【大河ドラマコラム】「青天を衝け」
第四回「栄一、怒る」生活感を巧みに
取り入れた徳川慶喜と平岡円四郎の初
対面

 いとも簡単に「五百両を出せ」と命じる岡部藩の代官・利根吉春(酒向芳)の態度に納得できぬまま、父・市郎右衛門(小林薫)の指示で御用金を届けた栄一(吉沢亮)。その場で話を聞いてもらうことすらできずに、雨の中、悔しさを抱えてうずくまる後姿を捉えた切なさ極まるショットで終幕…。
 3月7日放送の大河ドラマ「青天を衝け」第四回「栄一、怒る」は、栄一が身を持って武家社会の理不尽さを知る様子が描かれ、大きな転機になりそうなエピソードだった。
 これとは対照的に、心温まるやり取りで視聴者の注目を集めたのが、徳川慶喜(草なぎ剛)と、その小姓となった平岡円四郎(堤真一)の初対面のシーンだ。
 初めて訪れた江戸城内にある慶喜の屋敷で、食事の時間となり、給仕を命じられたものの、やり方が分からず、茶わんいっぱいに、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ飯を差し出す円四郎。それを見た慶喜は、自ら茶わんとしゃもじを手に取り、円四郎に給仕の作法を指導する。
 その穏やかで気品あふれる姿に心を奪われた円四郎は、たちまち慶喜に魅せられていく…。番組公式twitterによると、慶喜が円四郎に給仕の作法を指導したのは史実らしいが、草なぎと堤の好演もあり、2人が打ち解けていく様子を端的に表した名シーンとなった。
 ここで面白いのは、慶喜と円四郎の出会いを、「食事」という生活感のあるやり取りで描いたことだ。武士同士であれば、政治的な会話や武芸の腕前を披露するなど、より武士らしい場を選んでもよさそうなもの。実際、大河ドラマ「徳川慶喜」(98)では、2人は道場で初対面し、円四郎が慶喜に剣術を披露している。ところが今回は、およそ武士らしくない形で、2人の出会いを描いて見せた。
 誰もが日々繰り返す食事のような日常の行いは、視聴者にとっては、武芸よりも感情移入しやすく、武士の存在がグッと身近になる。それは、物語を視聴者に引き寄せるという点で、本作の演出を担当する黒崎博氏が番組公式サイトのインタビューで語った「一市民がどのように生き、どのように日本のことを考えていたのか。そこを大事にしたいと思っています」という言葉にも通じるところがある。
 さらにこの場面では、慶喜が食事の前に茶わんから膳の上の農人形に飯を一口移し、「『米の一粒一粒は民の辛苦である故、食するごとにそれを忘れぬように』という父の教え」と円四郎に説明した後、両手を合わせる姿も見られた。
 これも、前述したクライマックスで、五百両もの大金を届けた栄一を邪険に扱う代官と対照をなし、慶喜の人柄を際立たせる効果的な描写となった。
 またこの回は、他にも生活感のある武士の姿を見ることができた。その一つが、福井藩主・松平慶永とその家臣・橋本佐内の入浴シーンだ。
 要潤と小池徹平という、イケメン2人の肉体美も話題となったが、無防備な入浴時の世話を任せていることから、2人の関係を知らない視聴者にも、慶永が佐内に絶大な信頼を寄せていることが一目で伝わる。
 しかも、「あのお方(=慶喜)のような方が将軍になれば、わしは喜んでこの身を捧げるのだがのう」と、慶永がひそかに本音を漏らす場としてもふさわしい。
 この他、円四郎の妻・やす(木村佳乃)が火熨斗(ひのし=当時のアイロン)を使う姿も見られたが、栄一たち農民だけでなく、武士すらも生活感を取り入れて効果的に描く。その様子から、「生活感」が本作の一つの見どころになるのでは…と思わせる第四回だった。(井上健一)

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