フレデリックが新曲「名悪役」で拓い
た新たな道とは 三原兄弟に訊く

“思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ”――2月23日に行われた自身初の日本武道館ワンマンの最後、会場に渦巻く多幸感をフレデリックは新曲「名悪役」でスリリングにかき乱してみせた。フレデリック史上最速のBPMと、リズムとフレーズが幾何学模様を描くバンドアレンジ。少しでもハッピーエンドに近づくためなら自分は悪役になっても構わない、といったアーティストとしての使命感が確かに織り込まれた詞世界……それらが渾然一体となった先に、フレデリックのさらなる劇的進化への期待感がダイナミックに立ち昇ってくる。4月28日に配信リリースされた「名悪役」はそんな名曲だ。

さらに、同じく武道館で披露されていた新曲「サーチライトランナー」が、人気サッカー漫画『アオアシ』✕JリーグのYouTubeスペシャルコラボムービーのタイアップソングとして2月25日から公開されている。アルバム『フレデリズム2』から約2年。『VISION』『ASOVIVA』という2作のEPを経て、フレデリックはいかなる新章へ飛び出していこうとしているのか。三原健司(Vo/Gt)&三原康司(Ba/Cho)に訊いた。
――フレデリック初の日本武道館ワンマンライブ『FREDERHYTHM ARENA 2021~ぼくらのASOVIVA~』から、早いもので2ヶ月が経ちました。今、あのライブをどんな気持ちで振り返っていますか?
三原健司:「もう2ヶ月経ったんや」っていう感覚と「まだ2ヶ月か、短いな」っていう感覚が両方あって。でも、余韻がまったく冷めてないんですよね。バンドにとって日本武道館は立ちたかった場所やし、フレデリックの活動の中で、俺もMCとかで「日本武道館に立ちたい」っていう夢を語ったりすることもあったし、フレデリックにとっても大事な場所やったと思うんで。ひとつの夢を叶えた達成感みたいなものがあるんだろうな、ってずっと思ってたんですけど。実際ライブが終わってから、この約2ヶ月の間、全然余韻が冷めてなくて。むしろ武道館を終えてから、やりたいことがまた増えていったというか。それをお客さんに感じてもらえるようなセットリストにした、っていうのもあるんですけど、それを自分でも感じ続けてる、っていうのが現状ですね。
――2018年に神戸・ワールド記念ホール、2020年に横浜アリーナ、そして2021年の日本武道館、というアリーナ公演の系譜にも、フレデリックの武道館公演に懸ける想いが表れている気がするんですが?
健司:やっぱり神戸で育ったバンドとして、一番初めに立つべきアリーナはワールド記念ホールだ、っていう自分たちの中のストーリーがあって。その後に立つのが武道館なんだろうな、っていうことも考えながら、でもメンバーとして高橋武が入ってきて、「高橋武の出身地」っていうことも含めて横浜アリーナでしっかりやり遂げたかったっていうのもあって。神戸から横浜、地元と地元を経て、自分たちの夢の場所に立ったので。そういう意味でもひとつ達成感はあるし、どの会場でも「ちゃんとやり遂げたな」っていう達成感は噛み締めてるんですけど……不思議と次の日になったら「まだ次があるな」って思うんですよね。
三原康司:武道館に立つときに、健司が「ASOVIVA」っていうテーマを決めてくれて。「ASOVIVA」っていうテーマって、今のこのご時世の中ではネガティブなイメージもつきやすい言葉ではあると思うんですよね、「この状況下で遊ぶ」っていう。けどそれを、イメージだけじゃなくて本当に音楽として、エンターテインメントとして作り上げるこういった場で、武道館が終わったときにみんなが抱いてる思い出だったり、そこで動いてる気持ちみたいなものだったりとか……アーティストにとっても、音楽を好きでいてくれる人たちにとっても大事なものだと思うんですよ。そういう気持ちがあって、想いがあって、僕らが過ごしていく音楽人生の中でもすごく大きなポイントとなって、次の未来が見出されるというか……そういう場所になったなと思って。「ASOVIVA」っていうテーマを決めてくれたことで、武道館っていう場所が自分にとっても特別な場所になったんですよね。自分も制作する上で、より多くのことを考えられるきっかけにもなって。今、武道館公演から2ヶ月経って、また新たにいろんなことを考え始めている自分がいますね。
