THE SQUAREの
名曲「TRUTH」を深掘りし、
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『TRUTH』('87)/THE SQUARE
今も多用される名曲「TRUTH」
疾走感、スピードに関連したもの以外で…と考えても、言わば定番のBGMはそれほどない気はする。ブライダルに合うナンバーは山のようにあるし、出会いや別れといったシチュエーションにもこれといった定番曲があるわけでもない。そう考えると「TRUTH」がF1はおろか、疾走感やスピードに関連付けられるのは、やはり偉業と言っていいのだろう。今回、調べるまで筆者はその事実を知らなかったのだが、「TRUTH」は[パチンコ店のBGMとして『軍艦マーチ』に取って代わ]ったそうだし、これも知らなかったが、フジテレビ『F1グランプリ』では歴代いくつかの楽曲が「TRUTH」に替わってテーマ曲となったものの、その後は何度かバージョン違いの「TRUTH」が起用され、結局(というのもアレだが)オリジナルに戻ったという経緯があるそうだ([]はWikipediaからの引用)。F1に関しては他に代え難い楽曲であるし、スピードを競うものに被せるにはこの上ないナンバーになっていることもよく分かるエピソードである。
「TRUTH」の巧みさを分析する
まずイントロ。歌もないのにイントロというのは何か変な気もするけど、“序奏”という意味ではそれでいいはず。キレのいいリズムに乗せられ、抑揚はさほど激しくないものの確実に上へ昇っていくエレピの旋律が鳴り、ギターがそれを追いかける…と認識したのも束の間、パンチの効いたユニゾンの2連が4連発。いきなり目を覚まされるような迫力がある。ここのエレキギターはわりとディストーションが深めで、さながらレースカーのエキゾーストノートのようでもある。そのパートが3回リフレイン(“そのパート”もメロディーが微妙に違うので、厳密に言えば同じパートのリフレインではないのですが、そこは汲み取ってくださるようにお願いします)。否応にも何かが始まる期待感が高まる序章だ。しかもここまで30秒。どこまで意識したのか分からないけれど、TVサイズにもしっかりと合っている。
31秒から主旋律はリリコン≒ウインドシンセサイザーへと移る。電子楽器とはいえ、奏法は管楽器とほぼ同じなので、シンセ特有のデジタル感はありつつも、平板さはまったくと言っていいほどに感じられない。流れるようなメロディラインは爽快さを感じさせ、アナログっぽさの薄い音色は、全体のドンシャリ感も相俟って、未来をイメージさせるような清々しさがあるように思う。56秒からは所謂Bメロになるだろうか。主メロでは長めの音符が目立つので、やや落ち着いた雰囲気にはなるけれども、スネアが相変わらずグイグイと(…というかキンキンとかパンパンと言った感じで)リズムを引っ張って進むので、緊張感は持続したままだ。それが1分5秒頃から、本格的にスリリングに展開していく。ここではイントロで見せた2連に近い展開があり、リスナーは自然とこのあとで何かが始まる予感を得るのだと思う。イントロでの演出が伏線回収とでも言うべき形で活きていると言える。
1分14秒からサビだが、そこにつながる1小節に満たない箇所で聴かせるドラムのフィル、鍵盤のグリッサンドも素晴らしい。次に起こる何かを想起させ、短いながらも実にドラマチックに機能している。で、サビで転調してメロディーが昇っていく。決して音符が詰まっているわけでも数が多いわけでもなく、もちろんテンポが変わっているわけでもないのだが、Bメロが活きているのか、メロディーがコンパクトにまとまって疾走感を醸し出している感じ。F1中継のテーマ曲であることを知った今となっては、レースカーがデッドヒートしているようにしかイメージできない。スピード感はベースラインの刻み方が大きく関係していると思われる。ここまでで大体1分39秒。尺も見事だ。いわゆるJ-POP的な展開の妙味があると言ってしまえば簡単だが、それだけではなく、各パートが自身の持ち場をわきまえた上でしっかりと楽曲に寄り添うことで、不可逆に進む楽曲をカラフルに、ふくよかに、また、緩急を感じさせるように仕上げている。ものすごく巧みな作りであることは疑うまでもない。
サビを終えると一旦イントロに戻るが、聴きどころはまだまだ続く。というか、本格的な聴きどころは、1サビが終わってからと言ってもいいかもしれない。1分58秒頃からはギターソロが始まる。これがまた超絶テクニカル。音符を細かくギターならではの奏法で鳴らしていく。HR/HMほどの見せつけ感はないが、それでも十分すぎるほどにギターの存在感を示している。そのギターソロが25秒ほど続いたあと、シームレスにキーボード(シンセ)ソロにバトンタッチ。ピロピロとした速弾きで、油断している時なら“ギターのライトハンド?”と思うような音色だ。これもまた圧巻のプレイを魅せたあと、タイムラグなく再びウインドシンセサイザーへ戻り、Bメロ→サビとつながっていく。伊東たけし(Sax)だけでなく、安藤まさひろ(Gu、現:安藤正容)、和泉宏隆(Key)というメロディパートの3名の演奏がちゃんと入っているのが面白くもあり(ご丁寧なことに、ギターソロ、キーボードソロはほぼ同タイム!)、このバンドのスタンスを表してもいるようだ。キャッチーなメロディーラインを、疾走感を際立たせるバンドアレンジで支えることによって、聴く人に高揚感をもたらす「TRUTH」。楽曲そのものの優秀さもさることながら、それを再現出来るメンバーであったからこそ、時代を超えても輝きを失わない名曲中の名曲となったのだと言える。