ピアニスト大井健、“原点回帰”のニ
ューアルバム『reBUILD』に込めたこ
だわりと想いとは? 夏のリサイタル
ツアー構想も明らかに!

2020年、ピアノデュオ「鍵盤男子」を勇退したのち、新たな一歩を踏み出したピアニストの大井健。リサイタルや多くのメディア配信、そして、フォトブック発刊と着実に独自の道を切り拓きつつある。そして、ついに2021年6月2日(水)、待望のニューアルバム『reBUILD(リビルド)』のリリースが決定。3か月にわたる全国13都市縦断ツアーも同時開催という新たな展開に期待も高まる。
キングレコードから発売されるアルバム第三弾は、前二作の『PIANO LOVE』シリーズとは一味違う、大井の原点を垣間みるオールクラシック(※自作曲1曲を除く)の名曲を集めたアルバムだ。~reBUILD(再構築)~文字通り、コロナ禍の一つの波を経てたどり着いた大井の新たな世界観をじっくり堪能できる構成になっている。大井に現在の心境や夏のツアーにかける意気込みを聞いた。
◆”原点回帰”でこの一年を象徴したアルバムに
――ニューアルバム『reBUILD』のリリースを待つばかりですが、今の心境をお聞かせください。
長かったようであっという間のレコーディングでした。アルバム制作の話自体は昨年の6月頃に浮上したのですが、コロナの影響が増して録音のタイミングがなかなか図れず、仕切り直しを経て、ようやく今年4月に録音が実現しました。
当初は、(収録曲のうち)クラシックは3分の1弱と考えていました。クロスオーバーやさまざまなジャンルの方々に作品を委託するという話も出ていました。しかし、時間を経て、いろいろなパターンを考えているうちに、この一年を象徴したアルバムにしたいという思いが強くなりました。それで、自分自身が最近、最も演奏していたのがクラシックのレパートリーだったこともあり、最終的にはこのようにオールクラシックの選曲になりました。
大井健
――今回のアルバムのコンセプトづくりにあたっては、ファンの声の力も大きかったと伺っていますが。
そうですね。ファンの皆さんとのサロン的な交流を通して、「クラシックのピアノ曲を聴きたい!」という声をとても多くいただきました。また、今までに『PIANO LOVE』『PIANO LOVE II』と2枚のCDを出しているのですが、その中にはクラシックは2曲ずつしか収録されていませんでした。なので、いつか「オールクラシックのCDを出したい」という思いが僕自身の心の中にもありまして、ここで一回、オールクラシックのものを作ってみようと。
――コロナ禍において、大井さんご自身、自らを見つめ直されたということで、今回のアルバムもあえて『re BUILD』(再構築)という意味深いタイトルになっていますが、大井さん、ご自身の中でも“原点回帰”のような思いがあったのでしょうか。
そうですね。例えば、今回アルバムに収録したショパンの「ノクターン 第13番」は、中学時代に英国に留学していた頃によく弾いていた思い出の作品です。ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏曲もその頃に仲の良い先輩と弾いていた曲で、自分自身の過去や懐かしい姿を振り返りつつ、自らのイメージを‟再構築”していった際のプロセスが反映されていると思います。
――「ノクターン 第13番」のセレクトは意外に思えました。この作品はショパンの中でも男性的な印象が強く、他の作品とのコントラストも印象的ですね。
確かに、ノクターンは第5番や第8番かなとも思ったのですが、子供の時に本当に大好きな曲でしたので、原点に立ち返る意味でもこの作品を選んだのは良かったと思っています。
大井健
◆即興イントロ&オリジナル編曲のカルテットが聴きどころ
――バッハから、ロマン派、近代の作曲家にいたるまで名曲がセレクトされていますが、大井さんらしさというものは、どのようなところに一番、表出されていると考えていますか?
選曲自体に僕自身の個性がかなり出ていると思っています。ゆったりとしたテンポの曲が多いというのもその表れですね。もう一つ、録音が終わった後に即興で録った ‟イントロ” を冒頭に収録しているのですが、その日の録音のすべてが集約されたもの、そのままの響きが凝縮されたものが表現できたと感じています。
――それは楽しみですね。イントロは、どのような感じのものに仕上がったのか、少しだけヒントをお願いします!
アルバムに収録された作品たちが持つハーモニクスとモチーフを少しずつ取り入れていて、かつ、最初の曲のバッハのプレリュードに自然につながるような感じに仕上がっていると思います。リスナーの皆さんに、次に続くバッハにどのように導入されていくのかというところを楽しんで頂ければ嬉しいですね。
大井健
――ラヴェルの協奏曲 第ニ楽章 とラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏はカルテットとの共演というのも興味深いですね。先ほど、ラフマニノフの録音を聴かせて頂きましたが、カルテットの伴奏であれほどオーケストラ伴奏のような効果が出ているのにはびっくりしました。オリジナルの編曲も素晴らしいです。
クラシック一筋の内容なので、アルバムとしてもう一味欲しいねという話になったんですね。ちょうどその頃、僕自身、ラヴェルの協奏曲を練習していまして、二楽章を入れたらどうかな、と思いついたのですが、そこだけいきなりオーケストラ伴奏を入れるのもどうかな……と。多重録音して一人で2台ピアノ演奏をとも思ったのですが、せっかくアコースティックな世界を創りあげているのに、デジタル感が出て世界観を壊してしまうのも残念です。そこで閃いたのが、オーケストラをミニマム化してピアノカルテットとして表現したら……ということだったんです。ショパンの協奏曲などはカルテット伴奏版がありますので、ラヴェルとラフマニノフで実現したら、どんな響きがするのかな、と「再構築(リビルド)」してみようということになったのです。
――アルバムでは、編曲者の方が手掛けていますが、ツアーはピアノソロ演奏なので、大井さん独自のバージョンでの演奏となるわけですね。
場所によっては、もしかしてカルテット伴奏の可能性もあるかもしれません。僕の中だけの考えなので、あくまでも未定なのですが…… 。
◆“reBUILD”のこだわりはアートワークにも
『reBUILD(リビルド)』ジャケット写真
――ジャケット写真も、新しいイメージですね、‟reBUILD” にふさわしい、生まれ変わった姿をご自身でも感じていらっしゃいますか?
今までは、きれい目の感じのイメージが多かったので、新しいイメージを「再構築」しようということになりました。
――眼もあえて隠して、目線を避けていますね。
今回、写真家の平間至さんが撮影、アートディレクターのKAZUKIさんがディレクターとして参加してくださったのですが、今までのCDジャケ写とは、あえて全く違うタイプのポージングをしています。
――アートディレクターがいらっしゃるとまた違った展開になりそうですね。
今まで自分自身で衣装のコンセプトなども提案していたのですが、ディレクターさんのアイディアで、僕自身は考えたこともないような色使いの提案もありまして、新たな発見がありました。もともと、ブルーというのはコンセプトカラーに決まっていたのですが、PR用のメインショットでバラを持っている姿なんて、自分では絶対に考えられないので、新鮮でした(笑)。
――キングレコードさんからのCDリリースは、2015、17年に続いての第三弾ということですが、前作『PIANO LOVE』、『PIANO LOVE II』を踏まえて、この3枚の流れをどのように考えていますか?
子供のころからCD収集が趣味でして、僕の中で、一つのレーベルから数枚のCDをリリースするというのが憧れでした。数枚のCDを振り返って、年月の重みを感じてみたかったのです。前作は2017年ですので、この4年間の自分の成長や心境の変化が聴けるのは本当に嬉しいですし、ファンの皆さんにもぜひ、そのような視点で聴いて頂ければ幸いです。
◆6月よりツアーがスタート! エンターテインメント性をプラスしてライブ公演ならではの楽しみを
――6月2日のアルバムリリース後、6月4日から全国13都市で『PIANO CLASSICS』と題されたリサイタルツアーが始まるわけですが、アルバムのコンテンツに加え、ファンとのふれあいを大切にした、さらなる幅広いプログラムが予定されているのでしょうか。
まず『reBUILD』に収録された作品は全部演奏する予定で、さらにライブコンサートとして楽しめる作品を加えつつ、エンターテインメント性も追及したいと思っています。
――今回13都市で、一日2公演というのもありますが、基本的にプログラムは各都市、少しずつバリエーションを持たせる予定でしょうか。
昼夜2公演が予定されている都市では、内容を変えてお届けする予定です。既にリリースされた2枚のCDのコンテンツ(『PIANO LOVE』シリーズ)や「鍵盤男子」のレパートリーなども含め、『reBUILD』の新たな作品を軸に、現在、僕の持っているすべてのコンテンツからお届けしたいと考えています。

