稲垣吾郎が孤高の死刑執行人を熱演~
『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男
―』ゲネプロレポート

舞台『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』が2021年4月23日より東京建物Brillia HALLで開幕する(5月9日まで。その後、大阪/オリックス劇場で5月21日~24日、福岡/久留米シティプラザで6月11日~13日、神奈川/KAAT神奈川芸術劇場で6月25日~27日)。
フランス革命において、ロベスピエール、マリー-アントワネットやルイ16世の首をはねた死刑執行人シャルル-アンリ・サンソン。『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』は、世界で2番目に多い約3000名もの死刑を執行していながら、熱心なカトリック教徒であり死刑廃止論者でもあったシャルルを主人公に、激動の時代を描いた作品だ。
本作は、演出の白井晃、脚本の中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽の三宅純のクリエイティブチームが手がける。このタッグは『ジャンヌ・ダルク』(2010初演)、ベートーヴェンの半生を描いた『No.9-不滅の旋律-』(2015年初演)に続く3作目となる。また、本作の主演を務めるのは『No.9-不滅の旋律-』と同じく稲垣吾郎。ベートーヴェン役をすっかり定着させた稲垣が、全く違う個性を持つ人物の生涯に果敢に挑む。
(オフィシャル提供舞台写真)
上演に先駆け、主演の稲垣と演出・白井よりコメントが寄せられた。
■シャルル-アンリ・サンソン役/稲垣吾郎
久しぶりの新作舞台になり、良い緊張感で稽古を続けることができました。
フランス革命期に実在した死刑執行人“サンソン”は、僕がぜひ演じてみたいと思っていた人物でもあります。
重い時代の中でも、社会を良くするために職務に忠実に生きた、サンソンという人物を精一杯演じたいと思います。
■演出/白井晃
当初、この様な時世の中で、これほどエネルギーを必要とする作品を作ることが本当にできるのか、大きな不安を持ちながら創作は始まりました。民主政治の現流となったフランス革命の熱と、その時期に実在したサンソンという死刑執行人の苦悩の物語を語るには、余りにも状況が不向きのような気がしたからです。
ムッシュー・ド・パリと呼ばれたひとりの男がたどった人生は、今の私たちからはおよそ想像できないほど過酷なものだったはずです。しかし、その人生に迫ろうとキャスト、スタッフが懸命にリハーサルを積み重ねるうちに、人が集まり創造するという演劇の持つエネルギーが、私たちをどんどん前へと引っ張ってくれ、初めあった不安は少しずつ消えていきました。そして、今、死神のように恐れられたシャルル-アンリ・サンソンの、心の奥底に流れる優しさに触れることができた気がします。フィクションの中にあるリアルを作り出す為に、献身的に惜しみなく力を発揮してくれた、キャスト、スタッフの結束力がもうすぐ実を結びます、きっと。

続いて、上演に先駆けて行われた公開ゲネプロ(総通し稽古)の様子をお届けしよう。

<あらすじ>
1766年、フランス。その日、パリの高等法院法廷に一人の男が立っていた。
彼の名はシャルル-アンリ・サンソン(稲垣吾郎)。パリで唯一の死刑執行人であり、国の裁きの代行者として“ムッシュー・ド・パリ”と呼ばれる誇り高い男だ。パリで最も忌むべき死刑執行人と知らずに、騙されて一緒に食事をしたと、さる貴婦人から訴えられた裁判で、シャルルは処刑人という職業の重要性と意義を、自らの誇りを懸けて裁判長や判事、聴衆に説き、弁護人もつかずたった一人で裁判の勝利を手にする。このときには父・バチスト(榎木孝明)も処刑人の名誉を守ったと勝利を祝う。
だが、ルイ15世の死とルイ16世(中村橋之助)の即位により、フランスは大きく揺れはじめ、シャルルの前には次々と罪人が送り込まれてくる。将軍、貴族、平民。日々鬱憤を募らせる大衆にとって、処刑見物は、庶民の娯楽でもあった。己の内に慈悲の精神を持つシャルルは、処刑の残虐性と罪を裁く職務の間で、自身の仕事の在り方に疑問を募らせていく。
そこに、蹄鉄工の息子ジャン-ルイ・ルシャール(牧島輝)による父親殺し事件が起こる。だがその真相は、彼の恋人エレーヌ(清水葉月)への、父親の横恋慕が引き起こした事故。彼を助けるべく友人たち、チェンバロ職人のトビアス・シュミット(橋本淳)、後に革命家となるルイ-アントワーヌ・サン-ジュスト(藤原季節)らが動き、シャルルはそこでさらに、この国の法律と罰則について深く考えることになる。
さらに若きナポレオン(落合モトキ)、医師のギヨタン(田山涼成)ら時代を動かす人々と出会い、心揺さぶられるシャルルがたどり着く境地とは……。

