紀平凱成・髙木竜馬・大井健・角野隼
斗、4人のピアニスト×4台のフルコン
で贈る華麗なる“饗演”~『スタクラ
ピアニズム』開催レポート

クラシック音楽界最大の野外フェスティバルとして2018年に始まった『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL』(通称スタクラフェス)。そのスピンオフとして開催された2021年は、会場をサントリーホールに変え、「ピアニズム」にフォーカスを充てたよりテーマ性の濃い内容となった。公演一週間前の緊急事態宣言発令に実現の可否さえも危ぶまれたが、5月3日(月・祝)、約150分に近い長尺のライブストリーミング中継という新たな試みとともに、大成功のうちに幕を下ろした。4人のピアニストたちによる華麗なる“饗演”の一部始終を、サントリーホールの会場の模様とともにお伝えしよう。
5月3日(月・祝)14:00、クラシック音楽の殿堂、サントリーホールから『STAND UP! CLASSIC PIANISM(スタンドアップクラシック ピアニズム)』ストリーミングライブ配信が始まる。一分前。大ホールステージに司会進行(MC)を務めるLE VELVETSの日野真一郎が登場。マイクテストをしながら、定位置にスタンバイ。緊張の一瞬。ステージマネージャーからキューが出る。いよいよ待ちに待ったストリーミングオンエアだ。
MC:日野真一郎(LE VELVETS)
キラキラと輝くジャケットの衣装が何とも似合う日野。その柔らかな美声でオープニングの口上を述べる。日野の立っている広いステージ上には、「ピアニズム」というフェスティバルのテーマにふさわしく、4台の異なるピアノメーカーの名器が並ぶ。オープニングに続いて、日野による各ピアノの紹介。注目は何と言っても古楽器の王者、エラール社製のピアノフォルテだ。このサントリーホール所蔵のエラールは、かつて19世紀、パリのサロンで実際にあのリストが演奏していたという貴重な楽器だ。
左から 日野真一郎(LE VELVETS)、角野隼斗、大井健、髙木竜馬、紀平凱成
続いて、本日の主役たち、4人のピアニストの紹介。演奏順に紀平凱成、髙木竜馬、大井健、角野隼斗の4人がステージ上に並ぶ。一同、軽く一礼。そして、紀平凱成を残して、再び舞台袖へ。いよいよ、本日のトップバッター紀平によるソロステージが始まる。曲目は、紀平自身が愛してやまないというロシアの作曲家、カプースチンによる3作品だ。
第一曲目は「8つの演奏会用エチュード」から 《冗談》。いつものように手を大きく振り上げて深い深呼吸で精神を集中。スタイリッシュな白い衣装にスポットを全身に浴びて、強烈に速いブギウギ調の曲をパワー全開で奏でる。
紀平凱成
二曲目は 《夜明け》 Op.26。大人の雰囲気漂う都会的なブルース調の曲を、しっとりと、一つ一つの音、そしてフレーズを味わいながら奏でる。スタインウェイの重厚感あふれる音がサントリーホールの広い空間に美しく共鳴する。紀平はこの大舞台でもまったく臆することなく、むしろ、いつもの演奏会よりも、よりいっそうのびのびと自由闊達に音楽を楽しんでいた。フィナーレのきらめくようなアルペッジョも美しく、見事な弾き納めだ。
紀平凱成
そして、三曲目は 「24の前奏曲」から第24番 ニ短調 Op.53。こちらも速いパッセージを一気に、しかし、丁寧に一音一音を楽しむように紡いでゆく。めくるめく変化し行く情景が、つぶさに思い浮かぶようだ。巧みな色彩変化とともに、曲が進むごとにしなやかな力強さが増してゆく。最後まで一気に盛り上げ、こちらも、見事な弾き納め。
左から 日野真一郎(LE VELVETS)、紀平凱成
ここで日野のMCをはさみ、さらに紀平のオリジナルの二作品が演奏された。一曲目は「No Tears Forever」。少しだけセンチメンタルに始まる冒頭。甘ずっぱさの漂うフレーズを情感たっぷりに奏でる。次第に和声も厚みを増し、感情はさらに高まる。中間部は明るく、美しい思いが芽生えてゆくさまを美しいハーモニーで力強く紡いでゆく。会心の弾き映えといったらよいのだろうか、密度の高い音がむせびなくように強い意志をもって会場に響き渡っていた。先月20歳の誕生日を迎えたばかりの紀平。今夏には第二弾となるフルアルバムのリリースと、秋には全国ツアーも予定されているという。ここ最近の紀平の圧倒的な成長ぶりと活躍には目を見張るばかりだ。
