山崎育三郎にロングインタビュー!フ
ルオーケストラとコラボレーションす
るコンサート『-SFIDA-(スフィー
ダ)』への挑戦

山崎育三郎が初めてフルオーケストラとのコラボレーションコンサートに挑戦する。2021年6月~9月にかけて5都市を巡るツアータイトルは『billboard classics 山崎育三郎 Premium Symphonic Concert Tour 2021 -SFIDA-(スフィーダ)』。“SFIDA(スフィーダ)”というのは、イタリア語で“挑戦”を意味する。このコンサートでどんなことに挑戦しようとしているのか。そして、このコロナ禍で自身どんなことを考えているのか。山崎育三郎に単独インタビューをした。
「SFIDA(スフィーダ)」=挑戦と名付けた理由
――今回初めてフルオーケストラとコラボレーションしたコンサートを開催されます。
毎年全国ツアーをやらせていただいていて、いつもはどちらかというとエンターテイメント性の強いコンサートなんです。ダンサーやコーラスがいて、セットも照明もあって、僕も踊ったり、演奏したり、時にはゲストもお呼びして、総合的につくっていくんですけれども、今回はそれらを全て取っ払います。
今回のツアーでは、たった一人でセンターに立って、何もせずにというか、ただ歌だけを歌い切るという。そのバックにはフルオーケストラがいて、自分にとってはシンプルではあるんですけど、かなり大きなチャレンジになる。今自分ができる全てをぶつける、挑んでいくという思いを込めて、「スフィーダ」というタイトルにしました。
――フルオーケストラとコラボレーションすることに関しては、緊張の方が大きいですか?
緊張もすると思うんですけれども、すごくワクワクする気持ちの方が強いですかね。
――やはりバンドとフルオーケストラは、違うものですか?
違いますね。今回のツアーは、今までのツアーとは色が違いますが、実は、僕はオーケストラの演奏との方が歴は長いんですよね。ミュージカルもそうですけれども、オーケストラの演奏で歌うことは、感覚としては「波乗り」。サーフィンやったことないですけど(笑)、サーフィンのような感じです。
大きな波にどういう風に自分で乗っかっていくか。時には自分が前のめりになってスピードを出していったりして。川とか海とか、水の流れに近いものを感じるんですよね。空間を感じながら作って、キャッチボールをしていくんです。
それに対して、バンドの場合は、ドラムがいるのでリズムが決まっているんですね。リズムにあわせて自分が乗っかっていくので、全く違うんです。どちらかというと、僕は波を作りながら演奏していくことの方を長くやってきているので、むしろオーケストラの方が楽しめそうな感じもあります。
山崎育三郎
35歳で挑む4回目の『モーツァルト!』
――セットリストはどのように構成されたのですか?
基本的には1部と2部で分かれていて、1部はミュージカル俳優としての自分が見えるセットリスト。今年で芸歴23年目になるんですけど、子どもの頃からやってきて、出会ってきた作品の楽曲をお届けすることになると思います。2部は歌手としてだったり、朝ドラなどの俳優としてだったり、ディスニー楽曲だったり。いろいろなチャレンジをしてきた自分が見えるセットリストです。
今まではどこか分けていたんです。ディナーショーやファンクラブでのコンサートはミュージカル俳優としての自分が歌っていて、ツアーは歌手としての自分を全面に出して、ミュージカル楽曲を入れなかったりして。自分のパフォーマンスの場所を分けながらやっていたんですけど、今回はそれを取っ払って、すべてを見せるセットリスト。それをフルオーケストラでお届けするという形にしました。
ーーすでに公表されている曲について詳しく伺いたいのですが、1部では4月から開幕する『モーツァルト!』の曲を入れてらっしゃいますね。舞台のお稽古も含めていかがですか。
24歳で初めて演じさせていただいて、それから11年経つのですが、自分の中にどこか染み付いているものがあります。もちろん忘れているところもあったりするんですけど、毎回自分自身の変化に気づかされます。
