名シンガー陣と凄腕ドリームバンドが
集結 ラジオパーソナリティ・中村貴
子の還暦祝う『貴ちゃんナイトvol.1
3』回顧

貴ちゃんナイトvol.13~I’ m only 60 years old~ 2021.5.29 Billboard Live Tokyo
5月29日、Billboard Live Tokyoにて行われた、ラジオパーソナリティ・中村貴子(以下、貴ちゃん)の主催イベントにして、自身の還暦を記念した『貴ちゃんナイトvol.13~I’ m only 60 years old~』。貴ちゃんも前説等で口にしていたように、ライブを行うこともそれを観に行くことにも、並々ならぬ葛藤や決断、覚悟が必要とされるいま、来場者の中にはきっと久しぶりに生のライブへと足を運んだという人も多かったのではなかろうか。ただし、その“久々だから”を抜きにしても、この日繰り広げられた思わず呆気にとられてしまうような、心も身体も弾ませるような数々の瞬間にはとんでもないパワーが宿っていた。
例年は下北沢のCLUB251などのライブハウスで開催されてきたこのイベントだが、今回は着席スタイルかつパーテーションなども設置できる上、これまでコロナ禍下でのライブ開催のノウハウを培ってきたビルボード東京を会場に選び、1st/2ndの2公演を実施。また、恒例となっている出演者にちなんだオリジナルカクテルがノンアルコールになっていたりと、“いつもどおり”にはいかない部分はいくつもあった。けれど、貴ちゃん自身が“好き”なアーティストたちが“観たい”組み合わせで集うという根幹の部分、そしてひとたび音が鳴り出せばたちまち、とにかく音楽愛に満ち満ちた空間ができあがっていく様子は、いつもの『貴ちゃんナイト』と何ら変わりないものだった。
ビルボードのような形式の会場でのライブは通常、1stと2ndでライブの内容が大きく変わることは少ないが、今回の『貴ちゃんナイト』では1stが、かねてから呼びたかったという中田裕二と、彼が敬愛する存在である田島貴男(Original Love)による弾き語り2マンとして行われ、2ndでは豪華顔ぶれのスペシャルバンドに加えゲストボーカル陣が次々に登場するという、異なる趣向のライブ2本を用意。ライブを作る側は相当大変であろうことは想像に難くないが、観る側にとってはなんとも贅沢な仕掛けである。
スペシャルバンド
1stステージ、先に登場したのは中田裕二だ。にこやかに手を振りながらステージに上がると、「愛の摂理」からライブをスタート。激しく掻き鳴らすことせず歌と融け合う精緻なギタープレイと、わずかにハスキー成分の混じる美声をじっくりと届けていく。とはいってもシリアス一辺倒なライブ運びではなく、曲間には“この日が貴ちゃんの還暦を祝したライブであることを受け、自身のレパートリーから「明るい、お祝いみたいな曲」を探したもののなかった”といった発言で場を和ませたりもする中田。大人の落ち着きと色気をまとった音楽と心地よいテンションのトークは、なんだか深夜のラジオみたいで、まだ日の高い時間帯であることを忘れてしまう。
中田裕二
中盤には、ボビー・コールドウェルのカバー「風のシルエット」も披露。全体的にこういったAORの系譜にある音やアレンジを土台としながら、同時にブルースやジャズ、日本の歌謡曲など、曲ごとフレーズごとに様々な要素が顔をのぞかせてくるのも面白い。続く「UNDO」でギターのボディをタップしながらのファンキーかつラテンポップを思わせる演奏とエモーショナルな歌で魅了していたように、限られた時間の中でも引き出しの多彩さを感じさせてくれた。最後は場内からのクラップに乗せて「誘惑」をリズミカルかつグルーヴィに演奏。終盤にみせたロングトーンには惜しみない拍手が贈られていた。
中田裕二
中田裕二 / 田島貴男
「僕のスーパースターでもあります、この方を紹介したいと思います!」
中田に呼び込まれ登場したのは田島貴男だ。「フリーライド」と「築地オーライ」という最初の二曲からいきなり、同じ弾き語りながら中田のミニマルな音世界とは対極にあるアクロバティックな表現技法で度肝を抜く。片足はストンプボックスでビートを刻み続け、もう片足ではフロアに据えたタンバリンを踏み鳴らしながら、スライドバーを駆使してリゾネーター・ギターを演奏。さらにボディや指板を細かくタップしてリズムを構築していくのだ。おまけに歌と歌のわずかな隙間で「心の中で歌ってください」「超聞こえるんで」などなど忙しく呼びかけての盛り上げも忘れない。
田島貴男
「ミッドナイトシャッフル」でも同様に全身をフル稼働させ、パーカッシヴなサウンドを次第にヒートアップさせながら、ダイナミックなメロディでも場内を魅了。その声量がまたとんでもなく、後日配信されるというダイジェスト映像で音割れしないか?と余計な心配までしたくなるくらいだ。1stステージを締めくくるラストナンバーは、説明不要な名曲「接吻」を中田を呼び込んでのデュエット形式で。背後のカーテンが開き陽光差し込む中、アコギの田島とエレキの中田による洒落たフレーズやフリーダムなパフォーマンスの応酬で存分に盛り上げたのだった。
