コロナ禍において演劇の未来はどうな
る? ネルケプランニング・野上祥子
社長が語る【インタビュー連載・エン
タメの未来を訊く!】

エンタメビジネスの未来について、各業界の識者に話を訊くインタビュー連載「エンタメの未来を訊く!」。第6回は、2.5次元ミュージカルをはじめとするさまざまな演劇作品を世に送り出してきたネルケプランニングの代表取締役社長・野上祥子氏にインタビューを行った。

新型コロナウイルスの感染拡大によって大きな打撃を受けた昨年から今年にかけても意欲的に新作の上演を行い、公演のライブ配信などオンライン展開もいち早く手掛けてきたネルケプランニング。危機の渦中にあってもひときわエネルギッシュに動いてきたのは何故だったのか。その背後にある熱意と思いを語ってもらった。
――まず、新型コロナウイルス感染拡大によって大きな影響を受けた昨年を振り返って、野上さんとしてはどう感じていますか?
本当に目まぐるしい一年でした。自分の記憶を呼び起こすのも大変なぐらい忙殺の日々でしたね。弊社が最初に影響を受けたのは「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」THE MUSICALという作品でした。2020年3月に開幕予定だったので、通し稽古も終えて、劇場にも入って準備していたのですが、それをお客様の前で見せることなく中止しなければならなくなりました。それを受けて、無観客での上演を収録したものを配信することに切り替えました。その時に強く実感したのが、キャストたち、それからチケットを買ってこの日に観に行こうとスケジュールを決めていたお客様方のものすごく大事な機会を奪ってしまったのではないかということだったんです。ある一日の、たった2時間かもしれないけれど、それが大きな衝撃でした。泣いているキャストの姿、落ち込みながらも次に進むために切り替えているスタッフたちの姿も見ました。今までだったら楽しむために出かけていたのに、怖くて外出を控える決断をしたお客様もいらっしゃったと思います。こんなに悲しいことがあるだろうかと落ち込んだのを覚えています。
それが3月のことで、弊社は多い時には年間50本を超える舞台を作っていますが、この時期のほとんど全てが公演中止を余儀なくされました。エンタメにとって非常に大きな事態だと体感しました。でも、最初の頃は「きっと数ヵ月で落ち着いてくるだろう」と考えていたんです。5月には私がプロデュースしているミュージカル『テニスの王子様』コンサート Dream Live 2020という大きなコンサートが予定されており、その頃には状況も良くなると思っていました。しかし、結局全て中止となってしまった。
――2020年の4月から5月、一度目の緊急事態宣言が出た外出自粛期間の頃は、どんなことを考えていましたか?
あの時期は、実際、キャストもスタッフも私も物理的に家から出られないという状況でした。でも、「5月なら開催できるか」「6月なら大丈夫か」という、諦めきれない思いがあったんですよね。何もせずにいるのは嫌でしたし、何かできることはないかと常に考えていたので、ひたすらオンラインでミーティングをしていました。お客様の手元にあるチケットというものは、私たちが良い作品を作って世に出しますというお約束をしたようなものです。だから、どんな状況であれ、その約束を破ることはなるべくしたくない。どうしたらそうならないかということばかり考えていました。初めてオンラインミーティングを行うようになったのもあの時ですね。
――おそらく多くの人にとってそうだったと思います。
そうですよね。私もそれまでは直接お会いして話す方が良いと思っていましたが、これはコロナ禍におけるメリットで、どんな状況でも誰かと繋がろうと思ったら繋がれる。そういう意味では大きな収穫でした。とにかく、今は物理的に離れているけれど、なんとかみんなで同じ気持ちでいましょう、手と手はずっと繋いだ状態でいましょうということを、キャストにもスタッフにも言い続けていました。
――2020年5月には「緊急事態舞台芸術ネットワーク」が発足しました。ネルケプランニングさんだけでなく、劇場、劇団、制作会社など様々な団体が参加していましたが、そういった横のつながりも動いていたんでしょうか?
