クボタカイ、1stフルアルバム『来光
』を解剖ーー明け方の深く青い空から
、光が差し込む瞬間へ

福岡を拠点に活動する、1999年生まれのラッパー/トラックメイカーのクボタカイ。1st EP「明星」が「明け方の深い青色をしていて、星がまだ輝いている空の感じ」だとしたら、4月7日にリリースする1stフルアルバム『来光』は「その1歩先の光が差し込む瞬間」だという。クボタカイの新たな魅力や可能性が大いに詰まった『来光』。ヒップホップという枠に留まらないサウンド、詩人クボタカイが描く様々な世界をインタビューで紐解いていく。
クボタカイ
ーー昨年12月4日に開催された、『デビューEP「明星」RELEASE TOUR 大阪REVENGE公演』を拝見しました。新型コロナウイルスの影響で3月から延期され、リベンジ公演となりましたが、久々にお客さんを入れてのライブはいかがでしたか?
久々のライブなので普通に緊張しました。もちろん嬉しさもあって、そっちの方が強かったですね。
ーーお客さんが来てくれて嬉しいとか、ライブをやれて嬉しいとか……?!
全部ですね。俺らがライブをする判断も難しいですけど、お客さんもきっとライブに行くという判断は難しいじゃないですか。今そんな中来てくれたお客さんがこんなにいるんだなと思うと、やっぱり嬉しかったです。
ーーライブのMCで、「コロナ禍でなかなか動けない中、配信ライブなどをたくさんやっていくよりも、曲をたくさん作っていくということにフォーカスしていた」とおっしゃっていましたね。
そうですね曲の作り方は人によって色々だと思うのですが、僕は感情で書くタイプで。しかもハッピーな時に曲を書くというよりは、しんどいなと思う時に書くことが多くあります。コロナ禍では、僕だけじゃなくみんなしんどい時が増えていったのかなとは思うんですけど。配信ライブをするより、お客さんの前に出た時に、たくさんいい曲が出来ている様にと思って、意図的に曲を作ることにフォーカスしました。
ーー「いい曲がたくさん溜まっていたけど、なかなか動けていなくて悔しかった」ともおっしゃっていましたね。
そうですね。みんなの反応が分からず、特定の人にしか聴いてもらえない状態だったので、いい曲を書けているのか分からないというのがありました。そういう寂しさや虚しさがありましたね。だからやっぱりライブをしたかったです。
ーー曲作りをしている時以外はどういう風に過ごすことが多かったですか?
釣りとか結構していました(笑)。やっぱ密を避けられるので。あとは漫画読んだり、体作りもしていましたね。
ーーそのような状況下で制作した初のフルアルバム『来光』のタイトルについても、込められた想いを聞かせてください。
ツアー名にもありますが、初の全国流通のEPが「明星」というタイトルですね。明星を辞書で引くと、本来の意味は明るく輝く星なのですが、個人的には「明け方の深い青色をしていて、ちょっとずつ明るくなっているけど、星がまだ輝いている感じの空」という様なイメージがあります。そしてその1歩先の光が差し込む瞬間が「来光」のイメージ。そういうアルバムにできたらいいなと思い、名前をつけました。あと文字の見た目も響きもかわいいからというのもあります。(笑) 。
ーー大阪のリベンジ公演では、新アルバムの中から計4曲を披露していますよね?
あのライブは実験的でした。例えば「MIDNIGHT DANCING」は、みんな踊ってくれるかな、みたいな不安はありながらも、なんとなくみんなの反応をイメージすることができていました。クラブでDJにかけてもらいたい、ライブでもみんなに踊ってもらいたい、みたいな曲なので。一方で「僕が死んでしまっても」は、ライブの時はまだ曲がデモの段階だったので、どういう反応があるのかあまりイメージできすていませんでした。でもやりたくてやりました。
僕が死んでしまっても - クボタカイ (Official Music Video)
ーー新曲の中でも「僕が死んでしまっても」はライブで特に印象的でした。
まだ完成していなかったですし、一番実験的でしたね。でもあの曲は、あの歌詞を書かざるをえなかったといった感じの曲で、とにかく早く歌いたかったですね。
ーーこの歌詞を書かざるをえないって、というのはどういう事でしょうか?
恥ずかしい話ですが、去年の夏頃に心が沈んでしまって。嫌な状況が二重三重と重なった時期にこの曲の歌詞通り、自殺防止センターに電話しました。切羽詰まって電話したのですが、回線が混んでて繋がらず。最後の砦がパンク状態になっている事に気づいた瞬間に冷めちゃって。そこで客観した自分が出てきました。
ーー歌詞通りに「只今大変混み合っております」「もうしばらくお待ちください」というアナウンスが流れたと。
そうですね。その後自分の状態がある程度落ち着いてきて、これを歌詞にしようと思い書き始めました。なので伝えたいことがあるかというと、別にないのです。「お前も頑張れ」というメッセージソングではなくて、俺はこうでしたという曲。これを聴いて色々感じてくれる人がいたらいいなと思います。
クボタカイ
ーーサウンド面からいうと、ヒップホップというよりロック的なアプローチの曲ですよね?
