中村児太郎×市川九團次×大谷廣松が
名作歌舞伎に挑む~市川海老蔵企画公
演『いぶき、』会見レポート

2021年6月17日(木)より20日(日)まで、京都・南座で市川海老蔵企画公演『いぶき、』に、中村児太郎、市川九團次、大谷廣松が出演する。3名が挑むのは、時代物の名作『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん。以下、妹背山)』より、道行『願絲縁苧環(ねがいのいとえにしのおだまき)』と『三笠山御殿』、そして常磐津の舞踊『乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい。以下、乗合船)』だ。5月14日に行われた会見の模様をレポートする。
■京都南座で大役に挑む
児太郎、九團次、廣松は、3月にはじまった海老蔵主演の巡業で、全国15ヶ所24公演を共にした。
児太郎は、「海老蔵のお兄さんと色々お話をさせていただく中で、私たちの方から勉強会をさせていただきたいとご相談しました。すぐに“何をしたいか”の話になり、『妹背山』をやらせていただきたいとお話し、ご快諾いただきました。この状況で、実際に公演ができるか分からないところもありますが、海老蔵のお兄さんの企画公演として恥じないよう一生懸命勉強し、皆様の前で披露できれば」と挨拶をした。
『いぶき、』チラシ。海老蔵が主演し、児太郎、九團次、廣松も出演する『海老蔵歌舞伎』(6月4日~13日)から4日後の開幕だ。
九團次は、「いつもどおり公演が行われている時期ならば、このような勉強会は逆にできなかったような気もいたします。色々と難しい状況ではありますが、舞台に立てますこと、大役を学ばせていただきますこと、心から感謝し勤めたい」と語った。
市川九團次
廣松は、「海老蔵のお兄さんの舞台で、いつもご一緒している九團次さんや、同い年の児太郎くんと同じ舞台に立てることを、うれしく思います。若手の勉強会というものを、昔はよくやっていたとお聞きしています。それを公演という形で、南座でやらせていただけることを嬉しく思い、皆様に感謝しております。精一杯勤めます」と意気込みを述べた。
大谷廣松
■『いぶき、』が続いていくように
現在、歌舞伎の興行は再開しているものの、感染症拡大防止への配慮から、コロナ禍以前と同じ稽古日数の確保や、従来通りの形態での興行は難しい状況にある。
「いぶき、」公演実行委員会は、このままでは「5年後10年後、さらに先の未来の歌舞伎界にとって必要な人材が、育っていかなくなってしまいます。児太郎さんも成駒屋として、経験すべきことがまだまだたくさんあり、未来の立女方としてさらに経験を重ねてほしい。この公演が未来の歌舞伎界に続く公演になるように、という思いを込めて『いぶき、』と名付けました」とコメントした。
児太郎は「若いからこその挑戦を忘れず、第2回、第3回と繋いでいくためにも、精魂込めて勤めます。あの時にがんばってやらせていただいて良かったと思えるよう、その一歩のつもりで勤めます」と力をこめる。『、』をつけたのは、「字画的にも良いのでは」と海老蔵の提案によるものなのだそう。
「いぶきます!」と九團次。
海老蔵からは「昨今の社会状況の中、歌舞伎の灯を絶やさぬために、様々な挑戦をしてまいりました。ともに挑戦を続けてきた中村児太郎さん、市川九團次さん、大谷廣松さんをはじめとした次代の俳優たちにも、さらなる活躍をしてほしいと企画した次第です。未来へつなぐ新しい挑戦という思いを込めて『いぶき、』と名付けさせていただきました」とコメントが寄せられた。
児太郎と廣松は同い年だが、九團次は上の世代。九團次が「若手にまざり、全力でいぶきたいと思っております。いぶきますよー!」とガッツポーズすると、児太郎が「“いぶきます”って言う?」とツッコミを入れ、一同が笑いに包まれる一幕もあった。
■児太郎、お三輪への思い
『妹背山』は、大化の改新の時代を描いた物語。児太郎は、お三輪を初役で勤める。
「女方を志す上で、いつかやりたいと思っていたお役です」
酒屋の娘・お三輪は、求女を巡り、蘇我入鹿の妹・橘姫と三角関係になる。
「これまでに橘姫として『妹背山』に出させていただき、そこで(お三輪の芝居は)ほとんど覚えました。お三輪は、岡本町のおじさま(六世中村歌右衛門)も父(中村福助)も大事にしていたお役です。求女という一人の男性に愛を伝えながら、一途に死んでいきます。その強さや優しさ、娘としての華やかさをきちんと表現したいです」
中村児太郎
お三輪は、子どもの頃から印象に残る役だったと児太郎。
「10歳頃、父のお三輪に、なんて素敵な娘だろうと思ったのが最初の印象です。色々な役の経験を重ね、2015年の平成中村座で、橘姫を勤めました。七之助さんのお三輪をみて、会いたい一心でやって来た女の子が、色々な方にいじめられ、耐えられない恨みを重ねていく。でもそれは、一人の男性を愛したからこそ出た思いで、恨みだけれど恨みではない。嫉妬だけれど嫉妬ではない。心優しい愛があると感じました。その後、玉三郎のおじさまが歌舞伎座でお三輪をなさった時、橘姫で出させていただきました。通しで上演され、お三輪、求女、橘姫の三者三様の流れに、あらためてなんて素敵な役なんだと感じました」
中村児太郎
