我々ディーン、冒頭からブッ込んでい
きますよ! ミュージカル『ジェイミ
ー』佐藤流司&矢部昌暉インタビュー

2021年8月に開幕するミュージカル『ジェイミー』日本初演で主人公ジェイミーのクラスメイト、ディーンをWキャストで演じる佐藤流司&矢部昌暉。ジェイミーにとっては“天敵”とも言えるいじめっ子キャラの思春期な胸中に思いを寄せつつ、共に新作ミュージカルに取り組んでいく楽しさを語り合ってくれた。
──ミュージカル『ジェイミー』、どんなところに魅力を感じていますか?
矢部:とにかくとても楽しい作品ですよね!
佐藤:全体的に見るとものすごくハッピーで心温まるハートフルな物語。……なんですけど、ただ我々に関しては、台本を読めば読むほど「これは……!」と(笑)。ねぇ?
矢部:はい。僕も「大丈夫かなぁ」って思いました。
佐藤:なんか救いがもう……エンディングまでないんじゃないの??
矢部:ハハハッ(笑)。
──おふたりが演じるディーンは「イケメンだがいじめっ子気質」なキャラクター。ジェイミーに執拗に絡む敵対関係は作品の緊張感を終盤まで引っ張り続けます。周囲の人々に比べ、“自分らしく”振る舞うジェイミーを容易に受け入れられない人物。その存在は物語に欠かせないフック、重要なポジションですね。
佐藤:この時代背景を考えれば、やっぱりディーンのほうが多数派の意見だったとは思いますよ。「急にクラスメイトがドラァグクイーンになるとか言い出しても……」って、まずは拒絶とか戸惑う気持ちしかない、みたいな。
矢部:ある種の「未知との遭遇」というか自分の物差しになかったモノに出会ったときって、やっぱり理解するのが難しいことも多い。すんなり受け入れる人ももちろんいるでしょうけど、ディーンみたいになかなか理解できない人がいるのも、当たり前だったりするのかなって。
矢部昌暉(DISH//)
──16歳の高校生にとっては、ジェイミーのポジティブな行動は“未知”過ぎた。
矢部:ですねぇ〜。だからこそ多様性をというか……今、この作品をやる意味ってすごくあると思います。僕は台本を初めて開いたとき、自分がディーンを演じることもあって多少ディーン寄りの目線で読んでいたんですけど、なんかジェイミーがすごく眩しく見えて、「カッコいい」って。彼なりに色々悩んでたどり着いたんでしょうけど、自分らしくいられる強さ、かなりの勇気と覚悟が必要な生き方を選んでいるジェイミーが、強烈にカッコよく見えました。
──そのカッコよさにディーンも内心、怯んでいたのかも。
佐藤:高校生の心情としては、『ジェイミー』の時代も今もそんなに変わらないんじゃないかな、とも思う。振る舞いとして決定的に違うのは、ネット社会かどうかですよね。
──原案となった英国のドキュメンタリー番組の放送が2011年。ミュージカルの時代背景も同様なので……彼らは10年前の若者たちですね。
佐藤:ちょうど俺もそれくらいに学生やってたので、今ほどSNSなんかも生活に浸透してなかったと記憶してます。今は「匿名であるがゆえの攻撃性」みたいな悪意がすごく増えてきましたけど、ディーンたちを見てると「こんな感じの青春もあったなぁ」と懐かしさすら感じる世界観。自分の肌感で実感持って共感できるようなスクールライフでもありますね。
──直接ぶつかったり、嫉妬したり、憧れたり、将来に向かって漠然と不安を抱えていたり。綺麗事だけじゃない、誰もが心当たりのある青春の群像。例えばおふたりもプロムに向けたジェイミーのように、「これが自分らしさだ」と、なにか心のスイッチを入れるような10代の頃の言動はありましたか?
