【それぞれの『アリージャンス~忠誠
~』vol.3】 限られた状況下で前向き
に生きる~自らを問う観劇体験

【シリーズ/それぞれの『アリージャンス~忠誠~』】

『アリージャンス~忠誠~』が、2021年3月12日より東京国際フォーラム ホールCで上演される。第二次大戦下のアメリカで、日系人が「敵性外国人」として扱われ強制収容所に移送された史実に基づき創作され、ブロードウェイで上演されたミュージカル作品。その日本語版の開幕が迫る中で、ブロードウェイ版を観たことのある日本の演劇ライター諸氏が、それぞれの思いを綴った。シリーズ最終回は、日本公演のパンフレット編集を手掛ける演劇ライター三浦真紀氏。(SPICE編集部)

◇ 限られた状況下で前向きに生きる~自らを問う観劇体験
TEXT:三浦真紀
『アリージャンス』の通し稽古を見ながら、もう1年近く友人とご飯を食べたり飲んだりしていないことを思い出した。演劇の現場に関わっている自分なりのコロナ自粛だが、そんなの生死がかかった戦時下に比べたらごく些細なこと。寂しさはあるが、逆に人間ってその状況に追い込まれたらどうにかやっていくものだなぁと思ったり。
『アリージャンス』に登場する日系アメリカ人たちは、第二次世界大戦開戦により、人生がガラリと変わってしまう。話の中心となるキムラ家の人々もそう。日系人というだけでアメリカ政府の命令により、一家でハートマウンテン強制収容所に入れられてしまうのだから、理不尽極まりない。それも父タツオが苦労して開拓した農場と家を全て二束三文で売り払って、だ。
■過酷な強制収容所で前向きに生きた日系人
ただし強制収容所というと、アウシュビッツみたいに死に直結する場所をイメージするかもしれない。その点、この日系人向けの強制収容所はかなり違う。リサーチした際に当時の収容所の写真を多数見たが、敷地内には簡素ながら学校やマーケット、印刷所、豆腐屋(!)まであった。ニコニコした女性たちや結婚式、小学校の先生と生徒たち、家族などが写ったモノクロ写真群を見ていると牧歌的で、服装も当時のアメリカらしくおしゃれ。これが収容所?と意外だった(もちろん、資料として印象の良い写真しか残されていないかもしれない)。この強制収容にアメリカ社会では敵国人として狙われがちな日系人を隔離・保護する意味もあったようだ。わかる気もする。
とはいえ、収容所は収容所。家は薄い板張りの小さなバラック小屋で、毛布一枚で寒さを凌いだという話もある。アメリカ軍の監視下に置かれた、過酷で不自由な暮らしであったに違いない。それでも収容所内の日系人たちは土地を開いて作物を育て、野球やダンスパーティーを楽しんだ。限られた状況の中で、少しでも暮らしを向上させ、明るく元気に過ごそうと頑張る姿勢。それは見習いたいし、コロナ禍を生きる今の私たちと重なる。『アリージャンス』のダンスパーティーのシーンには、みんなが勇気づけられることだろう。
『アリージャンス~忠誠~』  Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy
■日本人の視点から捉えた『アリージャンス』
さて『アリージャンス』日本公演がまもなく開幕する。ブロードウェイ版の演出家スタフォード・アリマ氏を迎え、共同演出は豊田めぐみ。以下、現場のクリエイティブは全て日本人が手がけ、 “日本人の視点から捉えた『アリージャンス』”になっているのが特徴だ。
豊田さんの話によれば、ミュージカルということで最初はあれもこれも取り入れようと派手な構想を練っていたという。しかしリサーチするうちに、史実の重さや人物、人間関係の深さを感じ、華美にはせず、ストレートプレイに近い感覚でお芝居を深める方向に舵を切ったとか。