お三輪は、玉三郎に習うという。「父にもしっかり習いたい」とも語り、舞台稽古には海老蔵も立ち会う予定なのだそう。歌舞伎を演じる上で大切にするのは、芯を決め、役に徹すること。
「今回に限らず、玉三郎のおじさまは、役の芯を決めておくことを大事にするようおっしゃっています。お三輪であれば、一番大事なのは求女への思いです。その気持ちが常に芯にあり、役に徹して表現すること。極論ですが、台詞が分からくなったとしても、芯があればお客様には伝わるものだと。形がきれいでも芯がなければ、お客様には伝わりません。『阿古屋』でも、そのように教えていただきました。『金閣寺』の雪姫を習った時は、“成駒屋の型でしっかりやりなさい。気持ちであったり、ここはこう思うといい……といったことは教えます”と。今回、お三輪の、求女への死んでも恋しいと言えるくらいの思い。その芯を、自分の中にしっかり作っておくようにと伺っています」
なお『乗合船』では、女船頭を勤める。
■豪放磊落かつ実直な武士として
『妹背山』で漁師鱶七(ふかしち)役を勤めるのが、九團次だ。鱶七は、入鹿の御殿に漁師としてやってくる。しかし、その正体は藤原鎌足の忠臣・金輪五郎という武将だ。
「役は、市川左團次さんに習います。今回は(鱶七が漁師として)上使にくる前半はやりませんので、後半の豪放磊落かつ実直な武士として演じます。『妹背山』は物語を通して、ファンタジーなところがあります。金輪五郎は、最後の切り札をしめる非常に大事な役。立役としても憧れの大役です。しっかり習い、ご披露させていただきたいです」
市川九團次
『乗合船』では、萬歳を勤める。
「鱶七とは変わって、洒落のある楽しいお役です。スカッと楽しんでいただき、ほわっと幸せになっていただけますよう、寿いで踊らせていただきます」
海老蔵が出演する舞台は、コロナ禍においてもソールドアウトが続いている。海老蔵の舞台に立つことが多い九團次にとって、「大入り満員の客席が当たり前の景色になっていますが、今回のような公演では、大きなお役を自分のものにする苦労だけでなく、お客様にチケットを買っていただく苦労もあります。大変なことですが、それ以上に喜びも学びもあります」と率直な思いも語っていた。
■お客様への一番の感謝の表し方
廣松は『妹背山』の求女(もとめ。実は藤原淡海)を勤める。お三輪に好かれる役どころだ。
「祖父(四世中村雀右衛門)や、おじ(五代目中村雀右衛門)が出演するのを小さい頃に拝見しました。求女は、二枚目ですが芯がある。ふわふわしているようでとても強い、内に秘めるものがある役だと感じました。それを表現できるようがんばります」
役は、中村梅玉に習う。この時期の公演に感謝を述べ、次のように語った。
「いいお役で、いい舞台に立たせていただくことが、応援してくださるお客様への一番の感謝の表し方だと思っています。諸先輩に教えていただく機会が少なくなっている中、海老蔵のお兄さんの名前まで貸していただき、舞台に立てることは幸せです。『いぶき、』の『、』(てん)、次につながる公演となるよう、たくさんのお客様にみていただければと思います」
大谷廣松
『乗合船』では才造を勤める。
「国立劇場の勉強会で一度だけやらせていただきました。またできることを嬉しく思います。楽しく皆様にご覧いただきたいです」
■児太郎、九團次、廣松、お互いの印象は?
会見中、しばしば気心知れた仲であることをうかがわせる3人。お互いの印象を次のように語った。
児太郎は「私がはじめて相手役をさせていただいたのが、九團次さんです。最初の相手役は、嫌でも思い入れがあります(笑)。廣松さんは年も近く、良き相談相手です。巡業公演の中で、今までになく、お互いに考えていることを意見交換できたように思います。舞台の中ではライバルですから、お互いに胸をぶつけあい、良い芝居ができればと思います」と語った。
九團次は「巡業でかなりの時間を共に過ごしています。お二人とも息があいます。児太郎さんは、あまのじゃくなところもありますが、しっかりとした方で皆をよく見ていて、優しく気を使ってくれます。廣松さんは私の肌荒れにも気づいてくれ(笑)、薬をもってきてくれたり。そういった優しさがあります」と笑いを誘った。
九團次のコメントが脱線しかけると、すかさずサポートに入る児太郎。
廣松は「児太郎さんとは、建て替え前の歌舞伎座で、お互いのおじいさんの楽屋が向かい合っており、挨拶に行くと顔をあわせる間柄でした。3月の全国巡業をきっかけに、色々な話をするようになりました。しっかりしていて芯のある方ですが、僕からみると昔から変わらないいたずら好きな面もあります。お芝居への思いは負けていられないなと思います」と顔をあわせた。そして「九團次さんは、いつも“お松”と呼んでくださり、気にかけてくださいます。親の顔より見ています。見飽きてきたくらいです」と穏やかなトーンで、一同を笑わせていた。
『いぶき、』は、京都・南座で6月17日(木)より4日間、7回の上演。児太郎は、「最初から最後まで出ずっぱりです。今、これだけ奮闘させていただく機会はありません。自分の体に鞭をうち舞台にのぞみます。感謝と幸せな思いです」と、笑顔で結んでいた。
取材・文・撮影=塚田史香

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