岡本誠司(ヴァイオリン)×反田恭平
(ピアノ)が語る、まるで“謎解き”
なリサイタル・シリーズVol.1「~自
由だが孤独に~」とアルバム、そして
これから

昨年2020年12月に開催された浜離宮朝日ホールでのコンサート『Vol.0~はじまり~』でキックオフを迎えたヴァイオリニスト岡本誠司によるリサイタル・シリーズ。
2021年6月10日(木)に開催される『Vol.1』は、「~自由だが孤独に~」と題されており、シリーズのテーマである19世紀ドイツ・ロマン派音楽のワンシーンに鋭く肉薄する意欲的な内容となっている。リサイタル前月には、待望のファースト・アルバムのリリースも決定しており、さらなる期待が高まる。日独を行き来し、積極的に演奏活動を展開している岡本に、共演者のピアニスト反田恭平も加わり、リサイタル、アルバムリリースに向けた意気込みを聴いた。
■まるで”謎解き”? 『Vol.1』プログラムに込めたこだわり
――昨年12月の『Vol.0~はじまり~』と題されたプレコンサートに続いて、6月の『Vol.1』が本格的なリサイタル・シリーズの第一弾となるわけですが、まずは公演にかける意気込みをお聞かせください。
岡本:現在、ドイツを拠点に活動しておりまして、ドイツ音楽の持つ質実剛健さの中にあるロマンティシズムの美しさを突き詰めていきたいと思い、まず『Vol.1』では、このような内容のプログラムを考えました。一生をかけて弾いていきたい曲ばかりですが、このラインアップで、今の時点での私たちの演奏を聴いて頂けたらと思っています。
――ディートリヒ、ロベルト・シューマン、ブラームス三人の合作による「F.A.Eソナタ」、両シューマン(ロベルトとクララ夫妻)の「三つのロマンス」、そして、ヨアヒムの「ロマンス」に、ロベルト・シューマンの「アダージョとアレグロ」、「ヴァイオリン・ソナタ第一番」と、19世紀のドイツ音楽界の中心人物たちの作品による意欲的なラインアップですが、ここまで、一つの時代、一つの場所における交流の輪から生まれた作品群を深堀りしようと思った理由は何でしょうか。
岡本:今回演奏する曲目は、すべて1849年から53年までの5年の間に書かれた作品です。この頃、ロベルト&クララ・シューマン夫妻のもとには、彼らを慕って、若きブラームスやヨアヒム、さらにディートリヒ(「F.A.Eソナタ」の一楽章を作曲した)といった作曲家たちが集っていました。そんな1850年当時のシューマン家のサロンで演奏されていたであろう作品の演奏を通して、僕たちも、彼らのサロンの輪の中に合流し、客席のお客様にも才能あふれるアーティストたちの親密な輪の中から生まれたみずみずしい作品の空気感を味わって頂けたらと思っています。
特に、今回のプログラムの軸となる「F.A.E.ソナタ」は、まさに、この“サロン”の人間関係の中から生まれた作品で、ディートリヒが第一楽章、シューマン(ロベルト)が第二楽章と第四楽章、ブラームスが三楽章を書いたユニークな合作曲です。
――(F.A.E.ソナタについて)現代では、三楽章のブラームス作曲の三楽章「スケルツォ」くらいしか耳にする機会がないのですが……、全体像としてはどのような作品なのでしょうか。
岡本:シューマンが一番年長で、他の二人は弟子世代なのですが、この作品を演奏していると、二人の若い作曲家のシューマンへのリスペクトがとても感じられます。もちろん一人ひとりの個性も発揮されているのですが、中でもブラームスが書いた「スケルツォ」の三楽章からは、シューマンをリスペクトしながらも、“俺はもっとできるぜ!”みたいな強い野心が感じられます。
――(三楽章「スケルツォ」の)ピアノ・パートの出だしも、かなり独特です。
岡本:センセーショナルといってもいいかもしれません。40~50代に見られる達観した美しさとロマンティシズムのある作品群が最もよく知られたブラームスらしい作風と考えると、むしろ貴重な一曲かもしれません。この曲だけ聴いても面白いですし、この楽章が際立っていることで、他の楽章の素晴らしさも見えてくるのではと、私自身、思っています。
――三人の作曲家による創作の中に、一作品としての統一感はあるのですか?
