渋沢栄一役の吉沢亮(左)と渋沢喜作役の高良健吾

渋沢栄一役の吉沢亮(左)と渋沢喜作役の高良健吾

【大河ドラマコラム】「青天を衝け」
第十三回「栄一、京の都へ」 栄一と
喜作「生涯の相棒」の新たな魅力を引
き出した珍道中

 慌てて荷物をまとめる喜作(高良健吾)の様子を見た栄一(吉沢亮)は、「おい、何してんだ?」と声を掛ける。すると喜作が「え、逃げるしかねえだんべ!」と答え、それに続いてこんな珍問答が行われた。
 「どこへ?」(栄一)、「えっ、どこかしらに。 長州か、もっと先だ」(喜作)、「そんなつてのねえところへ行ったって、捕まるだけだんべ。もとより、行く所がねえから、ここにいるんでねえか」(栄一)、「あー、そうだった…。しかし、どうする? 進退窮まったぞ」(喜作)、「弱音を吐くない。2カ月前に京に来たときのあの威勢はどこへ行っちまったんだ」(栄一)、「おまえこそだい」(喜作)、「はあ…」と、腰を落としてうなだれる栄一と喜作。
 5月9日放送の大河ドラマ「青天を衝け」第十三回「栄一、京の都へ」の一幕だ。長七郎(満島真之介)が捕まり、自分たちが送った攘夷の決意を記した手紙が、役人の手に渡ったことを知った栄一と喜作は、京の宿屋で慌てふためく。こうしてせりふを書き出してみただけでも、2人の凸凹コンビぶりが脳裏によみがえり、吹き出しそうになる。
 この回から舞台を京都に移し、「一橋家臣編」がスタート。五代才助(友厚/ディーン・フジオカ)、土方歳三(町田啓太)、大久保一蔵(利通/石丸幹二)など、物語を彩る新たな人物が多数登場し、華やかな幕開けとなった。物語の方も、栄一が人生の一大決心を固めたシリアスな前回から一転、喜作と2人で繰り広げる珍道中が、幕開けにふさわしい明るさとにぎやかさを醸し出していた。
 振り返ってみれば、これまで、栄一と喜作は番組公式サイトなどで「生涯の相棒」と言われながらも、2人で向き合う機会は意外と少なかったように思う。
 すぐに思い出せるのは、千代(橋本愛)との結婚を巡り、剣術で勝負したときぐらいだろうか。その他の場面では、仲間と一緒にワイワイやっていることが多く、今一つ“相棒感”が希薄だった。
 だが、今回、2人きりで京まで旅をしたことで、一気に相棒感が開花。しかも、かつて知ったる広大な故郷・血洗島とは違い、見知らぬ土地で小さな部屋に押し込められたことで、その居心地の悪さがより相棒感を高めていた。
 例えば、平岡円四郎(堤真一)の留守宅で妻・やす(木村佳乃)と面会した場面。平岡家の家臣であることを示す証文(不在の円四郎が事前に2人のために用意しておいたもの)と引き換えに、「これを受け取るからには、あんたたち、きっちりうちの人の家臣になるんだろうね?」と迫られる。
 京まで無事に旅をするため、証文は欲しいが、仕官するつもりはない…。口ごもる喜作の横で、栄一はしれっと「はい、忠誠を尽くします」と言ってのける。前回、「俺は自ら死ぬなんて、二度と言わねえ」と涙ながらに語った男とは思えないしたたかさに意表を突かれ、思わず笑ってしまった。
 また、京の宿屋で所持金を使い果たし、途方に暮れる場面。栄一にはぎとられた布団を引き戻して再び丸くなった喜作は、「ああ…どうしているかな、よし(妻)のやつ…。俺がいねえで、寂しい正月だったんべなあ…」とぼやく。その意外なかわいらしさ。
 いずれも、今までとは一味違う2人の個性が垣間見えた場面だが、仮に2人きりでなく、他の家族や仲間が一緒だったら、同じやり取りが成立しただろうか。そう考えると、やはり栄一と喜作は「生涯の相棒」なのだと思えてくる。
 史実をひも解くと、栄一と喜作にはこの先それぞれ、波瀾(はらん)万丈な人生が待ち受けている。その中で、「生涯の相棒」としての2人の絆がどんなふうに作用していくのか。ドラマにまた新たな見どころが加わった第十三回だった。(井上健一)

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