――単に「フレデリックが初めて武道館でワンマンライブをやりました」という以上の、今この状況とも向き合った上で、ライブバンドとしてのプライドを見せたライブだなと思いました。
康司:「ライブバンド」っていうワードは本当にそうだなと思うんですけど。今まで以上に、直接顔を見てのライブがなかなかしづらい時代でもあるので。自分たちでもオンラインライブとか、いろんな方法でライブをしてきて。その瞬間瞬間を一緒に感じながらやっていく――そういうバンドだなって思ってたので。だからこそ、こういう中でも止まらずに活動してきたっていうのは、フレデリックとして「長く音楽を愛し続けてもらえるバンドでいたい」っていう気持ちと、「音楽が好きだからずっと鳴らしたい」っていう気持ちとを、今の時代の中でもちゃんと示せたのかなっていう感じがします。
――そもそも康司さんから生まれてくる楽曲が、フレデリックの4人の「遊び場」になって、そこで鳴っている音楽が多くのリスナーやオーディエンスの「遊び場」にもなっていくっていう。このキーワードはバンド自身にとっても発明だったんだなあと改めて思いますね。
康司:そうですね。いろんな想いを感じるワードになったので。「日本武道館」っていう言葉もそうなんですけど、僕はやっぱり「ASOVIVA」だった、っていうことがすごく心に残ってますね。
――ライブ中のMCでも健司さんは「康司の曲がここまで連れてきてくれたんですよ」って話していて。
康司:ね(笑)。さっきの話を聞いてて、俺もそれを思い出してて。ああいうのは……やめてほしいなあ(笑)。
健司:もっと伝えたいメッセージいっぱいあったのに、みんなそれだけ覚えてて(笑)。
――でもそれって、メンバーはもちろん、僕らも感じてるところで。康司さんから生まれてくる楽曲を、4人で最大限に楽しんでいく――っていうフレデリックの基本構造を、あのライブからも確かに感じましたね。
健司:なんか、「ASOVIVA」っていう言葉は、自分の人生を振り返って出てきた言葉じゃない気がして。それも、康司の作ってきた楽曲の中で、いろんなことに気づいて、「フレデリックやったらこういう答えを出すんやろうな」っていうのでポロッと出た言葉が「遊び」やったんで。それも結局、康司が連れてきてる言葉やと思うんで。回り回ってメンバーに影響されてることがめっちゃ多いなって――自分の言葉の中でも、それに気づかされる瞬間はいっぱいありますね。
――で、その武道館公演を「みんなの思い出が重なる場所」として展開しつつ、Wアンコールで初披露されたのが、今回リリースされる新曲の「名悪役」で。<思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ>という歌い出しが、ライブの最後のどんでん返しみたいな形で機能していたのが印象的でした。
健司:「名悪役」を新曲として康司が作ってきて、デモを聴かせてくれた時期が確か、ちょうど武道館のセットリストを考えてたときで。それまでは、もう完全に「武道館をフレデリックの遊び場にしよう」っていうコンセプトのもとでセットリストを組んでいて。映像演出なら「ふしだらフラミンゴ」でとか、「ASOVIVA」やから1曲目は「Wake Me Up」を持ってきてもいいんじゃないかとか、せっかくの武道館に一番初めに連れてきたい曲は「オドループ」なんじゃないかなとか――いろんな構想を練りつつ、仮のセットリストを一応作ってたんですけど。「名悪役」を聴いて、始めの“思い出にされるくらいなら”のフレーズを聴いた瞬間に、「あ、これメインにしよう」と思って、最後にやろうと思ってた曲も全部変えて。それくらいインパクトが強かったし……言葉としてお客さんに伝えてはいないですけど、フレデリックの中の第3章みたいなところに、この曲が行かしてくれるんじゃないかなと思って。この曲がメインになるような――武道館のセットリストすべてを「振り」にして、この曲に懸けよう、って感じましたね。それぐらい力強いフレーズやなって。
――その、「名悪役」のデモを聴いたのって、時期的にはいつ頃のことですか?
