大柴広己

大柴広己

【大柴広己 インタビュー】
新世界と旧世界、ふたつの世界を
ちゃんとつなぎ止める
ピースがあるべき

真っ暗な中でクソボロになっても
光を探しながら歌ってる俺がいる

そんな中、リリースされるのが約2年半振りのアルバム『光失えどその先へ』で、そのタイトルからしてコロナ禍での想いを強く感じました。

いや、それがね、2018年に前のアルバム『人間関係』を出した時から、次のアルバムタイトルは“光失えどその先へ”にするとマネージャーにも言っていて。

コロナ禍は関係なく?

そうそう。俺のアルバムって実は全部が連なってるんですよ。14年にレコード会社を立ち上げた時から“L”をキーワードにしたテーマがあるんです。14年の『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかった』はテーマが“LOVE”。愛を持ってどう生きるのかが大事だと。だから、“LOVE”の先には“LIFE”があるということで、『Mr.LIFE』というアルバムを16年に出したんです。で、愛を持ってどう生きたいか分かってきたと。俺はやっぱり過去にすがるんじゃなく、今とこれからを“LIVE=生きてきたい”と。そう確信して、次にライヴアルバム『MOJA MOJA LIVE COLLECTION VOL.2』(2017年発表)を出し、生活において一番大切なのは人間関係だということを3つの“L”から気づいて、18年のアルバムを『人間関係』にしたんです。今回はその次になります。

なぜ、ネガティブさも感じる“光失えどその先へ”というイメージが降りてきたんですか?

構築された豊かな人間関係と生活は、いずれ絶対になくなると思ったんですよ。楽しい時間はいつか終わるけど、その現実に人はなかなか向き合わない。光が強ければ強いほど、影は生まれるんです。そこから逃げたくないと思ったら、次に来るのは“LOST”じゃないかと。結局は失うことになるけど、俺はその先の“光=LIGHT”を求めたい。気持ちを楽に、“軽く=LIGHT”。その3つの“L”から“光失えどその先へ”というタイトルが生まれたんです。そうこうするうちにコロナ禍になって…本当に世の中のほとんどが“LOST”されてしまった。その中でどうやっていけばいいのかをすごく考えて書いた曲が、11曲目の「LIFE GOES ON」なんです。

長年ご一緒されているベースの荻野目 諒、ドラムの沖田優輔さんとのタフな3ピースサウンドも聴きどころですが、レコーディングはいかがですか?

今まではスタジオを借りて録ってましたけど、今回は「男の子⇄女の子」以外は全て宅録なんです。沖田くんの自宅が8畳の和室を防音改造してて、そこでレコーディングエンジニアも入れず、全部自分たちだけで録りました。

まさにニューノーマルですね。タイトルチューンの「光失えどその先へ」やオープニングの「エビデンスステイホームレガシー2020〜2021」にも、コロナ禍における大柴さんからの新たなメッセージが込められているように思えます。

今回の11曲というのは、20年間で初めて僕にとっての東京を歌った「東京」から録り始め、世の中に文句がある曲、“光失えどその先へ”というコンセプトに近いものを録り重ねていって、最後に辿り着くメッセージを違う雰囲気のサウンドで「エビデンスステイホームレガシー2020〜2021」や「光失えどその先へ」として出していったんです。しかも、この2曲はレコーディングも、それまでとまったく違う方法でした。僕の頭の中で鳴っている曲の構成をギターで弾いて、ドラムとベースのふたりに“ここはサビで、ここは間奏で~”と教えながらその場でセッションして、トラックだけ先に全部録っちゃったんです(笑)。

歌詞もなく?

そうそう。“これに歌詞つけてくるわ”と言って、翌日またスタジオで歌を入れていくという。まずは、“俺、こんなすごい曲作れるんだぞ!”とバンドメンバーをびっくりさせたかったんですね。そもそもシンガーソングライターの俺は“世の中をびっくりさせる歌を歌いたい!ってところから始まってるので、そこに原点回帰したんです。歌詞も集中してゾーンに入ると、自動的に口から出てきて。10年一緒にやってるメンバーだからこそできたやり方ですね。

歌詞は世の中に訴えたいことが自然に湧いてくる感じですか?

そう。自分の想いのままの言葉がね。「光失えどその先へ」なら“逃げることも選択肢のひとつだよ”と。先に光があるんだったら今は逃げることが正しいので、“戦え!”じゃなく“ESCAPE”と叫びたかったんです。「エビデンスステイホームレガシー2020〜2021」もそういう作り方をしていたら、日々イライラしてることが全部出てきたんです。サビだって《他人の話はちゃんと聞いとけ/自分の欲望はちょいと置いとけ》とか《新しい価値大事にしとけ/何かが終わるまでは黙っとけ》と言っといて、そのすぐあとには《もういいわ どーでもいいわ/ってゆーな ゆーな ほんま コロナか?》と歌ってるから“どっちやねん!”ってなるじゃないですか。何も言ってないんですよ、このサビ。面白くないですか?(笑)。