佐藤:俺は「THE自分」みたいな感じで、そもそも人の言うことなんかきかなかったからなぁ。
矢部:ハハッ(笑)。
佐藤:もう、絶対に自分が合ってると、ただただ我が道を行ってましたね(笑)。
佐藤流司
矢部:僕は高校時代すっごい人見知りで……僕のグループ(DISH//)のボーカルと3年間一緒だったので、ボーカルの(北村)匠海と、あともう一人仲良い男の子とずっと3人で過ごしてて、正直周りとはほとんど交流なかったんですよ。でも「最後だし」って、高3の文化祭で初めてバーンッ!て弾けてステージでダンスとかやったりしたのをきっかけに、急激にみんなと仲良くなって。それがスイッチというかひとつの大きな転機。そこから結構グッと青春だったかも。
──いいですね。佐藤さんの青春の煌めきは……
佐藤:ないですよ。もう真っっっ黒。
矢部:真っっっ黒!? 本当に?
佐藤:うん。そんなんかけらもない日々。行事ごとは休みたいタイプでしたし……ヘヘッ(笑)。でもやっとけばよかったなぁ〜って、今はめちゃめちゃ後悔してますよ。合唱とか体育祭とか、大人になっちゃうと2度度できないんだなぁって知りました(笑)。
矢部:確かにね(笑)。
──そのちょっと斜めから見てた感じは、ディーンの性格にも通じるかも。
佐藤:そうですね。あのくらいの歳の頃には突っかかってましたからね、いろんなことに。ディーン、ちょっとわかるな。思春期的なあの思考。
矢部:(頷く)。
矢部昌暉(DISH//)
──おふたりは今年上演された朗読劇『私立探偵 濱マイク』で共演されています。見知った同士でWキャストを務めると決まったときの印象は?
佐藤:あー……じゃあ俺もDISH//入るのかなぁ。いよいよか、と。「佐藤流司(DISH//)」(笑)。
矢部:ハハハッ(爆笑)。いや、逆に流司くん、入ってくれるんですか⁉︎
佐藤:(笑)。
矢部:『ジェイミー』は『濱マイク』をやる前から決まっていたので続けてご一緒できるんだっていうのは以前からわかってたんですけど、僕としてはまず「流司くんとWキャストなんて恐れ多い!」と思いまして。
佐藤:いやいや。やめてください、そんなこと言うの。
矢部:「マジでホントに頑張んなきゃヤバいじゃん!」って、すっごい励みに感じたのを覚えています。
佐藤:いや、俺的には矢部くんのダンスが素晴らしいので、そこはまず……摘み取らなきゃ……ちょっと骨とか関節の不調とか……ないのかなぁとか……自分が頑張るんじゃなく、なんとか俺側に寄せていく作戦はないかと思案してますよ。
矢部:(爆笑)。
佐藤:ま、それはそれとして(笑)、ダンスも踊る人が違えば当然見え方も違うし、多分芝居もね、Wキャストであってもやっぱりそれぞれ読み方も違ってくるものだから。
矢部:そうですね。
佐藤:『濱マイク』で矢部くんは星野くんって役だったんですけど、俺が読んでて「あー、こういう感じのお芝居かなぁ」とか「星野くんならこんな言い回しなのかな」って想像してたのと矢部くんの表現は全然違ってて、それが楽しくて。矢部くん、いいんですよ〜。
佐藤流司
──おふたりの生き生きした掛け合い、非常に見応えがありました。
矢部:あ、嬉しいです。
佐藤:なので今回も同じ台本を読んでますけど、もうすでに考え方とか全然違うと思うので。Wキャストはホントにそれが面白いよなって思いますね。
矢部:Wキャストでの違い、面白いですよね。
佐藤:もちろん稽古では一緒にやることもありますから、そこでふたりで相談もできるなぁと思いつつ、お互いのインスピレーションを刺激していけたらと思ってます。
矢部:(頷く)。
佐藤:ただね、ディーンはド頭、いきなり下ネタ言うのかぁ〜っていうのが──。
矢部:ああーっ、そうなんですよね〜(笑)。
佐藤:今はまだかなり抵抗あるんですけど(笑)、でもそこも曲はしっかり素敵なので、耳だけだったら「いい歌だね」って、下ネタもバレないんじゃないかと。
矢部:(笑)。雰囲気でごまかせちゃう。
佐藤:あんな明るいハッピーな曲調にいきなりあの台詞ブッ込んでもお客さん、わかんないんじゃない? ま、それがディーンってことですかね。常に歯に衣着せぬ感じが。
