ASCA ニューシングル『カルペディウ
ム/ヴィラン』に込めた思い 「明日
世界が終わるとしたら私は歌っていた
い」

ASCAが6月2日にニューシングル『カルペディウム/ヴィラン』をリリースする。TVアニメ『すばらしきこのせかい』主題歌である「カルペディウム」と、adoの新曲「ギラギラ」を手掛けるなどで話題のトラックメイカー、てにをはの楽曲「ヴィラン」をカバー収録している。新たな挑戦だったというこの楽曲たちにASCAはどう向き合ったのだろうか。じっくりと話を聞いた。

――6月2日にリリースとなりますニューシングル『カルペディウム/ヴィラン』についてお話を伺えればと思います。まずは「カルペディウム」についてお話を伺えればと思うのですが、こちらはいつ頃から制作がスタートしましたか?
最初にお話をいただいたのは一昨年頃だったと思います。そこから制作がスタートしてレコーディング自体は去年の9月末に行いましたね。なので前作のアルバム『百希夜行』を作っていたときには完成していました。かなり長い制作期間ですね。
――今回の楽曲は『すばらしきこのせかい』のタイアップということですが、このタイトル対への第一印象はいかがでしたか?
お話をいただいて、Nintendo Switch版の『すばらしきこのせかいーFinal Remixー』をプレイさせていただいたんですが、作品との縁をすごく感じたんですよ。というのもこの作品は渋谷が舞台になっていまして。私にとって渋谷は初めてのワンマンライブをおこなった思い入れのある場所ですから。これは運命なのかも、と感じたましたね。
――ASCAさんにとっても「渋谷」という場所は特別なんですね。
特別ですね。ライブ以外でもよく訪れている街で、いつもエネルギーをもらっています。渋谷って私にとって心のバロメーターを測ることのできる場所なんですよ。人がすごく沢山歩いているじゃないですか。その中に自分を置いてみると今の自分のことが客観的に見れるんです。
――改めて「カルペディエム」はTVアニメ『すばらしきこのせかい The Animation 』EDテーマとなっています。アニメをご覧になっての感想はいかがでしたか?
原作への愛に溢れた作品になっていると感じました。ゲーム内で使われている楽曲がオープニングになっていたり、バトルシーンでもゲームをそのまま映像化していたり。私が歌わせていただいているエンディングの映像でもサビの部分でゲーム内での必殺技のポーズが出てくるんですよ。すごく熱い、テンション上がりますよね。
――そんな愛の溢れる作品の世界にご自身の楽曲が仲間入りすることになったんですね。
そうなんですよ、すごく嬉しいことですよね。この作品について知れば知るほど、自分が歌う楽曲が作品の仲間に入りするんだ、という喜びを感じますね。今回作曲をしてくださったのが『このすばらしいせかい』の音楽を担当されている石元(丈晴)さんで、作品にぴったりの楽曲に仕上がっていると確信しています。
――楽曲を初めて聴いたときの印象はいかがでしたか?
初めて挑戦する楽曲、という印象でした。私自信、これまでロックテイストの楽曲は多く歌わせていただいているんです。でも、ここまでバンドサウンドが強いものは珍しいんですよね。それに加えてややスローテンポ、新しい扉を開いていただいた感覚ではありました。
通常版ジャケット
――この新しい感覚の楽曲に対して、作詞は自分自身で行われたということですが。
そうですね。今回は単独で作詞を行なっています。これまでとは違った楽曲に詞を書いたからこそ、これまでとは違ったメッセージなんかが乗せられたように思っています。これまで仕舞い込んできた気持ちを詞に出すことができた感覚。挑戦できて良かったですね。
――今回の作詞をするにあたって、ASCAさんが込めた気持ちはどんなものでしたか?
