日常と世界を繋ぐ素直で強い音と声 
リーガルリリーが新作『the World』
で体現した光

目の覚めるような光が淀んだ部屋に差し込んで、動き出したくなる、そんなEPが届いた。ライブでのリーガルリリーが今ここで生きていること、この3人であること、そして息を合わせて一つの生き物のように躍動する、あの感覚が作品に封じ込められて、しかもはみ出すほどのパワーを放っている。『the World』というEPを包摂するタイトルしかり、多くのアーティストがテーマとして取り上げてきた“東京”という名を冠した楽曲、さらには「地獄」と「天国」という好奇心をそそられる対照的なワードの2曲に加え、メンバーが中学生の頃、リアルタイムで出会った敬愛するSEKAI NO OWARIの「天使と悪魔」のカバーを収録。ここからまた始まるリーガルリリーを余すことなく体現した本作について聞いた。
——12月のZepp Tokyo公演からだいぶ経ちましたけど、見ていて気持ちよかったです(笑)。
たかはし:ありがとうございます(笑)。気持ちよかったですね。
海:あの日、すごいよかったですよね。
——3人が“野生!”って感じで。
海:確かにワイルドでした(笑)。
——あのライブ以前から今回のEPの計画自体はされていたんですか?
たかはし:コロナ禍で曲をたくさん作っていて。
海:パッケージ化にあたって、シングルかEPかって話になって。いろいろ曲もできてたし、結構「地獄」と「天国」って曲が対になってたんで、「EPいいかもね」っていう話になったんです。
ゆきやま:次のリーガルリリーの一手を出す時に、どれが一番パンチあるかな?っていう話をしてて。それでこの形がいいんじゃない?ってなりました。
——パンチっていうのは一つのテーマ?
ゆきやま:新しいリーガルリリーの側面を見せたいねって話になってて。この3曲プラス、カバーを入れたらいいんじゃないかと。
——「天国」も「地獄」も明るいとか暗いっていう感じでもないし、しかも日常的なことを歌っているのかな?と思ったんですが。
たかはし:そうですね。地獄って、きっとその言葉をつけた人がいると思うんですけど、その人が地獄という名前をつけたように私もつけたというか、この状況を私は地獄だと思って名前をつけたというか。
——去年のことを?
たかはし:そうですね。
——曲のタネはどっちが先だったんですか?
海:タネは「地獄」かな? コロナよりずっと前にイントロの感じはありましたし。
——あのチョーキングのイントロですか?
たかはし:はい。ムシャクシャする気持ちを表してるんですけど、弾くとすごく気持ちいいんです。
——「地獄」は、今生きてる感覚に素直な内容なのかなと思いました。
たかはし:はい(笑)。かっこつけませんでした。
——<ため息するため吸った息で、胸の奥詰まって呼吸困難はやだなぁ。>という状況も気になります。
たかはし:ため息をするために一度吸うじゃないですか。それで詰まって呼吸困難になって死ぬのだけは勘弁してほしいなと思って。
——ため息をつくことは前提としてある?
たかはし:ため息って別にしていいというか、息抜きでもあるんですけど、息抜きで死ぬのは嫌だなっていう感じですね。
リーガルリリー・たかはしほのか
——今も続いてますけど、去年の夏頃ってしんどかったですよね。マスクもそうだし。
たかはし:しんどかったですね。
ゆきやま:しんどかった……当時は意外と普通って思ってたけど。
海:でもあの時はまだ飽きてないというか。この感覚に飽きてなかったけど、今は飽きてきた感じもあります(苦笑)。
——さすがに2周目になると、飽きちゃいますね。もちろん守らなきゃいけないのは分かってるけど、息苦しくなるなんてアホらしいという感じもしたり。
たかはし:でもアホみたいな感じを楽しくというか、キャッチーに?……わからないけど、ライトに曲に出来てよかったです。結構大げさかもしれないと思う題名だと思ったので。
海:それはちょっとわかる。
たかはし:わかる? 天国、地獄を匂わせて、でも内容は全然ポップだなと思うので。
——たまたま去年考えてたことに、逆に重たいタイトルをつけることで?
たかはし:ですです。
——面白くする?
たかはし:なったな、と!
——「天国」の方はどういうところからできたんですか?
海:弾き語りですね。
ゆきやま:ちょうど去年の今ぐらいの時期にほのかが送ってくれて。
海:「天国」は弾き語りで送られてきて、初めて3人でそれを合わせるっていう時に、パッて合わせたまんまだよね?