そうですね。この状況になってからお声がけいただいて、最初の時点から横のつながりは強固なものになり、情報交換、情報共有がきちんとされるようになりました。劇団四季さんや、宝塚歌劇団さん、東宝さんのように、ずっと演劇のエンターテインメントを作ってきた先輩方も沢山いらっしゃいますし、すべての方の意見が非常に参考になりました。「ネルケはネルケで頑張ります」という考え方では、この事態には到底太刀打ちできません。そういった時に、たとえば野田秀樹さんも、劇団四季の吉田社長も、ホリプロの堀社長も、我々も、みんなが自分の意見や思いを言って、それを学びにしあうような意見交換や議論ができたのは大変ありがたいことでした。もちろん、手探りだったのは確かです。会社設立から今まで、これほどまでに大きな事態は経験したことがなかったですから。こういう時こそ横のつながりを感じることで、随分と勇気をいただきましたし、自分たちも頑張らねばと思えるようになりました。
――それ以前は、現在のようなネットワークや、いろんな団体がジャンルの壁を越えて協力し合う体制はそこまではなかったでしょうか?
これまでも、弊社の松田が代表理事を務める日本2.5次元ミュージカル協会には多種他業種の会員の方にご参加いただいていますし、もともと演劇同士が、競合やライバルではなく、一緒に繋がることで日本のエンターテインメントを盛り上げていこうという動きは数年前からあったんです。ただ、これほどジャンルを超えてエンターテインメントという一つの括りで手を取り合ったのは初めてではないでしょうか。
■演劇への関わり方の選択肢が増えたのはメリット
――コロナ禍を受けて電子チケット制の有料配信などの新しい動きもありましたが、このあたりはどのように考えて動いてらっしゃいましたか?
先程言ったように、3月、4月で落ち込みながらも次に進むためのことを考えていたものの一つが、配信に関する考え方でした。私たちはこれまで、劇場に来てもらうことを目標に頑張ってきましたし、今もなお、劇場で味わえる特別な体感を大事にしていますが、劇場に行くことが物理的にできなくなり頭を切り替えました。演劇と配信は遠いところにあるような気がしていたのですが、それをグッと近付けて、ご自宅から出なくても楽しんでいただける配信を打ち出したんです。5月頃から、今までネルケプランニングが作ってきた様々な作品の配信を始めました。そのことで、今まで全く知らなかったお客様にとっても、観るきっかけが生まれたんですよね。劇場に行ったことがなかった方も、配信でお試しができるようになった。演劇からお客様がいなくなったのではなく、演劇への関わり方の選択肢が増えたということです。これはメリットだと思っています。
――かなり早いタイミングで配信に取り組むことができたのは、それ以前から新しい発想で演劇をやってきたという理由があったんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。
そうですね。最近の大きい作品はライブビューイングと言って、映画館で生中継をやっています。このライブビューイングがここ数年の主流になっていたので、劇場にカメラを置いて、それを映像として配信することは何度も行ってきました。コロナ前からこういった配信事業を始めていて、すでに経験があったのは大きいですね。
――配信事業をやってみての手ごたえや実感は、どうでしたか?
