ヒグチアイ、大きな進化を遂げる202
1年は「ミーハーでいたい」ーー舞台
初出演、レコード会社移籍、環境の変
化のなかで感じた想いとは

年間150本以上のライブを行いながら、自主制作CDも販売して、2014年にファーストアルバム『三十万人』を全国リリース。2016年にはメジャーデビューして、2020年は初のベストアルバム『樋口愛』も発表した彼女。2021年の今年は本格的に大きく動き出そうとしている。2021年3月末から5月3日(月・祝)まで、中山優馬主演のシンフォニー音楽劇『蜜蜂と遠雷~ひかりを聴け~』に出演して神奈川、大阪、福岡と回り、レコード会社もポニーキャニオンへと移籍して、吉田羊・國村隼主演ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京系)エンディングテーマ「縁」も4月16日(金)に配信リリースされた。確実に良い風が吹いている話題を耳にするので話を聞いてみると或る意味予想通りだが、本人は全く浮かれる事が無く、逆に驚くくらいに慎重に向き合っていた。だが、このインタビューを読んでもらったらわかるように、しっかりと彼女は変化しながら、ゆっくり確実に前へ進んでいる。もう彼女の事を何も心配する事は無い。ようやく遂に、この圧倒的な才能が大衆的に知られようとしている。後は、わくわくしながら彼女の活躍を見守るだけ。今の状況が何よりも嬉しい。
――昨年、ヒグチさんは新曲が書けないと仰ってましたよね。だから、今回新曲「縁」が発表されて本当に嬉しいし、今年は曲が書けているんだなと思っているのですが。
曲は書けないです(笑)。年に2回くらいは曲を書ける時があるんですけど、この時に人に会うと曲が毛穴から漏れちゃうので、人に会わないようにしていますね。そんなに自分の曲を書けていない時に言うのも、あれですけど、やはり曲を書いていないと書き方がわからなくなるんですよ。でも、本当に昨年から提供曲や共作で誰かに書く事が多くなって、自分が曲を書けているような錯覚になって……。今回もドラマのタイアップで、それも原作がある作品なので、曲を書くのは楽でしたね。まぁ、作業的には自分の曲を書く時と変わらないですし、自分の中から出てきた曲ではありますが、依頼される時は、誰かから「曲にして良いよ」と言ってもらっている感じがあるんですよ。自分用に作る曲だと「誰も共感してくれないんじゃないか?」とも思いますし、そんな事は誰も求めていないような事を曲にしたくなったりもします。
――普段、自分用に書く曲と人から依頼されて書く曲の違いが、そんなにあるんですね。
依頼してもらって書くのは、自分の曲を書くよりずっと楽です。0では無く1から書ける事になりますから。それでも、1から100は私が広げないといけないので、そこの心配はあります。でも、今回も依頼して下さった方は自由に曲を作らせてくれましたし、やりやすかったです。まぁ、普段と全然違う脳みそは使いますけどね。わーすたに「春花火」を楽曲提供した時に思ったことですが、声によって届く情報量も違うから、その人の声質に合わせた曲を書かないといけないと思いました。特に彼女らは若さもあるし、5人もいるし、均等に良さを出せる曲を書かないといけなかったんです。とっても良い曲だったけど、もっともっとわかりやすくして良かったんだなとも思っています。自分の曲と比べたら、濃さは10分の1くらいですけど、100分の1くらいの濃さでも良かったし、そんな曲も書いてみたいです。性格的に譲れないところは譲れないし、そこが自分らしさになったらいいですね。
ヒグチアイ
――自分の曲が書けない時でも、人に提供する事が出来るのは大きいですよね。
自分が曲を書けない時でも人に提供する事が出来るかもと思った事は、今までもありましたね。自分を削ることに限りがあるので、どんどん難しくなるんです。そこには、ずいぶん前から気付いていましたね。
――例えば、作詞作曲を人に任せて自分は歌うだけという事も、曲によっては使い分ける人もいますけど、ヒグチさんはそういう感じでは無いですよね。
あまり歌う事だけに興味が無いというか、歌に凄く自信があるわけではないので。
ヒグチアイ
――でも、昨年、MOROHAのアフロさんに歌詞を提供してもらって、ヒグチさんが作曲されて歌った「シャボン玉」は本当に素晴らしかったです。普段のヒグチさんの楽曲とは、また違う抜け感があったというか。
意味の無いもの、理由の無いものはやりたくないんですけど、「シャボン玉」の時みたいに何かしっくりくる共感があればやりたいですね。例えば、作詞作曲をそれぞれ任せて、歌う私を入れると3人になりますけど、人数が増えて責任が色々なとこにあると、自分がやる意味を感じなくなるんです。自分が納得しないと何も出来ない。今回のドラマも原作者であるジェーン・スーさんの大切な物語を使って出来るわけですし、その曲を担当するにあたって、自分の責任を持ちたいと思いましたね。だけど、その世界を汚したくないですし、わからない事も書きたくないですから。自分の世界とドラマの世界の交わる部分を探す作業は大事な事でしたね。今回、舞台に出演したときも、意味のないことはやりたくないので端から端まで理由をわかっておきたくて。
――そういう点で舞台は物凄く関わる人が多いですから、今回の舞台をやりきれているのは素晴らしいですよね。
今回は主演の中山優馬君が熱い気持ちを持っているし、ちゃんと向かい合っている人ですから、私も入る事が出来ましたね。
ヒグチアイ
――ヒグチさんは自分が無くて、どこにでも無難に馴染みますというタイプでは無くて、しっかりと自分のポリシーを持っている人ですから、そういう人が舞台のカンパニーでも自分のポリシーを活かせられたことは理想的だと思います。
私みたいに反発するタイプは色々と物を申すので、普通ならば呼ばれなくなりますから(笑)。でも、今回の舞台を体験して、人と喋るのが上手になりましたね。オーケストラだけで60人、キャストも15人とかいる中で、人の事を嫌いにならず最後まで出来たので、「素晴らしい!」と私を褒めてあげたい!
