宮田 大(チェロ)&大萩 康司(ギタ
ー)インタビュー 『Travelogue』~
沸き立つ音に夢を乗せて、遠い世界へ
想いを馳せる

心の奥に染み入る音色で人気のチェリスト宮田 大(みやた・だい)と、温かい響きとしっとりした味わいに定評のあるギタリスト大萩 康司(おおはぎ・やすじ)。輝かしい経歴をもち、第一線で活躍中の二人が、昨年(2020年)末に初となるデュオアルバム『Travelogue』をリリースした。ピアソラやニャタリといった南米音楽、映画『ロシュフォールの恋人たち』でお馴染みの「キャラバンの到着」、サティやラヴェルといったフランス音楽という具合に、音楽で世界各地を旅するような1枚である。コロナ禍でなかなか思うように外出ができない時期にあって、音楽での旅は一つの癒しであろう。そして、ついに2021年6月11日(金)紀尾井ホール(東京)を始め、高崎、沼津、兵庫、徳島を巡演する待望のコンサートも始まる。時に情熱的に、時に静寂の中で呼応するチェロとギターによる異色のダイアローグ。繊細な音色を五感で楽しみたい。
チェロ✕ギター、異色のデュオ
――お二人は、昨年12月にニューアルバム『Travelogue』をリリースされました。おめでとうございます。いよいよ、このアルバムを携えてのデュオ・リサイタルが始まりますね。
宮田:CDをリリースしたものの、このプログラムをまとまった形で生の演奏で聴いていただく機会はありませんでした。
大萩:ええ。やっぱり、今回のCDに収録した曲を、各地に生で届けられるのが嬉しいです。こういうご時世ですから、一層強くそう感じています。
――アルバムタイトルの『Travelogue』には、どういった意味が込められているのですか。
宮田:きっかけは、大萩さんのアイデアです。
大萩:色々な曲が入っていますが、それぞれはキャラクターの濃い作品なので、どれか一つをタイトルにするとその曲ばかりがフォーカスされてしまいます。まず、それは避けたいと思いました。作曲された時代も国も、ジャンルすらも違った曲です。それぞれの曲で旅をしているような感じが出てきたらいいなと考えました。「トラベローグ(travelogue)」という言葉は「紀行文」を指すのですが、「トラベル(travel)」というワードに、「ローグ(logue)」つまり「言葉」の意味が合わさった言葉。不思議な出会いを感じて、これは良いと感じました。
宮田:取り上げた作品を聞くと確かに世界旅行しているような気分になります。コロナ禍ですし、私たちの演奏を聞いたお客さんが、いろいろなことを重ねつつ、旅をしているような気分になって欲しいと思っています。
大萩:そうですね。コロナ禍がなかったら、ひょっとするとタイトルは全く違ったものになっていたかもしれません。
――コロナ禍は依然続いていますが、多くの人々が外出自粛を余儀なくされた状況下だからこそお二人が発見したことが、このアルバムには映し出されているように感じます。
大萩:それは絶対あると思います。
宮田:そうですね。昨年は、コロナ禍でコンサートの中止や延期が続いている中、CD録音で訪れたホールが、久々の大きな舞台でしたね。もちろんお客さんはいなかったのですが、何よりも開放感がありました。
大萩:響きも良いホールだったので、二人で演奏をしていると高揚感が生まれてきました。
宮田:(笑)。ありましたね。
大萩:やっぱり舞台って素敵だなと改めて感じた瞬間です。
音楽の旅へと誘う
――リサイタルでは、アルバムに収録された曲を中心に演奏されるということですね。
大萩:冒頭に披露するのはサティの「ジュ・トゥ・ヴ」。皆さん、ギターとチェロのアンサンブルはあんまり聞いた事ないと思うんですが、すんなりと入っていただける作品だと思います。
宮田:大萩さんがフランスで学ばれていたこともあって選びました。フランスのサウンドと3拍子の揺れが、絶妙な作品です。
大萩:独特な、手回しオルゴールの雰囲気が出せたらいいなあ。一定のリズムじゃなくてね。
――ラヴェルの「亡き王女の為のパヴァーヌ」が続きますね。
宮田:CD録音に際して、大萩さんがチェロとギター用に編曲されたものです。まだ舞台では披露したことがないので、今回が初出しになりますね。
大萩:チェロは撥弦楽器で、長いフレーズを弾くことができます。宮田さんは弱音から大きな音まで、本当に自在に操れるので、編曲では、それをうまく活かしつつ、ギターでどういう風にオーケストラの演奏を表現できるのかを考えました。ギターは色彩豊かな楽器なので、様々な楽器の色彩にギターでどれくらい迫れるかを意識しました。
――そして、ブラジルの作曲家ニャタリの「チェロとギターのためのソナタ」ですね。情熱的で哀愁のある素敵な曲ですね。
大萩:チェロとギターのためのオリジナル曲は多くありません。すごく貴重な曲です。もちろん、クラシカルな部分もあるとは思うんですが、ニャタリはヴィラ=ロボスやカルロス・ジョビンと同世代の1900年代中盤を生きた作曲家ですから、その根底にある和音の付け方には、やっぱりボサノバやジャズの曲調が生きています。
