SOIL&“PIMP”SESSIONS スタンダー
ドからブラック・サバスまで、ソイル
の“エッセンス”を凝縮したカバー作
品『THE ESSENCE OF SOIL』を紐解く

“エッセンス”とは、本質、神髄、最も大切なものを意味する言葉。SOIL&“PIMP”SESSIONSの最新ミニアルバム『THE ESSENCE OF SOIL』とは、つまりバンドの本質を抽出し、純化し、美しく結晶化した初のカバー作品だ。ジョン・コルトレーン、チェット・ベイカーなどジャズの名曲、「My Favorite Things」などスタンダード、そして驚きのブラック・サバス「Planet Caravan」など、自らの音楽人生に多大な影響を与えた楽曲を、メンバー全員が持ち寄り、研究を重ね、アコースティック/ジャズ本来の魅力をたっぷりと盛り込んだ全7曲。ソイルのエッセンスを詰め込んだ画期的な作品について、社長(Agitator&Programming)とタブゾンビ(Trumpet)に話を聞こう。
――ジャズへの愛がたっぷり詰まった、最高のカバーアルバムだと思います。
タブゾンビ:今回のアルバムって、これが未来の音楽なんだと思うんですよ。
社長:すごいところから始めるね。
タブゾンビ:全編アコースティックで全員一つの部屋で一発録りだったんですけど、そこには我々の全て、我々の今が、我々のその瞬間が記録される訳です。トランペットが少しミストーンしても修正が効かないのです。音楽って人生が反映されると思うので。科学が発達していずれはAIがヒット曲を出す時代も来るでしょう。でも結局アートや音楽に何を求めるか?それは人だと思うのですよ。生きざまだと思うのです。だから技術が発達していった先に求められる音楽はこういった音楽なのではないでしょうか?と思ってやりました。
だって、録音の技術も、ハイレゾを追求していくとアナログに近くなっていく、みたいな現象があるじゃないですか。
――不思議ですよね。最も自然なものを再現するために、ものすごく遠回りをしているような。
タブゾンビ:そうなんです。結局、戻るところはここなんです。このアルバムです。リリースしてすぐには国内ではなかなか広く評価されないかもしれないけど……。結局、車から運転手が無くなった近い未来ぐらいに“このアルバム良かった”というふうになる。これは未来への投資です。S&P 500です。
社長:4000ポイント越えです。でもね、今回、海外のリアクションがすごいんですよ。
タブゾンビ:まあ、だから、結局海外なんですよ、僕らはいつも。一番最初に日本で出して、全然受け入れてもらえなくて、外国でリリースされて、影響力のある人が“いい”と言ってくれて、日本でふわっとなる。いつもそうなんですけど、今回もそんな雰囲気がありますね。
社長(Agitator)
ただのカバーアルバムというよりも、デスジャズというものを謳い始めた時のルーツみたいなものを、ちゃんとたどっていくというテーマがあった。
――実際、今回のアルバムって、どんなきっかけで作ることになったんですか。
社長:これは、どうなんでしょうね。これが(今作の)初めてのインタビューなので、どこまで正直に話していいものか、わからないところもあるんだけど、正直なところ、オリジナルアルバムを作っていたんですよ。通常であればその先に、リリースをして、全国ツアーをやって、という一つのフローがあるんだけど、今のご時世、まったく計画が立たない。その中でも、我々がもう一つのパフォーマンスの場として活動してきた座席のあるジャズクラブでのライブができたこと。もちろんコロナ対策をした上で、キャパを半分に減らして。そういう実績があったから、まだしばらくコロナ禍は続くであろうという前提のもとに、スタンディングのライブが組めない状態でオリジナルアルバムを作っても、広がっていかないと。であれば、可能性のある、ジャズクラブで活きるようなアプローチのアルバムを作ろうということで、カバーアルバムにシフトをして、ブルーノートやビルボードでライブを仕掛けていこうという。ライブのアウトプットありきで走り始めたのが、実際のミーティングの裏側だったりするんですけど。話していいんですかね、これ。でも正直、そうだもんね。
――いいんじゃないですか。非常によくわかります。
社長:逆に言うと、コロナだからここに向き合えたということでもありますね。それと同時に、バンドのみんなのモチベーションもすごく上がっていて、調子が良くて、いい音で録れましたもんね。
タブゾンビ:うん。
社長:レコーディングもすごく早かった。そんな、いろんなことが組み合わさって、ここに落とし込めたということです。
――選曲はどんなふうに?