コロナ渦で生きている中で感じている怒りやもどかしさですね。ここで私たちが感じている気持ちは『すばらしきこのせかい』の世界で生きている人たちにとっても共通していると思ったんです。
――今の自分たちと作品世界に共通したものを感じたんですね。
『すばらしきこのせかい』では主人公であるネクは急に理不尽な世界に連れていかれてしまい、ゲームに参加させられるところから物語がはじまるんです。普通に生きていたはずなのに急に自由を奪われてしまう。そういったところがすごく、今生きている私たちの身に降りかかっている事態と重なると感じたんです。自分たちも今、当たり前だと思っていたことが奪われて、不自由な暮らしを強いられている部分がありますから。
――そういった理不尽さへの怒りが今回の作品のテーマになっていると。
そうですね。なので、作詞するにあたってまずはコロナ渦で感じた怒りだったり、そういった気持ちを箇条書きにして、そこからパズルのように組み立てるように作詞をしていきました。そんな中で一番最初に浮かんだフレーズが一番のBメロにある「押し殺した声を投げつける夜を待て」というフレーズでしたね。
――実際に出来上がった歌詞を読ませていただいて、AメロBメロではかなり荒んだ印象の歌詞になっていると感じました。
結構荒んでますよね。 これまでも度々作詞をさせていただいているんですが、こんなに荒んだ歌詞を書いたことはないかもしれないです。私自身も自粛期間があって、ライブやイベントが中止になることも多く、そういった部分で奪われたことに対するどこにもぶつけることができない怒りのような気持ちがありましたから。そういった気持ちが詰まっていますね。
――ただ、サビではそこから一歩前に踏み出すようなメッセージも表現されていると思いました。
やはり怒りみたいなものをただただ歌い続けるのはASCAじゃないと思ったんです。今までの楽曲も現状に満足せず、自分自身の殻を破って常に前に進んで行きたいっていう思いを歌ってきたので。今回も最終的に希望を届けたいという思いがあり、不自由な世界でも自分が大切だと思えるものを抱えて生きていこう、というメッセージを込めました。そうしたら明日世界が終わってしまっても後悔はないと思うんです。
――全体を通して聴いて、歌詞世界の中で登場する「竦んだ足元に一輪の花が咲いた」という一説がすごく印象的でした。
ここの「一輪の花」は自分自身を周りで支えてくれている人たちのことなんです。今はSNSがすごく発達していて、画面の中の誰かと自分を簡単に比較することができてしまうじゃないですか。それで「自分ってなんでこんなにダメなんだろうか」って思いに気が付いたら落ちてしまっていたり。私もそうやってすごく落ち込んだりもしていたんです。ただ、ちゃんと周りを見渡せば応援してくれる人や支えてくれる人はいるんですよね。なので、ちゃんとそういうものに気づいて、それを自分自身のプラスにしていきたいな、と思ってこのフレーズが生まれたんです。
――そして今回の楽曲、タイトルが「カルペディエム」です。こちらはどういった意味ですか?
ラテン語で、直訳すると「その一瞬を摘め」意訳すると「その日を楽しめ」といった意味なんです。タイトル、どうしようかすごく悩んでいたんですよ、なかなかしっくり来るものが思いつかなくて。そんな中で出会ったのがこの言葉でした。『すばせか』の主人公のネクが大切にしている「全力で今を楽しめ」という言葉と、このタイトルがぴったりはまることに気づいたんです。それで「これだ!」と思って決めましたね。
――「カルペディエム」は非常にライブ感が溢れている楽曲のように感じました。
ありがとうございます!今回はそれを狙って作っています。石元さんから「生々しさを残した楽曲にしたいから」というお話がありまして、本当に2,3数テイクだけ録って細かく歌い直したりはしない方法でレコーディングを行いました。歌う側としてはかなりのプレッシャーだったんですけど。
――実際にそのようなレコーディング方法で、新しい発見はありましたか?
一回に持てるものを全て注ぎ込む気持ちで歌ったので、そこでの新しい発見はありましたね。そういった部分も今回の「一瞬を摘め」というタイトルともリンクしていて、この楽曲でしか出せない表現ができたと思っています。
――曲の冒頭部分では低いところから発したような声も印象的でした。
あそこは少し変わった歌い方をしていますよね。 歌詞が時代に対する不満や怒りを歌っているので、自ずと地を這うじゃないですけど、下の方から声が出ましたね。
――今回「カルペディエム」は英語版も収録されていますが、何故英語版を?