健司:去年の秋か、冬か……その時期、ちょうどライブハウスツアーを回っていたので。今のお客さんがどういう目線で俺たちを見てるのかとか、コロナ禍の中で一個飛ばしで席が空いたりとか、キャパ制限がある中でどういうライブをしていくのが一番いいんだろう?っていうのを選びながら考えてたりしてた時期で。その中で「今やったらこれを見せていくのがいいだろうな」っていうことで、ほぼ80%ぐらい決まってたセットリストを――バラしちゃって(笑)。
――フレデリックには珍しい、ある種のダークヒーロー感を感じました。この「名悪役」というイメージ、コンセプトはどういうところから生まれていったんですか?
康司:本当の始まりの話をすると――僕も不思議な曲だなと思うんですけど、最初の<思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ>っていう部分が、メロディと歌詞と一緒にスッと出てきたんですよ。「あ、これ曲にしよう」と思って、何を思ったのかもう「名悪役」っていうタイトルはつけてたんですよ(笑)。最近のフレデリックの傾向として、自分たちの経験とか感じてることを歌う楽曲が多くなっていて、それを考えて考えて作るようになってたんですよ。そういう制作をしてきたのが、『ASOVIVA』くらいから自分の中でもいろいろ切り替わってきて――ふと出てくる音楽の美しさ、みたいな。そういう楽曲が自分の中に出てきて、それからこの「名悪役」が出てきたんですよ。それをどんどん、自分の中で今思う形だったりとか……健司にもいろいろ話をしながら組み立てていって。自分としては、ずっと作りたかったメロディラインがやっとできたのが、まず嬉しかったことで。自分が曲作りの中で達成したかった完成形ができた楽曲でもあったので。いろんな楽曲のバリエーションを持っているバンドの中でも個性的な楽曲っていうのが、やっぱりフレデリックらしいな、って感じながら作っていきましたね。そこからいろんなインスピレーションを入れながら歌詞を書いていった感じです。
――そのフレーズがいきなり出てきたバックグラウンドというか、「三原康司回路」が気になりますね。
康司:そうですよねえ(笑)。なんかでも、ストーリーが見えるというか。音楽を作るときに、音に色が見える人とかいるじゃないですか。僕の場合は結構、画が見える方なんですよね。こういう人がいて、こういう景色があって、みたいな。それがすごく自分の中でも見える楽曲で。だから不思議と、キラーソングになるんじゃないかな、と思いながら作っていて。『ASOVIVA』っていうEPを出して、「ASOVIVA」っていう言葉でバンドが動いていたわけですけど、その言葉の意味をすごく考えたりしていて。今は遊ぶべきじゃないけど、でも「ASOVIVA」っていうタイトルをつけたからって、その言葉が本当に悪者なのかどうなのか?って――そういう言葉の裏側みたいなことをすごく考えるようになって。「名悪役」の「悪」っていう言葉とかも、人が善悪を決めるときに「この人は悪だ」って
窮地に立ったときとか、みんなが何かを背負ってるときって、善悪の中でも悪の方に寄るじゃないですか。でも、誰か人のために悪者になれるっていう――そういう気持ちを持った人って、本当に少数派っていうか。けど、その悪者の愛は語られない。そういう姿って、人に語られない分、めちゃくちゃ綺麗に見えるっていうか。そういう気持ちとかを歌詞に綴っていくのは、フレデリックとしてひとつの言葉にひとつのイメージを持つだけじゃなくて、もっと広く――「誰々を嫌いだと思う」とか「悪いと思う」っていう言葉を、もっと大きな意味で捉えられるんじゃないのかな、もっと人に優しくなれるんじゃないのかな、っていうのを考えながら、歌詞を作っていった感じだったので。だから、メッセージ的にはストーリー仕立てにしてあるんですけど、そういう気持ちを込めた楽曲ではありますね。
――『ASOVIVA』の「正偽」とか、正義と悪みたいな二項対立の構図が、フレデリックの楽曲にはよく登場する気がするんですけど。レトリックとしてではなく、正義と悪の概念そのものと対峙するっていう、ポップミュージックにおいては避けられがちなことを、わりと真っ正面からやってきてますよね。
康司:そうですね。いろんなイメージを持ってもらいたいというか。全員を同じ考えにすることって、絶対によくないことじゃないですか。けど、お互いの個性を分かり合える方が逆に、いろんなことに対して考えられたり、優しくなれたりするのかなって……そんなことをずっと考えてましたね、この『ASOVIVA』でツアーを回ってるときとか、武道館のときとか。そういう気持ちもあって、「一見悪いイメージを持たれやすい言葉」に惹かれていった部分もあるのかもしれないですね。
――この曲を最初に聴いたとき、どんな感情を抱きました?
