YUKIの堂々たるソロ宣言!
実力派アーティストたちと
共に作り上げた『PRISMIC』

インパクトの強い多彩な楽曲群

勢い余って結論めいたものを書いてしまったが、話を戻して、ここからは『PRISMIC』収録曲を個別に見ていきながら、そのバラエティーさを検証していこう。オープニングはM1「眠り姫」。音も比較的地味目でシンプルなバンドサウンドではあるものの、“眠り姫”どころか、何か滾っているような、迸っているような空気感がそこにある。これは編曲クレジットに名を連ねるSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの日暮愛葉のテイストが発揮されたのだろう。JUDY AND MARYとは明らかに感触は異なるものの、これもまた間違いなくロック。バンド解散後の初の音源の1曲目として、インパクトを示すには十分過ぎるほどだったと思う。

続く、M2「the end of shite」も日暮が手掛けたナンバー(こちらは同氏が作詞、作曲も担当)。パンチの効いたオルタナ系のバンドサウンドで、勢いもあるし、M1以上に攻めている印象がある。歌詞はまとめて後述するが、M2は歌詞を含めて剥き出し感も強い。これを1stシングルとして先行カットした辺りにソロ活動に臨む心意気も感じるところだ。ちなみに、ファンの中にはそのことをご存知の方も多いだろうが、「the end of shite」のMVは内容がかなり過激で物議を醸した。

当時、MVのオンエアを見送る局が多かったとも聞く。現在もオフィシャルでは公開はされていないようなので、気になった人は自力で調べてみてね…くらいのアドバイスしかできないけれど、その過激なパフォーマンスからも当時のYUKIの力の入れ具合をうかがえる。M3「66db」は、後に3rdシングルにもなったミドルテンポのナンバー。メロディアスで十分にポップではあるものの、サイケというかアシッドというか、サウンド面ではどこか実験的な要素も感じられる。2番からはビートも効いているが、M1、M2に比べれば所謂バンドっぽさは薄い。

だが、それゆえに、作品としての幅の広さ、引いてはアーティストの懐の深さも十二分に感じさせるところで、『PRISMIC』はこのM1~3で掴みはバッチリだったと言えると思う。シャッフルのR&Rナンバー、M4「サヨナラダンス」は再びベーシックなバンドサウンドで、続くM5「惑星に乗れ」はデジタルを前面に打ち出したかのようなスペイシーなテイストと、それぞれタイプは異なるものの、共にメロディーが親しみやすく、バンド時代のYUKIを彷彿させるところを感じる。この辺はどこまで意識的だったのか分からないけれど、ファンにしてみれば安心したのかもしれないとも想像した。また、M4はCarole Kingの未発表音源のカバーで、アレンジには會田茂一が参加。M5はクラムボンのミトが編曲を担当と、名立たるアーティストとのコラボレーションが成功していることもよく分かる。

多彩な音楽家とのコラボ

6曲目以降の楽曲ではさらにバンド時代とは違うYUKIを魅せる。M6「Rainbow st.」はディスコティックなナンバーだ。サビでノイジーなギターを聴かせるバンドサウンドもカッコ良く、モロにディスコというよりもミクスチャーといった感じ(ラップも入っているし)。M7「I U Mee Him」で聴かせるバイオリンが絡んだロックサウンドも新鮮だ。ヴォーカルテイクがどこか幻想的で、洋楽っぽい印象もある。これも日暮愛葉が手掛けた楽曲であり、YUKI本人が彼女とのコラボレーションを熱望したというのもよく分かるし、M1、M2と同様、M7もその試みが極めてうまくハマったことを物語っているとも言えるだろう。

The Jon Spencer Blues Explosionのドラマー、Russell Siminsがアレンジに参加したM8「忘れる唄」はブルース~ソウルの匂い。ヴォーカルはラップ調……とは言っても、いわゆる“ハーコー”ではなく、日本で言えばスチャダラパー辺りの緩めな感じで、同じくラップの入ったM6とは別の赴きを見せている。M9「愛に生きて」は童謡や唱歌っぽい柔らかいメロディーが印象的なナンバーで、スピッツが演奏を担当している。そういった質の旋律だからスピッツを起用したのかどうか分からないけれど、スピッツを少しでも知る人ならM9のイントロを聴いただけでこれがスピッツの演奏だと分かるほどに、どうしようもなく、彼らの音である。その意味でも、ソロとなったことを示すには格好のナンバーと考えられなくもないが、それは半分冗談としても、ソロであるからあらゆる意味で自由に音楽制作が出来るといった表明であったと見ることはできるだろうか。

M10「プリズム」は米国のパワーポップバンド、JellyfishのAndy Sturmerの作曲。フォーキーなメロディーで、それに合わせたかたちなのだろう、サウンドはピアノやストリングスを配したさわやかな仕様になっている。歌詞も含めてファンにとって名曲認定されているようで、タイトルからしてもアルバムの中心と言っていい楽曲であろう。アルバムのラストはバラード2曲で括られる。アレンジャー、亀田誠治のベースラインも印象的なM11「ふるえて眠れ」は、シンプルに聴こえるものの、実にしっかりと構築されたアンサンブルで、亀田誠治のうまさがいぶし銀のように光る。一方、M12「呪い」はオルタナ系のギターサウンドで迫るフィナーレに相応しい大作。構成、展開に派手さはなく、メロディーが循環していくようなタイプながら飽きずに聴けるのは、スリリングな演奏が手伝っていることは間違いなく、この辺は編曲の會田茂一の確かな手腕によるものでもあろう。

…と、ザっと全曲を解説してみたが、これだけでも全12曲がそれぞれに特徴的であることが分かっていただけると思う。この時点でのやりたいこと、やれることを全力でやっている感じがとにかく伝わってくる。

OKMusic編集部

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