ゴツプロ!『向こうの果て』小泉今日
子にインタビュー「あえていうなら…
…私は”揺れる女”です」

昭和60年、小さなアパートの一室でひとりの男が殺される。逮捕されたのはこの部屋に住む女。検事は容疑者を取り調べるが“女”は自らのことを話さない。彼女について語るのは、女と関係のあった“男”たちだーー。
旗揚げ以来、男性出演者のみで公演を打ってきたゴツプロ!が、初の女性キャストを迎える舞台『向こうの果て』が本多劇場で幕を開ける。本作出演の小泉今日子に話を聞いた。

『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)
――『向こうの果て』初日まで1か月を切ったところですが、お稽古はどんな状況でしょう。

小泉今日子(以下、小泉)かなり固まってきていて、もう少しで通し稽古に入れそうな感じです。凄くいいチームだし、みんなで話し合いながら作品を作っていくのがとても楽しいです。
――小泉さんとゴツプロ!さんとのご縁について伺えますか。
小泉 ゴツプロ!で作・演出を手掛ける山野海(筆名=竹田新)さんと私は同じ年齢なんですね。もともと、彼女が描く昭和の香りがする世界がとても好きで、山野さんが主宰する「ふくふくや」の『フタゴの女』という作品に客演させてもらったこともあるんです、2014年くらいかな。そこでゴツプロ!のメンバーとも親しくなり、いろいろな状況が重なって、今回、この公演にも参加できることになりました。
私自身が制作会社をやっていることもあり、ゴツプロ!さんとはどこか親戚関係みたいな気持ちでいますし、もともと旗揚げからずっと観ているファンの1人でもあります。
■相手からの見方が固まると逃げたくなる
――『向こうの果て』で小泉さんが演じる池松律子は、彼女と関係があった男性たちに、それぞれまったく違う印象を与える女性です。
小泉 女性って多少なりともそういう部分があると思うんです……人は自分を映す鏡だから。ある人の前ではいい子になれても、違う人の前ではツッパってしまったりね。まあ、池松律子さんくらい激しくそれが出る人はあまりいないかもしれないけれど。今回、いろいろな顔を持つ女性を物語の中で思いっきり演じられるのは、おもしろいですよ。
――律子に対し、男性たちは「残酷な女」「娼婦のような女」「柔らかな女」「嘘つきな女」そして「太陽のような女」とそれぞれ語ります。もし、小泉さんがご自身のことを「~のような女」と表現するとしたら、どんな言葉が当てはまりますか?
小泉 なんだろう……うーん……「スケバンのような女」(笑)?えっとね、意外と生き方もそうですし、好きなものとかもそうなんですけど、一貫性はありつつ、決めつけたくないところがあるんです、いろんなことに対して。
だから、あえて言うなら「揺れる女」ですね。
――ああ、凄くわかります!今回、あらためて小泉さんのこれまでのお仕事を拝見し直して、これだけ“出会い方”によって、印象が変わるプレイヤーって他にいないと思いました。
小泉 あ、それは嬉しいです。ずっと変化し続けている感覚は自分でもあります。もともとは歌手だったし、そこからドラマに出たり、アイドル的な主演映画をやらせてもらった時代もありました。でも、ファンの方含め、相手からの見方が固まりそうになると、そこから逃げたくなっちゃうところはありますね。
『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)
――『向こうの果て』は昭和60年、1985年が舞台ですが、その頃、小泉さんはトップアイドルとして時代を駆け抜ける存在でした。
小泉 19歳くらいですね。バリバリのアイドルだった頃。
――そして、この年の大ヒット曲が『なんてたってアイドル』。
小泉 わあ、本当だ!まさに、アイドルとしてピークだった時。
――世界線は違いますが、『向こうの果て』で律子が人を殺めてしまった時と、小泉今日子さんが『なんてったってアイドル』を大ヒットさせていたのが同じ昭和60年だという点にすこし震えました。
小泉 うん、そう重ねて考えるとちょっと不思議な気もします。

■「どう演じるか」より「どう反応するか」が大切
――演じ手として、ご自身と役とのつなげ方……みたいなことってどう捉えていますか?
小泉 そうですね……たとえば『あまちゃん』でいうと、アキちゃんがあの子でなかったら、違う春子になったと思うし、駅長さんや海女さん……いろんな人たちがそれぞれの役でその場にいて、そこに私が春子としてどう関わっていくか、ってことが大切だと思うんです。
だから、自分がその役をどう演じるか、ということより、相手に対してその役としてどう反応するかが大事だし、そうすることで役の輪郭が浮き上がってくる気がするんです。うん、私はそう思ってその場にいます。
――だとすると『向こうの果て』は特にそれが明確になる作品ですね。
小泉 そう、ひとつの物語の中で何役も演じているような感覚もあって、それがとても楽しいんです。
――律子のキャラクターを彼女と関係のあった男性たちが外側から形成していく物語。
小泉 取り調べをする検事の津田口さんと一緒に、お客さんも律子がどういう人だったのかを追っていく構成です。観てくださった方が、最後に池松律子という人間に対して何を想い、何を抱えて劇場を出るのか。
――その答えは観る人それぞれが歩んできた道によって変わる気がします。
小泉 うん、それは本当にそうだし、完全な正解はない世界を楽しんでほしいです。

『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)