田島貴男
2ndステージは、貴ちゃんの言葉を借りれば「ドリームバンド」の登場だ。バンマスのTHE GROOVERS・藤井一彦(Gt/Vo)を筆頭に、HEATWAVE・山口洋(Gt/Vo)、TRICERATOPS・林幸治(Ba/Vo)、The Birthday・クハラカズユキ(Dr)という面々は、もう登場姿から決まっていて、風格さえ漂わせている。ここからは、彼らがホストバンドとなってゲストボーカルを迎えていく時間だ。
藤井一彦
山口洋
はじめに、1stから引き続きの登場となった中田裕二が低音ボイスを響かせ、寺尾聰のカバー「ルビーの指環」を歌う。構成上キメの多い曲この曲をビシッと合わせるだけでなく、原曲のイメージを良い意味で覆すタフなサウンドを轟かすバンド陣は、さすが歴戦の強者揃いだ。田島を呼び込んでの「Mr.サマータイム」デュエットのあとは、田島がサザンオールスターズ「いとしのエリー」をカバー。イントロの女声コーラスを林が担いサビでは藤井がハモりパートを歌うなど、演奏以外でも活躍をみせるバンド陣と、往年のソウルシンガーばりにタメを効かせた田島の歌唱に、場内は大盛り上がりだ。
中田裕二 / 田島貴男
林幸治
出だしの3曲がいずれも『ザ・ベストテン』的な大ヒット曲ばかりであるため、そのあとにやるのは気が引ける、と謙遜する藤井がボーカルをとってのTHE GROOVERS「The Other Side of the End」はタイトで明るい調子のロックンロールで、続く「美しき人よ」はどこか懐かしいメロディが優しいフォーキーなミドルナンバー。バンドメンバーもさることながら、次に誰のどの曲が飛び出すか予測不能なセットリストもまさに一夜限りのスペシャル仕様である。
クハラカズユキ
「地元の可愛い後輩を紹介しても良かですか」
山口の呼びかけで登場したのは、MO’ SOME TONEBENDERの百々和宏。モーサムでのキレキレっぷりともソロ弾き語りのホロ酔い加減とも違う、ハンドマイク一本でのオンステージはかなりレアではないだろうか。激情ロックバラード「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」では藤井と山口のギターが唸りを上げ、一転してとびきりファストでご機嫌なTHE ROOSTERSのカバー「恋をしようよ」では、百々が<俺はただおまえと~>の歌詞を<貴子と~>と歌い替え(「~」の部分の歌詞をご存じない方はお調べを)ラブコール(?)。ちなみにご本人は、席でズッコケてました。
百々和宏
山口洋
ライブも折り返しを過ぎたところで、山口がボーカルとなってHEATWAVEの楽曲を演奏していく。「BRAND NEW DAY/WAY」はスモーキーで大人なグルーヴがなんとも渋い一曲で、2本のギターに林のベースもフレーズを重ねてジャムっぽくなるアウトロなど自由度の高い演奏を、クハラが強固に支えていく盤石のアンサンブルが光る。哀愁を帯びたメロディと嗄れた歌声が沁みる「満月の夕」では歌に寄り添うような演奏で包容力のあるサウンドを生み出していった。
藤井一彦 / 山口洋
「スカッと“風の吹き抜ける”曲をやりたいと思います」と、登場するなり会場のボルテージをググッと押し上げたのは浜崎貴司だ。宣言通りに爽快でリズミカルな「風の吹き抜ける場所へ」では「一緒に心で歌ってください」と、客席を積極的にアジテーション。続く「幸せであるように」は、山口のワウギターのよく効いたファンクなサウンドと、歌とラップの狭間をいくような独特のノリをもったボーカルとが抜群の相乗効果を生んで、クライマックスへと近づくライブに華を添えた。
浜崎貴司
藤井一彦
ラストを締めくくったのは、藤井、山口、林が代わる代わるボーカルをとって披露した佐野元春のカバー「悲しきRADIO」だ。<RADIO RADIO いかしたミュージック 続けてもっと>――。ドリームバンドの4人が奏でる弾むような、それでいてこの日随一の疾走感あふれる演奏は、ラジオパーソナリティとして、いち音楽ラバーとして歳月を重ね、そしてまだまだ走り続けようとしている貴ちゃんへのなんとも粋なプレゼントだった。
林幸治
クハラカズユキ
形態こそ変わったとはいえ今年もリアルのライブとして継続できた『貴ちゃんナイト』。すべての演奏が終わった後、ステージに登場した貴ちゃんがこの日の全出演者を呼び込み感謝を伝え、いつものように「音楽を好きでよかったね」という気持ちを来場者たちと確かめ合う。そこへ今年は「わたしたちでこの場所を、そして音楽を守っていきましょう」という一言が付け加えられた。今なおエンターテインメントを取り巻く考えや立場、判断は様々あるし、あっていいと思うけれど、その中で「音楽が好き」だから「ライブに行く」ことを選びあの場に居合わせた一人ひとりは、間違いなくシーン存続の原動力。例年以上に音楽の素晴らしさ、ライブ現場のかけがえのなさを噛みしめたい一日となった。

取材・文=風間大洋 撮影=俵和彦

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