上田麗奈、記念すべき初ライブ『1st
LIVE Imagination Colors』オフィシ
ャルレポートが到着

2021年3月14日に東京・LINE CUBE SHIBUYAにて開催された、『上田麗奈1st LIVE Imagination Colors』のオフィシャルレポートが到着した。
イープラス「Streaming+」では、2021年3月21日まで、アーカイブ配信を実施中。
【レポート】上田麗奈の記念すべき初ライブ
同公演は、昨年7月23日に予定されながらも新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期となった公演の振替公演。開場前から上田麗奈の記念すべき初ライブを待ちわびるファンの姿が見られた。
開演前、会場には波の音のSEが流れ、ステージ前方に下された紗幕には波打つようなダークブルーのライティングが施されていた。そんな“海”をイメージさせる空間に、デビューミニアルバム「RefRain」のリード曲「海の駅」のインロが静かに鳴りはじめ、紗幕越しに上田の姿がぼんやり現れる。
撮影:中原幸
まるで海の底に佇んでいるような上田の「ラララ…」という声が会場に響いた瞬間、観客の多くが「このライブはやばい」と息を呑んだのではないだろうか。それほどまでに存在感のある、あるいは場を支配するような歌声とともに1stライブは幕を開けた。
「海の駅」をワンコーラス歌ったところで紗幕が上がると、ステージ最奥に青々と葉を茂らせた大樹、その手前に緑に包まれた丘を設けたステージセットが露わになり、先ほどまで“海”だった空間が“森”へと変わる。上田はシンプルな白のロングワンピースに、羽をあしらった白いスニーカー、右耳にイヤリングという出立ちで、柔らかい笑みを浮かべながら「海の駅」を歌い終えると「みなさんこんにちは、上田麗奈です」と客席に向かって一礼。
現場の観客と生配信の視聴者に感謝の気持ちを伝えたのち、ステージ下手にあるもうひとつの小さな丘に移動しながらMCを続ける。
「緊張は、私はしているんですけどね、みなさんはリラックスして、楽しく聴いてください。寝ちゃってもいいです(笑)。このセリフ、どこかのお祭りでも言ったような気がしますけど……懐かしい。『ランティス祭り』があって、あの曲を歌って、『ライブ、やってみようかな』って、今日この日を迎えました。ちょっとだけ、チーム上田麗奈が作る、みんなで作る夢の世界、覗いていってください」
そう話しながら椅子に腰かけ、緑色の表紙の絵本を開き、歌いはじめたのは1stシングル表題曲「sleepland」。同曲は「ランティス祭り2019」にて、作詞・作曲・編曲を手がけたrionosのキーボード演奏をバックに、上田がソロアーティストとして初めて人前で歌った曲だ。そんな「sleepland」を当時と同じスタイルで、しかし今度は上田ひとりで、物語を読み聞かせるように観客へ届けた。
撮影:中原幸
歌が終わると、上田は手にしていた絵本を開いたままの状態で机に立てかけ、次の曲「fairy taleの明けに」へ。この曲では森の中をさまようような演劇的なパフォーマンスで、続く「誰もわたしを知らない世界へ」では大樹を背にした堂々とした歌唱で観客を魅了した。
この「誰もわたしを知らない世界へ」の終盤、ステージ後方の丘が割れて岩肌が現れ、いつしか“森”は“湖”へと変貌していた。そして水のせせらぎ、小鳥のさえずりのSEが流れ、「花の雨」へ。それまでより明るい照明のもと、上田は軽快なカントリーポップのリズムに合わせて体を揺らしながら、寿退社したマネージャーへの思いを込めたこの曲を嬉しそうに披露した。続いて「たより」「きみどり」という、温もりを感じるミディアム〜スローテンポのナンバーを丁寧に、しっとりと歌い上げた。
アンビエントなインスト曲「Falling」が流れるなか、照明は昼から夕方へ移り変わるように調光され、上田が1stアルバム「Empathy」のライナーノーツで「ぐるぐる悩んで抜け出せないまま」と評した「ティーカップ」へと接続される。上田はときにくるくる回り、ときに顔をしかめ、あるパートでは音源より感情を露わにし、歌詞の最後「抜け出せずに揺れる ティーカップから」でちょこんとしゃがみ込むなど全身を使って楽曲の世界を表現した。
声出しの第一声は「うわああ、緊張するううう! 消えたい!」
余談だが、ライブ当日のリハーサルでの上田の声出しの第一声は「うわああ、緊張するううう! 消えたい!」だった。しかし上田のステージングは、本番の数時間前までそんなことを言っていた人のそれとはとても思えない。上田の動きはあくまで自然体であり、同時に芝居のようでもある。いずれにせよ、身体表現においても観客を楽しませていたことは間違いない。