今回で4回目ですが、毎回(公演期間は)間が開くので、その期間にお仕事の面もそうだし、プライベートもそうだし、自分が大きく変わっていっている。特に20代、30代、変化が激しいので、24歳の時に感じていたことと状況がまるで違う。そのなかで、また同じ作品に戻った時に、「あれ、こんな感情だったっけ?」とか「こういう風に歌っていたっけ?」と今までと違う自分がたくさん出てくる。それは自分自身と向き合う時間でもあるし、初心にかえるような感じなんです。
同じ役を長く続けることは、実はあまりなかなかなくて。今ドラマも撮っているんですけど、映像の世界では1回やった芝居は基本的に2度とやらない。だからこれは舞台ならではだと思って、ありがたい場所だなと思うんですよね。
89歳まで『放浪記』をやられて森光子さんでさえ、最後の最後まで、「もっとこうやれた」とか「もっとこうしたかった」ということを仰っていたという話を聞くと、一生正解なんてないし、一生挑んで行かなくてはいけない場所だと思うんです。自分の変化を楽しみつつも、どこか自分を追い込みながら、今回も挑みたいなと思っています。
山崎育三郎
――それらの決意も込めて、「僕こそ音楽(ミュージック)」を選ばれましたのでしょうか。
はい。この『モーツァルト!』が4月から始まって、4月、5月、6月と無事に最後までやり遂げたいなという思いもあります。こういう世の中なので、不安もありますが、どうにかやり切りたいという思いと、自分の中で「これが最後になってもいい」という思いでやりたいと思っています。
モーツァルトは35歳で亡くなった。そして、今僕はその35歳。35歳という年に、フルオーケストラで、コンサートをする。劇場ではオーケストラは3分の1いるかいないのかというぐらいの人数なんですよ。フルではミュージカルファンも聞いたことがないはず。フルオーケストラでの「僕こそ音楽」は、かなりダイナミックでドラマチックな音色になると思います。
――ディズニーの『美女と野獣』も歌われます。
僕がやってきた仕事の中でも思い入れがある仕事です。『美女と野獣』で僕を知ってくださった方がものすごく多くて。歌番組でミュージカル楽曲を歌わせてもらったり、ミュージカルのカンパニーがテレビ番組に出させてもらったりするようになったきっかけの1つだと思っています。実は全国どこのディナーショーをしても『美女と野獣』を聞きたいという声が多いんですよ。だから、これは外せないなということで、セットリストに入れました。
――2部では、ツアーで馴染み深い「Congratulations」、最新シングルより「君に伝えたいこと」などオリジナルの曲を歌われます。
自分が一番思い入れのある楽曲だったり、ライブでもずっと歌ってきていた曲です。1部ではミュージカル楽曲がドラマチックな感じで続くので、2部では、何かお客様がふっと楽しんでもらえるような曲も入れたいということで、まず1番最初に浮かびました。リクエストが多い曲でもあるので、それをフルオーケストラバージョンで歌ってみたいなと。
――そして、「栄冠は君に輝く」。『エール』では甲子園球場でアカペラで歌われていました。オーケストラバージョンはだいぶ違う印象になりそうです。
僕も今からすごくワクワクしています。朝ドラで、アカペラで甲子園球場で歌ったあとは、すごく大きな反響をいただいて。最終的に紅白歌合戦で歌わせていただくなんて、夢のような時間でしたね。
僕自身、この「栄冠は君に輝く」という楽曲に出会えたことは大きくて。僕は小さい時から野球をやっていて、弟は甲子園を目指して高校までやっていたので、「栄冠は君に輝く」を聞きながら育ちました。僕も子どもの時は甲子園に立ちたかったんですよ。
久志という伊藤久男さんをモデルにした役で朝ドラに出れたということもすごく大きな縁を感じています。夏の甲子園が100年以上の歴史で初めて中止になったことも含めて、いろいろなことが重なりました。あのシーンは、久志がどん底までいって、落ち込んで、自分がまた立ち上がるために、裕一(窪田正孝)が励ましてくれて歌ったシーンではあったんだけれども、それ以上にコロナ禍ということとか、甲子園で野球部のみんなが甲子園という夢が途切れてしまったことを思いながら歌いました。
山崎育三郎