続いて二曲目の「Winds Send Love」。紀平にとって最も大切な作品の一つだという。清らかな思いに満ちた旋律を心静かに歌う。しかし、今日の紀平は、同時に深いブレスで心の奥底から自らの曲をダイナミックに歌い上げる。そのせいか、重厚感のある和声が倍音を通して数倍にも朗々とサントリーホールの大空間に響き渡る。フィナーレのアルペッジョの美しさと壮大さに思わず感動する。スタインウェイという名器が持つ音の魅力を見事に引き出す名演奏だった。

Streaming+より提供
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紀平のソロステージが終わると、続いての二人目のピアニスト髙木竜馬が登場。現在、ウィーン在住で、日本とウィーン間を頻繁に往復しながら演奏活動を続ける髙木だが、はじめに、日野からウィーンが生んだピアノの女王、ベーゼンドルファーを髙木自身が選んで演奏する意義を尋ねられる。
「ベーゼンドルファーは、ウィーンの人々、オーストリアの国民すべての人々から愛されている楽器です。木のあたたかいぬくもりの音が、ベートーヴェンの演奏には、とても適していると考えています」と髙木。
左から 髙木竜馬、日野真一郎(LE VELVETS)
そして、二~三曲目を演奏する日本が世界に誇るシゲル・カワイSK-EXについても言及。髙木自身のはたらきかけで、本日、カワイの搬入が可能になったのだという。「ベーゼンドルファーとカワイの音色の違いもぜひお楽しみいただけるよう、精一杯演奏したいと思います」とトークを締めくくる。
一曲目、ベートーヴェン作曲「ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13 《悲愴》」 第2・3楽章。あの美しい緩徐楽章の主題を、瞑想的ともいえる、深い思索の念に満ちた重厚な響きで丁寧に紡いでゆく。ベーゼンドルファーの繊細であたたかな音色が会場に深々と響き渡る。あまり感傷的にならずに、古典的な品格を湛えた瀟洒なスタイルの美しさ。さすがウィーンで研鑽を積む髙木の本領発揮だ。
髙木竜馬
続く展開部でも、終始、テンポを厳格に保ちつつ、さらに思いは深淵へと深まってゆく。決してペダルを多用しない、ノンビブラートのアルカイックな響きがベーゼンドルファーの端正な音色と相まって、ベートーヴェン様式の粋を完璧に湛えていた。エレガントで鷹揚なテンポ感や間の取り方にも、日々、ウィーンで本場の音楽に触れて生活している髙木しか表出することのできない唯一無二の息づかいが感じられた。
続いて3楽章。速いパッセージを、みずみずしく、いとも軽やかに紡ぐ。その中にも細やかな詩情、そして、楽曲の明確な構成の巧みさや、ダイナミクス(強弱)の明白なコントラストなど、この作品が持つすべての古典的な要素のすべてを流れるように体現し、なかなか感じ取ることの難しいベーゼンドルファーという楽器の持つ繊細な魅力と価値を思う存分に引き立たせていた。
髙木竜馬
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続いて、楽器をシゲル・カワイの最高峰のフルコンサートグランドSK-EXに変えて、ショパンの「バラード 第1番 ト短調 Op.23」。導入部のアルペッジョでは、ベーゼンドルファーのそれとは、また一味違う音色で豊饒なロマンティシズムの到来を告げる。挿入される装飾音の洒脱な洗練と、テンポの緩急の巧みなかけひきで、ショパンの一つ一つの語法を完璧に体現する。髙木のダイナミクス(強弱)の幅広さは、まるで、はるか彼方に茫漠と映し出される情景を手元へと手繰り寄せて描きだすかのような、巨匠的な遠近法の熟達を思わせる。さらにクライマックスに向かって見事なテンペラメント(感情の起伏)を聴かせる。この曲の各所を印象付ける不穏な表情をもつぶさに描きだしながら、華麗なテクニックですべての感情を一つの頂点へと昇華させ、ダイナミックなフィナーレへと完結させた。ちなみに、視聴者の多くは、髙木のこの二作品の演奏で、ベーゼンドルファーとシゲル・カワイの音色の違いを存分に堪能したに違いない。
続いて三曲目は、髙木がライフワークとしたいというグリーグの作品から「トロルハウゲンの婚礼の日」。牧歌的であたたかな婚礼の情景を、喜びに満ちあふれた音とリズムで鮮やかに描きだしてゆく。中間部のしっとりとした歌もチャーミングに、ささやくように。吐息の一つ一つまでもが聴こえてくるかのような密度の濃いフレージングに、新婚夫婦のひそやかなささやきが聴こえてくるかのようだった。楽しい婚礼の日の時の移ろいと、和気あいあいとした嬌声が映像を通してつぶさに感じられるかのような演奏だった。
