SUPER BEAVER・渋谷龍太 ロングイン
タビュー前編「自分より秀でた人を見
るとすべてコンプレックスとして跳ね
返る」

SUPER BEAVER・渋谷龍太――。さまざまなインタビューなどで見せる、決して一筋縄ではいかない言動、思考。WEBで掲載された書き下ろし小説『都会のラクダ』など文章類を読んでも、ひとつの物事を伝えるためにも大きく回り道をしたり、多くの言葉を費やしたりして、良い意味で分かりやすく済ませたりはしない。その分、わたしたちは渋谷の話すこと、書くこと、そして歌うことを注意深く見ることになる。そんな渋谷が歌う、SUPER BEAVERが5月19日(水)にリリースする最新曲「愛しい人」。今回、同曲についてロングインタビューをおこなったが、その際に彼は「SUPER BEAVERにしては分かりやすいラヴソング」と表現した。渋谷はその真意について、独特の言い回しをまじえ、言葉を繊細に操りながら語ってくれた。その話のニュアンスをできるだけ再現し、特別に前後編に分けてお届けする。
●「自分たちが音楽をやる上でもっとも揺るがない軸」
――最新曲「愛しい人」は、<パッと一言じゃ言い表せないのが愛だ>という歌詞に始まり、「愛」について想いを巡らせていく楽曲ですね。
SUPER BEAVERにしては分かりやすいラヴソングです。ただし、今までも大きな括りでの愛情は歌ってきましたが今回はそうではありません。歌詞のなかで「恋」という言葉が入ってきたのもあまりなかったんですよね。結成17年目に突入してこういう曲を今一度歌えるのはすごく良いなと実感しています。構成、アレンジなどシンプルが故に17年の歴史が色濃く出せました。
――確かにシンプルですが、それはあくまでテーマの部分であり、いろんな言い回しを駆使しながら「愛」についてものがたるなど深遠な楽曲だと思います。
先ほど自分が言ったことと反対になってしまうかもしれませんが、根本的な部分から細分化して何かを歌おうとしたわけではないんです。これまで歌ってきた大きな括りでの「愛」のなかからテーマをピックアップしました。そういう意味では自分たちがやってきたことのなかの一つです。
――SUPER BEAVERは「愛」についての楽曲が非常に多いですよね。
つまるところ僕らにはこれしかないのかなと。自分たちが音楽をやる一番大きな理由なんです。愛情って活動してきたなかで一番注いでもらったものだし。それに紐づいて活動が前に転がっていったから。自分たちにとってもっとも揺るがない軸みたいなものが「愛」なんです。
――たとえば2014年リリース「あなた」でも<恋をして愛を知った>など恋愛の過程を描いていました。「愛しい人」では<一言じゃ言い表せないのが愛>と歌ってはいますが、渋谷さん自身、「恋」と「愛」の違いをどう捉えていますか。
マジで難しい質問ですね。愛って、相手が自分を凌駕する瞬間の割合が大きい気がするんです。たとえば、自分のお皿の上に大好物があったとして、でもその人が「食べたい」と言えばあげても良いというのが愛な気がします。もちろん一緒に食べることが前提なんだけど、あげることに抵抗が一切ない。自分の好きなものを投げ打ってまで、その人のために何かができる感覚。それが愛なのではないでしょうか。
――さらにこの曲は<いったいあなたの何が好きなんだろう パッと一言で最初は言えたのに>と続いていきます。以前、ラジオ番組『GYAO! CLUB INTIMATE』で渋谷さんは阿部真央さんに、相手にキュンとくるポイントとして「化粧に気をつけているのに、小鼻がテカっているところが可愛らしく思える」を話していらっしゃいましたが。
それはもはや愛情と言うより、ただのフェチなんです(笑)。小鼻がテカっている瞬間をキッカケに全部を好きになるというよりも、バチバチに気を使っているのに、そういう油断や隙を垣間見たとき、僕のフェチズムが湧き上がるんです。
――小鼻のテカり自体に性癖が揺さぶられるのではなく、そこまで気を使っているのに結果としてそうなるまでの過程に惹かれるわけですね。
そうです。何度も化粧直しに行ったりして気を配っているのに、お酒を飲んで楽しくなり過ぎると、そういう部分に油断が生じたりする。自分の思考や注意が回りきっていない側面を感じるんです。見てはいけないものを見てしまったような感覚に惹かれますね。
――普段見えないところがチラッと見えると、確かにそこに目がいきますね。
あとダサい靴下を履いている子とか、かなりグッときます。こっちからしたら「ああ、今日は靴を脱ぐつもりじゃなかったんだろうな」という。つまり、かなり油断していることになる。それも僕の深いところに突き刺さりますね。ただ、ダサい靴下よりも小鼻のテカりの方が艶かしさを感じます。
――ダサい靴下問題はかなり共感できます。
自分のなかで守っている牙城が少しずつ歪む瞬間がすごく良いですよね。
●「自分の負の感情と向き合う」
SUPER BEAVER 藤原"32才"広明 撮影=森好弘
――渋谷さんは言動などを見ていても、相手の細かいところまで観察しますよね。
うん、だから「この人は今、こんなことを考えているな」と何となく分かるんです。そういう感覚は自分のコンプレックスからきているんです。
――コンプレックスですか。
僕は自分が人にどう見られるかすごく気にしてしまうタイプ。今こうやってインタビューを受けているときもそうなんですけど。そもそも自分に自信がないから、いろいろ予防線を張ったこともあったりました。そういう経験があるからこそ、相手に対しても「こういう話題に触れるときっと嫌だろうから、この話をしよう」と置き換えて考えるんです。それはオンステージをしていても思うことです。「どういうふうに人に物事を伝えたら良いのだろう」「どのようにして汲み取れば良いか」とか。そんなことばかり考えて生きてきたんです。
