ミスiD2021 ロゴ(twitter公式アカウントより)

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ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第185回 ミスiDとおじさん ミスiDというのは不思議なコンテストで、小林司さんの夢と、ミスiDという場でないとダメな女の子たちの切望と、別にミスiDという場でなくてもいい女の子たちの才能と、ミスiDおじさんたちの思惑によって成り立つ蜃気楼みたいなコンテストだなと思う。
 なんでミスiD2021の結果発表から二週間もたとうという微妙な時期にこんな話を急に始めたかというと、編集氏がお題を思い付かなかったから。正確には実現可能なお題を思い付かなかったから。三日で『進撃の巨人』全巻ちゃんと読んでちゃんと原稿を書くのはさすがに不可能。一週間前に言ってほしかったです。
 そういうわけで、個人的に気になってたけど特に書くタイミングがなかったことについて触れる機会がきたというわけで、ミスiDの話をしているわけです、はい。
 ミスiDのコンセプトというのは、既存の概念にとらわれずに多様性にとんだ魅力的な女の子を発掘していこうというものだと理解しているのだが、最初のうちは既存の(芸能界的な)概念にとらわれないぐらいの話だったのだと思う。サブカル好き。「文系女子」。服飾専門学校っぽいオシャレな子。美大っぽい子。めんどくさい女の子。そんな芸能界的だったり、一般的には大衆受けがよくないような女の子たちをフックアップしていくようなコンテスト。求められている女の子のタイプが一般的でないだけで、構造自体は普通のミスコンだったのだと思う。そして、「何でもあり!」を謳っていたためにそれを額面通りに受けた人々の手によって想定外の事態が度々起こり、「多様性」と言うものの枠がどんどん広がっていったのである。
 SFおじさんが夢みるような「自分と同じ趣味のたおやかな美少女」「自分のことをわかってくれそうな美少女」そのものであるかのような西田藍さんという人から放たれる、おじさんたちの妄想を破壊するようなソリッドな言動。水野しずさんという想定の「外」からやってきた人。我々の罪に対する罰であるかのような黒宮れいさんの言葉。初期はiDという文字のなかにはアイドルという意味があったわけだが、所詮は風変わりなアイドル・オーディションに過ぎなかったミスiDは、初期の異物めいた人ちによって破壊され変質していったのだと思う。それに小林氏は付き合い続けている。多分、そういう異物めいた女の子が好きだから。
 ただ思うのが、あらゆる「めんどくさい女の子」に寄り添おうとした結果、色々無理が出てきてるのではないだろうか。フェミニズム的なものやジェンダーに対する意識が高い人、性被害についての問題意識が高い人がミスiDに応募していることは比較的あるし、そういう人をフックアップしていこうみたいな雰囲気も感じる。しかし、そういうものを本当に理解しようとしていたら、「ニュージェネレーションポルノスター賞」や「世界一のAV王国日本」みたいな言葉を無邪気に使うことはないだろうし、『童貞。をプロデュース』性的強要問題について未だにちゃんとした責任ある説明をしていないSPOTTED PRODUCTIONS、MOOSIC LABの直井卓俊氏を審査員に選ぶようなチグハグなことをしないのではないだろうか。そういうことを言う女の子は好きだけど、結局のところ色々と理解できてないのではないか。
 今回、セミファイナルで409人、ファイナルでも198人という人数の多さだったわけだが、その中で正規の賞を貰えなかったファイナリスト全員に小林氏が独自の賞をあげたのは偉いとは思う。偉いとは思うが、例えばカレー作りと音楽活動を、しているからといって「カレーと音楽賞」をあげるのはどうかと思う。雑な名前の手作りの小林賞でも素直に喜んでた人もいるが、さすがにもう少しなんとかしてあげるか、ちゃんとできないならあげない方がよかったのではないだろうか。ただ、小林氏が一生懸命に寄り添おうとしているのは何となくわかる。何かをはき違えているような気はするものの。
 話は変わるが、社会的な問題に言及したり、フェミニズムの影響下にある発言をしたり、男性社会に挑戦的な発言をする女の子をもてはやすようなミスiDおじさんたちは本当にそういう思想・思考を尊重しているのだろうか? 個人的に知る範囲では、そういうものを理解して尊重している人もいるが、愛玩動物としての「生きづらい女の子」「めんどくさい女の子」の一種くらいにしか思っていない人も多い。あるいは「僕はあの子の生きづらさを理解してあげられるし、あの子もきっと僕の生きづらさがわかるはずで、僕を受け入れてくれるはず」みたいな都合よい考えだったり。ミスiD好きでインセルっぽいおじさん、意外に多いと思います。
 ミスiDの歴史というのは異物による変化の歴史という側面もあるし、そういう人はミスiDがなくても、何らかの形で世に出てくるパワーだったり才能がある人だろう。それが商業的に成功するかとか、芸能とか表現の世界であるかとかは、また別の話だが。ただ、特に突出した何かの才能があるわけではないがミスiDという場で認められることを切望している、それしかないと思っている子たちもいて、そういう子を認めてあげれる場は確かにミスiDしかないのかもしれない。結局のところ、ミスiDといって想像されるのはそういうタイプの子たちなんだと思う。そういった子に寄り添う場であると同時に、そういった子を消費したがっているおじさんの場でもある。
 無制限に寄り添おうとしているように見える、あるいは見せているミスiDですら、残れない女の子もいる。セミファイナリスト、ファイナリストに残る人数が年々増えていっているが、逆にそれでも残れなかった人に棄てられたような想いが強く残ったりしないかというのが気になってしまう。限界はあるのに、限界がないように見せるのは残酷なことでもあると思うのだが。
(隔週金曜連載)
図版:ミスiD2021 ロゴ(twitter公式アカウントより)
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