藤巻亮太が3月9日のワンマン『3月の
風』でみせた姿と届けた想いは

藤巻亮太 SPECIAL LIVE 「3月の風」 2021.3.9 日本青年館ホール
2021年3月9日。おそらく最も、この日にライブを行う意味を持ち、またそれを望まれている男、藤巻亮太が日本青年館ホールのステージに立った。
『SPECIAL LIVE 「3月の風」』と題されたこのワンマンライブは、キャパシティこそ制限しているものの観客を入れた状態で行われ、同時に生配信も実施するという形態に。開演時刻を迎え場内がゆっくりと暗転すると、大きな拍手が藤巻とバンドメンバーを出迎える。やがて片山タカズミ(Dr)が軽やかにリズムを刻みはじめ、「春祭」からライブはスタート。藤巻と宮田'レフティ'リョウ(Ba)、片山の3ピース編成から繰り出すアンサンブルはシンプルながら豊かな響きがあり、要所で宮田と片山がハーモニーを乗せていくことも手伝って、しっかりと厚みを感じさせる。
藤巻はリズムに乗って体を揺らしたり、時折表情を緩ませながら、リラックスした調子で歌っている。「やっぱりお客さんがいるとこんなに嬉しいんだな。今日は良いライブになりそう」と素直に喜びを表したり、久々のライブゆえに「本調子になった頃にはラスト1曲、みたいにならないように頑張りたい」と、茶目っ気を見せつつ意気込んでみたりと、MCも自然体。客席と歩調を合わせるように、じんわりと場の空気を温めていった。
ここ1年、コロナで予定していたライブがほとんどできなかったことや、この3月9日という自身やファンにとって特別な日にかける想い、さらにライブ2日後には震災から10年を迎えることにも触れ、「今日はみなさんに、感謝の気持ちを歌で伝えていきたいと思います」と宣言してから、スローバラードの「Life is Wonderful」を丁寧に情感込めて演奏。続いて、ほぼ全編を宮田のピアノと藤巻の歌のみで披露したのは「茜空」だ。歌詞の一語一語をはっきりと、噛みしめるような歌唱からは、曲に込められた想いや描かれた情景が混じり気なく伝わってくる。
昨年の3月11日にラジオで初披露された曲「大地の歌」は、アコギを弾きながら。この曲も途中まで伴奏は宮田のピアノのみだが、2サビ前からさざなみのようなドラムフィルが入ってくるのを契機に、片山がマレットで打つ鼓動のようなビートが鳴り出し、終盤には3つの楽器のアンサンブルが大きなうねりを生んでいく。決して激しい曲ではないけれど、とても力強い熱演だ。
中盤以降はよりアクセルを踏み込んでいく展開に。カラフルな照明とモータウン調の跳ねたリズムに乗せて「Weekend Hero」のイントロが弾けたのを合図に、これまで着席していたオーディエンスが一斉に立ち上がり、「楽しんでますかー!」という藤巻の呼びかけに、みな精一杯のジェスチャーで応える。「南風」では、「こんなに踊れる曲だっけ?」というくらいにダンサブルなグルーヴを、3ピースのシンプルな演奏が浮き彫りにしていく。さらにビートを止めることなく繋いだ「スタンドバイミー」では、宮田がピアノとベースの二刀流で活躍。このあたりのアップテンポな楽曲群がライブの盛り上がりを確固なものとする。
「こうして生の拍手をいただけるのが何より幸せです」
そう噛み締めた藤巻が、この日を象徴する曲「3月9日」について、元々は幼なじみの結婚を受けて書いた曲がドラマ起用をきっかけに合唱曲となり、卒業ソングの定番へと育っていったことをあらためて振り返る。そうして柔らかに歌い出した「3月9日」の、
<瞳を閉じればあなたが まぶたの裏にいることで どれほど強くなれたでしょう あなたにとって私もそうでありたい>
という珠玉の名ラインは、なかなか会いたい人にも会えない2021年の春、ひときわ胸の深いところまで染み入ってくる。
切なくも晴れやかな余韻と共に本編を終え、アンコールではまず新曲「サヨナラ花束」を披露。ストレートなロックサウンドと爽やかなメロディに乗せ、出会いと別れを繰り返しながら続いていく人の生を、前向きに歌い上げる曲だ。
「次のステージに行けるような作品を作りたいなと思ってます」
そんな宣言とともに母校・笛吹高校の生徒との交流からインスピレーションを得て作ったという「オウエン歌」を力強く届けた後、この日最後に演奏したのは「Sakura」だった。ステージ背後の幕が開き、桜の花にも、薄雲のかかった青空にも見えるモチーフが投射される。一斉に手を振る観客たちがピンク色の照明に照らされている。藤巻はその至る所へ視線を送りながら歌う。まさしく「3月の風」の名に相応しい、一足早く春本番を告げるようなあたたかな空間がそこにはあった。

取材・文・撮影=風間大洋

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