガティブな感情をポジティブに変換する為の触媒が音楽であればいいと思っているんです。だから、今回の活動休止もそうなんですけど、大変なことやしんどいこと、キツいことがもっと起こればいいのに、と思っちゃっている自分がいるんですよね。バンドの想い出を振り返る中でぱっと出てくるのって、大きいフェスに出たことやテレビに出演できたことよりも、吉牟田が1年間居なかったことや、ライブ直前にメンバーがインフルエンザになって編成を変えて出演したことだったりするし(笑)。だから、曲についても逆境をネタにするし、昔よりはピンチに対する怖さを抱かなくなってきたように思います。
飯野:とはいえ、当時は本当に大変な思いをしているんですけどね(笑)。でも、未来に目を向けたからこそ、テスラは今回「活動休止」という選択をしたし、私たちは今までも、その時は大丈夫だとは思えないことでも音楽にして、それをきっかけに前に進む、という繰り返しをしてきたんです。だから、これも結果論ですけど、今回『MOON』を出したことで、この先の4人が前に進めるんだと思いますし、聴いてくれる人にとってもそうであってほしいと思います。
村上:確かに、結果論だよね。僕も今はこうやって強がって言っていますけど、活休すると決まった時には眠れない日々が続いたし、今でも4人でスタジオに入って音を合わせていると、急に寂しさや悔しさが込み上げてきて、涙が出てきたりもするんです。でも、今までもこういう不遇に遭った時にはどうにかなってきたし、経験則としてポジティブに考えられるようになったんだと思います。
――13年間も続けてきたからこそできる経験則ですね。
村上:本当にそう思います。この決断の良し悪しは現時点では分からないからこそ、良い結果だと思えるような未来を作っていくしかないんですよね。今までは、音楽さえ良ければ、それを作る人がどんな人間性を持った人であろうと関係ないと思っていたんです。でも、やっぱり、好きな曲を作る人は好きでいたいし、そう思われる人で在りたいと思うんです。だからこそ、僕たち4人の物語も、テスラは泣かない。のひとつの作品として、人の目に触れてもらいたいと思っています。色んな活動の仕方や生き方、否定と肯定の方法が沢山ある時代に今作をリリースすることで、“今はダサいと思われるかもしれないけれど、テスラは泣かない。はこういう生き方をしています。この選択をしたことも、作品の途中経過のひとつです”ということを、提示できたと思っています。
――今作のクライマックスが、”出発”を意味する、飯野さんのソロトラック「departure」から「朝陽」を迎えるという曲順になっていて、そこにも再会を思わせるような運命的な伏線を感じざるを得ませんでした。
村上:実はこれ、全く意図していなかったものなんです。僕自身、シンクロニシティを大事にしているんですけど、この部分も含めて、今作は色んなところでシンクロが発生しているんですよね。活動休止を決める前に出来上がっていた作品なのに、まるでそれを予知していたかのような聴き方や、捉え方ができるようになっていて、自分で作ったのに、違う力に導かれたような感じがするんです。作らなきゃいけなかった作品になったというか、そうならざるを得なかったというか。
實吉:僕は、今作のアルバムタイトルが『MOON』になった時に、そういったシンクロニシティを感じましたね。今までは、誰かを照らし続けなければいけないと思っていたんですけど、月のように、自分たちにも満ち欠けがあっていいんだなと思えました。
村上:色々候補はあったけど、満場一致で『MOON』になったよね。満ちたり欠けたりするけど、絶対に無くなりはしない存在が月だしさ。コロナ禍という時代を経て、身体と心のバランスが取れて、健康な状態で生きていられることの幸せを感じましたし、メンバー同士でも、“生きていればどうにかなる”って言い合ってるんですよ。
飯野:たとえ姿が見えなくても、エネルギーを発しているものにしか、シンクロニシティのような現象って起きないだろうしね。
吉牟田:おお、尖ってるね! いいこと言うじゃん。
――そうした精神論といいますか、人間の本質的な部分を音楽として掬い上げてきたのがテスラは泣かない。だと思いますし、人生を歩む上での大事な教訓を一貫して提示し続けてきてくれた4人だからこその説得力がありますね。この作品を受け取った側としても、今作で得た気付きと再会への期待を、きちんと未来に持っていこうと思います。
村上:ああ、ありがとうございます。今日はゆっくり眠れそうです。

取材・文=峯岸利恵 撮影=大橋祐希

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