「フランス革命」を題材にし、死刑執行人にフォーカスしている作品のため、暗く重苦しいイメージを抱くかもしれない。また、シャルルは時代が大きく変わる中で悩みながらも自らの矜持を真っ直ぐ貫き、役割を全うした冷静な人物。演じる稲垣も、大袈裟な表情や身振りで感情を表すことはない。
しかし、所々にお茶目さを感じる言動があったり、全編を通して物静かな佇まいの内に情熱や優しさが見えたり、意外と表情豊かだ。稲垣の芝居により、人間味に溢れたシャルル-アンリ・サンソンがイキイキと浮かび上がってくる。脇を固めるキャスト陣も、奥行きのある芝居で当時の人々の生活や思想を鮮やかに見せている。
冒頭で行われる裁判中の演説では、シャルルが自信に満ちた立ち居振る舞いで饒舌に「処刑人」の必要性と重要性を語り、多くの人が持っているだろう負のイメージを一蹴。一方で、罪人の苦しみにも思いを馳せ、より人道的で平等な処刑を行うために奔走したり、父・バチストに向かってこの重い仕事を子孫にもさせていくのかという葛藤をぶつけたり、ジャン-ルイ・ルシャールが父親の事故死で「親殺し」として裁かれようとしていることに疑問を持ったり。社会に必要な役割であることを理解しつつ、自らの手で人を処刑する当事者としての苦悩や割り切れない思いが丁寧に描かれている。
(撮影:吉田沙奈)
(撮影:吉田沙奈)

また、シャルルを主軸にした物語ではあるが、様々な立場の人間の視点や価値観が見えてくるのも本作の魅力。特定の人間から見た正義や善悪だけを一元的に描くのではなく、どこか俯瞰した視点は、処刑人として人々から忌み嫌われ差別を受けながらも貴族として扱われたシャルルの稀有な立ち位置があってのことだろう。
バチスト、ギヨタン、ナポレオン、ルイ16世など、様々な人との対話や出会いの中で影響を受けて揺らぐや心情や葛藤は鮮烈な印象を残す。
(撮影:吉田沙奈)
特に、裁判所でシャルルが語った「処刑人と軍人は同じである」という主張に若きナポリオーネ・ブオナパルテが憤りをぶつけるシーンは、お互いが考える「国」の定義や信念の違いが明確に見え、「何を持って人を処刑するのか」を改めて考えさせられた。シャルルの静かな佇まいとナポリオーネの不遜な態度の対比も楽しい。
(撮影:吉田沙奈)
他にも、父・バチストとトランダル将軍の友情、自らに課せられた罰を受け入れようとするジャンの気高さなど、見所は盛り沢山。
(撮影:吉田沙奈)
ジャンの無実を訴える民衆の中にもトビアス・シュミットやエレーヌのような穏健派と、ルイ-アントワーヌ・サン-ジュストのように過激な思想を持つものが混在し、その後の混乱や国内での対立が示唆される。世相が急激に変化していく様子がドラマティックに描写されるからこそ、シャルルの孤高な存在感が際立っている。
(撮影:吉田沙奈)
また、ルイ16世はこの作品におけるもう一人の主役といっていいだろう。
本作においては時代の変化を察知し、民衆の気持ちに思いを寄せる魅力的な人物として描かれている。君主らしい寛大さと威厳を持っていると同時に、シャルルに対しても敬意を払い、気さくに話しかける姿は心優しい善き王だ。
ルイ16世が機械を使った処刑に理解を示し、シャルルが「陛下は聡明だ」と嬉しそうに語るなど、二人の交流にあたたかい気持ちになる一方で、彼らが辿る陰惨な運命を思うと胸が痛む。
(撮影:吉田沙奈)
フランス革命は200年以上前だが、本作を観ていて、過去のこと、終わった出来事とは感じられない。むしろ、国・政治と民衆の乖離やズレ、大衆が持つ力の大きさと恐ろしさ、人が人を裁くことの是非など、今現在私たちが抱えている問題や考えるべきトピックスを提示し、ヒントを与えてくれる作品だ。
死刑執行人・医師・敬虔なカトリック信者、死刑廃止論者……様々な側面を持ち、苦悩の中で自らの宿命と戦い抜いたシャルル-アンリ・サンソン。活発に行動し、周りを巻き込んでいくタイプの主人公ではないが、葛藤しながらもブレない軸を持って物事を見極めようとし、より良い道を模索する彼から学ぶことは多い。
(撮影:吉田沙奈)
本作は4月23日(金)より東京建物Brillia HALLにて開幕し、その後大阪・福岡・神奈川にて上演される。シャルルの生き様と、そこから受け取ることができる多くのメッセージや問いかけを、ぜひ劇場で確かめてほしい。
取材・文=吉田沙奈

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