吉澤嘉代子、悲願の有観客ツアーを完
走 “歌の物語”でファンに感謝伝え
た『赤青ツアー2021』公式レポ

吉澤嘉代子が最新アルバム『赤星青星』を携えて行った『赤青ツアー2021』のオフィシャルレポートが到着した。

3月17日にニューアルバム『赤星青星』を発表した吉澤嘉代子が『赤青ツアー2021』を開催した。2年ぶりとなる今回のツアーは3月24日の東京・昭和女子大学 人見記念講堂と、3月28日の大阪・NHK大阪ホールの2公演。楽曲の中に頻繁に登場する「電話」をモチーフに、吉澤らしい物語性のあるステージでオーディエンスを魅了した。
電話のベルが鳴り、後方のスクリーンに「もしもし、運命の人ですか。」と映し出されて、一曲目に披露されたのは穂村弘と歌詞を共作した「ルシファー」。〈羽の舞い散る夜に運命と出会ったの〉というラインに合わせて、羽の舞い散るスクリーンの後ろで白いドレス姿の吉澤が歌う、何とも幻想的なオープニングだ。
ステージ前方の電球に囲まれたスペースへ出て行くと、振り付けを交えて「綺麗」を歌い、「ユキカ」ではアコースティックギターを抱えながらその場で飛び跳ねる。「運命の人」でもイントロとアウトロでワルツのリズムに合わせて踊ったり、曲の途中でしゃがみ込んだりと、大きなアクションからはひさびさのライブに対する喜びが伝わってくるかのよう。
ステージ上に置かれた黒電話のベルが鳴り、吉澤が受話器を取ると、「ひさしぶり!」と会場に向けて挨拶。物語の登場人物を演じつつ、同時にオーディエンスともコミュニケーションを取って、ニューアルバムをリリースしたこと、アルバムジャケットのドレスを手掛けた刺繍作家の田中大資が今日の衣装も手掛けていることを伝え、さらにはゴンドウトモヒコ、伊澤一葉弓木英梨乃、伊賀航、朝倉真司というバンドメンバーを紹介していく。
途中から演技口調となり、「新曲聴いてくれる?え、別の電話が入った?私の歌より大事な電話って誰からなの?あーんもう!」と怒り出すと、そのまま「鬼」へ。リズムに乗ってその場で行進したり、〈角角角が出てきちゃう〉という歌詞に合わせて手で角を作ったりと、吉澤のキュートな魅力が全開の一曲だ。そこから一転、ジャジーな曲調と歌詞のギャップがユニークな「胃」ではアウトロの盛り上がりに合わせてフェイクを聴かせる。
SEで雨の音が聴こえてくる中、エレピとともに「ゼリーの恋人」をしっとり歌い上げると、雨はやがて雷へと変化。今度は赤いプッシュ式の電話をかけ、受話器を持ったまま「リダイヤル」を歌い始める。ストーカーが主人公の曲だけに、最後まで相手が電話に出ず、受話器を置くとき一瞬見せた表情にゾクッとする怖さがあり、やはりとても演劇的だ。
ライブ中盤では「せっかくだし、人見記念講堂/NHKホールに電話してみよう」と客席の番号を読み上げて、その席の人とフロアに置かれた電話でトークをするというコーナーも。アルバムのテーマ「恋人」に合わせた「今何かに恋してますか?」という質問に対する、お客さんそれぞれの答えが面白い(ちなみに、東京では「ピスタチオ」と「モンブラン」、大阪では「ビーフシチュー」と「たこ焼き」という返答。大阪では「みんな公の場だから食べ物とかに逃げるよね!」と話して笑いが起こる一幕も)。
「もう一人だけかけてみようかな?」と言って電話をかけると、今度はステージ上の電話ボックスから電話が鳴り出し、周りから煙が出てきて、さらにはピカピカと光り始める。その扉を吉澤が開けると、そこは異世界への入口(という設定)。背景に香港の街並みが映し出されると、テクノポップ✕ゲームミュージックな曲調の「ニュー香港」が演奏された。
その後も曲ごとにワープを繰り返して、エレキギターを持ち、ミラーボールが光る中で歌った「グミ」、ゴンドウのトランペットが哀愁を誘うR&B調の「えらばれし子供たちの密話」を続けて披露。もともとこの電話ボックスはシングル『サービスエリア』発表時のアーティスト写真でフィーチャーされていたものということもあり、最後はやはり異世界にたどり着く恋人たちをロマンティックに描く「サービスエリア」でこのパートが締め括られた。
「もうこんな時間か。あの人まだ起きてるかな?」と、再度電話をかけるも相手は出ることなく、留守番電話に。「しばらくアルバムが出なくて、ライブもできなかったけど、ずっと楽しみに待っててくれて本当にありがとう。去年は大切なライブができなくなってすごく悲しかったけど、またみんなの前で歌えることを想像して、アルバムを作ってたよ。私にとって一番幸せなことは、あなたに私の書いた歌を聴いてもらって、あなたの一番近くにいられることなの」と今の想いを切々と語り、「今から前に好きだって言ってた歌を歌うから、聴いててね」と伝えると、ピアノの伴奏のみで届けられたのは「残ってる」。吉澤の歌と伊澤のピアノソロが深い感動を呼び、場内は大きな拍手に包まれた。
私立恵比寿中学への提供曲「曇天」のセルフカバーに続き、スクリーン全面に映し出された星空をバックに「流星」を歌うと、ここで一度吉澤がステージを去り、バンドメンバーがソロ回しを交えた長尺のアウトロを聴かせる。その素晴らしい演奏の余韻が残る中、結んでいた髪を下ろし、リボンのついたレースのマントを身にまとって再び姿を現した吉澤は、その恰好のまましっとりと「リボン」を歌い上げた。
その後、一瞬の暗転中にマントを取ると、そこには『赤星青星』のジャケットで使われている美しい刺繍のドレスを着た吉澤の姿。もちろん、歌うのはアルバムのクロージングナンバーでもある「刺繍」だ。途中からオープニング同様に後方のスクリーン裏に移動し、雪の結晶が舞い落ちる中で歌い終えると、最後にもう一度電話のベルが。スクリーンには「もしもし、私、運命の人よ。」と映し出されて、本編が終了した。
アンコールでの吉澤はリラックスした表情を見せて、東京では「マスクをしてるからどんな表情か見えないかなと思ってたけど、歌ってると感情が伝わってきました」とオーディエンスに伝え、大阪ではバンドメンバーとゆったりトークを展開。「もう一曲、電話の曲をお届けしたいと思います」と言って演奏された「らりるれりん」では、アコギとグロッケンのみで始まるアレンジによって、親密な雰囲気が作り上げられた。
最後にメンバーが整列して挨拶した後、東京では昨年中止になってしまった日比谷野外音楽堂でのライブが再び決まったことを告げて終演となったが、大阪では「もう一曲歌ってもいいですか?」と言って、弾き語りで「ものがたりは今日はじまるの」を披露。それぞれが様々な想いを抱えた一年を経て、新たな物語がまたここから始まっていく。
文=金子厚武

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