確かに、日系人といっても日本で生まれてアメリカへと渡った一世、アメリカで生まれ育った二世では感覚が全く違う。二世の中でもアメリカしか知らない人、日本で教育を受けた人など多様だ。人種としての見た目は同じでも、それぞれの生まれ育ちや考え方、価値感にはかなりの開きがある。同じ家族ですらそう。そこがこの作品の肝であり、役者が各人物の背景をいかに深くしっかり表せるかが鍵だろう。『アリージャンス』は戦争をベースとした、家族の物語でもあるからだ。
とはいえ、通し稽古を見た感想としては、素敵な恋愛や愉快なダンスなど、ミュージカルならではのお楽しみもしっかり含まれている。ダンスには文脈に添った振付がなされているのが面白い。流れるような場面転換やクラシックな1940年代のアメリカ・ファッションなど、視覚的にも非常に豊か。そして、日本語でこの作品を見られるありがたさ。ブロードウェイ版とは反対で、日本語に場面によってはところどころ英語が挟まる感じで、時折、東洋調のメロディが散りばめられる音楽と相まって、ごく自然に作品世界に入っていけるだろう。
『アリージャンス~忠誠~』  Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy
■芝居・歌に長けた魅力的なキャスト陣
キャストも皆さん役にピッタリで、まさに適材適所だと感心。特にキムラ家は4人揃うともはや家族にしか見えない。姉ケイ役の濱田めぐみと弟サミー役の海宝直人は約25年前、劇団四季『美女と野獣』で共演して以来の付き合いで、普段の会話も姉弟のよう。何より歌が最高に上手い二人が『イリュージョニスト』に続いて揃うのは、ミュージカルファンにとっては嬉しい。濱田さんがケイとして等身大の女性を演じるのが新鮮だが、収容所での生活と出会いを通して強く成長していく姿にはグッとくる。特にケイのソロは必聴だ。海宝さんのサミーは真っ直ぐで熱いところがご本人とドンピシャ。戦争の中でもハードな場面を担っている。軍服姿が素敵で、公演中止となった『ミス・サイゴン』のクリスを見たかったなぁとしみじみ(きっとサイゴンスクールでの学びがこの作品に役立っていることだろう)。父タツオ役の渡辺徹は今回がミュージカルデビュー。渡辺さんは映像の印象が強いが、1980年から文学座でお芝居をやられている演劇人。本作でも兄貴分として芝居面を引っ張っている。カイトおじいちゃん役の上條恒彦はそのままいるだけで役になれる、存在感が圧倒的だ。ほのぼのしたユーモアで人々を和ませる、飄々とした感じも合っている。個人的に上條さんに取材したのは『ウーマン・イン・ホワイト』初演(2007)以来。その時はフォスコ伯爵というお金持ちのイタリア貴族役で、懐かしさを分かち合った。またフランキー役の中河内雅貴、看護師のハナ役・小南満佑子、マイク・マサオカ役の今井朋彦など芸達者が揃い、芝居をしっかり支えている。その他、収容所の家族や軍兵、政府の人間など、人物が息づいている感が半端ない。
(左)濱田めぐみ (右)海宝直人
■「忠誠」とは何かを問うてみる
公演パンフレットを編集・執筆しながら、正直、これまで「忠誠」という文字を打ったことがあったかな?と、そのくらい忠誠=アリージャンスは遠い概念だった(私が「忠誠」からイメージできたものは隠れキリシタンくらいだ)。では今、何に忠誠を捧げるか?と問われても戸惑うばかりで、簡単には答えられない。これは平和な世に生きてきたからこそで、生死を突きつけられたらどうなるのか。実は戦争も差別も断絶も、決して他人事ではない。先人たちが歩んできた歴史から学ぶべきことはたくさんある。
言いたいことが多すぎてあれこれ書いたが、『アリージャンス』は余計な先入なしで観ても、十分エンターテインメントとしても楽しめるはずだ。ぜひ、ご覧いただき、明日へのエネルギーを蓄えて欲しい。

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