w.o.d. が最新作『LIFE IS TOO LONG
』をツアーに先駆け全曲再現 その一
部始終を目撃した

w.o.d. “LIFE IS TOO LONG” flying live 2021.3.30 TOKIO TOKYO
この日の公演は『w.o.d. “LIFE IS TOO LONG” flying live』と銘打たれた通り、3rdアルバム『LIFE IS TOO LONG』のリリース前日に“全収録曲をアルバムの曲順通りに演奏する”という趣向の有観客配信ライブである。w.o.d.のライブはそこそこ見てきたつもりの僕も、会場まで足を運ぶのは2019年12月の代官山UNIT以来だった。
会場のTOKIO TOKYOは渋谷の公園通り沿いにオープンした新しいライブハウス。こけら落としシリーズ“ONE WEEK WONDER”の一環で、フロア脇のバーカウンターにかかった暖簾にはMom、Dos Monos羊文学角銅真実、Helsinki Lambda Clubなど、これまで出演してきたアーティストとともにw.o.d.のサインが入っていた。
開演時刻の19時を少し過ぎたころ、プレミアチケットを手に入れた数十人の観客が待ち構えるフロアに、ヴァニラ・ファッジ版「Ticket to Ride」(ザ・ビートルズのどうかしてるほどヘビーなカバー)が轟き渡り、スモークの焚かれたステージにw.o.d.の3人が現れる。上手側にパジャマ姿のサイトウタクヤ(Gt/Vo)、下手側にホッケーシャツのKen Mackay(Ba)、扇の要には短パンの中島元良(Dr)。いつものポジション、いつものいでたちだ。
オープニングはアルバムと同じく「Hi, hi, hi, there」。地響きのようなベース、ドガシャカやかましいドラム、さらにやかましいギターと、たった3つのパートが揃うほどに興奮を高めていくのはパワートリオならではだ。そのまま「モーニング・グローリー」「楽園」「BALACLAVA」とアップテンポの曲を連発。「w.o.d.です。よろしく。最後まで楽しんで」と簡潔な挨拶が挟まったが、3人とも明らかにいつもより緊張していた。
少しインターバルを置き、ステージが見えないほどの大量のスモークの中、ギターソロを擁する「煙たい部屋」、ベースのハーモニクスとドラムのフィルインが印象的な「relay」とテンポを落とした曲を続ける。特に後者のブルージーな叙情性と演奏のダイナミズムは、人気曲になりそうな予感満点だ。
「どうも、あらためましてw.o.d.です。今日は来てくれて、(生配信で)見てくれてありがとうございます。『LIFE IS TOO LONG』という3つめのアルバムを日付変わったらリリースします。どのバンドもアーティストもそうなんですけど、この1年間、思うようには動けなくて。でもその間に曲をいっぱい作りまして、アルバムができたんです。5月にリリースツアーを全国11カ所でやる予定なんですけど、先に全曲やってしまおうっていう。最後まで楽しんでってください」
ぶっきらぼうな調子からも好人物ぶりが伝わるサイトウのMCに観客が熱い拍手で応え、2週間前に配信されたばかりのw.o.d.流ダンスナンバー「踊る阿呆に見る阿呆」。めまぐるしく音色を変えるギターも、往年のダンスロックに言及したリリックも、カウベルも効果的だ。続く「PIEDPIPER」「sodalite」もメロディメーカーとしての才とアレンジのアイデアが光る好曲で、先行シングル曲ばかりのせいもあってか、w.o.d.も観客も硬さがとれてきた感があった。
「今日は来てくれてありがとう。なかなか難しいけど、アルバムも出るし、もっと曲も出すし、5月からはツアーもあるし。よかったらまたライブで会いましょう。w.o.d.でした」とMCして、本編ラスト「あらしのよるに」。昨年12月に12弦弾き語り動画をYouTubeで公開した曲だが、こうしたバラードで発揮されるサイトウの繊細な歌心とそれを支える演奏には、アップテンポのシャウト&ゴリ押しとは違った強みがある。
「ありがとう。バイバイ」と言い残して3人はステージを去り、アンコールの手拍子が鳴り止まぬなか生配信は終了。再登場した3人の手にはビール瓶が握られ、表情もさっきまでの面持ちがウソのように満面の笑顔だった。サイトウが「俺ら曲短いからさ、35分ぐらいで終わんのよ(笑)。10曲も入って。ちょっとさみしいなと思って、もうちょっとやって帰ります」と話すと、観客のひとりがたまらず「サイコー!」と叫んだ。
長めのアンコールはTOKIO TOKYOの観客限定のスペシャルプレゼントだ。クーラ・シェイカーのカバー「Hey Dude」をワンコーラス演奏した後、「Mayday」「lala」「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」「Fullface」「1994」の5曲を立て続けに披露した。途中、サイトウが「やっぱ、このほうが楽しいね」と笑っていたが、これほど露骨というか鮮やかな緊張と緩和のコントラストはそう経験できるものではない。本編では知らない曲が多くて傾聴モードにならざるを得なかった観客も俄然リラックスし、動けないなりに体を揺らし手を挙げて応える。コロナ禍でなければモッシュやダイブが起こっていたかもしれない。
終演後に楽屋を訪れると、3人は「終わったー!」と解放感を爆発させて大笑い。サイトウが「全曲初めてみたいなもんで、ほんまいい経験でした。アンコールは解放感で何が鳴ってるかもまったくわからん状態やったけど(笑)。アマチュアのときみたいな“バンドやってるなー!”って気持ちで、むっちゃくちゃ楽しかった」と語れば、元良は「1カ月ぐらい前から、朝起きたら“アルバム全曲ライブ……”って。その日々がやっと終わりました」と安堵を口にし、Kenも「(本編は)硬かったよな」と笑っていた。
たしかにあまり経験したことのない雰囲気は、確実に今後も語りぐさになるだろう。立ち会えた観客はラッキーだったかもしれない。5月からのワンマンツアー『バック・トゥー・ザ・フューチャーIII』が楽しみになる、とてもスペシャルなライブだった。

取材・文=高岡洋詞 撮影=伊東実咲

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