刀ステ史上最大規模のステージ、その
興奮と感動を振り返る~「舞台『刀剣
乱舞』天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」
公演レポート

2021年1月10日(日)~3月28日(日)、IHIステージアラウンド東京での3カ月間公演という舞台『刀剣乱舞』史上最大規模のステージをカンパニーが一丸となって走り抜いた刀ステ「天伝」。同じく4月11日(日)に同劇場での3カ月間の幕が開く「舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-」との二部構成でもある本作を改めて、プレイバック! その興奮と感動の余韻を噛み締めながら、さらなる物語の展開へと期待をつないでいきたい。
今回、時間遡行軍の歴史干渉を阻止するべく出陣したのは、一期一振・鯰尾藤四郎・骨喰藤四郎・山姥切国広・加州清光・宗三左文字の6振りの刀剣男士。主命はいわゆる「大坂冬の陣」が歴史通りの決着を迎えるようにすることだ。大坂の地に降り立った彼らは早速二手に分かれて調査を始めるが、なんと、真田丸にてかつて倒したはずの弥助と再会してしまう。どうやらそこで企てられているのは、これまでの歴史干渉とはまた違った不穏な計画らしいのだが──。 
弥助の深遠なる忠誠心、徳川家康の圧倒的なオーラ、真田信繁・大野治長・豊臣秀頼それぞれが抱く戦国時代を生きるもののふとしての自問自答、さらにはもう一振りの刀剣男士・太閤左文字も出現し、物語は序盤から活発かつ複雑な様相。人間たちが抱く多彩な思惑の縦軸と、使命に奔走する刀剣男士たちの矜恃たる横軸。縦と横の情報が織りなす濃厚なストーリーのタペストリーは、これまで刀ステを見続けてきた観客の胸中を否応無しにジリジリと刺激し続ける発見の連続で、その感覚はまさにシリーズモノならではの醍醐味。もちろん本作が初見という人も、この壮大な世界観の魅力を知ってしまったからには思わずシリーズの全てを紐解きたくなってしまうことだろう。
座長を務める一期一振を演じるのは本田礼生。シリーズ初参加だが豊富な舞台経験と繊細な芝居力&類い稀なる身体能力を生かし、静かに燃える一期一振の凛々しさと強さを提示。作品の一翼を担った。また、藤四郎兄弟として一期一振=「いち兄」を支えるのは前嶋 曜演じる鯰尾藤四郎と、北川尚弥演じる骨喰藤四郎。本田同様シリーズ初参加の前嶋は可憐さを備えた佇まいが印象的。北川は刀ステ経験を存分に生かし、多勢に取り囲まれての接近戦など殺陣の見せどころも光った。
加州清光役の松田 凌も初参加。荒牧慶彦演じる山姥切国広とは「まんば」「清光」と呼び合う気の置けない仲。2振りの間に流れる空気が心地いい。終盤、家康と対峙した際にグッとギアを上げて放った加州清光の美しい殺気からは松田がキャラクターに注ぎ込んだ命の強さを見せつけられ、カッと胸が燃えた。一方の荒牧は、精神的にも技術的にもカンパニーを土台から支えつつ、一度振り切ったところから省みた“今の山姥切国広”、まだまだ成長中な伸びしろ多いキャラクター像を丁寧に表現していた。
4年ぶりに刀ステに帰ってきたのは佐々木喜英。情緒的にも戦いのレベル的にもより大人の包容力を纏った宗三左文字として流石の安定感を醸す。左文字同士の太閤左文字との再会の微笑ましい様子など、キャラクターに新たな魅力も与えていた。太閤左文字を演じた北乃颯希は、これがシリーズ初参加ながら派手で明るいポジティブキャラをしっかりと掌握。大いなるスパイスとして輝きを添える。