「ティーカップ」のあと照明は紫と青に切り替わり、ステージ上は夜の湖に。そこで歌われたのは、息苦しさとともにほのかな光を感じさせるストレンジなエレクトロニカ「aquarium」。上田は今にも泣き出しそうな表情で、ときに声を震わせながら目一杯の感情を込め、観客を圧倒した。
撮影:中原幸
次の瞬間、ステージが暗転。ほどなくして、薄明かりの中で白いロングコートを羽織った上田の姿が浮かび上がる。その背後の大樹はすっかり葉を落とし、灰色に。“湖”だったステージは、“冬”を迎えていた。そんなモノクロの世界で披露されたのは、上田の声とピアノの音だけで奏でられる「旋律の糸」。両手で自らの首を絞めるような仕種で「殺してく並んだ糸を一つ 切り離そう 私と世界を」と歌い、うっすら笑みを浮かべる上田の姿には静かな狂気を感じた。
間髪をいれず「毒の手」「車庫の少女」という、やはり上田のディスコグラフィの中でも特に暗く、冷たい2曲が続く。しかし、いずれも「RefRain」に収められた曲であるが、「毒の手」では上田の悲痛ともいえる歌声に言葉を失うも、後半は音源よりも希望的なニュアンスが感じられた。「車庫の少女」も同様に、コンプレックスを描いた曲でありながら、その歌声は自信に溢れているように思えた。これが「Empathy」を経た上田の歌ということなのだろうか。
撮影:中原幸
再びステージが暗転し、インスト曲「Another」が流れるとともに徐々にライトアップされていくと、ステージ上には緑が戻っていた。“冬”が終わり、“春”が訪れようとしているなか、コートを脱いだ上田は「歌う」というよりは「喋る」要素の強いロックナンバー「いつか、また。」をエモーショナルに演じてみせた。
「aquarium」からこの「いつか、また。」まで、緊張感のあるシリアスな楽曲が続いたが、次のポップなR&Bナンバー「アイオライト」でその緊張がふわりとほどける。「晴れ渡るこの空 雲ひとつなくって」という歌詞に、ライブ当日の朝の空を重ねた人も多かっただろう。上田もリラックスした笑顔でワンピースの裾をひらひらさせるなどしつつステージ上を自由に動き回り、サビの「色づけ世界」の言葉通り、ライティングもよりカラフルに。そのまま「あまい夢」「ワタシ*ドリ」と、“冬”のステージとは対照的に、特にポップな3曲を生き生きと、弾むように歌った。
撮影:中原幸
ここで、上田が「ありがとうございます」と再び一礼すると、客席から割れんばかりの拍手が送られた。そう、「sleepland」から「ワタシ*ドリ」までの15曲(インスト曲も含めれば17曲)、約70分を、上田はMCなしで歌いきったのだ。特筆すべきは、その曲間で拍手が一切なかったこと。それは上田のライブが、拍手を差し挟む余地がないほど完成されたシームレスな物語になっていたためだろう。その意味では、上田は約70分にわたるひとり芝居を演じきっ
たと言ってもいい。
「『sleepland』から始まった夢の世界は、いかがでしたでしょうか? みなさんには、私の楽曲はそれぞれ何色に見えたんでしょうね。今回のタイトル『Imagination Colors』は、色を想像するという意味があります。みなさんが感じて、想像して、そしてそれぞれの世界を創造していただけるように、歌えたらいいなあと思っています」
であれば、上田の衣装が白=無色であることにも合点がいく。そして各楽曲の色を各々が想像するうえで、拍手なしという観賞スタイルは正解だったように思う。なかには単に拍手するのも忘れて観入ってしまった人もいたかもしれないが。
「駆け抜けてまいりましたが、過去の自分も、今の自分も、この先の自分も、抱きしめていきたいなあという最後になるように歌っていきたいと思いますので、もうちょっとだけ、お付き合いください」
そう告げると、上田は「RefRain」の1曲目「マニエールに夢を」と最終曲「あなたの好きなメロディ」を伸び伸びと、気持ちよさそうに披露した。「RefRain」は上田いわく「孤独な冬のアルバム」だが、この2曲は“春”のステージに違和感なく溶け込んでいた。とりわけ「あなたの好きなメロディ」の間奏パートでは、背後の大樹はピンク色の照明を浴びて満開の桜の木となり、上方からは花吹雪が舞い落ちる。これでもかというほどに“春”だ。
撮影:中原幸
