渋沢千代役の橋本愛(左)と渋沢栄一役の吉沢亮

渋沢千代役の橋本愛(左)と渋沢栄一役の吉沢亮

【大河ドラマコラム】「青天を衝け」
第八回「栄一の祝言」栄一や慶喜の姿
に見る「思いやりと優しさ」

 4月4日に放送された大河ドラマ「青天を衝け」第八回「栄一の祝言」は、その名の通り、親戚や友人、知人に囲まれた、栄一(吉沢亮)と千代(橋本愛)のにぎやかな結婚式でクライマックスを迎え、揺れる幕府内とは対照的に、和やかな幕切れとなった。
 ここで、栄一と千代の結婚が決まった経緯を振り返ってみたい。この回の冒頭で、千代に自分の思いを告白した栄一は、同じく「千代が嫁に欲しい」と主張する喜作(高良健吾)と剣術で対決。互いに全力で挑んだ勝負の末、僅差で喜作が勝利する。
 これで喜作が結婚を申し込む…かと思いきや、千代に「あいつ(栄一)は、俺の弟分だ。見ての通り、実にまだまだの男だ。…(中略)…あいつには、おめえのようなしっかり者の嫁がいた方がよい」と告げ、その場を立ち去る。つまり、勝者の喜作が、千代との結婚を栄一に譲ったわけだ。
 それは、栄一(と、栄一を慕う千代の気持ちも?)を思いやる喜作の優しさの表れと言える。これにより、栄一と千代は無事に夫婦となり、喜作も自分を慕うよし(成海璃子)と結婚。全員が幸せな形で締めくくられた。
 この栄一と喜作の勝負を筆頭に、この回は「強い者が弱い者を思いやる」姿が繰り返されたのが印象的だった。
 まずは、将軍後継争いだ。第13代将軍・徳川家定(渡辺大知)の後を継ぐのは、紀州藩主・徳川慶福(磯村勇斗)か、それとも英邁と評判の徳川慶喜(草なぎ剛)か。幕府内で意見が割れる中、徳川斉昭(竹中直人)や松平慶永(要潤)の推す慶喜優勢かと思われたが、家定の意を受けた大老・井伊直弼(岸谷五朗)の推挙により、慶福に決定する。
 これを直弼から知らされた慶喜は、「それは大慶至極ではないか」と、意外にも快諾。側近の平岡円四郎(堤真一)にも「このようなことで長くもめては、ますます公儀を弱らせるのみ。これでよかったのだ」と告げる。
 また、家定によって、誰も予想しなかった大老への大抜てきを受けた直弼自身も、「大老の器ではない」と悪評が立ち、四面楚歌(そか)の状況にあった。権力はともかく、人望は薄く、ある意味では「弱者」と言える。だが、そんな直弼に対しても、慶喜は慶福の次期将軍就任に関連して「幼いとの声もあるようだが、そこもとが大老として補佐すれば、何の不足があろうか」と、その立場を認める。
 慶福の次期将軍内定、直弼の大老就任。いずれも、有利な立場にあった慶喜が、相手に思いやりを持って接したことで、八方丸く収まる結果となった。
 だがここで、一つ誤算が生じる。それは、現将軍・家定の存在だ。万事うまくいったはずだったが、慶喜嫌いの家定が、慶喜を推した斉昭や慶永の処分を直弼に命じたことで、悪名高い“安政の大獄”へとつながる。ではなぜ、家定はそのような命令を下したのか。その理由は、家定自身が語っている。
 前将軍で父の徳川家慶(吉幾三)や幕政を仕切っていた老中・阿部正弘(大谷亮平)が、家定を蚊帳の外に置き、慶喜を重用しようとしたことが、慶喜に対する嫉妬心をかき立てたのだ。つまり、誰も家定に対して思いやりを見せなかったことが、巡り巡ってこの結果を招いた…ということになる。
 有利な立場にある者がおごらず、弱者に対して優しさや思いやりを見せることで世の中はうまく回る。前回、斉昭が意見の対立する幕府の使者を「酒でも出してやれ」といたわったときにも感じたことだが、本作の根底には、そんな思想が一貫して流れているように思える。それこそまさに、栄一が語る「みんながうれしいのが一番」につながることではないだろうか。(井上健一)

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