髙木竜馬
ここで、10分間の休憩をはさむ。休憩中は、ストリーミング配信のモニターでは、2018・19年度のスタクラフェスの模様が流された。
後半最初のピアニストは、大井健。まずは演奏前のトークタイム。MCの日野から、昨年まで大井が積極的に活動を展開していた中村匡宏とのピアノデュオ「鍵盤男子」を突如、勇退宣言した理由について尋ねられる。
「ライブハウスで、お客様もタオルを振り回して熱狂してくださるような雰囲気だったのですが、僕たち自身も、腕を交差させたりと、相当な濃厚接触デュオだったんですね。なので、コロナ禍においては、活動を続けるのが困難ということで、二人で相談して、ノーマル状態に戻るまでは、しばらく個々の道を行って、研鑽を積もうということになったんです」と大井。
左から 大井健、日野真一郎(LE VELVETS)
続いて、今年6月2日にリリースが決定しているニューアルバム『reBUILD』と、同時開催の約3か月にわたって全国で繰り広げられるコンサートツアーについて質問が及ぶ。
「コロナ禍でエンターテインメント業界は大きく打撃を受けました。そこから“立ち上ろう”という強い思いを込めて『reBUILD』(再建)というタイトルのアルバムをリリースします。そのアルバムのコンテンツをひっさげて、全国13都市を回る予定です」
そして、これから演奏される5曲の全オリジナル作品について大井自身が語る。本日の大井のソロステージは、自作品と鍵盤男子のパートナーだった中村匡宏の作品で構成されていた。
「僕自身、過去のスタンドアップクラシックフェスティバルに “鍵盤男子” として出演させていただきまして、どうしても鍵盤男子の時の思い出が残っている方々も多いということなんです。なので、本日は “鍵盤男子フィーチャリング” ということで、僕一人で世界観を表現したいと思っています」
大井健
一曲目は大井自身の作曲による「Fragments of lyric」。華麗なアルペッジョのイントロに続いて、微笑みを湛えたかのような優しく可憐なメロディが聴き手の心をつかむ。
続いて、中村匡宏作曲の「YAMA-YURI」。幼い日の思い出を振り返るかのようなノスタルジックな情景がそこはかとなく漂う美しい曲だ。五音音階を思わせるエキゾチックな響きもまた、よりいっそう郷愁を掻き立てる。大井は美しいピアニッシモと重厚なバスパートの両輪で繊細な “音の詞”を一つひとつ丁寧に紡いでゆく。
三曲目も中村匡宏作曲「海に訊く」。さざ波の音や海に向かって共鳴するこだまのような静謐な響きののち、可憐な旋律を詩情豊かに歌い紡ぐ。リリシズムあふれる歌心は大井の真骨頂だ。中間部以降では、華麗で重厚感あふれるバスパートも聴かせどころだ。最後まで重低音の連なりとともにフィナーレへと導かれてゆく。
大井健
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四曲目は楽器をスタインウェイからシゲル・カワイに変えて、大井の自作品「Piano Love」。アップビートの曲を流れるように、透明感あふれる音で紡いでゆく。高性能な現代的技術の粋が凝縮されたシゲル・カワイSK-EXから、みずみずしい音の粒がこぼれでるかのようだ。一見、エッジの利いた作品にも思えるが、大井の情感豊かで真綿のようなピュアで柔らかな音色は、会場の空間をあたたかく包み込む。鮮やかなピアニズムが粛々と展開されていくところが、いかにも大井の作品らしく、心地よい音のシャワーにしばしうっとりとしてしまうほどだ。
最後は中村匡宏による「PIANISM-drive-」。冒頭の縦横無尽でダイナミックなスケールに続いて、超アップピートの楽曲が展開してゆく。こちらも鮮やかさと切れの良さで大井の持ち味全開だ。しなやかさと柔軟性に満ちたシゲル・カワイの現代的な響きとともに華麗に聴かせる。
大井健(ピアノ)、日野真一郎(LE VELVETS)
演奏を終えると、大井がマイクを持ち、「ここでスペシャルなプレゼントがあります」との一言。なんと、今までMCに徹してきた日野が、ここで歌声を披露してくれるというのだ。もちろん伴奏は大井。