岡本:作品のタイトルである “FAE” というのは、シューマン夫妻のもとに集った仲間の一人、作曲家ヨアヒムが提唱した「Frei aber Einsam~自由に、だが、孤独に」という彼自身の理念に基づいています。ヨアヒムの考える「芸術家はこうあるべき」という思いの表れなのですが、FAEいうタイトルは、このドイツ語のフレーズの単語のそれぞれの頭文字から取られたものです(前述タイトル表記傍線部分参照)。実は、さらに、もう一つ意味合いがあって、「FAE」というのは、ドイツ語読みの音階で、「ファ・ラ・ミ」の音型も表していまして、その音型がこの三人合同作品の統一のキー旋律として用いられているんです。ロベルト・シューマンは特にそういうのが大好きでした。
ところが、ブラームスは、それも(FAEの音型)も見事に無視しているんです。少なくとも「ファ・ラ・ミ」の音形は楽章内に出現しません。その代わりにディートリヒが第一楽章で書いたテーマを引用したりと、統一性はきちんと保っているのですが、やはり、「ちょっと違うことをしたいんだ!」という、ブラームスの攻めの姿勢が垣間見えたりもします。
――ソナタ作品の他にも、美しい小曲が散りばめられていますね。
岡本:はい、小品たちの存在にも光をあてています。ロベルト・シューマンの「三つのロマンス」は、オーボエとピアノのための作品を彼自身がヴァイオリンとピアノ用に編曲したものですが、この点が私自身の中では、選曲において決め手になっています。もちろん原曲のままの演奏もいいですが、作曲者自身の中にヴァイオリンの音のイメージがあったことに、個人的に大変興味をそそられます。
「アダージョとアレグロ」も、原曲はホルンとピアノのための作品、(ロベルトの)「三つのロマンス」はオーボエとピアノのための作品ですが、編曲にあたって、ヴァイオリンで出ない音域はピアノで補い、ピアノが弾くべき内声の部分をヴァイオリンに弾かせたりと、意図的にシューマンは遊んでいるんですね。そんなシューマンの発想を僕たちの手で音にできるのはとても嬉しいですし、リサイタル・シリーズ全回を通して、各作品が持つさまざまな可能性を、さまざまな角度からご紹介できたらと考えています。ちなみに、『Vol.4』までは、ロベルト・シューマンとブラームスの作品を中心に演奏していきたいと考えていまして、二人の作品の中で、ヴァイオリンとピアノで演奏できる曲目はすべて演奏したいと考えています。
――今回のプログラムでは、ロベルト(シューマン)の「三つのロマンス」とともに、妻のクララ作曲による「三つロマンス」も対比して演奏されますね?
岡本:その対比も面白いと思っています。ロベルトの作品が数年先に書かれているのですが、彼らしく、ほのぐらいイ短調やヘ長調あたりを行き来しています。一方、クララ作曲の「三つのロマンス」は、夫ロベルトの作品へのアンサーソングとして書かれているのですが、メランコリックな中にも、突然明るい曲想になったりと、とてもチャーミングな作品です。クララはピアノの名手でもあったので、三つの短い曲の中で、ピアノ・パートにチャレンジングでピアニスティックな表現が盛り込まれており、聴きごたえ充分です。一つのコンサートで、どちらも聴いて頂きたいと思ったので、今回ラインアップしました。
――この作品を通して、夫婦二人の中に、音楽家同士としての知的な対話も生まれたわけですよね?
岡本:クララが作曲したロマンスの中には、その二年前にロベルトが書いた「ヴァイオリン・ソナタ第一番」の断片が出て来るんです。本当にわかるかわからないかくらいの一瞬なんですが……、そんな関連性もあって、今回のリサイタルでは、ロベルトのソナタ第一番も弾いてしまおうと思いました。
――もう謎解きの連続のようで、演奏を聴くにはプログラムノート必帯ですね。
岡本:そうですね(笑)。謎解きの要素も楽しみとして残しつつ、多分、少しだけテキストで説明すると思います。
――先ほど言及された「FEA」が意味する「Frei aber Ensam~自由、だが、孤独」は、今回のリサイタル『Vol.1』のコンセプト・テーマにもなっています。この19世紀ドイツ・ロマン派の真骨頂ともいえる哲学的理念を、ドイツ生活の長い岡本さんとしてはどう捉えていますか?
岡本:ドイツ生活は、まさに自由であり、孤独であります(笑)。ドイツは自然が厳しいですし、長い冬を孤独に過ごし、人々がふたたび集う春の日の喜びがここまでも素晴らしいものかということを初めて感じました。生命の活力を感じる喜びは、本当にかけがえのないものです。
「自由さ」という点については、ドイツでは、個人のやりたいことや、個人の思想を通しての自由な議論がとても活発で、シューマンたちが生きた当時も、きっと、そうだったんだろうな、と想像しています。シューマン夫妻を中心に、「もっと音楽界を活性化したい」という優秀な音楽家たちが集い、熱く議論を交わしている情景が思い浮かびます。
■二つの楽器が一体化して「一つの景色を見る」醍醐味
――反田さんは、今回のコンサートに関してどのような想いを抱いていますか?