劇場であればお客様の生の反応を見て「ああよかった、楽しんでくれている!」とわかります。でも、配信は観ている方の反応はわからない。これだけ沢山の方が買ってくれたという数字は入ってきますが、その方々がどんな想いで観たのか、どんな環境であったか、もっとこうだったらいいのにという生の意見はその場では体験できないですから。SNSに頼ってお客様の反応を確認しましたね。
――やはり劇場とは全く違うものだった。
もちろんそうですね。配信があればいいというわけではなく、演劇は劇場に行って体感する特別なものだという考え自体は変わっていません。ですが、お客様が演劇への関わり方を選択することができるようになりました。ご自宅にいながら観たい方や、コロナ禍でなくても、理由があって外に出ることができなかったり、小さなお子様がいたりして劇場に行くことが叶わない方もいる。そういう方にとっては、配信があるならそれを観てみよう、いつか観にいくことができるようになるためのアイドリングになるじゃないか、という考え方になりました。演劇と配信を近づけて考えることができるようになったんですね。劇場に来て欲しいということはずっと変わっていませんが、配信がひとつの選択肢として、今後もお客様に提供できるものだと思いました。もしかしたら「配信でいい、家で観られるんだったら劇場に行かなくてもいい」と思う方もいるかもしれないけれど、その方々にとっても、「いつか劇場で観てみよう」と思っていただけるようにいろいろとアイデアを出すことはできると思っています。
――この連載でホリプロの堀義貴社長も、「オンラインは代替案にならない」「会場に向かうまでのドキドキも含めて特別な体験なんだ」ということを仰っていました。
そうです! 劇場にもおしゃれをして行くわけで、これがとても大事なことなんです。いろいろなきっかけで、靴をはいて、家から一歩出て、歩いて、電車に乗って、劇場に向かう。この一つ一つの行為が心の動きにすごく作用している。この体験はやはり特別なものです。ただ、配信もそうやって心を動かすための大事なアイドリングになり得ると思っているので、配信は配信でしっかりやっていきたい。様々な状況で配信を楽しみにしてくれている方がいらっしゃいますから。赤ちゃんのいる方も、子供が寝た後にゆっくりアーカイブを観たりできますしね。
――コロナ禍が過ぎたあとも、そうやって配信と公演が両立することで、子育てが落ち着いたらもう一度劇場に戻ってくるというような、ライフサイクルの中でエンタメを長く楽しむことに繋がっていくように思います。
本当にそうですね。弊社の作品だと、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」やミュージカル『テニスの王子様』などに、三世代で来てくださるお客様もいらっしゃいます。学生の頃に観ていた方が、お母さんになって、お祖母ちゃんになって、お子さんやお孫さんと一緒に楽しんでくださる。そんな風に世代を超えて愛してもらえる作品が沢山あるので、年齢問わず、どの人にもドキドキしてもらったり、ウキウキして出かけてもらえるためにはどうしたらいいかをいつも考えています。
■ただ中止のアナウンスをするだけじゃなく、前向きなことを発信し続けないといけないと思っていた
――去年の夏や秋からは動員を制限された形でイベントも開催されるようになりました。このあたりはどんな動きをされていましたか?
5月、6月ぐらいから、夏に再始動するための準備を始めました。その頃には、観客動員数が50%になるんじゃないかということもわかっていたし、それを前提に1席ずつ空けてお客様に観に来ていただくことにしました。でも、動員が50%だとどうやっても赤字になるんです。それを配信や物販でリカバリーしていけるよう、アイデアを出し合いながら動いていましたね。
――劇場での体験の意味合いが変わってしまったということもあるでしょうね。
それに、動員が50%になったので、何度もリピートしていたお客様が一度しか来られなくなったり、好きなときにチケットを取っていたのが難しくなったり、お客様にとって非常にストレスが多い1年だったと思います。情報を発信する時にも、お客様の気持ちに寄り添って考えるよう心掛け、ただ「中止にします」とアナウンスするだけではなく、前向きなことを発信し続けようと思っていました。
――有観客の公演を再開してからの手応えはどんな感じでしたか。
