ピアニスト反田恭平がオーケストラの
ための株式会社を設立「演奏家が永続
的に活動の場を獲得し、経済的活動を
展開できるように」

ピアニスト、指揮者、プロデューサー、自ら経営する会社 NEXUSの運営と八面六臂の活躍を見せる反田恭平。そんな反田が、自身のプロデュースするJapan National Orchestra(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)に所属する演奏家の未来を見据え、スポンサーであるDMG森精機株式会社(一般財団法人 森記念製造技術研究財団)と共にJapan National Orchestra株式会社を設立することが発表された。
2021年5月25日(火)、反田とDMG森精機株式会社 専務執行役員 川島昭彦氏が登壇し、記者発表が行われた。東京・初台のオペラシティからライブ配信された記者発表の模様と、株式会社の設立主旨と事業目的に関してお伝えしよう。
DMG森精機株式会社の資本協力を得て設立 活動拠点は奈良県奈良市に
今回の会見はオンライン配信形式で行われた。デジタル世代の音楽家たちの門出にふさわしいキックオフといえるだろう。一方、登壇者のDMG森精機株式会社 専務執行役員で、今回新たに創設されたJapan National Orchestra株式会社 代表取締役会長の川島昭彦氏と、同代表取締役社長でピアニスト反田恭平氏は、東京・初台のオペラシティコンサートホールの舞台上に構えていた。

会見スタート前に、本日の主役であるジャパン・ナショナル・オーケストラ(以下JNO)のリハーサル風景がモニターに映し出された。リハーサルの指揮は、もちろん反田本人(以下敬称略)。押しも押されもせぬJNOのファウンダーでプロデューサー、そして、今回の株式会社化で社長となったその存在感を、反田は会見前からいかんなく印象付けた。この映像はモニター前の60余名ほどの記者たちにとっても大変インパクトが強く、この日の会見の主旨と理念を訴求する点においても実に効果的だったように思える。ちなみに、記者発表会場にオペラシティコンサートホールが選ばれたのも、JNOの前身であるMLMオーケストラが、2018年にたった8名の男子で旗揚げした際の最初の公演がこのステージで開催されたからだという。
Japan National Orchestraリハーサルの様子
ジャパンナショナルオーケストラ株式会社は、反田恭平とJNOの音楽活動を事業目的とする18名のメンバーからなる組織だ(17名のオーケストラメンバーと反田を合わせて18名)。奈良県奈良市に基盤を持つ世界最高峰の工作機械メーカー、DMG森精機株式会社の資本協力を得て、株式会社設立に至った。
同社出身の川島会長によると、(JNOの前身である)「MLMオーケストラ」の奈良公演をきっかけに互いが親交を深め、企業側が反田の情熱と強い信念に賛同し、3年という歳月をかけて株式会社設立の構想が練られたという。DMG森精機は、1948年の創業以来、ドイツをはじめとするヨーロッパ各国にも子会社や支社を持ち、長く輝かしい事業実績を誇る。そのようなバックグラウンドを持つことでアーティストの「パトロナージュ」というヨーロッパ的な考えにも深い理解を持つ類まれな企業だ。基本的に、JNOは今後、同社創業の地である奈良県奈良市を活動の拠点とし、音楽ホール(DMG MORIやまと郡山城ホール)や専用練習場などもこのエリアに集約されるという。
演奏家の永続的な活動の場と経済的活動のために<事業内容&目的>
反田恭平
会見が始まると、まず登壇者二人の紹介と挨拶を経て、反田がJapan National Orchestra株式会社の事業内容と設立の目的を一挙に語る。芸術家の団体や組織は通常、“財団法人”、あるいは“財団”などという形態が多いが、世界でも稀なオーケストラの“株式会社”設立に至った経緯に興味も深まる。
株式会社設立における目的や理念は、オーケストラメンバー一人ひとりが社員としてコンスタントに給与を得ながら、永続的に活動の場も獲得し、経済的活動を展開できるようにしてゆくというものだ。昨今のコロナ禍をはじめとする不安な社会的情勢において、アーティストたちが音楽により没頭し、志ある同志たちが絆を強めるとともに、活動の場やメディア露出の場を創出していきたいという思いが掲げられている。
そして、もう一つ。反田自身が夢として抱いている「学び舎」の構想についても言及された。音楽大学やヨーロッパにおけるコンセルヴァトワールのような専門学校になるかなど、具体的な組織的構造に関しては、これから深めていきたいというが、ゆくゆくはこの学校の専属として、しかし、日本を代表するプロの精鋭集団としての二面性をも持ち合わせるオーケストラでありたいという強い信念も語られた。
DMG森精機株式会社 専務執行役員 川島昭彦氏
株式会社としての具体的な事業内容は三つの柱から構成されている。第一の柱は、奈良・東京の二都市における年二回の定期演奏会をはじめ、年一度の全国ツアーを含むオーケストラ公演の開催と、メンバー個人による年に(総計)50回におよぶリサイタルシリーズの開催だ。
第二に、反田自身が設立したNOVA Recordレーベルにおいての、オーケストラおよび、各メンバーの音源制作と配信事業が挙げられている。今後は長尺のフルアルバムを積極的に制作していきたいという。
そして、第三の柱は、オンラインサロンの開設。「Solistiade(ソリスティアーデ)」という名称の、オーケストラメンバーたちによるオンラインサイトは、会見前日の5月24日にすでにオープンされている。
当サイトの概要によると、「日本のクラシック音楽業界を牽引する若手演奏家たちと一緒に作る音楽サロン」「学校では教えてくれない音楽や楽器の話、映像を用いた楽曲解説やレッスン、そして “みんなで作るコンサート” まで、クラシック音楽の奥深さや楽しみを体験できるコミュニティーサロン」だ。具体的内容としては、プロの音楽家たちに個人的なレッスン上の悩みを打ちることもできる“クリニック”コーナーや、サロン会員たちから送られた音源にコメントや指導をしてフィードバックする“赤ペン先生”的な試みも実践していきたいそうだ。
目下、当サイトは、反田(株式会社NEXUS)がエージェント契約を結ぶ株式会社イープラスとの共同運営で無料での会員登録が可能ということだが、ゆくゆくは有料のファンクラブ組織として発展させたいという。反田が経営するマネージメント会社 NEXUS 所属のアーティストである反田自身、そして、ピアニストの務川慧悟、ヴァイオリニストの岡本誠司のチケット発売時には、当サイトのファン会員は優先予約権が与えられるという耳寄りな情報もさりげなく挿入されていた(!)。
反田恭平(左)と岡本誠司(ヴァイオリン/右)
会見の最後には、JNO株式会社のロゴが発表された。赤と白の二色使いという日本のオーケストラであることを強調した個性と力強さにあふれるアイコン。JNOという文字のデザインにも“輪”が巧みに多用されており、「JNOが輪になって広がっていって欲しい」という強い思いが込められているのだという。
オーケストラが街の景色を変えてゆくことを夢見て~地域活性化にも意欲
Japan National Orchestra(ジャパンナショナルオーケストラ)
一通り登壇者サイドからのプレゼンが終わると、モニター前の参加記者たちから適宜、質問が寄せられた。中でも印象的だったのは、「奈良を本拠地とするのは、東京をベースとするアーティストたちが多い中で不便ではないか」という問いに対し、反田は「本拠地を持てるだけで本当に幸せだと思う。まったく苦にならない。そして、奈良市内に楽器を持った若者たちが増え、街の景色が変わってゆくことを夢見ている」と答えたことだ。街の景色を変えるということに関しては、パトロンでもあるDMG森精機も、長年、理想として思い描いていたのだという。そんな夢においても、二者の思いは合致していた。