日野がステージに登場。曲はヘンデルのオペラアリアの名曲「私を泣かせてください」。日野の持ち味である美しいカウンターテナーの声が豊かに天井に響き渡る。ダ・カーポ アリア特有の二回目の繰り返しにおける華麗な装飾の挿入スタイルの洗練と、均斉のとれた端正な全体像に、日野の卓越した音楽性が凝縮されていた。歌声が加わると、よりいっそう祝祭感も増してくる。
大井健(ピアノ)、日野真一郎(LE VELVETS)
続いて、日野からもう一曲のプレゼント。昨年この世を去ったイタリアの巨匠エンニオ・モリコーネの「ネッラ・ファンタジア」。サラ・ブライトマン、イル・ディーヴォの愛唱歌としても知られる名曲だが、日野は端正なスタイルで甘いメロディを歌い上げた。(編集註:著作権の関係により、モリコーネ「ネッラ・ファンタジア」はアーカイブ配信ではカットしております。予めご了承ください)
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思わぬサプライズを経て、再びMCとして日野がステージに登場。本日、最後の出演者を紹介する。4人目のピアニストは、今、飛ぶ鳥落とす勢いで活躍をみせる角野隼斗。日野とのトークでは、本日の演奏曲目に盛り込まれた角野の自作品「大猫のワルツ」について、そしてショパンの名曲をエラールピアノで奏でる醍醐味について語った。
「今朝、リハーサルで実際に演奏してみて、改めて古楽器にしかない音の豊かさと当時に、現代のピアノに匹敵するくらいの響きを持っているのに驚かされました。このピアノは、当時19世紀のロマン派の音楽の発展に貢献した楽器とも言えますので、そのような楽器で演奏できるのはとても意義深いことと思っています」と角野。
左から 角野隼斗、日野真一郎(LE VELVETS)
最後に奏でるサン=サーンス作曲、リスト編曲による「死の舞踏」に話が及んだ時、角野がリストを自らの “ロールモデル” と呼ぶことについて質問が及んだ。
「リストという人物は、演奏もすれば、作曲・変奏・即興もすべてこなす一大エンターテイナーでした。僕自身、“クラシックをやる意味はなんだろうな”ということを考えたとき、リストのような活動が憧れだな……と、昨年気づきまして、“ロールモデル” と言ってみたりしました」
トークを終えて、ピアノに向かう角野。一曲目は、ショパン作曲「華麗なる大円舞曲」をエラールピアノで演奏。古楽器だけに、通常よりも心持ち低いピッチ(音程)での演奏だ。輝きをともなった暗めの響きが独特の雰囲気を漂わせる。しかし、サントリーホールの豊麗な響きの空間に、一寸の曇りもなく、クリアでまっすぐな音色が響き渡る。心和む、あたたかな音色。角野もピアノフォルテであることを意識してか、古楽器にふわしいタッチで華麗なピアニズムを展開してゆく。まるで、ショパンが生きた時代のサロンの情景が目に浮かぶようだ。
角野隼斗

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続いては、ピアノをスタインウェイに変えて、ショパンの「ノクターン 第13番 ハ短調 Op48-1」。この作品は、昨年リリースされた角野のフルアルバムにも収録されている。ゆったりとしたサロン的な曲調を湛えながらも、ショパン作品の中でも最も男性的なピアニズムが随所に盛り込まれている。角野はヴィルトゥオーゾ全開の華麗なテクニックを聴かせながらも、しかし、その後に続くロマンティシズムの極致ともいえる激情的な箇所では、静謐さを湛えた深い情感を存分に漂わせる。ロマン派的な詩情に満ちた “あいまいな展開”、いや、ほとばしる心情的なうつろいの“あや”を、大きな流れの中に流麗に描きだす。
三曲目は再びエラールでショパンの名曲中の名曲「子犬のワルツ」。サロンで諧謔に興じる紳士・淑女の姿が思い浮かぶような絵画的な色彩感を醸しだす。古楽器でここまで表情豊かに色彩が描きだせるものかと思わず感動してしまった。
四曲目は、続けてエラールで角野の自作品 大猫のワルツ を披露。自家薬籠中の愛らしい作品を、軽やかに優雅に奏でる。伝統的なワルツのスタイルをとりながらも、現代的な世界観も漂わせるユニークさ、古楽器の持つ “アルカイックな” 音色の融合が何とも魅力的だった。
角野隼斗
そして、ソロステージ最後を飾るのは、サン=サーンス作曲、リスト編曲による「死の舞踏」。オリジナルは交響詩だが、リストがピアノ独奏用にトランスクリプション(編曲)したものだ。古典楽器の演奏を続けて聴いた後に、近代メカニズムを持つスタインウェイのフルコンサートグランドで聴くこのリストによる壮大なピアノ作品は何とも印象深い。エラールとスタインウェイを交互に弾くという、角野の心憎い試みは見事なまでに功を奏していた。