反田:今回のリサイタルは、前月5月にデビューアルバムのリリースも控えていますし、彼にとって本格的なデビュー・コンサートに値しますから、誠司(岡本)には絶対に好きな作品を弾いて欲しいという思いがありました。デビュー・コンサートというのは、公に、演奏家として「今後こうありたい」という想いをご披露する一生に一回の機会です。今、本人の話にもあった通り、これだけしっかりとした構成とコンセプトに裏づけられたプログラムですから、僕は全力でサポートできたら、というのが一番の思いです。
岡本:反田君と最初に共演したのは2016年のあるコンサートだったんですが、昨年12月のシリーズ『Vol.0』でのブラームスのソナタ第一番が、5年ぶりのデュオで、本当にしばらくぶりでした。
反田:僕は5年前に誠司に出会った時、今後、彼とは長い間一緒に活動していくんだな、と直感で思ったんですよ。思った通り、こうやって一緒に活動できるのはスゴく嬉しいです。今年の年明けには一緒にレコーディングもしましたが、とにかく誠司から教わることは多いんです。僕はスラブ系の作品を専門にしていますが、正統なドイツ音楽の本質をここまで知り尽くしている演奏家もなかなかいないですし、今のベルリンを感じ、今のドイツ音楽を感じている人から影響を受けるのは本当に嬉しいですし、何よりも一緒に弾いていて楽しいです。
僕自身、基本的にソロやコンチェルトなどの一人での活動スタイルが多いので、ヴァイオリニストみたいにデュオで本番に立てる人たちが、いつも羨ましいと思っています。だから、室内楽やオーケストラなんかも積極的にやっているのですが、誠司みたいに、学びを通して経験値を一緒に広げていける、ゴールに一緒に向かっていけるパートナーがいるのは本当に幸せだと思っています。
岡本:デュオに限らず、室内楽やアンサンブルというのは、どれだけ長い時間を共にすごして、どれだけ多くの音楽を共有して、演奏を積み重ねていったかというのが重要だと思っていて、回数や年数を重ねるだけで、お互いのさまざまな引き出しも見えてきますし、それぞれが出会うことで、より引き出しが増えていくんです。
反田:そうそう、その時の、その場の誠司しかだせない直感や、引き出しの多さというのが僕にとって一番大切なんです。そういうフィーリングを、彼とはスゴく感じるんです。
岡本:そう、僕も。まさに、それを言おうと思っていたんですが、二人だけだと、なかなか恥ずかしくて言えないんですよね(笑)。
反田:よく、「本番とリハーサルでは違う」っていうじゃないですか。いい意味でも悪い意味でも。突発的に何かが違ってしまうということが、確かに多々あります。でも、誠司との共演の場合、第一音から、「彼は、今日もワクワクさせてくれるな」というのが一瞬の空気で感じる事ができるんです。これは中々あるようでない事でして、それが醍醐味でもありますし、とにかく、誠司と一緒に演奏すると、達成感に満ちあふれて、心の潤いがスゴいんですよ。
岡本:二つの楽器が一体化して「一つの景色を見る」という体験が、本来の醍醐味ですよね。でも、それはなかなか起こらないんです……。
あくまでも人間同士の関わりですし、その日、その時の気分でも違ってしまいます。「こういうイメージで表現したいよね」と事前にしっかりと共有ができていても、その瞬間になると、「もっとこういう感情で」、「いや、こういう景色かもしれない…」という感情が出てきてしまうんです。舞台の上で、フッと生まれた感情を、その瞬間を互いに共有できたら最高ですよね。
反田:稀かな……。
岡本:僕は反田君と弾いていて、それを感じる瞬間がとても多いんです。だからこそ楽しいですし、そういう瞬間をお客様とも共有できたらいいですよね。
■アーティスト自身の思いをそのままかたちに
――では、5月に反田さんが主宰するレーベルNOVAからリリースされる岡本さんのファースト・アルバムについてお伺いします。曲目のセレクションは、6月の演奏会ラインアップに加えて、昨年12月の『Vol.0』で演奏されたブラームスのヴァイオリン・ソナタ第一番「雨の歌」が入るというイメージですね?