『すばらしきこのせかい』が世界中で人気がある作品なので、そんな作品に関わらせていただくのであれば、海外の方にも歌詞の内容がより伝わるように英語版を作るのはどうかなと思って収録させていただくことになりました。実はすでにSNSでは海外の方から「カルペディエム最高だぜ!」みたいな反応も頂けていて、早く英語版も聴いていただきたいなと思っています。
――今回の楽曲を通して、改めて英語の重要性を感じる部分もあったんでしょうか。
そうですね。まして今回、CDのジャケットやエンディングのイラストを担当してくださっているイリヤ・クブシノブさんもロシアの出身の方で、英語でのやりとりもありました。彼も『このすばらしきせかい』の大ファンで、その流れで今回ご一緒させていただいていると思うと今後英語は必須なのかな、とも感じますね。というわけで、英会話の勉強を私も始めさせていただきました(笑)。
――先日MVも公開となりましたが、こちらはどういったことを意識して撮影に臨みましたか?
今回のMVは歌詞の中にある「押し殺した声を投げつける夜を待て」という部分をもとに、監督が反骨精神を表現して作ってくださったんです。だから私もやったことのない不良をやりましたね。「このままじゃ終わらねえぞ!我々に自由を!」みたいな感じで。それでずっと睨んだような表情をしています。
――そういった反骨心を今回のMVのシーンひとつひとつで表現しているわけですね。
そうですね。夜の街を練り歩いたり、車の上に座ってみたり。生まれて初めて車の上に座ってみたんですけど、あれ、こわいですね。すっごいベコベコ言うんですよ。もし凹ませたら車を貸してくださった方に怒られるだろうな、と思ってヒヤヒヤしながらの撮影でした。 画面上ではカッコつけてますけど、見えないところで冷や汗びっしょりです。
――今回は「カルペディエム」に加えて「ヴィラン」も収録されていますが、この曲をカップリング曲として選んだ理由は。
お話しした通り「カルペディウム」の芯の部分には「怒り」だったり「反骨精神」があって、その一方で「自由を求めている」という部分もあるんですよ。そこと通ずる楽曲をチョイスしようと考えたときに行き着いたのがこの「ヴィラン」という曲でしたね。
――「自由を求めている」というメッセージのある曲を選ばれたと。
そうですね。この曲は性別の自由だったり、愛の形の自由だったりを歌っている思ったんですよ。誰が誰を愛しているとか、そこで性別がどうこうとか、本来は個人の自由。そしてそれが当事者にとっての当たり前であり日常。そういうものに対しての偏見だったり過剰な反応だったりから自由になりたい、という叫びみたいなものを感じたんです。
――「ヴィラン」の歌唱はどんなことを意識されましたか?
一曲の中で本当にいろんな人に成り代わりながら歌う、というのは意識しましたね。ここまで声色を変えながら歌ったのは初めてでした。歌詞にも「多種多様の性」って言葉が出てくるんですが、性別的にどちら、というのが二分できない子が登場していて。私自身もどちらとも取れない人の声を表現できたらいいと思って歌っていました。
――表現するのがすごく難しそうだな、という印象を受けたんですが。
これが意外と難しくないんですよ。一回自分の中で歌詞の世界を飲み込んで、歌詞に出てくる子達になりきって、感じたままに表現すればいいので。あとはアレンジをしてくださったAS課の皆さんのサウンドに身を任せた感じでしたね。
――今回のカバーでは、ASCAさんの声で表現されることで、楽曲の新しい魅力が発見されたように感じました。
それは嬉しいですね。もともとボーカロイド楽曲はすごく好きで、すごくリスペクトがあるんですよ。機械的に作られた声だからこその面白さっていうのもあると思っているので。でも、私自身は機械ではないのでそれを模倣するのは違うのかな、という思いもあって。だからそこは自分の中に楽曲の面白さを一度取り込んで、あまり元の曲の歌い方に引っ張られないように歌いましたね。「だって歌って自由なものだから!」という気持ちで。
初回版ジャケット
――では最後に、今回のリリースを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
このご時世で、私たちが日々触れているものの中に当たり前のものって一つもない、ということを学ばされたと思うんです。そして、そんな状況下で、皆さん自分の好きなものや譲れないものがなんなのかにも気づかされたと思うんです。そういうものをちゃんと抱えて生きていってほしいと思います。明日が来る保証もありませんから。
――ASCAさんにとってその好きなもの、譲れないものはなんだったんでしょうか?
私はやっぱり歌ですね。明日世界が終わるとしたら私は歌っていたい。別にそれは野原とかだっていい。そう思っていますね。
インタビュー=一野大悟

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