冒頭で述べた通り、本公演は本来は昨年7月23日に開催されるはずだった。実はその日は「海の日」であり、セットリストが大きく変わっていなければ、「海の日」に「海の駅」から始まるライブになったのかもしれない。しかし、現実の春を迎えつつある今このタイミングで、上田の表現する“春”を体験できたのは、観客にとって幸せなことだったのではないか。
花吹雪が舞うなかで、上田は両手を広げながら気持ちのこもった優しい歌声を会場中に響かせ「ぜんぶ抱きしめて 側にいる」とライブ本編を締めくくった。盛大な拍手が沸き起こるなか、上田は下手の丘に移動すると、机の上に開いたまま立ててあった絵本をそっと閉じ、夢の終わりを告げる。
「チーム上田麗奈って、みんなのことも言うんだからね」
鳴り止まない拍手は、そのままアンコールを求める手拍子に。その手拍子に導かれ、再び上田がステージへ現れると2ndシングル表題曲「リテラチュア」のイントロが流れる。
リメイクされた刺繍Tシャツと淡いピンクのティアードスカートに衣装チェンジした上田は、1曲を通して感情の波が大きくうねるこの曲を軽やかに、しかし地に足のついた歌声で巧みに表現した。アンコール2曲目は春のように暖かいバラード「Campanula」で、「『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』と伝えたい」というメッセージを情感たっぷりに観客へ伝えていた。
撮影:中原幸
「アンコールありがとうございます。7月に開催予定だった1stライブ、今回無事に、安全に開催することができたんじゃないでしょうか。アーティストデビューして、5年……かな? 経ちました。たくさんのことが本当にありました。最初は歌うことが苦手で、『歌いたくない』ってずっと言っていたんですけど、まさかライブをすることになるなんて……私ひとりじゃ無理でしたね。……なっ、泣かないって決めたの私は!」
堪えきれない涙を指先で拭いつつ、上田は続ける。
「チーム上田麗奈が作られてから、いろんな人が協力してくれて、いろんな人が『こういうの素敵だよ』『ああいうの素敵だよ』って、いろいろ形をね、作っていってくれて。本当に、ありがとうございます」
会場中から上田を祝福するような拍手が送られるなか、さらに続けた。
「チーム上田麗奈って、みんなのことも言うんだからね。今日のこのライブも、みなさんが空気を作ってくれたから、最後まで、こうやって素敵な世界観でお届けすることができたんです。本当にありがとうございます。ああー、泣かないって決めたのに……悔しい」
笑顔でそう語ると、上田は夏に2ndアルバムをリリース予定であることをアナウンス。それに対し、観客はやはり大きな拍手で喜びを伝えた。
「『RefRain』という1枚目のミニアルバムを出して『次、出すのかなあ?』っていう状態から始まったアーティスト活動だったんですけど、これからも続いていくように、がんばろうというところです。まだまだチーム上田麗奈で活動していけるように、これからもみんなと一緒に、隣で歩いていけるように、最後にこの曲を歌ってお別れしたいなと思います」
届けられたのは、「Walk on your side」。ライブ本編が夢の世界であるなら、アンコールは現実ということになるだろうか。その現実は親密かつ和やかな空気で満たされていた。満面の笑みを浮かべる上田の「どんな瞬間もきっと笑顔に変える ほんの小さいきっかけを届けたいんだ」という歌声とともに、初めてのライブは幕を閉じた。
全23曲で魅せた、美意識と表現者としての凄み
この日、上田が披露した楽曲は全23曲。デビューミニアルバム「RefRain」、1stシングル「sleepland」、1stアルバム「Empathy」、2ndシングル「リテラチュア」の収録曲すべてを出しきったことになる。しかし、例えば「RefRain」が「孤独な冬のアルバム」なら、「Empathy」は「共感をテーマにした春のアルバム」であり、両者はそれぞれ色合いも質感もまったく異なる。そんな楽曲群をいったん解きほぐし、一遍の物語として編み直す手腕は見事としか言いようがない。それができたのは、1曲1曲が上田およびチーム上田麗奈の美意識に貫かれているからだろう。その物語をときに苦悶の表情を浮かべ、ときに飄々と、ときに朗らかに演じきった表現者としての上田の凄みも感じられた、素晴らしいライブだった。
ライター=須藤輝、撮影=中原幸
イープラス「Streaming+」では、本公演のアーカイブ配信を2021年3月21日まで実施中。

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