僕も野球をやっていたから分かるけど、野球だけじゃなくて、吹奏楽とか陸上とか全部そうだと思うけど、学生にとって打ち込んでいることって人生のすべてなんですよね。大人では想像できないぐらい、それしかなくて。それのために小さい時からやってきたのに、それがパンとなくなったときの喪失感や苦しみというのは、ものすごいものがあると思ったんです。
あの時、誰もいない球場に立ったときに、それだけでもこみ上げるものがあって。さらに「栄冠は君に輝く」を一人で歌った時に、何か役を超えて、いろいろな思いが溢れたんです。それが結果的に多くの人に届いた。それは本当に自分にとっても感動的な出来事でした。
朝ドラで僕を知ってくださった方もものすごく多いんです。朝ドラを見て、「『モーツァルト!』見にいきますね」という声をいただいたので、今回のツアーも全国まわらせていただきますけど、多分朝ドラを見て初めてコンサートに来たという方もいらっしゃると思うんですね。そういう方たちも含めて、会場に足を運ぶお客様、みんな一人ひとりが戦っているんです、一人ひとりの人生を。みんなに対して応援歌として歌えたらいいなと思っていますね。
――やはり反響は大きかったんですね。
そうですね。それこそ公園で子どもと散歩をしていたら、5歳ぐらいの男の子が走ってきて、「久志だ!パパ、久志だよ!」って(笑)。僕が歌っていた「丘を越えて」という曲を歌ってくれて。お父さんによると、久志のファンで、100回以上聞いてくれている、と。嬉しくなって、一緒に歌を歌ったんですよ。
そういうこと一つとっても、ひょっとしたらミュージカルだけをやっていたら出会わないような人たちと出会うきっかけだったかなと思うんです。お茶の間で僕を知ってくださった方が、ミュージカルやコンサートに興味を持って、たくさん足を運んでくださると思うんですよね。
山崎育三郎
自分はミュージカルだけを子どもの時からやってきたけど、途中で映像の世界に飛び込んでいって、どうなるかも分からないような状況だったんですけど、一歩を踏み出してよかったなと思います。ミュージカル界からもいろいろな声があったけれど、誰もやっていないことに足を踏み入れて、挑戦するというのは、すごく大きな意味がある。
一歩踏み入れたからこそ、今、いろいろなお仕事をやらせていただけています。本当に僕は恵まれているし、ラッキーな人間だなと思うんですけども、自分でそこに踏み出したことによって、状況が少しずつ変化していって、『エール』のようにミュージカルの仲間がたくさんテレビに出たり、歌番組でミュージカルの楽曲を歌わせてもらったりする機会が増えてきたんだと思っています。
何かリスクがあったり、苦しいな、しんどいなと感じるところにも、一歩踏み出さない限り、何も変わらない。その先に見える世界というのはものすごく大きなものが待っている。そういう考えは、僕が生きていく中で何回か体感としてあるんです。今回のコロナのことも、この経験があったから超えていけることが絶対にあると思っていて。『エリザベート』のこともそうだし、そう受け止めているところはどこかありますね。
全集中した最終通し。『エリザベート』中止で考えたこと
――仰ったように、昨年は『エリザベート』の公演が中止になりました。育三郎さんのトート、みたかったです。ご自身としてはどんなことを感じられた期間でしたか。
仕方がないという気持ちです。そういう時代に入ってしまったんだなと思って。
ただ、本当に開幕直前まで稽古を重ねていたんですよね。自分のトートを作り上げて、最後の通し稽古で花總(まり)さんとやらせてもらって。最終通しをやらせてもらう前から、世の中的に無理なんじゃないかと、どこかみんな感じていたなかでの通しだったんですね。僕自身も、これが最後かもしれない、もうできないかもしれないと思った時に、ものすごく集中したんです。自分との戦いでもあるんですけども、これで一つ区切りが打てるような通しにしたいと思って挑んだら、ものすごく集中できて。
終わった後に、小池(修一郎)先生が、「エリザベートを何十年とやってきたけれども、今まで自分が見てきた中で一番いい通し稽古だった」と言ってくださって。それがすごく印象的でした。何か自分の中でそこで完結させたというか、やりきったと思えるようなトートを見せられました。