――褒めてあげてください(笑)。舞台という未知の世界を怖がらずに断らずに飛び込まれたのは、改めて素敵です。
舞台は「やってみない? 無理しなくていいよ」と言われたんですけど、そう言われると絶対にやりたくて。人に期待されるのが好きなんですよ。ピアノを弾く役でしたし、私じゃないと出来ないと思えましたし。
――昨年からコロナ禍になり、まだ今年も大変な状況ではあります。そんな中でヒグチさんは新しいレコード会社に移籍されて、ドラマのタイアップ楽曲も担当して、初舞台にも出演されて、2021年はむちゃくちゃ良いスタートダッシュですよね。
(今年の)最初に良い事が固まってしまったので、この後、失速しないか心配ですが。でも、本当に偶然色々重なっただけで、ラッキーでしたね。自分は何も変わってないですから。
――ドラマに提供された「縁」は声もメロディーもサウンドも明るくて、新しい始まりも感じました。
こういう明るい歌い方は凄い好きなんです。でも、これを作っちゃうと明るいライブをしないといけない気がして、それが心配です。私が明るい人間だと思われて、私のライブに来られるのは困るかも(笑)。最近、Instagramをフォローしてくれる人も、大学でラグビー部や野球部に入っている子だったりするんです。そういう人たちは、私の曲を聴かないでしょうと思うけど(笑)。
ヒグチアイ
――いやいや、そういう普段ヒグチさんを聴かなそうな人たちがヒグチさんに辿り着いて、よりヒグチさんの曲を聴くようになってくれるのが最高ですから。
「縁」という入り口があって、そこから他の私の曲も聴くのって、その人にとったら特別なドラマだと思います。その特別なドラマを作れるのは今だし、大切にしていきたいですね。そういう人たちのInstagramの写真だけを見ていると、キャンプで川下りしたり、サングラスをして海外旅行をしていたりと、普段ならば私と友達にならないタイプだけど(笑)、私の曲を良いと思ってくれるのは何かしら闇を抱えているのかも知れないですからね。どんな人にも私の曲が当てはまる瞬間があるとは思っているし、私を見つけてもらって嬉しいです。
――だから、もう本当に次の展開が楽しみで仕方ないです。
次がねぇ……、どうしよう……という……。今はひとつひとつの点が強くないから、みんなすぐに忘れちゃう。今は「もっとドラマがバズって欲しい!」とかは思いますけど(笑)、自分の出来る事は次の曲ですから。
ヒグチアイ
――もっと、今の上手くいっている状況に浸っていても良いのにそうでは無くて、しっかりと現実と向き合って、浮足立たずに次の展開を見据えているのは、非常にヒグチさんらしいですね。
いつも反省点ばかりですよ。良い状況に対しても、最初は「わぁ!」となるけど、寝て起きたら、すぐ普通に戻りますね。1日だけは幸せですけど。仕事が出来る人は打ち上げで盛り上がっても、次の日からは切り替えられるらしいんですね。だから、私もそういうふうになれたらいいなと意識してる部分はあります。私も十何年は(音楽も)がんばってきましたけど、すべての良い事はラッキーで出来てると思うので。だから、チャンスが掴めなくても落ち込みすぎないようにしようとしています。本当は今も自慢とかしたいですけどね。「今の私、凄くない?!」と言いたい! この間も知り合いに「ドラマを観ていたら、偶然(「縁」が)流れてきた!」と言われて、こういうのは事前に言うものなんだなと(笑)。でも、事前に言いすぎて鼻についたら嫌だし、自慢しておいて落ち目が来たら笑われるのが嫌だなとか思うんです。だから、なるべくなるべく活躍していないように見せたい(笑)。でも、何て言うんだろう……、全ての有難い事は本当に嬉しいですよ。
――ヒグチさんみたいな揺るぎない自分を持っている人が、それだけで満足せず、先程の舞台の話もそうですけど商業的な事に挑戦し続けて、多くの人に知られていっているのが、本当に嬉しいんですよ。
ミーハーで居続ける事は凄い大事ですよね。今は、すぐに情報に置いていかれますから、何でも面白がって飛びつけるようにしていきたいです。そこは歳を取ってから変わった事かも知れないですね。昔は、もっと個性を強くとか、色んなものに影響されないようにとかしていたけど、今は色々と聴いても観ても、そんなに自分は変わらないですから。器用じゃないから、だから何でもやった方が良いんです、私は。
ヒグチアイ
取材・文=鈴木淳史 撮影=ハヤシマコ

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