DMG森精機株式会社 専務執行役員 川島昭彦氏

もう一つ、今後のオーケストラ公演の内容についてだ。「最終的に、オーケストラとしてはシンフォニーの演奏を理想とするが、現代音楽などにも積極的に取り組み、プログラミングに関しては、外部の専門アドバイザリーを起用する可能性もある」と反田は答えていた。基本的には常任指揮者的な立場のポストを置きながらも、適宜、内容に合わせて指揮者の招聘や若手指揮者の起用も考えるなど、臨機応変に体制がかたち作られていくようだ。もちろん、時間が許す限り、反田自身も指揮者としても関わっていきたいという抱負を語った。
質疑応答も終わりに近づくと、川島会長と反田社長の背後には再びオーケストラのメンバーが登場。エンディングを反田の弾き振りとピアノで、ショパンのピアノ協奏曲 第一番 第二楽章で締めくくる。今まで、雄弁に今後の事業展開について語っていた反田がアーティストの顔に戻ったその姿、そして、たおやかな演奏が印象的だった。
コロナ禍をものともせず前進し続けるバイタリティあふれる反田とJNO株式会社のキックオフ会見に集ったプレス陣は、三大新聞や地方新聞、そしてメジャーな媒体と放送局を合わせ、60名以上。ピアニスト反田恭平の注目度の高さを改めて感じさせられる会見となった。この日から、新たに“JNO株式会社取締役社長”の肩書が加わった反田の一挙手一投足からますます目が離せない。
取材・文=朝岡久美子 撮影=中田智章

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