ロックは、曲の中で夢を語ってもギターの音があるので説得力がある様な気がしています。そこがヒップホップにはない雰囲気というか。ギターのギュイーンという音は、俺らが頑張って伝えたい気持ちを一瞬で分からせてくれる様な後押し感があるなと思います。「僕が死んでしまっても」にはその音が必要だと思い、ロック調の音作りにしました。
ーー挑戦的なこの曲をアルバムの1曲目にするということに、メッセージ性を感じます。
そうですね。やはり1番聴いて欲しかったので1曲目にこの曲をぶつけました。ピンク色でかわいい女の子が写っているアルバムジャケットなのに、というギャップもあると面白いなと思いました。
ーーアルバムは「僕が死んでしまっても」を筆頭に、「MENOU」「ベッドタイムキャンディー2号」「MIDNIGHT DANSING」と続いていきます。4曲目の「MIDNIGHT DANCING」は、トラックを無料配布してますよね?
MIDNIGHT DANCING - クボタカイ(Official Music Video)
「MIDNIGHT DANCING」はトラックありきの曲だと思っています。こういう感じのトラックで作りたい、とトラックメイカーのTaro Ishidaさんにお願いして、作ってもらいました。元々自分の曲をカバーしてくれていたり、映像を作ってくれるのを見ることが好きなので、このトラックで二次創作を聴きたいと思い、無料配布してみました。歌ったり、Remixを作ってくださったりしているのが、既にいくつか届いています。16歳の高校生が凄くいいものを作っていて、刺激をもらったりもしています。仲間内のラッパーから、「これで作っていい?」との連絡をもらったりもしましたね。割とこれは個人の楽しみの部分が大きいですね。(笑)
ーー二次創作をもとに新たな作品を作ることは考えてませんか?
それもありえます。「うわっ、この人やべぇ!」となったら1曲お願いすることもあるかもしれませんね。
ーーファンとのコラボというと、10曲目に収録されている「Youth Love」でコーラスとして参加しているasmiさんは、同じ事務所の後輩なんですね。
Youth love - クボタカイ (Official Lyric Video)
そうなんです。「1曲作りたいですね」という話はお互いしていて、手始めに今回「Youth Love」にコーラスとして参加してもらいました。
ーー縁ですね。11曲目の「拝啓(Freestyle)」にもドラマがありそうです。
そうですね。ラッパーの空音が2020年に『19FACT』というアルバムを出したのですが、僕はその中の「HaKaBa」という曲が好きで。「HaKaBaヤバイね」と空音にLINEを送りました。そしたら「ありがとう。でもクボタの事を書いた曲は拝啓なんやけどな」と返信が来て、改めて聴き直したら「拝啓」は確かに俺のことを歌ってると思いました。で、「ありがとう」と言うより、曲にして返そうと思い立ちました。LINEでは「覚えてろよ」みたいに言って(笑)。だから同じタイトルで作って、フリースタイルでやりたいなと思ったのでこういう形にしました。
ーーということは「拝啓空音」になるということですか?
空音が軸ではありますが、色んな人に向けてます。そういう意味では個人的な歌かもしれないですね。
ーー<打ち上げで言ったBASIさんの言葉は不思議なもんだった あれは予言だ 清水さんにもよろしく>というフレーズがありますよね。BASIさんのマネージャーの清水さんのことですよね(笑)?
はい、そうです。(笑)
ーー打ち上げではBASIさんになんてと言われたのですか?
それは秘密ですよ(笑)。でも、まぁ、今となっては当たっているなぁという様な言葉です。聞いた時はそこまでピンときていませんでしたが、結果そうなっちゃったみたいな。
ーー聞かないでおきます(笑)。BASIさんはクボタカイさんにとってどのような存在ですか?
BASI / 月ひとつ feat. 空音 (Official Music Video)
お会いしたことは2、3回くらいしかありませんが、空音などの仲間内が一緒に曲をやってますし、1番仲いい奴らが慕ってる人という感じですね。1回ご一緒した時には、慕われる人でもありつつ、可愛らしい人でもあるなという感じがしました。
ーーご飯の席ではアドバイスされたりするのですか?
BASIさんはあまりそういうタイプではないと思います。でもボソッて言ったことが鋭いというか、真剣に考えてくれるのだろうなという感じはしますね。
ーーアルバムを聴いていて、「アフターパーティー」がラストにふさわしいと思いました。
クボタカイ "せいかつ" (Official Music Video)
「アフターパーティー」は、クラブでの2次会とかそういう話ではなくて、お付き合いが終わった後にもう一度会ってしまう、みたいなイメージなんですよ。だから「せいかつ」の後に絶対つけてやろう、と思いました。「せいかつ」で<君は泣いている、なぜか泣いている>と歌って、その後に「アフターパーティー」があるから、「あっ終わったんだ」と思える様な感じです。
ーー最後に、このアルバム『来光』はEP「明星」に収録されていたものなど、結構前に作った曲もあれば、最近作った曲も収録されています。時間をかけて、色んな曲を作り、それが『来光』という形になって世に出ていく今の気分を教えてください。
ドキドキという気持ちが一番近いですかね。ワクワクもあるし、大丈夫かな、という様な不安な気持ちもあります。自分では聴き込みすぎてわからなくなっちゃってるので。ただただ心拍数があがる感じがしますね。「いい歌=売れている歌」ではないということは分かっていますが、やっぱりいい歌でありたいし評価もされたいという気持ちがあって。いい歌を作っている事に関して自分の中ではありますが、どう評価されるのかという所はやはりドキドキします。色んな人に聞いて欲しいですね。
クボタカイ
取材・文=竹内琢也 撮影=森好弘

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