それでも世界が続くなら

それでも世界が続くなら

【それでも世界が続くなら
インタビュー】
“あの時、俺たち一緒にいたよな”
って分かるものにしたかった

EP『僕は君に会えない』に収録されている曲たちは、この世界でさまざまな想いを抱きながら生きている我々に、とても自然なかたちで寄り添ってくれる。描かれている感情、風景、物語について篠塚将行(Vo&Gu)に語ってもらった。

僕は劣等感を与えない人間になりたい

『僕は君に会えない』は他人事とは思えない想いが描かれている作品だと思いました。

田中さんもいろいろあるんですね。

はい。というか、いろいろないまま生きることは恐らくできないですよね?

そうですね。僕はできないと思っています。

嫌なことばかり起こるし、“なんで生きているんだろう?”って考える瞬間が度々ある我々と、同じところにいてくれるのが、今回の作品だという印象です。

嬉しいです。そうなりたいと思ってましたから。

シリアスにいろいろ考えると同時に、時折ふざけたりもするのが生きている人間の自然な状態ですけど、そういう部分も表れているのを感じました。

今回のボーナストラックでも、“どれだけふざけられるんだろう?”って思ってましたからね。シリアスなことを言い続けているだけだと、嘘になってしまう可能性もあると思って。“カッコつけてやってる訳じゃないんだ”っていうのを伝えようと思ったら、あんな感じのボーナストラックになりました。

今作はどのような一枚にしたいと思っていました?

今の自分が思うことをリアルに、脚色なく曲にしたかったんです。だから、“こういうメッセージがあって”ということでもないんですよね。仲間でも自殺した奴がいたり、死にたいって思う人もいたりして。それなのに“こう生きればいい”みたいなことは言えないので。

メッセージの発信ではなくて、生きている姿の描写?

はい。“今日、こうやって生きてたんだよな”って。この一枚を10年後、20年後に聴いた時に“どんなメッセージを言っていたか?”っていうことよりも、“あの時、俺たち一緒にいたよな”っていうことが記録として分かるものにしたかったんです。

メッセージを発信することを意図していなくても、リスナーそれぞれが何かを感じ取れる曲たちだと思います。例えば、生きていくことの大変さを描写している「タイムトラベラー」「生活と自粛」「月曜日」には、“今、こうして生きている”っていうことの肯定が根底にあるのを僕は感じました。

例えば、この記事を読んでくれている人のことを僕は知らないんですよ。知りもしない人に“生きるって素晴らしい”みたいなことを言われたら、“何も知らないくせに何言ってんだ”って僕なら思ってしまうんです。音楽って一方通行になりがちですからね。一方通行にならず、“上から”にもならず、どれだけ隣で一緒に歌えるんだろうって、ずっと考えてました。

今、おっしゃったのは“音楽を作って、歌って、届ける人としてどうあるべきか?”という姿勢だと思いますけど、そういうことも曲になっていますね。「僕の音楽を聴いてくれてる君へ」「カウントダウン」「猫と飛行機」は、そういう姿を感じる曲でした。

…なんていうか、“ありがとうございます”としか言えないです(笑)。

「カウントダウン」で描いているみたいに、夢とか愛というようなきれいな言葉によって見えなくなるもの、零れ落ちていく大切なものもあるっていうのは、本当にその通りですからね。

きれいな言葉って、ある種の呪いみたいだなと僕は思っていて。例えば、やりたいことや夢が見つからないってだけでいけないことのような強迫観念みたいなものもあったりするけど、でも例えば20代で将来の夢を決めちゃうことのほうが危なっかしいこともあるじゃないですか。人生はいつだってやり直せるはずなんです。僕が大好きなバンドでも“夢を売る仕事”って考えているバンドもいるんですけど、僕は音楽は“夢を売る仕事”であってはいけないと思ってるんです。僕もイジメられっ子だったから分かるんですけど、キラキラした人を見れば見るほど、“自分はダメな人間なんだ”って思って、死にたくなってしまう人もいるんです。カッコ良い人たちを見るだけで“自分はそうはなれない”っていう劣等感を突きつけられることにもなりますからね。僕はそういう劣等感を与えない人間になりたいっていう気持ちがずっとあるんです。

僕もひとりの音楽リスナーですけど、“いいことを言ってほしい”とか“きれいなものを見せてほしい”っていう願望はあまりないんですよ。“この人、必死で生きている”っていうのを感じたくて聴いているのかもしれないです。

どんなに暗い音楽をやっている人でも、今、この時点で“死んでしまいたい”って思っている人でも、“不幸になりたい”って考えているわけではないと思うんです。僕らも暗いバンドって言われることがありますけど、幸せになりたくないわけじゃない。なれるものなら(笑)。でも、死ねっていわれても生きていいはずだし、“死にたい”ってきっと“幸せになりたかった”の裏返しで、死にたいって言っていた人が幸せになってもいい、フラットでいたいんです。

今回のEPは生きることの大変さときちんと向き合っている作品だと思います。思う存分、もがいていますよね?

僕もコロナ禍でもがいているのをメンバーに助けられたし、それをレーベルがCDにしてくれましたしね。もがいて抵抗することはカッコ悪いかもしれないけど、悪いことじゃない。

こういうもがいている姿を表現するやり方として、音楽はとても優れているのかもしれないと聴きながら思いました。例えばニルヴァーナも歌っている言葉は暗いとされる感情ですけど、あの轟音とともに受け止めると、何かしらの光を感じられるじゃないですか。

そうですよね。僕もニルヴァーナを聴いた時、“生きるのがつらいって感じているのは、どうやら俺だけじゃなかった”って感じてホッとしましたから。the pillowsの「ハイブリッドレインボウ」を聴いた時も同じように思ったし。僕、人生で「ハイブリッドレインボウ」を17枚買っていますからね。買っては“これ最高だから聴いてくれ”って友達に渡して、毎回そのままあげちゃって(笑)。そういうバンドに、今回の作品で僕らがなれたらいいのになって思ってます。
それでも世界が続くなら
EP『僕は君に会えない』

OKMusic編集部

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