去年の夏頃から50%の動員でスタートしました。その後、声を出さない演劇においては100%で上演できるところもありましたし、今年に入ってからは、条件はつくものの100%の動員で上演できています。ただ、お客様も、コロナの感染状況を日々気にしながら劇場に行くべきかの選択をされていますので、チケットを売るという点では、どの作品も苦労したかもしれません。ここ数年で、劇場に行くのは楽しい、フットワーク軽く行けるものなんだという意識が広がってきたように感じますが、コロナ禍で「今、劇場に行くのは自粛した方が良いのではないか」と考えるお客様が増えたのも事実です。そのような中でも、劇場に来てくださった弊社のお客様は本当に素晴らしく、劇場での感染対策のルールをしっかりと守ってくださいます。我々も、お客様も、一致団結してコロナ感染者を出さないために協力している感じですね。昨年の12月にミュージカル『新テニスの王子様』The First Stageを新しく立ち上げ、上演したのですが、客席では一切お話をせず、会話もメモでするくらいの協力体制で本当に感動しました。
――お客様も、ただ「楽しませてもらう」というよりも「一緒にこの場を作っていく」という意識を持っていらっしゃる。
そうですね。本当に感謝しています。普段であれば歓声を上げたり、声援を送る瞬間が沢山あるんです。それを全部我慢して、声援の代わりにとにかく惜しみない拍手を送るわけです。それに感動しました。最近舞台に立ったキャストは、その拍手だけで泣けてしまうと言っていました。「当たり前と思っていたことが、全然当たり前じゃなかった」とキャストはよく言いますね。それに気付いてもらえたのも良かったと思います。
■常に走り続けていくことが、コロナ後のエンタメに繋がると信じている
――コロナの収束後を見据えて、ネルケさんとしては、今後どう長期的なプランやヴィジョンを考えていらっしゃいますか?
コロナでひとつ大きな打撃を受けたのが、海外公演でした。ネルケとしては、海外で舞台展開をしたいという思い自体はずっとあります。ワクチンも行き渡って多くのことが落ち着いた時には、海外ツアーも展開したいなとは思います。弊社には、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」や「僕のヒーローアカデミア」The“Ultra”Stage、舞台「鬼滅の刃」、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」など、海外のお客様にも楽しんでいただける作品が数多くあります。海外のお客様も日本と同じようにコロナで鬱々していると思います。ブロードウェイも未だにオープンできていない状況ですから(※9月から再開予定)。そう考えると、日本から愉快で痛快なエンターテインメントを届けて、海外のお客様に喜んでいただきたいですし、そういう準備はしておきたいと思います。そして、日本の公演に関しては、舞台の灯を消さないために、横の繋がりを強めて、この1年を走り続けてきました。この先も見通しが明るいかどうか、まだなんともわからないというのが正直なところです。でも、こんな状況であっても立ち止まっていいわけではない。今こそ日本のエンタメが手を取り合い頑張っていく時であり、ここでいろいろと模索しながら走り続けることが、日本のエンタメの将来に繋がると思っています。コロナ禍でネガティブな情報に一喜一憂するのではなく、どうやったらお客様に寄り添えるのか、どうやったらお客様がウキウキするようなことができるかを常に考える。そうすれば演劇の未来は明るいのではないかと思います。
――仰る通り、現在はとても厳しい状況ですが、この先に向けて今やれることはかなり大きい気もします。
本当にそうですね。「今はコロナだからね」とつい口癖のように言ってしまうのですが、それは言い訳であり、その言葉を私たちエンタメの人が使うと、それは未来を自分から閉ざしているということになってしまう。コロナだろうが、そうでなかろうが、何に感謝して、誰に向けて何を作っていくかを考えていくべきだと思います。コロナ禍になったからこそ考えたことで未来に繋がることも沢山あるし、その歩みを止めてはいけない。世の中、本当にみんな頑張っていると思います。医療従事者も、飲食業界の方も、子供たちだって。たぶん、頑張っていない人はいないと思います。大変な今を乗り越えた時に、演劇は人生の楽しみの一つの選択になっていて欲しい。弊社の作品を観て明日からまた頑張ろうと思ってもらえるような作品を作っていきたい。改めてそう強く思っています。
取材・文=柴那典
※この取材は4月14日に行われました。
※以下の公演/イベント情報は状況により変更となる場合がございます。

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