宮田:ピアソラとは全然違った、ブラジル独特の世界観がありますね。悲しいメロディのところであっても、常に上向きの希望があります。
宮田 大
大萩:そう! 天気雨のような(笑)。
宮田:一回聞いて「これが一番好きです!」と仰ってくれるお客さんも多いですね。リズムや風景、香り、あるいは曲の最後にある「ジャン!」というテンションの高さだったりしますが……その時々にある一期一会をソナタで語りあいながら表現したいと思っています。
――そして、ピアソラの作品群が続きます。
宮田:≪タンゴの歴史≫は、自身のアルバム『木洩れ日』の中で、ピアノとチェロで演奏したんですが、今回は、ギターとの演奏。大萩さんのギターは最弱音を得意としていて、赤でも黒がかった赤という具合に、繊細な色合いがでる。日本の音響の良いホールでなければ聴こえないというところまで、聴いて頂けたら嬉しいです。
大萩:いや、本当にすごいですよ!(ギターで)最弱音を弾いているつもりなんですが、大君のチェロはそれよりもかなり小さい音で、それも真っすぐな絹の糸を針の穴に迷いなく通す感じで演奏されます。それでいて、音がホールの端まで聞こえているような感じの弾き方です。「どうやっているんだろう」とついつい見てしまいます(笑)。
宮田:いやいや(笑)。これまでピアノと共演することがやっぱり一番多いのですが、そういう時は自分の真後ろでピアノが演奏されていることになるので、どうしても背中で音楽を伝えなければいけません。ギターだと真横にいてくださる。それもすごい最弱音と色んなニュアンスが聞こえてくるわけですから、真似したくなります。
大萩:ふたりのコンサートの魅力はそういうところですね。絞ったスポットライトで照らされた中に、二人だけがぽつんといるような世界。お客さんの視野も段々と狭くなっていき、耳も音にぐーっと寄ってくださる瞬間が感じられます。周りが暗くなればなるほど、視界が狭くなればなるほどに、聴覚は開いていきます。耳が「開いた」状態で聴いていただけるのではないかと楽しみにしています。
左から 大萩 康司、宮田 大
――アルバムに収められた「タンティ・アンニ・プリマ」と「ブエノスアイレスの冬」も演奏されますね。
大萩:元々は映画音楽ですが、それに留まらない魅力のある作品です。ギターの名曲に≪禁じられた遊び≫がありますが、あの曲と同じように、映画自体はそれほど有名にならなかったけれど、音楽の方がどんどん有名になっていくという現象が「タンティ・アンニ・プリマ」にはあります。そういう魅力のある一曲です。
宮田:「ブエノスアイレスの冬」は、ニャタリのソナタと並んで、今回のリサイタルのメインディッシュと呼べるような作品。この作品をギターとチェロで演奏する人なんて、世の中にいません!普通なら5人くらいで演奏するものを、2人で演奏するので、お互い大変なパッセージがあります。そういうスリリングな所も含めて、ピアソラならではの即興を楽しんでもらいたいです。
――最後を飾るのは「ブエノスアイレスの夏」ですね。
大萩:「ブエノスアイレスの冬」には、「ブエノスアイレスの春」のモチーフも出てきます。だから、冬から春に行きかけて……飛び越えて、夏というプログラムです。最近の日本の季節に近いかも知れませんね。春が短いという感じになるかもしれません(笑)。最後は激しく終わるので。良いとこどりです。
宮田:今年は、ピアソラの生誕100周年ですしね。
――今回のリサイタルツアーの「先」を聞かせてください。今後、お二人で取り組んでいきたいレパートリーやプロジェクトはありますか。
大萩:進んでるよね!
宮田:うん! もう、その曲も出来上がっているんです。今回のツアーでも、東京近郊でも公演によってはプログラムを少し変えていきます。もう一回聴きたいという方にも新しい演奏を聴いていただけると思いますし、新しい挑戦も少しずつ披露できると思います。是非、そういった部分も楽しんで欲しいですね。
左から 大萩 康司、宮田 大
――最後に、お二人の共演を楽しみにされている皆さんへのメッセージをお願いします。
大萩:生音で聴ける機会は、本当に貴重になってしまいました。耳で聴くというのは分かりやすいと思いますが、実は、肌でも音を感じることができるそうです。生音の中に身を置いていただき、空気を伝わってくる全体的な音の心地よい振動を、体感していただきたいですね。大君のストラディバリウスを隣で聴いていると、本当に肌が揺れるのが分かります。ぶるぶるって、振動が来るのが分かるんです。皆さんにもそういったものを味わっていただけたら嬉しいですね。
宮田:外出に関して言えば、去年よりは少しポジティブに考えられるようになってきた状況かと思います。音楽を聴くことには薬のような効果があると思います。日常とは違った環境に来ていただき、普段とは違った世界にお連れできればなあと思います。対話のように聴こえる二人の演奏、そして一期一会の世界を、皆さんが堪能していただけたら嬉しいですね。
取材・文=大野はな恵 撮影=福岡諒祠

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