真田信繁役の鈴木裕樹、大野治長役の姜 暢雄、豊臣秀頼役の小松準弥、徳川家康役の松村雄基、弥助役の日南田顕久と、それぞれにタイプの違う人間組も鮮やかなラインナップ。彼らは誰もが迫る冬の陣に“己の戦”を見出し、「私は間に合ったのだ」と同じ言葉を口にする。しかし込められた真意は千態万様。唯一共通しているのは、用意された運命に抗う哀しいほどの業の深さ、か。中でも戦の只中で刀を振るうことのみに取り憑かれたような家康の狂戦士ぶりはどの敵よりも凄まじく圧巻。その姿に「やはり人間が抱える燃えさかるような執着、執念、怨念はなによりも一番厄介で恐ろしいのだ」と、背筋が震える思いがした。
複数の舞台セットそれぞれに異なったテーマカラーが感じられ、刀剣男士勢揃いの“決め画”のライティングもいつになくビビッド。それらがタイトルの「蒼空」のキーワードとも呼応し、全体的に“色彩”が効果的に機能していた印象。また、終盤の大クライマックス、客席を回し続け360度を全開放し全ての舞台上で同時に大殺陣が繰り広げられる様は、これぞステアラ、これぞ刀ステ、これぞ乱舞! のスペクタクルな展開。まるで豪華絢爛な戦国絵巻をライブ中継で見ているかのような特別感で、この会場ならではのアトラクション気分も存分に堪能させてもらった。
刀ステといえばキャラクターの個性を生かした殺陣も大きな魅力。こちらもステアラの広さ、高さ、レーンの長さを生かしたアイデアが存分に盛り込まれ、そのバリエーションの豊富さに驚愕。一振りずつの見せ場の連打では袋小路や塀の上、足場の悪い屋外などを自在に表現していく可動式の小ぶりなスロープも多用し、次々にトリッキーな手が出現。寄りも引きも自在な刀剣男士と時間遡行軍とのセッション、スピード感あふれる技の競演。今まで見たことのなかった戦闘シーンが脳裏に焼き付いていく。
定められた歴史のあり方に一石を投じて“if”に賭ける漢たちに着目した「天伝」。静かな余韻を持って置かれた冬の陣のエンドマーク。その先に控える夏の陣に刻まれているであろうすべての“こたえ”が待ち遠しい。
【「舞台『刀剣乱舞』天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」 あらすじ】
西暦2205年。
歴史の改変を目論む「歴史修正主義者(れきししゅうせいしゅぎしゃ)」によって過去への攻撃が始まった。
時の政府は「審神者(さにわ)」なるものたちに歴史の守護を命じる。
その審神者の物心を励起する力によって生み出された「刀剣男士(とうけんだんし)」たちは、
さだめられた歴史を守る戦いへと身を投じるのだった。
慶長十九年、大坂。
方広寺鐘銘事件を発端に、豊臣と徳川の衝突は避けられないものとなっていた。
戦国時代最後の戦いとなる大坂の陣が目前に迫る時代に、本丸より出陣した六振り。
徳川陣営の偵察を進める一期一振、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎。時間遡行軍による干渉は確認できなかったが、徳川本陣を偵察した鯰尾が、家康の傍で怪しげな従者を見かけたと報告する。さらなる調査のため、再び徳川本陣の偵察へと向かう鯰尾と骨喰。一期は異変を知らせるため、隊長である山姥切国広たちのもとへと向かった。
その頃、山姥切、加州清光、宗三左文字は、潜入調査のために真田丸に入り込んでいた。大坂冬の陣の要となる出城であったが、未だ改変の兆しは表れていなかった。
山姥切たちはその真田丸で、かつて小田原の地で戦った男と再会する。今は豊臣秀頼に仕えているという男の存在に、山姥切は不穏な気配を察するのだった。真田丸で合流した一期は成りゆきから、時間遡行軍に命を狙われる秀頼を護衛することとなる。
果たして、大坂の地で何が起きているのか?
そして謎の刀剣男士・太閤左文字との出会いが、一期たちにもたらすものとは……。

文=横澤由香

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