――そういうコンプレックスや自信のなさは今でも拭いきれていませんか。
拭えませんね。むしろそういう感覚は今でも人より多い気がしています。だけど、コンプレックスが悪いものだとは少しも思いません。「こういうコンプレックスを抱えているなら、どうしていこうか」と自分を客観視、俯瞰視できるようになるから。それが現在の自分の思考につながっているし、負い目は悪いことばかりじゃない。負い目と向き合い、抱えて生きるのは大事なこと。僕は人よりもそれが多いけど、ひとつも捨てたり、目を逸らしたりはしません。
――先日書き下ろされた小説『都会のラクダ』でも、「原動力にできる負とできない負がある」というような話を綴っていらっしゃいました。
自分が負に感じている部分を自覚できている時点で、何かひとつ乗り越えられている気がしていて。そこに気付いて、それを生かして、自分がどういうふうになりたいのかというビジョンが見えていたら、あとはゴールに向かうまでの道筋をどうするか考えれば良い。もちろんその道筋が一番難しいんですけど。僕はそういうことを考えるのが趣味みたいになっています。自分の負の感情と向き合うようにしています。
――ご自身のどういうところに自信のなさを感じているんですか。
ほとんど全部です。自分より秀でているものを持った人を見ると、それがすべてコンプレックスとして跳ね返ってくるんです。ほとんどの物事に劣等感を持ちます。だからその都度、向き合うものが出てきます。自分の身体のどこを切ってもコンプレックスが出てくる。内面、外見、置かれている環境、思考、何ひとつとってもすべてにコンプレックスが流れています。
●「メンバーには自分の本性をかなり見せている」
SUPER BEAVER 柳沢亮太 撮影=森好弘
――「愛しい人」はドラマ『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)の主題歌でもありますが、同ドラマの内容は、好きな人の外見が見知らぬ人に入れ替わってもそのまま愛せるかどうかというもの。その題材にリンクするように、楽曲のなかにも<本性>というワードが出てきます。
本性は対象が誰であるかによって見せる部分が変わります。「愛しているから見せられる」とは一概には言えない。ただ自分の場合、メンバーに対してはかなりの部分を見せている。体調が悪いときは、それをちゃんと伝えるようにしています。他の人には絶対に見せないけど。ライブを見にきてくれる人には見せたくないし、体調が悪いことを自覚するのも嫌い。体調を崩すとライブなど全部に影響を及ぼすし、その後の仕事に関してもどこかで至らない部分が必ず出てくるので。
――何かしら修正を加える必要が出てきたりしますね。
だから体調が悪いときはメンバーに現状をはっきり伝えて、自分ができる部分とできない部分をしっかり分かってもらった上でフォローをお願いします。逆に親友なんかには「体調悪い」と話す必要性を感じないんです。メンバーには助けてもらわないとできないことが多いから、唯一、絶対に打ち明けるようにしています。
――そういえば2017年4月から約1年間、ラジオ番組『オールナイトニッポン0(ZERO)』のレギュラーをつとめていらっしゃいましたが、最終回で入院してしまい出演できなくなったことがありましたね。
本当に不名誉でした。気丈にしていたところが完全に裏目に出たんです。他の人に迷惑をかける最低のパターン。何かに異常を感じたら絶対に早めに人に言わなきゃいけないと勉強になりました。
――ずっと頑張ってきて、最後の最後でまさかの出来事。
病院に行くまでは「薬を飲めば頑張れる」と思っていたんですけど、病院に着いたらすぐ「入院です」と言われました。最終回のオンエアは、病院の消灯時間だったけどこっそり聴いていました。フォローしてくれたみんなに「ありがとうございます」という気持ちですよね。1年間ずっとやってきたのに、最後の最後でメンバーに任せることになったから。こういうことが起きてしまうと、3人がどんなにがんばったって大変な思いをするに決まっているし、本当に負担をかけちゃった。だけどそれまでメンバーたちと軸をぶらさず活動してきたから、緊急事態になってもフォローしてもらえたのかなって。
――「愛しい人」では、<趣味など違っていいのさ>という部分も新しい価値観の提示となっています。恋愛、友情など人間関係において多くの場合、趣味は一緒だったり、近かったりした方が良いとされますよね。その点で「趣味は違っていい」は新鮮な考え方。
自分が仲の良い人、一緒にいた人を照らし合わせてみると、趣味が違うことがほとんどだったんです。だから「そこってもしかすると大事ではないかも」と考えるようになりました。曲の歌詞にも出てくるけど、大事なのは「自分はこう思っている」という根幹。そこに類似性があるかどうか。「こういうことが許せない」「これは格好良くない」とか。そういう部分がつながっていればどうにでもなるんじゃないかな。趣味って実はそこまで重要じゃないと思っています。
(後編へ続く)
SUPER BEAVER 上杉研太 撮影=森好弘
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘

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