そして、公演中止の発表があったのですが、先生もその時に泣いていらっしゃって。プロデューサーもキャストもみんな悔しくて悲しい気持ちになってしまったんだけれども、僕は後にものすごく大きなエネルギーになると思っています。ピンチはチャンスとよく言いますけど、まさにそういう気持ちが強くて。何かあったときこそ、その後に待っている輝かしい未来というか、そういうものをどこか信じているんです。
朝ドラの「栄冠は君に輝く」もそう。甲子園も中止になって、それを経験した学生たちというのは、本当に辛かったと思うし、苦しさの方が多かったと思うんだけど、それって経験しようと思ってできることじゃなくて。100年に1度と言われている経験をした子たちが、この後の未来、それをどう活かしていくか。これから、すごく強い気持ちで、より自分が好きなものに挑む瞬間があると思っています。どこかこの状況をポジティブに捉えたいなと思ったので、(『エリザベート』で演じる予定だった)トートの時も、またいつかこの役に出会いたいと思ったし、この思いを次やるときはもっと強い気持ちでぶつけたいなと思いました。
自分の「すべて」を詰め込んだコンサート
――幅広くご活躍されている育三郎さんですが、改めて育三郎さんにとってコンサートはどのような位置付けなのでしょうか?
僕はミュージカルで育って、決まった台本、音楽、役で、演出家がいて、ルールの中でどう表現するかということだけをずっとやってきていますが、何もない状態でゼロからものをつくることにものすごく興味がありました。与えられたものの中で表現をするだけでなく、何か等身大の自分、役ではない自分自身がいま何を思っていて、どういうことを伝えたいのか。どんなメロディーが生まれてくるのか。それで始めたのが歌手の活動なんです。
飾らずに、今の自分自身にあるメッセージを届けられる場所。お客さんと一緒に作り上げていく、コミュニケーションの場所。そこでの楽しみ方って何でもいいんです。それさえもお客様とファンの方と一緒に作っていくんです。ミュージカルはルールがあるじゃないですか。静かに見なきゃいけないし、拍手もみんな変なタイミングでしちゃいけないし、男性はちょっと座高を低めに見なきゃいけないし(笑)。
僕が思うに、一番盛り上がる場はオリジナルなんです。オリジナルというのはやっぱり超えられないんですよね。自分が表現したもの全てが正解の場所だから。例えばの話ですけど、失敗しようが、話が面白くても面白くなくても、ピアノをミスしても、振り付け間違えても、その全てがエンターテイメント。そこでは僕もリラックスして、自分らしくいられる、いることが正解の場所なので。それを面白がって見てくださる方が来てくださるので、ミュージカルとは全く違う部分ですかね。
山崎育三郎
――6月15日(火)にオーチャードホールを皮切りに全国を巡回されます。最後に、楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします!
今エンターテインメントが増えていて、特に映像の世界では配信などいろいろな選択肢も増えている中で、僕は昔もこれからも唯一変わらない場所が生のステージだと思っているんです。僕も配信や映像のお仕事はやってますが、それでも生のステージが一番価値があって、贅沢で、特別な場所だと思っています。
わざわざ会場に足を運んで、目の前で役者やアーティストが存在する場所。それは、最高に華やかで贅沢で特別な場所。今回はフルオーケストラがいて、僕がいて。いろいろなエンタメにチャレンジしてきた自分の全てが詰まったコンサートというのをフルオーケストラでお届けします。シンプルですけど、ぜひ皆さんに体感していただきたいです。
僕の人生の集大成のような、そんなコンサートになる予感がしています。いろいろな場所で僕を知ってくださった方がいらっしゃると思いますが、ここに来ていただければ、今の自分をすべて曝け出して、歌の力や音楽の力で、皆様に恩返しをするような時間になると思います。ぜひ会場で見ていただきたいですね。特にこのコロナ禍で、クラシックの会場というのは、みんな静かに見られるので、安心して最後まで楽しめると思います。ぜひ自分へのご褒美として、この贅沢な空間に足を運んでいただければと思います。
山崎育三郎
取材・文=五月女菜穂 撮影=池上夢貢

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