言うまでもないが、冴えわたるテクニックとリズム感で角野は、この難曲を精緻に弾きあげてゆく。スケールの大きな作品の中に意図された詩的なコンテクストをいとも鮮やかに構築してしまうのだ。ダイナミズムあふれるオクターブの連打は、これから展開される不吉な変奏の予兆。まさに、自らのロールモデルとするリストが乗り移ったかのような姿と演奏に高揚感が冷めやらない。恐らく、モニター前の視聴者は、角野の手元も表情もつぶさに見えるので、よりいっそうその臨場感に浸れたことだろう。劇的なコーダに込められたよりいっそうの深淵なるポエムが、本日の角野の演奏のすべてを語るかのように意義深かった。
左から 角野隼斗、髙木竜馬
全4人のソロステージが終了。ここで、なんと角野、髙木両氏による二台ピアノで「ハンガリー舞曲 第5番 嬰ハ短調」が演奏されるとの日野のアナウンス。二人再びステージに登場。意気揚々とチャールダーシュのリズムにのって力強くあの旋律を奏で合う。中間部の劇的なテンポの変化でも、息もぴったり。豊かに歌いあげる。民族舞踊だけに、かなり派手なルバート(テンポの揺れ)の一糸乱れぬ一体感に驚かされる。
フェスティバルもいよいよフィナーレに突入。ここで日野より、今日のフィナーレを飾るサプライズ曲目の存在が明るみになる。なんと4人全員参加でのパガニーニ・コレクション。パガニーニの「ヴァイオリン独奏のための24の奇想曲」の終曲、第24曲の旋律をもとに、あらゆる作曲家による編曲版の演奏あり、自作の即興ありと、壮大なピアニズムが展開されるというのだ。
大井、髙木、そして、角野がステージに登場。角野があの“トイ・ピアノ” でパガニーニのオリジナルの旋律を奏でる。何ともコケティッシュ、かつ、神秘的な雰囲気が漂う。そこへすかさず、大井、髙木両氏がデュオでラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の第11変奏を提示。「鍵盤男子」を彷彿させる大井のアレンジを経て、いよいよ、あの美しい第18変奏曲へ。二人とも渾身の力を込めて天上のメロディを聴かせる。
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左から 大井健、髙木竜馬
続いて、いつの間にか、スタインウェイを弾いていた大井のもとに紀平が登場。引き継ぐように、パガニーニの旋律を用いての紀平自作による即興が繰り広げられる。あの悪魔的な雰囲気を漂わせる旋律が、紀平の自由な創造性によって、明るく、ジャジーなメロディへと進化を遂げていた。さらに、この即興演奏は見事にテーマによる変奏形式になっているのだ。様々なジャズスタイルの曲がメドレーのように紡がれてゆく。最終曲は大アルペッジョを用いた作風で、リストによる「ピアノ独奏のためのパガニーニによる大練習曲」第6番の最終変奏曲を思わせるダイナミックなピアニズムが何とも印象的だった。

左から 大井健、紀平凱成、髙木竜馬
左から 大井健、角野隼斗、髙木竜馬

紀平はソロパートを弾き終えると、すかさず、紀平の横にスタンバイしていた角野が鍵盤を引き継ぐ。ここからは角野版パガニーニの主題による即興変奏だ。こちらも、チャールストン風のスタイルから、ロマンティシズム漂わせる超リスト的なヴィルトゥオーゾ全開の作風で度肝を抜かれる。最終曲が終わりに近づくと、角野は他のピアニストたちと目を合わせ、4人そろっての最後の最後の大フィナーレへ突入。締めくくりは、ルトスワフスキ作曲「パガニーニの主題による変奏曲」。この難曲をめぐって4人全員が一斉に奏でると、恐ろしいほどの大迫力だ。最後は4人ともに派手なアクションもピタッと決まり、全員「弾き終えた!」という満足感にあふれていた。
大フィナーレの演奏後、4人の出演者全員とMCの日野が揃って、来年度の開催に向けてエールを交わす。本番一週間前の緊急事態宣言発令にもかかわらず、大成功のうちに幕を下ろした2021年の『スタンドアップクラシック ピアニズム』。ストリーミング配信は5月10日(月)まで楽しめるというのも実に嬉しい。生配信を見逃してしまったファンたちも、ぜひとも、モニターの前で、4人のピアニストによる華麗なる世界を味わってみてはいかがだろうか。
取材・文=朝岡久美子 撮影=安西美樹

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