ゆきやま:うん。
海:ほぼ何も変わらず。
たかはし:弾き語りの曲も1時間ぐらいで作ったんですよ。スタジオも2時間で作って、計3時間ぐらい。
——はやい!
たかはし:それくらいでまとまったとは思います。なんか“天国”みたいな。力を抜いて、難しいことは考えずに。
海:ストレートすぎて逆に「これ大丈夫かな」っていう確認は何回もしたんですけど(笑)、でもこの曲はこれでいいんだってなりましたね。
——「天国」も全てが許されるっていう感じではなくて、近くにいる人が「ま、大丈夫だよ」って言ってるような。
たかはし:うんうん。
海:結構、現実的な天国の感じする。
たかはし:現実的な感じです。
海:両方現実的だね、「地獄」も「天国」も。
リーガルリリー・海
——「天国」はサウンドも相まって軽快ですね。
海:最後の方は結構希望があるというか、どっちも同じような状況ではあるんですけど、希望がないのが「地獄」で、どこか希望があるのが「天国」っていうサウンドではある。
たかはし:思い出した。私、地獄ってループだと思って。負のループに陥るっていう状況が、コロナ禍の時にあって。家の中に閉じこもってるとずーっとループしてしまって。そういうのを地獄という曲で表現したいなと思って、イントロのジャーンジャーン〜っていうのあるじゃないですか。あれを一番最後にも持ってきて、<吸って吐いて吸って>それで終わるっていう。「あ、ほんとに地獄だ」って思いながら作りました。で、「天国」は最後、ちゃんと解決方法を見出してる感じがあります。開放というか、ひらめきみたいな曲ですね。
——音も違いますね。重さと輝きというか、選んでる音が違ってて。
たかはし:はい。
——「天国」は安泰ってことじゃなくて、裸足で歩いて行けるぐらいの自由さ?
たかはし:そうですね。最近、何もお金で買えないなと思ってて。先日田舎の方に行く機会があって、その風景や自然を欲しくなってしまったんですけど、ああ……お金では買えないんだと思ったんです。お金を大切にしてる人たちはそのギャップで戦争というか苦しむんだろうな、“買えないんだ、お金では”って。例えば、好きな人の気持ちとか恋心とかも買えないし、何も買えないんだと。そういうのに気づくと、家の中にいて満足できるというか、そういうことを「天国」で表しているのかなと思ったんです。
——逆に言えばお金で買えることもあったから、この状況になって気づくというか。
たかはし:そうですね、まさに。ループしているからこそ抜け出すっていう。ああ、気づくためのループだな、そのための地獄だなって。
——そして「東京」ですが、多くのアーティストが「東京」という曲を作るときには大きなきっかけがあったり、代表曲になることも多いですが、どんな意識の元に出てきたんですか?
たかはし:東京って、日本の中ではエネルギーがすごい場所だと思うので、それを題名にするってことはエネルギーのある曲になるのかなと思って。ただ私は東京に感動したい気持ちだったり、負の気持ちはあんまりなくて。
——生まれ育ってますからね。
たかはし:そうですね。故郷だし、お母さんも友達もいるしっていう(笑)。なので、一番肩の力を抜いて作れた曲なのかなと思いました。
——外から見た東京じゃなくて、居場所だと。
たかはし:びっくりしたんですけど、地方に行って東京の話をすると「わ! 東京から来たの?」っていう感じで言われて。偉いことをしているような気分になって(笑)。みんな東京のこと、意識してるんだなと感じます。でもみんなが東京のことを意識しないと東京に来なくなるから、みんなをわざと意識させてるんだと思って、日本は。だって自然にいた方がいいじゃないですか。でも日本の経済が回らなくなるから、東京に憧れを持たせてるんじゃないかって。
——そう思う部分はありますか?
たかはし:自然のあるところに行くとそう思います。東京の自然が好きなんですけど、そっちの方がより東京っていうか。
——23区と多摩の方とまた感じが違いますからね。
たかはし:うん。多摩の方の東京が好きなんです。
リーガルリリー・ゆきやま
——この曲は構成もすごいんですけど、最初に聴いたときに印象的だったのが風の表現で。1番ではナイジェリアの風がライターの火を消して、2番ではホタルイカの素干しをライターで炙ってる。
たかはし:ここで私がこうやって何かに触れるだけでも、何かに影響をしているっていう感じです。
——バタフライエフェクト的な?