大井健

――会場でのライブ公演ならではの企画のようなものも考えていらっしゃいますか?
今回のアルバムの一曲目で試みたようなイントロ風の、コンサートへの導入的な即興を披露したいと思っています。なので、「イントロは毎回違う!」という感じで、期待していて頂ければと思います。
――このコロナ禍の3か月にわたるコンサートツアーにおいて、大井さんの思いの上で、聴衆に何を最も共有したいですか?
エンターテインメント業界も、一週間前は無観客で、今週は緩和されました、というような流動的な状況の中にあって、正直どうなるのか……と思いも頭をよぎるのですが、どんな状況にあっても、「お客さまに笑顔になって欲しい」という思いを忘れずに、何が起こっても臨機応変に楽しみたいと思っています。
――では最後に、アルバムリリースとツアーともに楽しみにしているファンの皆さんにメッセージを。
コロナ禍において、心がナーバスになっている方もたくさんいらっしゃると思います。心安らぐピアノの響き、クラシックの名曲の数々を通して、会場内に良い化学反応が生まれ、集うすべての方々が優しくなれる瞬間を共有できることを心待ちにしています。僕自身に出来ることをすべて出し切り、心を込めて演奏しますので、お近くにお越しの際にはぜひ足を運んでいただけたら嬉しいですね。
大井健
取材・文=朝岡久美子

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