高畑充希主演!人生のリアルを等身大
に描くコメディミュージカル『ウェイ
トレス』観劇レポート

ブロードウェイミュージカル『ウェイトレス』の日本版初演が日生劇場にて開幕中だ。
映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』(2007)をベースに製作された本作は、グラミー賞ノミネート歴を持ち、楽曲を手掛けたサラ・バレリスを始め、脚本、作曲、演出、振付の主要クリエイティヴを全て女性クリエイターが担当したことがブロードウェイ史上初の出来事として注目を集めた。
日本版初演では、高畑充希宮野真守、宮澤エマ、LiLiCo/ 浦嶋りんこ(Wキャスト)、渡辺大輔、おばたのお兄さん、勝矢、佐藤正宏がメインキャストとして登場。筆者は3月11日(木)の13:00回(LiLiCoバージョン)を観劇した。様子をレポートする。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
舞台はアメリカ南部の田舎町にある、とびきりのパイを出すと評判のダイナー。ウェイトレスとして働くジェナ(高畑充希)は、ダメ男の夫・アール(渡辺大輔)の束縛で辛い生活から現実逃避するかのように、自分の頭にひらめくパイを作り続ける。そんなある日、アールの子を妊娠していることに気づくジェナ。訪れた産婦人科の若いポマター医師(宮野真守)に「妊娠は嬉しくないけど産む」と正直に身の上を打ち明ける。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
ジェナのウェイトレス仲間も、それぞれ自分のことで悩む日々。ドーン(宮澤エマ)は、オタクの自分を受け入れてくれる男性がこの世の中にいるのかと恋愛に臆病だが、出会いを求めて投稿したプロフィール欄に、オギー(おばたのお兄さん)からメッセージが届く。
また、姉御肌のベッキー(LiLiCo / 浦嶋りんこ)は、料理人のカル(勝矢)と毎日のように言い争っている。ベッキーは病気の夫の看病と仕事を両立しているのだった。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)

ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)

ある日、店のオーナーのジョー(佐藤正宏)が、ジェナに「全国パイづくりコンテストに出場し、賞金を稼いだらどうか?」と提案する。その言葉をきっかけに、ジェナは優勝して賞金を獲得できたら、アールと別れようと強く決心する。
診察を受け、身の上話を語るうちに、ポマター医師に惹かれ始めるジェナ。ポマター医師もまた、ジェナへの想いを抑えられず、二人はお互いが既婚者と知りながら、一線を越えてしまうのだった。そして、ジェナの出産の日は、一刻一刻と近づいていくーー。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
全体的にポップなコメディではあるが、モラハラする夫、妊娠の戸惑い、終わらぬ介護、そして、不倫と、この物語の登場人物たちはそれぞれに大人の事情を抱えている。そのリアルを無理に美しくまとめようとせず、等身大で描く物語に好感が持てた。単なる女性のサクセスストーリーではないので、一口食べたら複雑な味が広がるパイのように、きっと見る人によって響くポイントが異なるミュージカルだ。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
高畑充希は実年齢よりも少し上のジェナを演じたわけだが、可愛げも色気もあるジェナでいい。小柄ながら、圧巻の声量と表現力で、観客の目線を離さない。映像作品のイメージが強い人が多いかと思うが、高畑は立派な舞台人だと改めて思い知る。
意外だったのが、ジェナの相手役であるポマター医師役の宮野真守。二枚目の高身長なので、舞台上で映える俳優なのだが、今作に関してはジム・キャリー並みにコメディ芝居が冴えていた。「こんなにコメディお得意でしたっけ......」と驚いたほど。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
宮澤エマは、以前『ピピン』の演出家で、『ウェイトレス』のオリジナルブロードウェイ演出も手掛けたダイアン・パウルスから「ドーンにぴったりだと思う」と言われたというが、その言葉通り、オタク気質の内気なドーンを彼女らしく演じていた。『天使にラブ・ソングを』で演じたシスター・メアリー・ロバートのような役が得意なのだろう。オギーと幸せになって笑顔はじけるドーンも可愛かった。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
そして、今回初めてミュージカルに挑戦したLiLiCoは、本人が姉御肌だからか、こちらも非常に役にマッチ。よく通る声で、歌い上げるナンバーも健闘していたと思う。今作で唯一Wキャストのベッキー。このベッキーをどう浦嶋りんこは演じるのか。違うバージョンも見てみたいと思った。
ミュージカル『ウェイトレス』 (写真提供/東宝演劇部)
アール役を演じた渡辺大輔の「ダメ男」感(褒めている)、オギー役を演じたおばたのお兄さんの全力投球の芝居(そして身体能力の高さ!)、勝矢の存在感(風貌からして説得力がある)、とキャスティングの妙を感じる。
コメディとしてゲラゲラ笑いながら、心を揺さぶられ(個人的にはジェナが読むベイビーへの手紙で、共感のあまり泣いてしまう)、気がつけば前向きな気持ちになるミュージカル。終演後は無性においしいパイを食べたくなるだろう。上演時間は1幕75分、休憩25分、2幕65分の計2時間45分。ぜひお見逃しなく!
取材・文=五月女菜穂

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