たかはし:まさにそうです。
——お二人はこの歌詞が乗ったときにどう思いました?
海:ホタルイカ?と最初なりました(笑)。でもすごくクセになってきて。最初は歌詞に出てくる単語じゃないと思ったけど、ほんとに病みつきになるというか。
たかはし:いいね。“ホタルイカの素干し”って感じの歌詞だね(笑)。病みつきになる。噛めば噛むほど美味しそう。
——ナイジェリアの風って思いつく人もなかなかいないと思います。
たかはし:それは降ってきたんです。ナイジェリアっていう単語と、ホタルイカの素干しって出てきて。
海:(笑)。でもそういう歌詞に出てこない言葉って日常にいっぱいあるというか。逆により近いものなのかなと。
たかはし:そうだね。
——両者を繋ぐライターという存在があるじゃないですか。そこでさらに世界が繋がって。
ゆきやま:なるほど。
たかはし:私そういう共通点に気づいたときに結構感動しがちで。だから曲になったのかもしれない。
——1番と2番のアレンジが明らかに違うところもいいですね。
たかはし:(2番の)ベースがいいですよね。
ゆきやま:海ちゃんきっかけで、そこは結構変わったよね。
——2番はリズム隊が目立つアレンジで。バンドが目で見えるような仕上がりですね。
ゆきやま:「目で見える」っていいですね。
——そして日常的な世界が繰り広げられてるかと思いきや、後半からものすごいシューゲイズに突入して行きますけど。
ゆきやま:あれどうですか? びっくりしました?
——いや、のんびりしたままでは終わらないんだろうなと。
3人:あははは!
——最初に感じた風の存在が大きくなって後半に出てくるような。
海:確かに風吹くね。嵐の前の、みたいな(笑)。
——ナイジェリアから来た風も、ホタルイカを炙る火を消す風も、地球上の空がつながってる感じがして。そしたら後半、案の定。3人の演奏してる空気とか圧もドーン!て来ます。
ゆきやま:嬉しい。いい演奏は演奏者が浮かんでくるって、誰か有名な人が言ってました。
たかはし:あ〜、いい言葉。
「東京」Music Video
——前作の『bedtime story』はファンタジックだったじゃないですか。
たかはし:そうですね。でもファンタジーなものを作ったからこそ、ファンタジーじゃなくて現実にも美しいものはたくさん転がってるなぁと思って。
ゆきやま:この3曲って、もともとリーガルリリーに備わってたけど、あんまり出てなかったものという感じがしてて。それがようやく出て、それをパンチとして受け取ってもらえるのが嬉しい感じがします。
——居場所を見つける意味で東京を歌う人は多いけど。
海:そうですね。
たかはし:ここにしか居場所はないし。
——今いるところが嫌だからっていうニュアンスが全くなくて。ただそういう状態って感じですね。
海:いい意味であんまり意識してないですよね、東京を。東京のここが嫌だとか。
——シューゲイズの轟音の中で呟くように<何にも問題ないです。>という歌詞が乗っているのも面白くて。
ゆきやま:<何にも問題ないです。>、いいよね。すごく好き。
たかはし:みんな問題にしたがりすぎだと思って。
——とぐろを巻くようなグルーヴはライブ以来という感じで。ライブだと毎回、そういう場面に遭遇するんですけど。
海:最初に合わせたときもライブみたいな感じがあったので。ライブも映えそうと思いました。
たかはし:「地獄」も一発で録ったんですよね。せーの!で、ライブみたいな感じで。
——でもバンドが登場した当時に感じた衝撃とは、また違う風通しのよさがあるなと思います。
たかはし:嬉しいですね。
——<闇に撃ち放つ 僕の照明弾。>っていう歌詞もアグレッシブというより、気持ちいいし。どんなイメージでした?
たかはし:これはすごくポジティブなイメージです。
海:多分そういう“照明弾”とか、リーガルリリーは結構戦争の方に連想されがちだけど、今回に関してはもっとライトで身近というか。照明弾、ピカッ!みたいな。
——たかはしさんのソリッドな言葉遣いは変わらないけど、今回は意味が全然違うのかなって。
たかはし:詞の書き方も変わったと思います。歌謡曲とかも聴くようになって、より邦楽を好きになって。日本語を好きになったのかな。毎日感動してます。
海:スピッツ
たかはし:スピッツも聴くんだけど。沢田知可子さんも最近好きで。後、これ誰だっけ?(歌う)
スタッフ:渡辺美里さん?