健司:最初のキラーフレーズもそうなんですけど、そこから歌詞全体を見たときに――ひと言で言うのは難しいけどひと言で言うと、「嫌われ役の正義」みたいなことなんかな、っていう話を康司としてて。康司って、言葉の中にある「本当の意味」だったりとか、ひとつの問題に対して自分の中でいったん解剖して、そこで自分で正しい選択をしていくっていうか、「どれもいい方法なんだよ」っていうのを見せていく人やと思っていて。言葉の前提とか先入観を一回疑う人やなって。頭のフレーズって、人によっては「なんちゅうことを歌うんや!」って感じじゃないですか(笑)。でも、それをフレデリックとして出せたのはやっぱり、康司が今まで作ってきた歌詞における信頼度やと思うんですよね。「この人がこのフレーズを使うんやったら、この後に『本当はこう伝えたい』っていうメッセージが待ってるからや」っていう。そういう信頼も含めて、このフレーズめっちゃいいなって感じましたね。フレデリック全員の中に、康司の歌詞に対する信頼やったりとか、「康司が本当に伝えたいところのためにやってることなんやな」みたいな。そこはみんな共有できてるだろうなと思ったし、自分も共有したいなと思ったので。
――武道館のラストで、この「名悪役」が最高のどんでん返しとして機能したのも、まさにそこだと思うんですよね。ただただお客さんの感情を裏切りたいだけじゃなくて、そこにちゃんと理由があるっていうことを、集まったお客さんもしっかり感じてたからだと思うし。この曲を歌うときの感情って、他の曲とは違う独特のものがあるんじゃないかと思うんですけど?
健司:そうですね。康司が作る楽曲って、バンドが主体になってる曲もありますけど、「完全に絵本の中の話やん」っていうようなものもあって。「ふしだらフラミンゴ」やったり、昔の曲で言ったら「人魚のはなし」やったり――人がメインじゃなくて世界観を表したい曲がある中、この「名悪役」はあくまでノンフィクション的な物語を作ってはいるんですけど、そこに出てくるのって架空の生物とかじゃなくて人間だからこそ、その中で自分はどういう位置で歌ったらいいんだろう?って考えたときに、演じるのが一番いいんだろうなって。人をテーマに、自分がどう振る舞えるかっていうのを、この曲に込めてライブをやってますね。
――ミュージックビデオも最高ですね。男の子と女の子がすれ違いながら現実の奥底に迷い込んでいくような、一本の映画を観ているような感覚で。
康司:スミスさん(MV監督/「オドループ」「オワラセナイト」など多数担当)ってすごいですよね。撮影の前、打ち合わせのときぐらいからめっちゃ熱入ってて。いざ撮影日になったら、もうミュージックビデオっていうよりドラマなんじゃないか?っていうぐらいの撮影の仕方をしてて(笑)。自分もやっぱり曲を作るとき、始めのきっかけはスッとできたんですけど、そこから完成までには結構悩んだりもして……そういう気持ちも汲み取ってくれたのかな?っていうぐらい、歌詞とドラマがリンクしていて。作品として素晴らしいものができたなって。
――Aメロのギターのフレージングとかリズムとか、アレンジも凝ってますよね。メンバーそれぞれがプレイヤーとしても、この楽曲を楽しみ尽くそうとしているのが伝わってきます。