――律子のことを男性たちが話すように、小泉さんについても、ご本人以外の口から語られる機会がとても多いと感じます。ネット等に書かれるご自身への文章を読んだりすることはありますか?
小泉 全然、読みます。むしろ来やがれ、って感じです(笑)。だって、それを読まないと戦い方がわからないから。ネットで書かれるいろんなことも意見だし、それを知らないと、こちらもアップデートしていけないって思うんですよね。
さらにね、私、全然、傷つかないんです。
――でも、相当、見当違いのことも書かれるじゃないですか。
小泉 ありますね(笑)。書かれたものを読んで傷つきはしないけれど、反省することはあります。確かに、あの時のあの発言はそういう取られ方をしても仕方なかったかなあ……とか。
思想や考え方の違いで、わあーっていろんな人にこられる時もあるけど、今まで、そういうことを言い合っていなかった状況の方が不自然な気もします。今はそんな膿のようなものを出し合っている時期なのかも。何かに対して、賛成や反対の意見をみんなが表明して話し合うのが健全な社会だと私は思うので、自分や自分の仕事に対しての批評やネットの記事もシャットアウトはしないようにしています。

■いろいろな時代の自分が横並びで存在するイメージ
――現在はプレイヤーだけでなく、制作やプロデュース側に回ることも増え、ご自身がギャランティの交渉にあたったりもするそうですね。
小泉 そう、前は自分のギャラを知らなかったんです。というか、知りたくなかった。若い頃から仕事を始めて、ある時期から自分が“商品”であることを実感する中で、ギャラの金額を知ってしまうと、仕事に対する“純度”が下がるように感じて。だから当時はお給料制にしてもらって、毎月決まった額が振り込まれる形をとっていました。そのほうが、自分が綺麗でいられる気がしたんですよね。
今はものを作るという明確な目標ができました。お金の使い道がはっきりしたことで、自分が仕事の関係先で金額の交渉をすることも全然平気になりましたよ(笑)。もうひと声どうですか?これだけ日数かかりますし……とか言えちゃうレベル(笑)。

『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)

――このコロナ禍といわれる状況の中、小泉さんが舞台作品をプロデュースし、舞台に立つのはなぜですか。
小泉 今、世界中が同じ体験をしている状況で、みんなが疲弊していますよね。そんな時に、誰かの心が少しでも楽になるのなら、私は歌も歌うし、演技もしようと思います。今後はもっとエンターテインメントが必要な世の中になっていくとも感じていますし。
今、特に心配なのが、ティーンエイジャーや子どもたちのこと。友だちと手を繋げないとか、抱き合って喜び合えないとか、人と接することを「ダメよ」って言われて育った子どもたちが成長する過程で、何か歪みのようなものが生まれてしまうのでは……って思うんですね。
今の状況が良い方向に変わっていった時に、私たちが「友だちってこういう存在なんだよ」とか「恋って素敵なことだよ」って全身全霊で表現することが、この仕事のひとつの意味だと思っています。
『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)
――昨年10月のプロデュース企画『asatte FORCE』で上演された『下北沢桃太郎プロジェクト「桃太郎」』では、本多劇場にこれまで見たことのない数の子どもたちが集結しました。
小泉 そうなんですよ、あれはもう、我々、作っている側も本当に幸せな時間でした。演劇ってどうしても大人が楽しむものって思われがちで、若い世代にアピールするのが難しい一面もあるじゃないですか。そんな中、ああいう企画を続けていくと、小さいうちから「劇場は楽しい場所だ」って感じてくれる子が増えると思うんです。リターン、じゃないですけど、幼い頃にそういう経験をした子どもとそうでない子どもとでは、演劇や劇場に対する気持ちも変わるような気がして。
あの企画はゴツプロ!さんと一緒にやらせてもらって、機会があったらまたやりたいねって話しているところです。
――最後に、昭和60年の小泉今日子さんに、令和3年の小泉今日子さんが言葉をかけるとしたら、何を伝えるか教えてください。
小泉 これもずっと変わっていないけれど「あなたが頑張っているから、今の私がいるんです」って伝えます。
えっとね、私、自分が生きている時間を“縦”に捉えていないんです。“横”に並んでいるイメージなのね。たとえば、昭和60年の私が勇気を出して一歩前に出ると、横に並んでいる55歳の私も一歩前に出られる気がするし、多分、70歳の私も一緒に前に出るんです。なんか……繋がっているんですよね。
横に並んでいる自分たちが顔を見合わせて一緒に「よし、行くよ!」って言ってるイメージがずっと心の中にあるんです。

『向こうの果て』小泉今日子さん(撮影:福岡諒祠)

【取材note】
都内の雑居ビル。地下の部屋にその人はいた。華やかさとかゴージャス感とか、そんなキラキラしたものとは対極にある演劇の稽古場。衣装や小道具が置かれたスペースでは、劇団員とスタッフたちが片付けや明日の準備に追われている。マネージャーやお付きの人もいない中、その人は言った「大丈夫、なんでも聞いて」。
小泉今日子。アイドル、女優、アーティスト、文筆家、そしてプロデューサー。出会ったシチュエーションや時代によって、これだけ受け手の印象が変わるプレイヤーは他にいないと思う。出演作を語ろうにも、そのあまりの数の多さと、広すぎるジャンルを前に立ち尽くしてしまう。
「相手からの見方が固まると逃げたくなる」まさに彼女はそんな存在だった。世間がカテゴライズしようとした瞬間に、それらをひらりとかわして、違う世界でまた輝き始める。ずっと、もう40年近く。
今作『向こうの果て』で彼女が演じる池松律子のことを語るのは、律子とさまざまな場面でかかわった男たちだ。私たち観客はそんな彼らに自らを重ね、ふと思うのかもしれない。「一体、小泉今日子とは自分にとってどんな”存在”なのだろうか」と。
もうじき、幕が上がるーー。
取材・文・構成 上村由紀子(演劇ライター)

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