たかはし:そうだ、渡辺美里さんです。魔力に気づきました(笑)。
——真っ直ぐなことを歌って嘘がない人ですもんね。歌謡曲って言うから、もっとドロドロしたやつかと。
たかはし:ドロドロしたのはあんまり好きじゃないんで。だからスピッツとかはスゴさに気づいてきました。今まではロック、みたいなのが好きだった、3人でもできる音楽というか、シンプルな音楽が好きだったんですけど、日本の音楽ってすごく難しいじゃないですか。最近、それのよさにも気づき出しました。大人になった(笑)。
リーガルリリー
——今のお話しに現れてるかもしれないですが、SEKAI NO OWARIの「天使と悪魔」のカバーを今回収録していて。結構初期の曲ですね。
たかはし:初期です。
海:ちょうど通ってきた時代ですね。
——皆さんが中学生の頃?
たかはし:そうです。すごい世代で、中学の給食の時間に流してもらってました。
——この曲を選んだのは?
たかはし:高校のとき軽音部に入ったんですけど、日本のバンドはセカオワしか知らなくて。それで絶対セカオワやりたいと思って、タブ譜も図書室で買ってもらって、いざやろうと思ったらちょっと難しくて。でも今回その夢が叶ったっていう感じですね。この3人で。本当に嬉しかったなぁ。
——この頃までのセカオワの歌詞って、ちょっとくどいと思いながらも「そうだね」と思いながら聴いてました。
たかはし:哲学みたいなことは当時考えていなかったんですけど、SEKAI NO OWARIはそういうものを考える入り口になりました。
——「天使と悪魔」も対照的なものに思われると言う意味では「地獄」と「天国」もそうだし。このカバーが入ってるのも象徴的だと思って。
たかはし:「天使と悪魔」をやりたいっていうのは潜在的にずーっと意識していて、やっとここで満を持して出せたっていう感覚でしたね。繋がってるのかもしれないな、風みたいに(笑)。
——素直なカバーですね。
ゆきやま:もうそのまま正直にカバーしました。
たかはし:本当にすごい嬉しくて(笑)、ドーパミン放出しながら作りました。
ゆきやま:ほのか、何回か泣いたんじゃない?
たかはし:泣いた(笑)。
——この曲が入ってるアルバム『ENTERTAINMENT』はインパクトありましたから。
たかはし:中学生の時、自分のお金で初めて買いました。セカオワをショッピングセンターの有線で聴いて、その次の日に買いに行きました。
——そしてこのEPには『the World』ってタイトルが付いてて、リーガルリリーはこれまでモノのタイトルが多かったですけど、今回は大きな概念というか。
たかはし:概念になった(笑)。
——この4曲を包摂する言葉としてついたんですか?
ゆきやま:ほのかがぽろっと言ったんだよね。
たかはし:それもナイジェリアとかホタルイカの感じで、“the World”って。
海:たまたま喋ってたときにポロっと出てきて。「それってアリなんじゃない?」となって、「あ、絶対これ!」って言ってたよね。多分、パッケージとタイトルと曲名だけを見た人って、「なんでこんな大きいテーマ?」って思うと思うんですけど、曲を聴くと本当に小さいことというか、身近なことが全部歌われてる。今までの曲は身近なものをタイトルに出してたけど、実は大きいものを歌ってるっていうのが多かった。そこは結構大きな違いなのかな。
——これから聴く人にも伝わりやすい気がします。このEPを携えたツアータイトルが『the World Tour』ってかっこいい(笑)。久しぶりのツアーですね。
ゆきやま:本当に久しぶりですね。
たかはし:ライブをやってる時だけは国とかがわかんなくなって、国境がなくなってくるので、だから日本の中でもワールドツアーだなと思います。普通に生活している時は国境を考えながら生活してるんですけど、ライブをやってる時は国境がないです。アメリカに行く時も北海道に行く時も同じです。
——アメリカに行ったのもだいぶ前だし、また行けるようになるといいですね。
たかはし:行きたい!
——今年は楽しんでいきましょう。
たかはし:楽しみます!

取材・文=石角友香 撮影=菊池貴裕
リーガルリリー

「地獄 / 天国」Special Trailer

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