康司:めまぐるしさはハンパないですよね(笑)。『ASOVIVA』でやってきた音楽的なことは入れていってるなと思うんですけど。フレデリックの楽曲の中でも一番BPMの速い曲で。けど、メロディつけるときも、ギター1本で歌いながら作った部分もあったので。そこからのアレンジを考えると、やっぱり「遊び場」だな、っていう部分も自分の中であって。音で言えば、新たな楽曲作りに4人で取り組んでるんだな、っていうのはすごく感じますね。
健司:今回、ギターに関しては(赤頭)隆児が指揮をとって――僕もいつもリズムギターを弾いてるんですけど、そのディレクションも一緒にやってくれて。結構、理想とする音作りがあって「こういうふうに作っていこう」みたいなアプローチであったりとか、「ここの弦がちゃんと鳴ることによって、ここのフレーズが成立するから」って自分の理想を伝えてくれて、それでやっていこう!ってなったりとか……それぞれレコーディングのときって、ひとりひとりが自分のフレーズに向き合って、みたいなこともあるんですけど。その中で今回「指揮をとる」っていう役割が生まれたなって。レコーディングの仕方も変わってきて、すごくよくなりましたね。
康司:まあ、アレンジに対しては普通の考えは持ってないですよね、このバンドは。でも、個性を認め合う部分ってフレデリックらしいと思うし。音楽面でも詞の面でも、そういうのを活かしていきたい、っていうのはすごく感じているところなので。それを新しい形で提示できる1曲にもなったなと思うし。逆に、今までフレデリックを知ってる人だけじゃなくて、初めましての人にとっても刺激的な1曲でもあるなと思って。この曲を通して新しい出会いがあるっていうのが、本当にすごく楽しみだなって。
――フレデリックって、音色のカラフルさとか楽曲自体のポップ感もあるけども、核心はやっぱりロックバンドだなと思っていて。時代に対してのアジテーションではないけれど、今この時代の中で思うこと/伝えるべきことを、歌詞の裏側に綴っていくっていうことを確かにやっているバンドだし、「名悪役」はそういうロックバンドとしての側面が際立ってる楽曲だなと思いますね。
康司:そうですね。ロックバンドだけではなく、視野を広く持ってやりたいな、っていう話はバンドでもしてたんですよね。自分たちは音楽をやる中で、ボーダーラインを決めず、いろんな人たちが聴ける音楽を幅広くやっていきたい、っていうのがすごくあったので。今回はすごくロックチューンというか、そういう楽曲ではあるんですけど、過去曲にはいろんな方向性があったりするので。本当にいろんな個性のある楽曲を、これからも生み出していくんだろうなって思いますね。
――いよいよジャンルとかスタイルとか「〇〇的なバンド」っていう枠組みでは語れないバンドになってきましたよね。
康司:まさに目指しているのはそこで。フレデリックっていうジャンルを作りたい、っていうのを――掲げてるっていうか、すごくそう思うので。
健司:そこは自分本位じゃなくて、世間的にもそういう認識のバンドでありたいな、っていう話はずっとしてますね。どのバンドにもその欲ってあると思うし。そこがちゃんと世間に浸透するかどうか、ってめちゃくちゃ難しいと思っていて。でも、「名悪役」はそれを感じさせるぐらいの楽曲だな、っていうのは感じてます。
――そして、武道館ではもうひとつの新曲「サーチライトランナー」も披露していました。現在はサッカー漫画『アオアシ』とJリーグと「サーチライトランナー」のコラボムービーとしてYouTubeで公開されています。『アオアシ』とのコラボはどういったきっかけで?