岡本:はい、そうです。リサイタル・シリーズの話とレコーディングの話が並行して進んでいたのもありますが、僕の中で、デビューアルバム、ファースト・アルバムというものに対しては、何となく小さな頃から、夢物語のようにイメージを温めていました。曲目決定までのプロセスでは、「この曲はまだ今の自分にはCDのかたちで残すには早いかな……」とか、「この曲は今、弾いておきたいな……」と、さんざん迷って、考えに考えて、ラインアップしました。
反田:めっちゃ考えてたもんね。
――反田さんともアイディアは共有されたのですか?
岡本:はい。僕の発案で、反田君とも擦り合わせながら決めていった感じです。「雨の歌」なんて、すばらしい録音がたくさんありますし26歳の我々二人が、何を表現していけるか?と考えると、正直、最初はどうなることやらというのはありましたが、二人でリハーサルを重ねるうちに、そして、三日間をフルに使った大賀ホールでの録音で、今の二人だからこそ感じる方向性と、表現したいものが最もよいかたちに収斂したかなと思っています。
反田:誠司と弾いていると、前向きになりたいとすごく思いますし、彼、ピアノがうまいんですよ。ピアノがわかっているとわかってないでは、曲の捉え方が全然違うんです。見る角度も違ってくるし、視野も広がる。練習の時、互いにスイッチして、担当パートを変えてみたりもできるし、僕はヴァイオリン弾けないので、一台ピアノで連弾みたいなこともやれるわけです。そうすると、「どうしようね……」ってなった時も、スッと道が共有できる瞬間があったりと、僕にとって、そういうのが、とても大きな刺激なんです。それは今までのアーティストとはなかった体験でしたね。今回は、そういう要素がすべて凝縮されたレコーディングになったかなと思っています。
――今回のレコーディングでは、反田さんはプロデューサー的な存在だったのでしょうか?
反田:そんな、何にもやっていないですが、まあ、我々のレーベルということなので。自分の中では、当たり前のことをやっているだけです(笑)。今後、誠司を筆頭に、他の仲間たちも、どんどんアルバムを出してもらえればいいな、と思っています。その際は、レーベルの意向として、アーティスト自身がやりたいと思っているものを録音する、ということを第一に考えていきたいです。
アーティストファースト。アーティストが考えていることをそのまま具現化するためのサポートをして行きたいと思っています。それが我々のレーベルの特徴でもあるし、強みでもあります。
これから誠司とも相談して詰めていきたいのが、パッケージなんですけれど、昔はジャケ写(ジャケットのアーティスト写真のこと)買いがあったらしいですが、そういう想いは、むしろ、大切にしていきたいですよね。配信なんかが全盛期ですが、物理的にジャケ写や盤面にこだわるのも大切だと思っています。
岡本: YouTubeでもサブスクでも音楽を聴ける時代に、CDという物体をわざわざ買う理由がどんどんと少なくなっているわけですが、だからこそ、アーティスト本人としてのこだわりがあって、もちろんレコーディングの中身も含め、こう皆さんに伝えたいというものが伝わればと思っています。
――演奏者ご自身ひとりひとりがクリエイティブディレクターになるわけですね。
反田:アーティスト側でもあり、作り手側でもあると本当に感じるのですが、やはり、周りのチームがコンセプトしたものではなく、アーティスト一人ひとりがイメージする想いが絶対あるんですよ。そういう本人の意志を最大に尊重したいですよね。
■時間の流れをお客様と一緒に感じられるシリーズに
――もう一度、リサイタル・シリーズの話に戻ります。今後、シリーズ最終回までの期間は約三年にわたりますね。その長いスパンの中で、岡本さんご自身の中で、どのような変化を目指していますか?
岡本:『Vol.5』までのシリーズ全体を一つのサイクルととらえ、同じ作曲家の作品でも、時代を追っていく構成になっていますが、シューマンやブラームスが歳を重ねていったように、演奏家自身、そして、お客様も共に年を重ねていく訳です。そういった中でそれぞれに感じ取って頂けるものがあればと思っています。
ここ一年のコロナ禍において、これは私だけに限ったことではないと思うのですが、一人ひとりが、何を想うのか、何がやりたいのか……、というような内面的な思いに対して、とても敏感に、正直になっているような気がしています。表現者としては、そのような変化の中で、本質的な目で作品一つひとつを見つめ、曲の持つさまざまな面を引き出してゆくことで、お客様にも何かしっくりいくものを見出していただけたらと思っています。
極論を言ってしまえば、ここで自分が演奏しなくても、作品自体は未来永劫遺されていくわけです。でも、そこで、私たちがあえて演奏するのは、今、作品に対して自分たちが感じるものがあるから演奏するわけですよね。そのような強い思いを持った上で、時間の流れを皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。
――最終回は、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 全6曲全曲演奏が予定されていますね。
岡本:20歳の時にバッハコンクールで賞を頂いて、3年後はちょうど20代最後の節目の年ということもありますし、一つの集大成、自分自身の中で総まとめとして、全曲とパルティータをほぼ三時間かけて演奏したいと思っています。バッハは、本当に宇宙的な奥の深さを持っていますから、僕が表現できることは、そのうちのひとかけらかもしれませんが、僕が見た宇宙というものを表現できるよう、皆さんにより多くの景色を見て頂けるように、自分の心が共感できることに対して、表現方法を少しでも深め、模索していきたいと思っています。
――今後、他の回でも反田さんとの共演を予定されていますか?
