堀込泰行

堀込泰行

【堀込泰行 インタビュー】
誰かに聴いて楽しんでほしいっていう
気持ちで書いてる部分が多い

歌詞への意見も受け入れてみたら
ポップスとしていいものになった

屈託のないものにしようとするところに今の泰行さんの音楽への姿勢が表れているのでは?

歌詞を書いてるのは僕だけども、みんなも仮の歌詞の段階とかで結構意見を出してくれたりして。一般の方々に聴いてもらうものなので、みんなが言ってくれる意見は大事だなと。一回受け入れてみて、“じゃあ、ここ変えてみよう”と直したら、確かにポップスとしてすごくいい感じになってて。僕が独りよがりで書いたものよりも自分にとって新鮮だし、人をちゃんと楽しませるものにもなってると思ったんですよね。

確かに。あと、アルバムらしさで言うと「Stars」で始まって、そのリプライズで終わることも理由かもしれないですね。

それはプロジェクトチームでやるという話題が出る以前のスタッフと打ち合わせしてる段階で、今回の収録曲のデモを並べた時に決めていました。もともとは「Stras」のリプライズのロックンロールのほうができたんですけど、そういったタイプの曲はいっぱい書いてるので、ちょっと変わった感じにしてみようと思って、R&Bっぽいというか、ゴスペルっぽいというか、そんな感じのバージョンのデモを作ってみたらそれもいいなと。同じ曲のバージョン違いが入ってるって面白いと思ったんです。

「Stars」のリプライズが終わると映画を観終わったような感じもするんですよ。エンドテーマというか。

そういう感じは僕も作ってて思いました。特に最後の曲の前の「涙をふいて」は女性がフラれてしまったというか、道ならぬ恋をしてひとりになっちゃったって曲なんで、それで終わるとちょっとしんみりして終わっちゃうと思ったから、最後に軽快なロックンロールが乗ることで救いにもなるというか、最終的に痛快な感じで終わっていく映画のようなものがイメージできたんです。だから、歌詞も1曲目の「Stars」と若干変えました。

「涙をふいて」と「マイガール・マイドリーム」の主人公は全然違う人ではありますが、この2曲の歌詞のリアリティーが印象的でした。「マイガール・マイドリーム」の彼は若いですね。

若い男の子が地方にガールフレンドを残して大都市に出てきて、“絶対に成功してやる!”って思っていて、何かを目指しているのか分からないけど、今はバイトしながら…まぁ、ラッパーになりたいのか分からないけど(笑)。そういうのを目指してて、やっぱり東京とか大阪とか大きい街だといろんなものがあふれてて、他にも楽しいこといっぱいあるから、夢を抱いてやってきたけどそれを忘れそうになっちゃったりとか、あまりにも自分自身がうだつの上がらない状態が続いてることに対して心が折れそうになっているんだけど、彼女のことを思い出すと“もう一回、頑張るぞ!”っていう気持ちになる…簡単に言うとそんな感じの歌ですね。

描き方がほんとにやさしい感じがしました。世代の違う人に対する歌詞を書いてみようというのは曲ありきですか?

これに関しては曲のアレンジがそういうふうに導いてくれた感じですね。もともとはもろThe Beatlesみたいな曲だったんですけど、そこから冨田さんがちょっとAORっぽい感じにアレンジを変えていって。もともとの曲が持ってた良さも損なわれてないから、そこは冨田さんに感謝してるし、アレンジャーとしてすごいと思いましたね。

これから初夏に向かっていく中、リード曲の「5月のシンフォニー」は気温まで感じられるアレンジだなぁと思いました。

その時期がすごい好きなんですよね。5月ぐらいになってくると緑の葉っぱの色もめちゃくちゃ濃くなってくるじゃないですか。生命力が鬱陶しいぐらいにあふれている、あの感じがすごい好きで、ちょくちょく樹の多い公園に自転車で行くんですよ。そういう時に風が吹いてて、見上げると葉っぱ同士が擦れる音がザワザワ鳴ってて、遠くを見ると強い風に揺られて木々が音もなく、でも激しく揺れている…そういうイメージが僕の頭の中にあったので、それを絶対にかたちにしようと思って歌詞を書きました。

しかも、美しいだけじゃなくてサイケデリックな感じもあって、それがすごく面白いです。

ユートピアっぽい世界を書きたかったんで、サイケデリックな雰囲気が漂ってるとそういう雰囲気が出るかなと。メロディーもちょっとフワフワしたところがあるし。歌詞もそういうところはちょっと生かしましたね。

起こってることしか書かれてないんですけど、空気感や光が感じられる曲ですね。

そうですね。生命力あふれる緑とか、心地良すぎる天候とかに酔っぱらっちゃいそうな感覚っていうんですかね(笑)。

そして、「光線」の歌詞は阿部芙蓉美さんが担当されているという。

アルバム全部の曲の歌詞を自分が書かなくてもいいんじゃないかと思ってたんですよ。そのほうがアルバムの世界観も広がったりするんで。僕は阿部さんの歌詞のファンなので…もちろんヴォーカルとか、無駄を排除したサウンドアレンジも好きなんですけど、歌詞もすごい好きで。繊細だけどジメッとしてない感じとか、ちょっと人を煙に巻くようなところがあったり、どこかユーモラスな部分があったりして、そんなところに惹かれるんですよね。なので、阿部さんに“シンプルでチャーミングなラブソングをお願いします”みたいな感じでメッセージを送って作ってもらいました。

今作は一曲一曲でシーンが変わっていくというか、カメラを向ける向きが変わる感じもして。

そうかもしれないですね。それは4人でプロデュースして作ってるからだと思うんですけど。

つらさに寄り添ってくれる音楽の一歩先を聴きたい人もそろそろ多くなってきたんじゃないかと。

確かに。ずっとしんみりしてるのもなかなか疲れますからね。

そこにしっくりくるアルバムだと思います。

本当ですか? それなら良かったです(笑)。

取材:石角友香

アルバム『FRUITFUL』2021年4月21日発売 日本コロムビア
    • 【CD】
    • COCP-41399
    • ¥3,300(税込)
    • 【LP】
    • COJA-9409
    • ¥4,400(税込)
    • ※800枚限定生産
堀込泰行 プロフィール

ホリゴメヤスユキ:1997年に兄弟バンド“キリンジ”のヴォーカル&ギターとしてデビュー。13年4月、17年活動をしていたキリンジを脱退し、以後はソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動を開始する。14年11月にソロデビューシングル「ブランニュー・ソング」を、16年10月には1stソロアルバム『One』をリリースした。代表曲に「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」「Waltz」などがあり、希代のメロディーメーカーとして業界内外からの信頼も厚く、ポップなロックンロールから深みのあるバラードまで、その甘い歌声もまた聴くものを魅了し続けている。堀込泰行 オフィシャルHP

『FRUITFUL』Trailer映像

OKMusic編集部

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