社長:選曲は、各々で持ち持ち寄りました。ただのカバーアルバムというよりも、初期のソイルの、デスジャズというものを謳い始めた時のルーツみたいなものを、ちゃんとたどっていくというテーマがあったから。メンバーそれぞれにいろんなバックボーンがある中で、いわゆるジャズというものに特化して、選曲していく中で、タブくんがブラック・サバスを持ってきた。
――ジャズの名曲がずらりと並ぶ中に、まさかのハードロック。びっくりしました。
社長:でもね、これが肝なんですよ。
タブゾンビ:どこにジャズのエッセンスを感じるか?って、人によって違うじゃないですか。俺はこの曲にジャズを感じていたので。めっちゃ反対に遭いましたけどね、レコード会社からは。
社長:メーカーからすると、うまくプロモーションに繋げられない、ちょっと異質なものが入ってくるから、“うん?”というものがあったのかもしれないけど。ただ、このエッセンスがまさにソイルなんですよ。
タブゾンビ:今回、海外で、BBC『ワールドワイド』で最初にかかったのがこの曲です。ジャイルス(・ピーターソン)の番組で。
社長:しかも、ブラック・サバス(の原曲)と続けてかけてくれた。『ワールドワイド』の中で、初めてブラック・サバスの音源をかけたと言ってました(笑)。という、何かを動かすことができたんですよ。それを聴いたほかの国のDJからもメールが来て、ミハエル(マイケル)・ルッテンという、ソイルがデビューした時に、UK盤とEU盤があって、EU盤はコンポストレコードというところから出して、そのコンポストを一緒にやっているマイケル・ルッテンから久しぶりに連絡が来て、“あれは見事だよ”って。
タブゾンビ:マジで?
社長:いわゆるレアグルーヴ、レアジャズのコレクターである、ケブ・ビードルからも連絡があった。“今回、めっちゃリアクションあるやん”と思ったな。昨日は『ワールドワイド』で「Kitty Bey」がかかりましたね。だから、「Planet Caravan」をやって良かったんですよ。
タブゾンビ(Tp)
ジャズって、一見、流れていくようで、実は相当やり込んで、その中には緻密に計算されたものがあったり、そういった部分を丈青さんが分析してくれた。
――「Planet Caravan」って『パラノイド』(ブラック・サバスの2ndアルバム/1970年)の中でも異色ですよね。すごくスローで、ブルージーで、ヴォコーダーとか使って。
タブゾンビ:この曲はパンテラがカバーして、94年ぐらいにもう1回ブームが来たんですよね。名曲だと思います。“これ、ジャズでやったら絶対素敵だな”というイメージはずっとあって、自分がソロでやる時には、絶対カバーしようと思ってました。“F.I.B JOURNALの(山崎)円城さんあたりが歌うと素敵だな”と。
――タブさんが「Planet Caravan」を出して、社長は「Kitty Bey」(バイロン・モリス&ユニティ/1974年)を出したんですよね。
社長:そうです。僕の大好きな、いわゆるアシッドジャズの源流的な曲を。ほかの曲に比べたら、これもちょっと異質といえば異質なんですけどね。レアグルーヴの文脈なので。
タブゾンビ:これも“うん?”って言われてたよね。結局、“ジャズじゃないんじゃない?”って言われた2曲が、一番最初にラジオでかかった。
社長:そういう、混ぜていく感じが、ソイルっぽいんじゃないかな?と。
タブゾンビ:混ぜるというか、どこにジャズを感じるか?という、源流をたどる『THE ESSENCE OF SOIL』だから。俺はこれでいいと思ってました。
――アルバム1曲目は、マッコイ・タイナーの「Inner Glimpse」。タブさんのトランペットの一音目の、強烈な、ブパパパパパ!っていう、あまりのかっこよさにしびれました。
タブゾンビ:これ、2テイクしか録音してないんですよ。1テイク目を録音し終わったら丈青さんが“このテイクで!”と言って決まりました。私はもう一度だけチャレンジしたいと2テイク録音しましたが、2テイク目の方もとても出来がよかったのですが、まとまり過ぎた感やうまくできた感が出てきて、1テイク目の張りつめた緊張感や鋭い何かが感じられなくなってしまいました。
社長:これを録る前か、「Resolution」(「A Love Supreme, Pt. II – Resolution(至上の愛)」)を録る前かに、丈青が“みんなに理解しておいてほしいことがある”って、ピアノの前で“この音はこうで”って説明してくれた。丈青さん、めっちゃ研究してるんですよ、マッコイを。
タブゾンビ:この曲は、理論的な部分もすごく緻密になされているんだと。ジャズって、一見、流れていくようで、実は相当やり込んで、その中には緻密に計算されたものがあったりとか、そういった部分を丈青さんが分析してくれた。ソイルとしてもすごく成長があったし、タイミング的にも良かったなと思います。
