前島麻由

前島麻由

【前島麻由 インタビュー】
答えが出ないことを
動と静で表現した

現在放送中のTVアニメ『究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら』のOPテーマ「ANSWER」を歌う前島麻由。スピードに乗って次々に英詞が繰り出されるこの曲を歌いこなすのに、彼女は久々にある方法を取ったという。自由自在に歌詞を操れるようになるまでの過程、さらに彼女の信念が反映された歌詞について訊いた。

“歌えるんだろうか”?という
ハラハラ感しかなかった

「ANSWER」はゴリゴリのロックナンバーですね。今回、こういった楽曲になった背景を教えていただけますか?

私は中高と軽音楽部で、ルーツにロックがあるんです。ソロで出したアルバム『From Dream And You』(2019年9月発表)もベースはロックでしたし。前シングル「Long shot」(2021年2月発表)がEDMも混じったようなアプローチだったので、次はもう少しロックにしたいと作曲をANCHORさんにお願いしました。

マシンガンのように言葉が畳みかけてくるナンバーだし、ほぼ英語なので、歌いこなすのが非常に難しいのではないかと思ったのですが、曲を聴いて最初はどんな印象を持たれましたか?

“これはまた大変なものが来てしまった”と思いました(笑)。ロックは私のルーツなのですが、スピード感があったり、言葉数が多かったり、ちょっとラウドっぽい感じが入っているロックというのは、歌ってきたジャンルではなかったので。ルーツどころか、新境地をやるような状態でした。聴いた段階からすごく不安になって、“大丈夫かな? 歌えるんだろうか?”というハラハラ感しかなかったですね(笑)。

前島さんにとって新境地だったのですね。

はい。スピードは速いし、言葉数も多いから、口を回すのも大変な部分があって。“これはまず、口を回すところからやらなくてはいけない!”という感じでした。頭の語りの部分が口を回すのが一番速い部分だったので、私が小学生の頃に洋楽を完璧に歌えるようになりたいと思ってやっていた手法を久しぶりにやりました。

それはどんな手法なのでしょうか?

耳で聴いたままの言葉をカタカナで書くんです。例えば一番頭の《This world’s always》という部分だと、単語読みで“ディス・ワールズ・オールウェイズ”と書くのではなく、“ディスオーゾエス”と聴こえたままの言葉で書いて、ひたすらそれを言えるまで言う。そして、言えるようになってきてから、ひとつずつの単語をちゃんと意識する。“This world’s always”だから“world’s”の発音が入っているので、カタカナで“ディスオーゾエス”と書いていたものを“ディスワールゾーエス”に変えて、しっかりひとつずつ単語にしていく…ということをやっていました。でも、最近はそんなに口が回らない曲を歌っていなかったから、“この作業、久しぶりだな”といった感じで。時間もあまりなかったし、カタカナで言えるようになるまで移動中もひたすらずっと聴いていましたね。家にいる時は書いたものをもとに何回も言う。一回言えるようになれば、あとはどんなに早くしても大丈夫になるんです。

すごい! その方法は誰かからのアドバイスだったのですか?

自分なりに編み出しました(笑)。私は小さい頃から負けず嫌いの完璧主義で、その性格がずっと変わってなくて。耳で聴こえてきた通りにやれるようにならないと嫌だけど、単語自体もパーフェクトに分かって、ちゃんと言いたい…という欲張りセットみたいな感じでした(笑)。

英詞の歌を歌いたい人には、とても参考になるお話ですね。そして、作詞はシンガー、ラッパー、ナレーター、作詞作曲家、プロデューサーなどマルチに活躍されているAIJさんが担当されているという。

AIJさんは英語をネイティブに話せる方なので、英語はリズムの言語であるというところをきちんと踏まえた上で、歌詞を書いてくださっている印象がありますね。私自身は内容の前にリズム感に注目しまして…韻の踏み方、そして今回は特に速いメロディーで言葉数が多いから普通の洋楽みたいな乗せ方は難しいと思うんですけど、その中でしっかりリズムが立つような言葉選びをしてくださっているので、そこが歌としての魅力だなと感じました。

なるほど。

そして、内容に関しては、私の印象としてアニメのオープニングは頭から1番が終わるまでのワンコーラスの中に、起承転結がある歌詞が多い気がするんです。例えば主人公のキャラクターがもがいたり迷いながら歩いているシーンから始まり、バトルになり、Bメロくらいから徐々に光が差してきて、サビでは答えが見つかったり、“それでも前に進むんだ”と決意したりする。そして、最後にタイトルかロゴがバーン!と出て、他のキャラも登場して終わる…という。でも、私は前に進めないからこそ歌や言葉にしている人間なので、正直言うと起承転結はいらないんです。迷ったり、つらかったりしても、そのまま終わっていい。それはAIJさんにお伝えしました。悩んだからって答えが見えてくるわけではないし、“何でもいいから答えを教えて”と少し投げやりなのですが、そのほうが人間らしいと思うんです。個人的にはいい意味でグルグル回った状態のままで終わっているところが好きですね。なので、私の思考回路に沿っていただけている気がしました。

確かにオープニングだと盛り上がる内容にしようと考えるのが一般的だと思うのですが、そのアプローチでなくても表現方法はあると。

曲の展開にドラマが十分あるので、内容も一緒に解決しなくていいなと。日本語詞の場合は聴いていると自然に内容も頭に入ってくるから、曲自体も絵も盛り上がっているのに内容だけずっと解決できないでグルグルしている感じだと、多少の違和感が生じてしまう方もいらっしゃるかもしれない。でも、「ANSWER」は英詞がメインなので、いい意味で内容が伝わりにくいから、解決できずに答えを探し続けて葛藤しているという内容の歌詞であっても、音楽としてはいいのではないかと思っていて。どちらかと言うと、最初に言った英語のリズム感や言葉が立ってる感じで、純粋に音楽を楽しんでいただけるから、それで歌詞が気になったほうが、内容を知った時に“こんなに葛藤しているままの曲だったんだ!?”という驚きがあったら、それはそれで新鮮な楽しみ方にもなるんじゃないかという気がします。

特に前島さんが好きなリズム感の部分はどのあたりですか?

Aメロの《Sick of black,white, what is right?》とか、韻をふみつつリズムが立っているのが顕著かなという気がしています。サビも韻を踏んでいるけど、基本的にはAメロの感じが好きです。あとは、2番の頭の《Sick and tired of this wacky ordinary》とかは歌う時も楽しいんですよ。もちろんつなげても歌えるんですけど、その時の気分やフィーリングでいかようにもできるのが個人的には洋楽というか、英詞の楽しいところだと思っているんです。英語はわざと明るくも歌えるし、“レガート(音を滑らかにつなげて発声すること)に歌わないで切ることによって、こういう歌い方ができる”とか、そういったものを出しやすい言語な気がしていて。この先、ライヴをするとなった時、もしかしたらCDとは違う歌い方をしているかもしれないし、その時の自分のフィーリングで好きにやれるのが楽しいところだとも感じています。

“耳で聴こえたものをカタカナでメモしていき、それを修正して完成させていく”という方法は真似する人も増えそうです。

レコーディングの時も自分で書いた歌詞カードを持参しました(笑)。しかも、カタカナを鉛筆で書いていて。消しゴムで消せないとダメなんですよ。それのフルコーラス版なので、テープで各ページをつなげているという。これをいつかグッズで販売できたら面白いと思っているんですよ。聴いたままのカタカナが入っている前島練習法みたいなポストカードで、それを見てみんながそれで歌えるようになったらいいなって(笑)。
前島麻由
シングル「ANSWER」

OKMusic編集部

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