──舞台経験豊富な中、こうした“ザ・ミュージカル”な舞台に参加されるのも、それぞれに新たな挑戦ですね。
矢部:僕はホントにちゃんとしたミュージカル作品に出演するのは今回が初めて。全てが未知の体験、全てが初挑戦と言えるので……うん、自分の中になにか新しい風を吹かせられるんじゃないかなっていう楽しみはすっごくありますね。多分、この作品を経験したあととその前では、表現者としての気持ちとか芝居に対する考え方なんかもいろいろ変わっていると思うから楽しみです! しっかり全てに向き合っていきたいなと思います。
矢部昌暉(DISH//)
佐藤:まずは海外の作品、海外の演出家とのお仕事が俺はこれで2回目で……もちろん、国を問わず演出家さんはそれぞれみんな違う存在ではあるんですが、特に海外の方は予想だにしなかったところから演出が飛んでくるんですよね。例えば前回も(音楽劇『道 La strada』/デヴィッド・ルヴォー)、たったひとり舞台上にいるシーンで0番に立ったら「0番にだけは立たないでくれ。そこは0.5か1で。0番にはパワーはない」と言われて驚いたけれど、「なるほどな」って思える説得力があった。今回もそういうところの理解力をもっと深めて視野をさらに広げて……与えられた演出に自分の中で納得し理解できるのはもちろん、なんならそこに先行していけるように、しっかりついていきたいです。そもそもセオリー通りの不良なディーンなんて、観ててもつまんないだろうし。
矢部:わかります!
──ステレオタイプに陥らない、危険人物としてのディーンを探求しなければ。
佐藤:……ですね。
矢部:僕もディーンは周囲の人たちに嫌われたら勝ちだなって思うので、そこは恐れずに掘り進みたいですね。
佐藤:教室のセットとかあるのかな? 学校の机と椅子、久しぶりに座りてぇ〜(笑)。あとはやっぱりいろいろな方面で活躍している方々や、ミュージカル俳優の先輩方との共演ですからね。ここでまたひとつスキルアップしたいっていうのは自分自身の大きなテーマ。「勉強させていただきに行くぞ」って感じ。真ん中に立つ作品も続いていましたが、久々に後輩魂を炸裂させてもらおうかなって思ってます。
佐藤流司
矢部:僕、いずれはミュージカルにも挑戦してみたいと思っていて、でもそれがこんなにも早いタイミングで訪れたのは嬉しい驚き。挑戦できるってすごくありがたいことですし、人間、挑戦しなくなったらダメだなと思うので……稽古中はもしかしたら毎日落ち込んで帰って行くことになっちゃうのかもしれないけど(笑)、でも、それも経験だと思ってイチからやるぞという気持ちで取り組んでいきたいです。
──ミュージカルファンのみなさんとの新たな出会いも待っています。
矢部:この作品はたくさんパワーを感じるし、たくさん愛を感じるし、ホントに素敵な作品。僕はみなさんにその世界観を伝えていけたらなと思いますので……ぜひ、楽しい熱い夏にできたらいいな。楽しみにしていてください。
佐藤:えー、なんの前情報もなしで私の芝居を観てくださった方は最初、歌声に面食らっちゃうかもしれないんですが(笑)、そこはすぐに慣れていただけるかと思います。
──台本のあとがきにも「訓練を受けてうますぎたりカッコよすぎてはいけない」「現代の人々が実生活で歌うような歌を──」など、“生身”を尊重する記述がありました。「それぞれの物語を見せて欲しい」と。
矢部:それ、僕も見て、素敵だなぁと思いました。大事にしていきたいですよね。
佐藤:そこも踏まえ、自分はミュージカルの声には寄せずに持ち前のロックテイストで行くつもり。作品のスパイスになるようなディーンの表現を追求していければと思いますので、初めてお会いするミュージカルファンのみなさまもぜひお目を留めていただければ嬉しいです。よろしくお願いいたします。
左から 佐藤流司、矢部昌暉(DISH//)
<衣裳協力>
佐藤流司:FACTOTUM/STIR/VISION STREET WEAR
矢部昌暉:FACTOTUM/JOHN SMEDLEY
取材・文=横澤由香 撮影=iwa

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