――それと思ったのは、原曲との距離感と言いますか。コルトレーン「A Love Supreme, Pt. II – Resolution (至上の愛)」とか、あまりに有名曲すぎてどうしようみたいな、そういうことはなかったのかなと。
タブゾンビ:俺も最初は“え?”ってなりましたよ。たとえばブランフォード・マルサリスが「至上の愛」をやった時は、何十年も研究して取り組んでいたものだったし。でも、これも丈青さんがすごい研究してきて、“何がここで起きているのか?”というものを分析してきてくれた。
社長:CDのライナーにも書いてますね。“眠れない日々が訪れました”って。本当にそういう感じだった。
タブゾンビ:「至上の愛」は、“この音でコルトレーンが何を表現したかったのか”が重要な曲なので。そこを丈青さんがすごく研究してきて、こんな曲になりました。栗さん(栗原健/Sax)も、すごく研究してきてましたから。
社長:栗さん、すごかった。
タブゾンビ(Tp)
「Silence」の時は、全員、神憑ってましたね。雰囲気、イキフンが。
――7曲目、チェット・ベイカーの「Silence」も、妖気を感じるほどすごい演奏です。
タブゾンビ:これも一発録りで、2テイク録って、使うテイクを決めて。で、レコーディング最終日に“あれ、もう一回録り直さない?”という話になって、1回だけトライしてみた、そのテイクがこれです。この時は、全員、神憑ってましたね。雰囲気、イキフンが。
社長:なんで言い直したの(笑)。
タブゾンビ:チェット・ベイカーに関しては、天才なんで。ほかのトランぺッターとは、異質なところがありますよね。想像なんですけど、チェット・ベイカーのトーンって、めちゃめちゃ繊細でその奥に狂気と悲しさと絶望と希望があってメロディはめちゃくちゃ。美しい。想像ですけど、あんまり練習せずにあれができるタイプなんじゃないかな?と思います。
――イキフンまで、ばっちり入ってる演奏だと思います。
タブゾンビ:神憑ってるといえば、「My Favorite Things」の、ピアノだけになって、ベースとドラムが入ってくる、あそこも神憑ってるなと思います。あれも全部アドリブで、あんな感じになってます。
社長(Agitator)
全部好きですけど、あえて言うなら、「至上の愛」はいいの録れたな。かっこいいなと思います。客観的に聴いても。
――社長は、アルバムの中で特にお気に入りはありますか。
社長:全部好きですけど、あえて言うなら、「至上の愛」はいいの録れたな。かっこいいなと思います。客観的に聴いても。僕はいちおう、全曲、スタジオの中にいるんですよ。
タブゾンビ:感じなかったですか?
――そういえば、気配感じます(笑)。
社長:僕の声はたぶん、ヘッドホンしたら聴こえるかもしれない。やっぱり演奏がいいと、声出ちゃいますからね。
――みなさんぜひ、爆音で、細部までしっかり聴いて楽しんでいただければと思います。
タブゾンビ:サブスクで聴くぐらいだったら、聴き流しちゃうかもしれませんが、実際は、アナログを切って、向かい合って聴いてほしい作品なんですね。今またコロナ禍でそういう兆しもあって、音楽と向かい合って、家庭で聴くことも多いと思うので、いいかなと思います。音楽好きに刺さってくれるといいな。すぐには評価されないかもしれませんが。
――いや、その予想、くつがえしたいですね。未来の音楽を、今の音楽にしましょう。
タブゾンビ:流行ってくれないかなあ。だから、あの、ダフトパンクの解散も、意味がすごいあるんじゃないか?とか思うんですよ。あの人たちも、すごい先を見ていて、もう次の展開を絶対考えてるから。逆に、こっち側に寄ってくるんじゃないかな?って、俺は思ってるんですけど。
――おおー。そうなったら、めちゃくちゃ面白いです。
社長:実際、生音のファンクっぽいプロジェクトが一個あって、それが実はダフトパンクじゃないか?と言われてるものがあるんですよ。12インチでリリースされていて。あくまでも噂なので真相は分かりませんが。
タブゾンビ:じゃあ、本当にそうかもしれない。常に先を行く人たちだからね。だから“もうコンピューターじゃないんじゃない?”というふうになったんじゃないかな?と。
社長:ありえますね。
タブゾンビ:次の展開を考えて、次はこっちに寄ってきてくれるといいなと思いますね。流行ればいいのに。生音、ジャズ、そして昭和男ブームが来ればいいのに。
社長:昭和男ブームは来ませんよ(笑)。たぶん。
取材・文=宮本英夫 撮影=森好弘

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