岡本:まだ調整段階なので未定ですが、反田君とは、このシリーズの中で、少なくとももう一度は共演したいと思っています。
ヴァイオリニスト目線で言うと、ヴァイオリン・ソナタは、楽譜に書かれた3段あるうちの一段分は僕(ヴァイオリ)が弾いて、他の二段分、ようするに8割方はピアニストが占めているんです。なので、本当にピアニスト次第なんです。もちろん、音楽のアイディアは対等に創り上げていきますが、その場で鳴っている音は圧倒的にピアニストの方が多いですから、音楽の流れはピアニスト次第なんです。なので、ヴァイオリニストにとっては、一体、どのような音楽をピアニストが引き出してくれるのか、それに対して、僕がどうレスポンスしていけるのか、というのが共演の面白さですし、ピアニストによって僕の音楽も変化し、豊かになっていくんです。そういう意味では、一人のピアニストと深めていくのもいいですし、インスピレーションのために他のピアニストと共演の幅を広げていくのも重要だと思っています。
――反田さんは、岡本さんのリサイタル・シリーズにかける意気込みをどう感じていますか?
反田:誠司が成長していくのはもちろんわかっていますし、僕自身も一緒に成長していけるのを楽しみに思っています。僕自身は、ある程度、自分の演奏スタイルなどについて、この時期には、どのくらいになってるんだろうな……、って予測できるんですよ。むしろ、音色やスタイルなどについても、ある種のボーダーラインがあって、それに向かってどう変化させ、それを超えていくかという風に具体的に予測しているんです。でも、誠司がどうなっていくのかというのは、友人としても、同じ演奏家としても本当に楽しみです。しかも、彼が得意としているドイツ・プログラムですし、ゼロから聴いて下さる方も、途中から来て下さる方も、我々も一緒に成長できると嬉しいですね。
――一回目から最終回まで全部聴いて頂けるといいですね。
岡本:本当にそう思っています。僕自身の中で、Vol.1~4までは完全にサイクルとして捉えています。これがあったから、こうなんだ……、というような時代背景の謎解きの面白さや、一緒に時間を経過していく面白さを味わって頂けるといいです。
反田:僕も、こういうのやってみたくなりましたね(笑)。
――反田さんから見て、岡本さんの音楽家として魅力は?
反田:音楽にスッと入れて、身を任せて弾けるアーティストなんですよ。羨ましいですね。そして、何があっても対応できるところがスゴいですよね。彼の引き出しの多さというのは、すべてのものを一つではなく、つねに多角的に見ているからなんです。私生活はどうなのか知らないですが、多分そうなんだと思いますよ(笑)。これは生まれ持ったものですね。
――岡本さんから見て、反田さんの音楽家としての魅力は?
岡本:僕はいろいろ考えすぎてしまうのですが、彼は直感に素直で柔軟なアイディアで、思いつかないことをたくさんシェアしてくれるんです。それは、友人として話していても、音楽づくりをしていても感じますね。自分のこだわりを持っていて、ピアノの一音を聴くことによって、私自身の中にも新たなイメージが芽生えさせてくれるんです。
――では、最後にお二人からファンへのメッセージを。
岡本:6月の『Vol.1』は、友情、愛情、そして、尊敬の念にあふれる作曲家たちの集いや語らいの中から生まれ出た情熱あふれる作品ばかりです。反田君と、その日、その場でしか味わえない演奏を実現したいと思っていますので、その瞬間をぜひご一緒しましょう。
反田:僕は、シューマン=リストの「献呈」をよく弾くので、シューマンは僕の代名詞だと思っていらっしゃる方も多いようですが、誠司が提案してくれた今回の多彩なプログラムを通して、献呈 で表現されているのとは違う愛の表現の仕方がたくさんあることを教わりました。僕は、基本的には楽観的な人間ですが、今回の数々の作品と、誠司との共演を通して、“楽観的反田”ではない、新しい反田を、初めて聴いて頂ける方にもお見せできたらいいなと思っています。
取材・文:朝岡久美子

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