康司:もともとメンバー全員『アオアシ』が好きで、それでお話をいただいて。『アオアシ』っていう漫画も、自分たちが理想としてるものと近いというか。サッカー漫画なんですけど、熱量だけじゃなくて、「それぞれのポジションにそれぞれの役割がある」っていうことを、メッセージとして掲げている漫画に思えて。サッカーってゴールを決める人が主役に見えちゃうんですけど、そうじゃなくて、ゴールに辿り着くまでにどれだけ繋いできたものがあるか、っていうことを言ってる漫画だと思うんですよ、ゴールキーパーの必要性とか。僕ら自身も、「それぞれの個性を活かして、そのチームワークがあってこそこの音楽がある」とか――健司が「名悪役」を武道館のラストにしたのと同じように、それぞれの役割があって、それぞれ主人公なんだよ、っていう。そこにすごく共感して好きになった漫画なので。ぜひやりましょう!って。
健司:いろいろラクになるよな、考え方が。自分ひとりでやってると思ってたら、実は支えてくれてたっていうことがわかる、とか。別に俺ら、サッカーはそんなに詳しいわけでもなくて――。
――部活は陸上でしたもんね。
康司:そうです(笑)。
健司:チームとかは知ってるけど、「やってました!」っていう感じでもないんですよ。それでも、自分たちが共感できる部分がすごくあるので。サッカーを知ってるか知らないかじゃなくて、すごくためになりますね。
――「名悪役」とは対照的な、サッカーのスタジアムを思わせる高揚感が爽快なナンバーですね。拳を突き上げたくなるような、力強いコーラスのパートもあって。
康司:『アオアシ』の話が来たときにも、こういう状況でもアスリートの方は本当に努力をしていて、っていう話をしていて。その中で、「声は出せなくても熱は伝わる」っていうのをテーマとして感じ取って――今は実際に声は出せないけど、2サビが終わった後にコーラスパートを作っておくっていうのが、想いのある気持ちになっていくかなっていうのを感じながら作った曲ではあって。頑張ってる人たち、何かを頑張ろうとしている人たちの背中を押せる曲になればいいなと思いながら作ってました。
――できた時期的には「名悪役」の前? 後?
康司:同じぐらい……かなあ?
健司:制作は同じぐらいですね。
――この振り幅広い2曲を、ほぼ同時に作ってるってすごいですね。
康司:それも「らしい」なって(笑)。
――日々の中で目にするもの・触れるもの・考えるもの、全部音楽にしていくような康司さんの在り方が、どんどん加速しているような気がしますね。
康司:なんか、うまく考えて、こういう楽曲を出して、みたいなことをできたら、たぶんまた違ったんですけど(笑)。でもやっぱり、自分がパッと「いいな」って思ったものをスッと出す、っていう方がミュージシャンらしいなって。それぐらい自由な方が、俺はやっぱり素敵だなって思います。そうじゃなくなったときに、本当に書けなくなるんですよ(笑)。
――もう次の作品に向けて曲は作っている感じですか?
康司:まあ、もともとずっと作ってるタイプなので……いろいろ話はしてますね。武道館公演を終えて、次に自分たちをどうしていくか、みたいな話も始まって。いろんなことを考えたりはしてます。
――生まれるままに曲を作っている?
康司:そうですね。その瞬間に感じることを、最近の曲は書いている感じではあるので。でもその中でも、ストレートなわけでもなく、今回の「名悪役」みたいにストーリー仕立てのものも考えたりはしていて。バンドとして、なかなか直接みんなと顔を見て会えなくなった以上、自分たちなりのベストの形で「今」を見せていくのって、やっぱり音楽を作ることだと思っているので。それを意識しながら制作をしてます。
――フレデリックは今までの延長線上で楽曲を作るバンドではないので、どういう曲が出てくるか予想もつかないし。出てきたものをあるがままに楽しむつもりでいます。
健司:自分たちも結構そんな感じなんで。出した楽曲をみんながどう受け取ってくれて、ライブでどんな景色になるのか、ってある程度想像はするんですけど、みんないっつも想像を超えてくるし、そこから僕らがもらうものもいっぱいあるんで。道として考えてても、結局点と点になっちゃってるんです(笑)。で、後々振り返って「あ、こういうことやったんやな」って思って、そこで線にしていく、みたいな。毎回制作もライブもそんな感じなんで、こうやって話をしてて気づくこともたくさんあるし。それが一番俺らに合ってるんやろなって思います。
康司:自分らが想像できる形で生まれるものよりも、もっと知らないところに飛び込んでいける方が、たぶん全然楽しいし、面白いし――そういうふうな楽曲が出てきそうな気がしますね。

取材・文=高橋智樹 撮影=高田梓

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