大柴さんは大阪出身だそうですが、大阪の人ってズバズバ言いたいことを言ってても、最後は“知らんけど”で締めるって言いますよね(笑)。

あははは。ほんま“知らんけど”ですよ! 結局、俺が言いたいことの本音は“ほんま寂しいぞ”と“ほんま会いたいぞ”のふた言だけ。部屋飲み、飽きたよなと(笑)。

この2曲はサウンドもすごくエモーショナルでブラックだし、そこに大柴さんの力強いヴォーカルが乗ってグルーブが渦巻いているのが、めちゃめちゃカッコ良いです。

「エビデンスステイホームレガシー2020〜2021」ではラップをやったり、4オクターブのコーラスを入れたりとてんこ盛りですよ。最後はオープニングにイントロが欲しいって話になって、マイクに向かったらいきなり噺家の人が僕に降りてきたんです(笑)。急に落語みたいな語りを始めたからバンドメンバーもみんな目が点になってたし、“こいつ、何言ってるんだ? 大丈夫か?”ってびっくりして、大笑いしてました(笑)。

エモい曲という意味だと「学年で一番ヘンテコな先生」は泣けました。小学生の男の子が、みんなに嫌われていた変わり者の担任の先生から、友達にも笑われていたマンガ家になる夢を励まされて、先生を大好きになっていくっていう。これは実話ですか?

はい、まさに。初めて俺の人生をバカにしないで受け止めてくれたのが、この先生でした。細かいエピソードも全部本当のことです。教科書にマンガばかり描いている俺に“クラスにマンガ係を作れば、君がマンガを描いてても怒られへんね”って新しい係を作ってくれたんですけど、マンガが学校で流行りすぎて親からも苦情が出てしまい…結局、一年で先生は辞めさせられちゃったんです。この曲の原型は5年くらい前に浮かんでたんですけど、歌詞を書いていたら涙が止まらなくて、全然曲にできなかったんですよ。今になって、やっと完成させることができました。その先生が今どうしてるかはまったく知らないんですけど…感謝の気持ちが本人にも届いてくれたらいいなって思います。

そして、アルバムラストは《明日には明日の風が吹くから/後悔するな 進め 進め》とポジティブなメッセージを伝える「LIFE GOES ON」で締め括られるわけですが。

それは僕がそう言ってもらいたい言葉なんですよ。真っ暗な中、クソボロになって、それでも光を探しながら歌ってる俺。こんなアホみたいな人生なのに、それでも人生は美しいと思いたい俺って何やろう?…みたいなね。俺が主催している『SSW』というフェスも昨年は恒例の大阪野外音楽堂から無観客配信で実現しましたけど、こんな状況下で何を歌ったらいいのかが分からなくて、開催を迷ってたんです。でも、この曲ができたことで、俺の伝えたいこと、大柴広己が大柴広己に歌ってやりたい曲はこれだと、ステージに立つ勇気が出ました。

全てが本物の想いだからこそ心を打たれる一枚です。さらに本作には昨年2月に新宿で行なわれた弾き語りワンマンを音源化したライヴアルバム『THE PREVIOUS WORLD』が急遽ダウンロード封入さたという。

このライヴは旧世界…コロナ禍前にやった最後のワンマンなんです。そして、アルバム『光失えどその先へ』はコロナ禍以降の新世界を歌っている。そのふたつの世界をここでちゃんとつなぎ止めるピースが必要だと思ったんです。“旧世界はこうだったけど、ここからはこういくよ”という自分の姿を、今こそ両方残しておきたかった。ライヴ盤なので「さよならミッドナイト」などの代表曲も入っていますしね。“大柴広己って何者?”という方にも、ぜひ聴いてもらえたら嬉しいですね。

取材:阿部美香

アルバム『光失えどその先へ』2021年5月26日発売 ZOOLOCATION
    • ZLCT-1006
    • ¥3,300(税込)
    • ※ライヴアルバム『THE PREVIOUS WORLD』ダウンロード封入
大柴広己 プロフィール

オオシバヒロキ:1982年8月27日生まれの大阪府枚方市出身。ギターと旅行鞄を携え、1年のうちの1/3を旅の中で過ごす、印象的な天然パーマ、 ハット、あごひげが特徴的な“旅するシンガーソングライター”。2006年アルバム『ミニスカート』でデビューし、ニコニコ動画においても「もじゃ」名義で活動中。代表曲「さよならミッドナイト」「ドナーソング」「彼の彼女」「聖槍爆裂ボーイ」などの関連楽曲再生回数は5,000万回をゆうに超える。近年では、ディレクター、プロデューサーとしての手腕を発揮し、ミュージシャンによるレーベル『ZOOLOGICAL』を主宰し多数の作品をリリース。シンガーソングライターによるマイク一本の弾き語りフェス『SSW』や、上海や台湾などのアジア圏で弾き語りフェス『GUITARS』を主催するほか、CM作家としても活躍。作詞家としてダンスヴォーカルユニットや演歌歌手へ歌詞を提供するなどさらにマルチに活動を続けている。21年5月26日に2ndフルアルバム『光失えどその先へ』を発表した。大柴広己 オフィシャルHP

「エビデンスステイホームレガシー
2020〜2021」MV

「光失えどその先へ」MV

OKMusic編集部

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