葵わかなの歌を聴きに、高揚感あふれ
るダンスシーンを観に劇場へ!~地球
ゴージャス『The PROM』ゲネプロレポ
ート

難しいことはいいから、とりあえず葵わかなの歌う「ワンパクなHeart」を聴きに、クライマックスのダンスシーンを観に劇場に行け――。そんな乱暴な勧め方をしたくなるミュージカルが、2021年3月10日(水)よりTBS赤坂ACTシアターで上演されている。2018年にブロードウェイで初演され、2020年にはNetflixで映画化もされた話題作を、地球ゴージャスが初の海外作品として、オリジナル演出(日本版演出:岸谷五朗)で挑んでいる『The PROM』である。
ブロードウェイ版とは“軸足”が異なる日本版
(左から)三吉彩花、葵わかな
物語の舞台は現代のブロードウェイ、からのインディアナ州。主演舞台が酷評されたブロードウェイスター、D.D.アレン(ゲネプロは大黒摩季/草刈民代・保坂知寿とのトリプルキャスト)とバリー(岸谷)は、“ナルシスト”という世間のイメージを払拭するために、人助けをしようと目論む。インディアナの高校で、エマ(葵)が同性の恋人アリッサ(三吉彩花)と出席しようとしたためにプロムが中止になったというニュースを見つけた彼らは、友人でやはり俳優のアンジー(霧矢大夢)やトレント(寺脇康文)らと共にエマの元へ。D.D.アレンのファンであるホーキンス校長(ゲネプロはTAKE/佐賀龍彦とのダブルキャスト)の協力も得て、エマのためにプロムを開催しようと奮闘するのだが……?
(左から)寺脇康文、霧矢大夢、大黒摩季、岸谷五朗、小浦一優
トニー賞ではバリー役、D.D.アレン役、エマ役の3人が“主演”男優・女優賞にノミネートされたほど、ブロードウェイ側の“おじさんおばさん”とインディアナ側の高校生たちの両方が主役のこの作品。とはいえブロードウェイ公演では、やはり本物のブロードウェイ俳優が本当のブロードウェイで演じていただけに、軸足はブロードウェイ側にあった印象だ。2時間半の上演時間の中で、観客も“おじさんおばさん”と一緒にインディアナに旅して帰ってくるような感覚があり、その無類の臨場感が大きな魅力になっていた。
岸谷五朗
寺脇康文
大黒摩季
対する日本版は、岸谷や寺脇、何より大黒が、無理にブロードウェイ俳優になり切ろうとすることなく、ほぼ“本人”のまま自由に舞台上を跳ね回る。役者の個性を大切にする地球ゴージャスらしいその演出により、ブロードウェイ側の物語はどこか寓話的な様相を呈し、フォーカスは自然とインディアナ側に。この軸足の変化が、演出やキャスト次第で物語が違って見える演劇の面白さを提示すると同時に、葵の力量を際立たせた。『アナスタシア』でも感じたことだが、癖なくストレートでありながらパンチはしっかり効いた彼女の歌声は、“決意”や“気付き”を歌うことの多い、ミュージカルのヒロインによく似合う。本作でも、生まれ持ったその“ヒロイン声”が遺憾なく発揮され、エマのソロがやがて群唱になっていく「ワンパクなHeart」が必聴の1曲となったというわけだ。(付け加えるなら、霧矢アンジーがそんな葵エマを鼓舞する「ZAZZ」も必見!)
葵わかな

相手役の三吉も、ミュージカル映画『ダンスウィズミー』で見せたダンスと歌のポテンシャルを生の舞台で開花させ、家庭環境のせいでエマへの愛を素直に表現できないアリッサ役を好演。また、級友役のMARIA-Eや百名ヒロキらの、まるで振付などなく衝動のままに踊っているかのような本能的なダンスも秀逸だ。そんなインディアナ側がブロードウェイ側と一体となって踊る、クライマックスの爽快感ときたら……! たとえるなら、長い期間をかけて取り組んできたプロジェクトがようやく成功し、打ち上げでビールを楽しんでいる時のような気持ち良さ。優れたブロードウェイミュージカルには、ただ座席に数時間座っているだけの観客をそこまで高揚させる魔力があることを、改めて思い知らされた。

『The PROM』舞台写真
「コロナ禍で委縮しているハートが開く作品」(大黒)
ゲネプロに先立って行われた取材会では、葵、三吉、大黒、草刈、保坂、霧矢、佐賀、TAKE、岸谷、寺脇の10名が、そんな『The PROM』の魅力を口々にアピール。中でも大黒は、自身にとって初舞台であり、また作品を客観的にも観られるトリプルキャストということもあってか、「涙あり笑いあり感動あり、考える資料あり、キュンともグッとも来て……人が持ってる感情が全部刺激されて、コロナ禍で委縮しちゃってるハートがカッと開く作品。楽曲も最高峰、ハイブリッドな音楽はスーパー幕の内弁当みたい!」と、熱弁が止まらない。
そんな大黒はちなみに、3人のD.D.アレンの中では年齢的にもミュージカルのキャリア的にも、長女(保坂)・次女(草刈)に続く末っ子という立ち位置のよう。3人と楽屋が一緒の霧矢いわく、「全然違う、素晴らしい個性をお持ちのお三方。お姉さま方のお話が楽しくて、ちょっとカオスな楽屋を楽しませていただいています(笑)」とのことで、確かにどのD.D.アレンで観るかで、作品自体の印象すら変わってきそうだ。
『The PROM』取材会写真 撮影:NAITO
地球ゴージャス主宰の二人はそれぞれ、「名誉を取り戻そうともがくストーリー上の役者たち、ブロードウェイのレベルにちょっとでも手が届くようもがく我々、コロナのことでもがいていらっしゃるお客様が、もがきと苦しみを一緒に乗り越えてハッピーエンドに向かっていける作品」(寺脇)、「お客様の心を豊かに、大きく出れば“地球の人々の心をゴージャスに”できるカンパニーになりたい、と思って名付けたのが地球ゴージャス。まさにそれができる作品であり、またそういう作品になるよう、まだまだこれからたくさんの努力をしていきたい」(岸谷)とあいさつ。最後には岸谷が、劇場に出かけることが難しい状況にあることにも触れた上で、「感染対策を万全にしてお待ちしています!」と呼び掛けていた。
取材・文=町田麻子  撮影:引地信彦、NAITO

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